この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第47話 THE UNBREAKABLE DARKNESS

 

 負ける気がしないとは、こういうことを言うのだろう。

 

 湧き上がる高揚感とは裏腹に、全身は現在進行形で切り刻まれ続けている。

 だが、不思議と嫌な感じはしない。

 

 例えるなら、火照った体に冷たい豪雨を叩きつけられるかのような、気持ちが良くて身が引き締まるような痛みだ。

 

「ララティーナが! ワシのララティーナがッ!」

 

 鮮血と光の粒子を吹き出しながら向かってくる私を前に、アルダープが叫ぶ。

 

「ソレをやめろ! ララティーナ! 美しい顔が、台無しに……!」

 

 自分の宝物が壊れるのを見るかのように、アルダープの顔がくしゃくしゃになる。

 

 心配は無用だと、伝えてやらねば。

 

「大丈夫だ、アルダープ。私は今とても幸せだぞ」

「ヒィッ!」

 

 ニッコリと笑いかけると、アルダープは脱兎の如く後ずさった。

 

「少し刺激的過ぎたか」

「ええ。あれではウチのダクネスとつり合いが取れるとは到底思えませんね」

 

 そういって、トニーとめぐみんが後ろで軽薄そうに笑う。

 

 ……本当に、いい仲間を持った。

 

「マクス! ララティーナの胸についてる機械を狙え! 自傷行為をやめさせろぉ!」

 

 ブツブツと何かを唱え始めるマクスウェル。

 今まで爆裂魔法以外は無詠唱で乱打してきた。

 

 完全詠唱で貫通力を高めた魔法で胸の装置のみを撃ち抜く気だろう。

 

 ……面白い。

 

「『カースド・ダークネス』!」

 

 闇色の電撃がまっすぐこちらに向かってくる。

 

 今の私は、みんなを守る盾にして、みんなの敵を切り裂く聖剣。

 拳を構え、魔法を正面から受け止める──

 

 否、打ち砕く! 

 

 トニーも同じ考えだったようだ。

 私の拳が勝手に動く。

 

 地面を踏み抜き、相手が放つ魔法へと。

 限界まで引かれた矢のように飛び出した。

 

 闇色の魔法に拳を叩きつけ、轟音を鳴らす。

 完全詠唱と言えど関係無し。

 拳に触れたそばから霧散していく。

 

「ヒュウ……ッ!?」

 

 上級魔法すら粉砕し、その拳はマクスウェルの胸へと突き刺さった。

 

 そのまま地平線の彼方まで吹き飛ばしてやるつもりだったが、マクスウェルが己の背に片手を回し、風魔法を出してその場に足を縫い付ける。

 

「『ライト・オブ』……」

 

 体に受けた衝撃を腰と腕への回転に流し……、

 

「『セイバー』ッ!」

 

 振り下ろされる光の刃。

 切断力に一点集中されたその手は、私が繰り出した拳とわずかに拮抗するが……。

 

「……ッ!」

 

 マクスウェルの右手が、削り取られて消える。

 予想外だったのか、わずかに呻いて後ろに飛び下がった。

 

「これで貸し借りなしだ」

 

 後ろにいるトニーが鼻で笑う。

 

「……ヒュー……ッ」

 

 圧倒的な性能を誇るMk.47を前にして、感情が抜け落ちたその顔に警戒の色が浮かぶ。

 十分に空けられた距離が、その度合いを物語っていた。

 

「絶望もしない……。ヒュー……、恐怖もしない……」

 

 叫び出す寸前の子供のように、ワナワナとマクスウェルが震え出し。

 やがて膨大な魔力が、まるで蛇のようにとぐろを巻いて集まってゆく。

 

「ダクネス、また魔法の乱れうちが来るぞ。捌けるか?」

「無論だ」

 

 まるで邪悪な星々のように。

 マクスウェルの周囲に様々な光が浮かび上がり、無限の厄災となって迫りくる。

 

 トニーとのスーツ連携によるアシストは、攻撃の時だけ任せてある。

 

 ……防御なら、私のほうが得意だからだ。

 

「つぶれろ」

 

 ゆらりと、首をもたげた蛇のように、魔力と殺意がこもった手がこちらを捉える。

 様々な魔法が放たれ、殺意が土砂降りとなって迫ってきた。

 

 私は悠然と、その嵐へと歩みだす。

 

「ちょっ……!」

 

 カズマが驚いたように声を漏らす。

 

 ……が、何も問題はないと、私は背中越しに親指を立てた。

 というか、邪魔をしないでほしい。

 

 この中に飛び込むのは、むしろ喜ばしいことなのだから。

 

 ──そして来る。

 

 獄炎。

 氷山。

 雷撃。

 烈風。

 光線。

 劇毒。

 呪術。

 

「んほおおおおおおおおお!」

 

 災害の群れが、私の体を全方位から襲う。

 Mk.47の防御性能といえど、そのあまりの密度の魔法による衝撃は抜けてきた。

 

「いやいやいや! ダクネスは本当に大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だ」

「めっちゃ笑顔だぞ!? 血まみれだぞ!? 絶対重傷だろ!」

「アイツはとっくに重(・)症(・)だ」

 

 後ろからものすごく失礼なことを言われてる気がする。

 

「ヒュー……ッ! 光、消えろ……! 消えろ……!」

 

 大砲の一斉砲火がにわか雨に思えるほどの、魔法乱れ打ち。

 生きとし生ける全ての存在を許さない悪意ある呪い。

 そして、我が身を覆う全てを拒絶する鋭い光の結界。

 

 なんという心地よさ……! 

 

 思わず両手を広げ、全身を巡る快感を甘受する。

 

「ダクネス、シャワーなら帰ってから浴びろ」

 

 その言葉にふと我に返る。

 うっかり本来の目的が頭から抜けかけていた。

 

 視線を元に戻すと、マクスウェルが息も絶え絶えにして、こちらを恨めしげに見ていた。

 

 トニーの言う通りだ。

 これ以上長引かせることもない。

 

 ……いや、本音を言うと、もっと長引かせて体を走る痛みを楽しんでいたいのだが……。

 

「ヒュー……、気に食わない……光……」

 

 マクスウェルの手に灯がともる。

 これは……! 

 

「ダクネス! マクスウェルはまた爆裂魔法を撃つつもりです! 止めてください! 自爆覚悟なら詠唱も省略できてしまいます!」

「……!」

 

 後ろからめぐみんの焦った声が聞こえてきた。

 ここで終わらせねばなるまい。

 

「すべて吹き飛ばしてやる……!」

「マクスウェル。終わりにしよう」

 

 脚に力を籠め、地面にクレータを残し前へと飛び出す。

 輝く流星となり、全力の力を込めた拳を振りかざした。

 

「エクス──」

 

 私めがけて伸びる破滅の光を宿した掌。

 振りかざす拳は、その光を飲み込み、マクスウェルの手を砕き……、

 

「──ガッ……」

 

 胴を穿った。

 勝負ありだ、もう魔法を撃つこともできまい。

 

 腕を引き抜くと、マクスウェルは戦意喪失したかのように後ろを向いた。

 

「アルダープ……アルダープ……」

 

 体に大きな穴を空けたまま、マクスウェルはおぼつかない足で歩きだす。

 虚空に失われた手を伸ばし、アルダープの名を呼ぶが、すでに彼はいなかった。

 

 どうやら、戦っているうちに逃げたらしい。

 どこまでもあきれ果てた男だ。

 

「アルダー……プ」

 

 マクスウェルは膝をつき、地面に倒れ伏す。

 

「アル……ダ……──」

 

 体が砂の城のように崩壊し、絞り出すような声とともに草原へと流れ出て消えた。

 

「マクスウェル……」

 

 エリス教徒である手前、悪魔の存在を許せはしない。

 そして、マクスウェル自体、救いも報復も望んではいないだろう。

 

 だが、それでも。

 

「あとは任せろ。ダスティネス家の名に懸けて、あの男には正当な裁きを受けさせる」

 

 この悪魔もまた、アルダープによって利用された被害者だ。

 償いは必ずさせよう。

 

「お疲れだな、ダクネス」 

 

 振り返ると、腕を痛そうに抱えながらもいつもの軽薄な笑みを浮かべていた。

 

「トニーこそ。酷い傷だな」

「いや、君には負けるよ、ブラッディメアリー」

 

 トニーにそう言われ、ふと自分の体に視線を落とす。

 

 ……なるほど、これは確かに過去一酷い。

 

 鎧は砕け、全身血まみれ。皮膚という皮膚がズタズタだ。

 カズマもめぐみんも心配しつつ顔が引きつっていた。

 

「一番いい鎧着た2人が揃ってこの様か。とりあえず、アクアに治してもらおう。……アクアは?」

 

 カズマがクイっと背後を指すと、全身を泥だらけにしたアクアが半泣きでこっちに歩いて来てた。

 流石はアクア。あの悪魔の軍勢を一人で蹴散らしてしまったらしい。

 

「カズマさーん……私、あんなたくさんの悪魔に追い掛け回されて疲れたんですけど……」

「はいはい、お疲れ。おかげで助かったよ」

「みんな私に良いお酒おごってね。……それでそれで? あの脳足りん悪魔は?」

「しっかり倒した。我々の勝利だ」

 

 それを聞いたアクアが満足そうに笑い……。

 

「……って! トニーもダクネスも大変なことになってるじゃない! ちょっとじっとなさいな!」

 

 こっちを見たアクアが急いで駆け寄り、私の傷の様子を伺う。

 

「これならすぐ治せるわ。『セイクリッド・ハイネスヒール』!」

「おお……」

 

 全身の傷がみるみる塞がっていくのを感じる。

 ことアークプリーストとしての腕は本当に神がかっているとしか言えない。

 

「ありがとう、たすか」

「『クリエイトウォーター』!」

「おぼぼぼぼぼぼ」

 

 いきなり全身に水つぶてがたたきつけられ、びしょぬれになる。

 

「見た目がひどすぎるから、水でちゃんと洗い落としなさい」

「……」

 

 ……悪くない仕打ちだ。

 

 アクアは続けてトニーのほうを見る。

 

「あー……、水より酒のほうがいいかな」

「あのね、冗談言ってる場合じゃないわよ。言っとくけど、トニーのほうが重傷だからね? ほら、手首を渡しなさいな。元通りにくっつけてあげるわ」

 

 まじめな顔をしたアクアが、トニーの怪我の治療に取り掛かる。

 さっきまで泣きじゃくりながら悪魔に追いかけられてたとは思えないほど、今のアクアからは聖職者らしい雰囲気があふれていた。

 

 あっという間に切り落とされた手首が元通りになったトニーは、調子を確かめるようにして手首を触ると。

 

「なぁ、本当にいくらでも払うから、アベンジャーズに来てくれないか?」

「はいはい、全部終わっても暇だったらね」

 

 またトニーが勧誘に失敗している。

 元居た国で組んでいたというパーティーの名前だそうだが……。

 

 あのトニーが最強だと言っていたのだ、きっと本当に強いのだろう。

 私たち全員、いつか招いてほしいものだ。

 

「で……、これからどうしますか? クソ領主は逃げ出しましたよ」

「どうせトニーがドローンで追っかけてるとかやってくれてるって」

「そこのネタバレ坊やの言う通り」

「冗談で言ったのにマジだったよ……科学チート様様」

 

 相変わらず抜け目のない。

 これでついにあの男に引導を渡せる。

 

「では早速行きましょう。カズマ、魔力を分けてくれませんか?」

「ほいほい」

 

 カズマからドレインタッチで魔力を分けてもらっためぐみんが立ち上がり、トニーも壊れかけのスーツを再調整して準備を整え……、

 

「……さて、全員ミランダ警告は暗記してるか?」

 

 逃げるアルダープの方角へと、歩みを進め始めた────! 

 

 

 

 ▽

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 全力で走るなんていつぶりだろうか。

 ろくに舗装もされてない馬車道を、息も絶え絶えに走り続ける。

 

 だが、体力などとっくに残っていなかった。

 

「もう……もう走れん……」

 

 力尽き、地べたに手と膝をつく。

 

 マクスは……きっともうやられたのだろう。

 敗北を悟り、ここまで走って逃げたものの……。

 

「認めん……こんなところで終わるなど……」

 

 これからは死ぬまで牢獄生活。

 下手すれば処刑すらあり得るだろう。

 

 その際、裁判に立つのはきっと、ララティーナの父親であるイグニス。

 私がララティーナに近づくことを何度も邪魔し、マクスに呪いまでかけさせたのにしぶとく生きるあの男。

 

 そして、同じく私を追い詰め、プライドまで傷つけてきた憎きスターク。

 

「……ッ」

 

 この世で最も憎い奴らに、刑務所にブチ込まれる。

 考えるだけでも屈辱で腸が煮えくり返りそうだ。

 

「ふざけるなッ! なぜこのワシがこんな目に……! 使えん愚図共! すべて貴様らのせいだッ!」

 

 護衛も悪魔も全員無能だ。

 この私の願いを何一つかなえられないどころか、こんな目に合わせられている。

 

「ワシは……ワシはこのアクセルの領主! アレクセイ──」

 

 

「いいや、貴様はもうただの犯罪者だ」

「……!」

 

 ゆっくりと、振り返る。それが破滅への入口へと向かう行為だと理解しながら。

 振り向いたそこに、立っていたのは。

 

「往生際が悪いぞ。観念しろ、アルダープ」

「ララティーナ……ッ!」

 

 背に輝く月光すら霞む、金色の髪。

 屋敷のどんな宝石すらも遠く及ばない、碧く美しい瞳。

 

 私のドス黒い欲望を駆り立て続ける、その肢体。

 

「ワシのっ……ワシのララティーナ……! どうして貴様は、ワシのものにならんのだ……!」

「そんな日は未来永劫来ない」

 

 今、目の前にいるのはララティーナ一人。

 刺し違えてでも、ここで手籠めにしてくれる。

 

 最後に力を振り絞り、ララティーナめがけて手を伸ばし、飛び込む。

 

「貴様は、ワシのものなのだ! ララティーナぁあああああああ!!」

「ララティーナと呼ぶな。私は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────クルセイダーの、ダクネスだ!!!」

 

 瞬間、目の前の視界が歪んだ。

 比喩でもなんでもない。

 

 ララティーナが親指を軽く動かしたように……見えた。

 その次には、空気が鉄塊へと変貌し、猛牛めいて私の体にぶつかる。

 

「ごはああああああああっっ!!!」

 

 全身を強く打ち据えられ、宙を舞う。

 地面と夜空が目まぐるしく視界の中で切り替わる。

 

 その中で、今度は月明りとも星ともわからない、強烈な光が瞬いた。

 

「懺悔なさい、このクソ領主! ゴッドブロー!」 

「げぼああああああああっっ!!!」

 

 拳が鼻をへし折り、また宙を舞う。

 頭蓋を稲妻のように駆け巡る、鋭い痛み。

 鼻血が鼻と口からあふれ出して、空中にまき散らされた。

 

 殴られた勢いのまま、馬車道の横の茂みへと体が飛ぶ。

 

 ガサッと、何かが茂みから飛び出す音が聞こえた……気がする。

 

「俺の恨み全部うけとれや、オラアアア!!!」

「うぎゃあああああああっっ!!!」

 

 むかっ腹の立つ、下品な小僧の声。

 耳に刺さるや否や、わき腹に強烈な衝撃。

 

 吹き飛ぶ刹那に見えたのは、こちらに両足を向けた姿勢のまま落ちる小僧の姿。

 その光景と、わき腹に刻まれた強い鈍痛が、ドロップキックをブチかまされたことを認識させた。

 

 私の体が、三度宙を舞う。

 また馬車道をまたいで、反対側の茂みへと飛んだ。

 

 もういっそ殺してほしい。

 ──そう願った瞬間、死神が見えた。

 

 茂みから顔をのぞかせる、真っ赤な双眸。

 ついに死による救いが……、

 

「哀れな俗物よ! 煉獄にて詫び続けるがいい!」

「ひぎゃあああああああっっ!!!」

 

 死神かと思ったら頭のおかしい爆裂娘だった。

 

 杖がフルスイングで顔面にめり込む。

 硬質な素材の鈍器が、歯という歯を粉砕し、月まで届かんばかりに口から飛び出していく。

 

 コイツ等は私の事を娯楽用のボールと勘違いしているのだろうか。

 もう何分も空を飛んでいる感覚だ。

 

 本当に殺してほしい。

 

 私の体が、さらに夜空へと打ち上げられる。

 あの紅魔族の小娘め。いったいどんな力で杖を振りかぶったのだ。

 

 いい加減、視界も霞んできた。

 眼前の星々が滲んで朧気になっていく。

 

 ────そんな星の海に、ひときわ輝く青白い光。

 

「やあ、元領主君。悪魔の力で築いた高みから見る景色はどうだった?」

 

 その声は、宙を浮く私の目の前から聞こえた。

 まぶしさを覚えるほどに、光は強く増していく。

 

 ぐちゃぐちゃの視界で、自分の終わりを悟りながら、光を眺め続けることしかできない。

 

「借り物の力で背伸びしたところで、倒れるダメージがでかくなるだけだったな」

 

 ああ、目が覚めたら、これは悪夢で────

 

 

 ▽

 

 

 長い長い夜が明けて。

 アクセルには、号外の新聞がばら撒かれた。

 

 ──『アクセル領主逮捕。汚職の証拠が多数発覚』

 ──『数々の犯罪に関与か』

 ──『三流領主、たった一夜にして素寒貧!』

 

 良い見出しだ。

 この街の新聞社はセンスがいい。

 

 号外が床に散らかるギルドの酒場は、悪徳領主が消えたことを喜ぶ声が朝から響いていた。

 

「おい聞いたか!? あのクソ領主、小便垂らして泣き喚きながら連行されてったらしいぜ!」

「ざまあみろだ! これで俺たちの生活も少しは楽になるだろ!」

「悪徳貴族お陀仏に乾杯だ野郎ども!」

 

 ジョッキがぶつかり合う音と、下品な歓声。

 アルダープの逮捕というビッグニュースに、冒険者たちはすっかりお祭りムードだった。

 

 そんな酒場の片隅、カウンターの特等席で、僕は琥珀色の液体が入ったグラスを指先でくるくると回しながら辺りを見渡す。

 

 我らがパーティリーダーのカズマも大変興が乗っているようだ。

 汚い笑い声を挙げながら、脚色に脚色を重ねた自分の武勇伝を語り、そこらの女性冒険者のヒンシュクを買いまくっていた。

 

 アクアも楽しそうに騒いでは、時折隅まで駆け込んでゲロを吐いてる。

 めぐみんもまた、武勇伝を話しては、真偽を疑う聴衆にケチを付けられ、ブチ切れて大喧嘩してる。

 

 ……認めたくはないが、こんな下劣な光景に安心感を覚え始めた。

 

 グラスの酒を一気に呷り、カランッと氷の音を鳴らした。

 

「──お、いたいた。こんなところで一人で一杯やってたんだね」

 

 ひらりと軽やかな足取りで近づいてきたのは、見慣れた盗賊の格好をしたクリスだ。

 その隣には鎧の修繕中でラフな格好をしたダクネスが、少し照れくさそうな顔をして立っている。

 

「やぁ、お二人とも。見ての通り、我がパーティーの素晴らしい『栄誉ある凱旋』を鑑賞中さ。耳が腐りそうだが」

「ふっ、祝いの席でも皮肉癖は変わらないんだな。……その、今回は……お前のおかげであの悪徳領主の悪事を暴き出すことができた。私個人としても、この街の貴族の一人としても、心から感謝する」

 

 ダクネスが胸を張り、真摯に頭を下げてくる。

 クリスもそれに続くように、苦笑いを浮かべながら言った。

 

「ダクネスを、ウチの親友を助けてくれて……本当にありがとう。この子、色々ひとりで抱え込んじゃうところあるからさ」

「ま、僕も似たようなことして上手くいかなかった。失敗から学んで後世に残さないのが優れた科学者ってものだ」

 

 二人にそう冗談めかし、酒場のバーテンに追加のスコッチを注文する。

 

「で、これからアクセルはどうなりそうだ?」

「大忙しだろうな。アルダープの悪事がすべて明るみに出たことによって、芋づる式にあいつと癒着していた悪徳貴族たちの証拠も見つかっている」

「うへぇ……ダクネスのお父様は大変そうだね」

「ああ。だが、トニーにとても感謝していたぞ。直に感謝状が届くだろう」

「霜降り赤ガニのほうが百倍うれしいね」

 

 僕が軽口をたたくと、ダクネスが「お前らしいな」と肩をすくめて笑う。

 クリスもそれを見て笑っていた。

 

 中世の田舎町で悪魔退職代行のアルバイトをさせられるとは思わなかったが……、

 

 ……あの時(ソコヴィア)とは違って、守りたかったものを、全て守れた。

 

 淡い満足感に浸りながら、バーテンが用意したスコッチのお代わりを一口飲み──

 

「『スティール』ッッ!」

 

 下品で馬鹿っぽい声に目を向けると、少し離れたところでカズマがヘラヘラしながら立っており。

 

「よう! スカしたオッサン! これ借りるわ!」

 

 カズマの手にあるのは、僕がポケットに入れてたサングラス。

 大袈裟にサングラスをかけると、僕の真似のつもりなのか、縁に指を添えて。

 

「『フライデー、周囲をスキャンしてくれ!』なぁんて! うはははは! 似てた? 似てたー?」

「あはははは! カズマさんってば下っ手くそ! 私に貸してみなさいな!」

 

 アルダープ並に下品な笑い声で爆笑するカズマとアクア。

 どんだけ酔いが回ってんだ、このガキ共。

 

「トニー、そんな怖い顔をするな。あれは二人なりに誘ってるんだと思うぞ。『一人で飲んでないで、こっちで一緒に飲もう』とな」

 

 そうかそうか。

 なら乗ってやろうじゃないか。

 

 僕は耳につけていたインカムに声をかける。

 

「フライデー、非殺傷兵器をありったけ搭載したドローンをこっちに寄越せ」

『はい、ボス』

「「えっ」」

「良いモノマネだったよ。次は本(・)物(・)を見せてやるから、もっと上手く真似てくれるか?」

 

 ゆらりと立ち上がり、ポケットに手を入れ、グラスを片手に悠然と歩み寄る。

 

「わああああーっ! こわい! こわいわ! カズマさん、何とかしてー!」

「怖い雰囲気出すの上手すぎだろ! 慣れてんの!? よくやってんの!?」

 

 

 

 

 ──その後。

 ドローンで追っかけまわした挙句、武器を構えると見せかけてお酒を差し出すドッキリを仕掛けたのだが、二人に本当に嫌われかけた。

 

 

 ▽

 

 

「うぅ……お酒飲んで走ったから気持ち悪い……」

「朝から飲みすぎた……」

 

 悪酔いした挙句、ドローンから逃げ回った二人は、顔面を真っ青にしながらソファに転がった。

 

「休んで回復したら飲みなおしといこう。ほら、帰り際に高級なチーズと燻製肉をたくさん買ってきたぞ。これでピザでも作らないか?」

「あ゛~~……賛成~……ピザは俺たちが回復しそうなタイミングを見計らって作っといてくれ……」

「ピザできたらあーんして食べさせてね……」

 

 さっきので懲りてるのやら懲りてないのやら。

 ナメたことを抜かすアホ二人に、僕もめぐみんもダクネスも顔を合わせて苦笑いをこぼす。

 

「ピザは私が担当します。トニーは料理できないでしょうけど、肉とチーズを切るくらいはやってください」

「ま……いいだろう。ラボに良い感じの調理器具があったはずだ」

「では、ワイン選びを任せてくれ。自信がある」

 

 僕とダクネスで、ラボからそれぞれ夜のパーティーに向けた準備……、

 

 ──ピンポーン。

 

 ……をしようとして。チャイム音に足を止める。

 屋敷前の門のチャイムを誰かが鳴らしたらしい。

 

 ホログラムを起動し、誰が立っているのか確認する。

 

『トニー・スターク様はいらっしゃいますか? お手紙を預かっています』

 

 どうやら普通の配達員のようだ。

 セキュリティを解除し、中に通す。

 

「家の前に遠隔カメラ付けるわ要塞に改造するわ、絶対過剰だろこれ。荷物受け取るたびにペンタゴン並みの入館手続きさせられる俺たちの身にもなってくれ……」

 

 床に寝転んでるカズマが、あきれたように僕を見た。

 

 一日に大悪魔と大悪魔の呪いがセットでこの屋敷に飛んできたのをもう忘れてるのか。

 平和ボケしたボウヤの脳みそもアップデートしてやるべきかもな。

 

「クソ、アイツ絶対自分を悪いとも思ってない……」

 

 

 

 

「──では、お手紙はこちらになります」

 

 配達員から手渡された手紙。

 それを一目見た僕は……。

 

「……ッ!!」

 

 思わず息をのんだ。

 

「ど、どうしたんですかトニー? 手紙一つに顔色帰るなんてあなたらしくな……ッ!!!」

 

 続いてめぐみんも、手紙を見て固まる。

 手紙自体ではなく……その手紙の封蠟を見つめて。

 

「あ────! それって!!!」

 

 さっきまで床でナメクジみたいに這いずり回ってたアクアが、急に僕らの元へと飛んできた。

 

「その封蝋、アクシズ教のシンボルじゃない! ってことは、アクシズ教からの手紙よ、これ!」

 

 アクアがキラキラした目線を僕に飛ばしてくる。

 まるで大切な仲間を見つけたかのような目だ。

 

「ア、アクシズ教からか……」

 

 ダクネスも戸惑った顔をしていた。

 

「しかもこの封蠟の質と形からして最高責任者からのものよ! トニーってば、ウチの子たちと仲良かったの!?」

「一方的にな……しかも、縁は切ったはずだ」

 

 盛大にため息をつきながらも、一応中身を確認する。

 

 そこには……。

 

『教徒を増やし、悪魔を祓い、我等アクシズ教団に多大なる貢献を納めた、親愛なるトニー・スターク様。どうかあなたにお願いがあります。現在、我々アクシズ教団は何者かによる攻撃を受けています。というのも、我々の総本山であるアルカンレティアの水源が汚染されている可能性が高いのです。宿で温泉に入った旅行客が相次いで体調を悪くしており、危篤状態に陥った者もいました。我々だけでは水源の浄化もままならず、倒れたお客の介抱をするだけで手いっぱいの状況です。このままでは旅行客も冒険者も寄り付かなくなり、観光資源という我々の財源が失われ、教団の運営自体が立ち行かなくなる危機です。この状況を打破できるのはあなたしかいません。どうか、お助けください』

 

「……」

 

 思った以上に深刻だった内容に、僕も思わず閉口してしまった。

 

「トニー! もちろんすぐ助けに行くわよね!? ウチの子たちがピンチなら見過ごせないわ!」

 

 気乗りはしないが……もし本当にアクシズ教団の財源が狙われているなら、魔王軍が関係している可能性が高い。

 一応確認だけでもしておくべきだろう。

 

 二度と関わりたくない連中ではあったが、人的被害が出ている以上は無視できないか……。

 

 僕が重い腰を上げるための大義名分を考えていると、めぐみんが何かに気付いた。

 

「……おや? トニー、もう一枚手紙がありますよ」

「まだなにかあるのか……?」

 

『依頼を受けていただけるのであれば、アクシズ教の大聖堂にある、わたくしゼスタの私室をお尋ねください。部屋扉を三回叩いた場合は、私が受け。二回の場合は私が攻めをやります。できれば私は受けだとうれしいです。私のケツをひっぱたきながら罵詈雑言と愛の言葉を』

 

 ──そこまで読んだところで、僕は呪いの手紙を一枚目ごとビリビリに引き裂いた! 

 

 




実はアルダープ、これでも原作よりかなりマシな目にあっているという……。

長らくおまたせしました。
これにてこの賞は終わりになります。
次回からは原作四巻のアルカンレティア編です。

仕事もリアルも落ち着きつつあるので、次回からは投稿頻度も上げられそうです。
遅筆ではありますが、これからもよろしくお願いいたします。
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もしも…ウルトロンに憑依したら?(作者:(´・ω・`)しょんぼりくん)(原作:Marvel)

まあ成り行きで書いたものです。人工知能に憑依ってなんだ。


総合評価:6892/評価:7.99/連載:34話/更新日時:2026年01月07日(水) 18:21 小説情報

スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女(作者:サイリウム)(原作:MARVEL)

スパイダーマン。カッコよくて可愛くて素敵だなぁ……、せや!


総合評価:5595/評価:8.69/完結:14話/更新日時:2026年10月13日(火) 13:00 小説情報

キヴォトスに来たおカシな先生(作者:ナリカオル)(原作:ブルーアーカイブ)

 やって来たのは、ちょっとおカシな人だった。▼ 子供みたいに無邪気に笑って、一緒にはしゃいで。▼ でも時には大人としてちゃんと叱って、見守って。▼ その裏に、誰も知らない哀しみと愛を秘めて、いつも私達の側に居てくれる。▼ 誰よりも強くて、優しくて……。▼ これは、そんなおカシな先生と生徒達の物語。▼


総合評価:1240/評価:7.6/連載:53話/更新日時:2026年10月10日(土) 09:00 小説情報

転生ワンオペゲマトリア黒服概念(作者:地霊殿の壁)(原作:ブルーアーカイブ)

タイトル通り、元先生、現ゲマトリアの黒服となった憑依転生者がたった一人の(ワンオペ)ゲマトリアとして、全方位ヘイトタンク兼世界の調整役としての責務を果たすだけの話。▼その結果、極少数を除く全世界から身に余る程の憎悪と殺意、そして嫌悪感を抱かれようとも───▼-作品・更新情報-▼{更新中}


総合評価:4215/評価:8.62/連載:9話/更新日時:2026年10月13日(火) 23:01 小説情報


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