この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第5話 最強の戦術破壊兵器

──我が里の学校で特別講師になっていただきたい。

 

 族長の言葉に思考が一瞬止まる。

 お茶を口に含んでたら噴き出していたかもしれない。

 

「‥‥‥僕が……講師だって?」

「ええ、そうです。母さんはどう思う?」

「面白そうだと思います。遠い国から来た特別講師だなんて、紅魔族としても昂るものがあるわ!」

 

 そう言って目を赤く光らせる夫妻。

 ‥‥期待してもらっているところ悪いが、正直御免だ。子供相手にものを教えるなんて僕の分野じゃない。

 だがまぁ、とりあえずどんな学校かだけでも聞いておこう。

 

「教え子たちの年齢は?」

「さっきあなたと一緒にいためぐみん位の子たちですよ」

「‥‥‥」

「あ、あの……スタークさん?」

 

 大学生相手ならまだしも、十二、十三相手の子供に何を教えろっていうんだ。

 段ボールで空気砲でも作ってやればいいのか? それとも水溶き片栗粉握りつぶして遊ぶのか? 

 

 そもそも、僕の世界じゃ科学者だった人間が高校や中学の教師をやるなんてのは、所謂夢破れた落ちこぼれの末路みたいな扱いだった。

 ラボをクビになったり、大学教員になれなかった連中が食い扶持を求めて中高生相手に教鞭を執るなんてのはよくある話だ。

 僕の中でもそういうイメージだったので、なりたいかと言われたら当然答えはNOだ。だがそんなことを言っても二人にはわからないだろう。

 

 そんな思いが表に出てしまってたのか、顎に手を置いて複雑そうな顔をする僕を見て不安げにする夫妻。

 僕は顎に置いていた右手を翻し、肩をすくめて。

 

「大体、講師をやれって言うが、一体何を教えればいいんだ? 言っておくが、僕の科学知識……いや、僕の技術知識は常人に理解できるものじゃないぞ?」

 

 嫌味ったらしくそういうが、二人は嫌な顔を一つしない。

 それどころか、僕の言葉に族長は笑顔で返してくる。

 

「いえ、違うんですよ。この里の学校では一般的な知識を身に着け、魔法の修業を始めるんです。そして、やがては優秀なアークウィザードになって卒業していきます。戦いとは無縁の職に就く者もいますが、スタークさんには戦闘面での心構えや外の世界について教えてあげて欲しいのです。特に、スタークさんが担当するのは卒業間近の子供たちです。きっといい刺激になることでしょう」

 

 その族長の言葉に、『世界を渡り歩く力を持って生を受けるのに、外の世界を見ないのはもったいないですもの』と、付け加えて笑う奥さん。

 

 どうやら僕が思っていた学校とは違うみたいだ。

 この世界の冒険者たちは若い。学生やってるような歳の子が普通に命を懸けて戦っている。

 幼いころから戦う能力を身に着ける教育機関があってもおかしくはないだろう。

 

 ‥‥‥面白そうだ。

 

 この世界を魔王軍から救うのに、必ずしも僕が魔王を直接ぶちのめしに行く必要はない。

 テロ国家を潰すのに大国が直接出向くんじゃなく、現地の反乱軍に経験を積んだ特殊部隊を教官として送り込み、戦闘ノウハウを叩き込んで強力な軍隊に作り変えるように、僕がこの世界の人間側の戦力自体を上げてしまえばいい。

 

 ここらで紅魔族相手にそれを試してみるのも悪くないだろう。

 いずれは技術力も上げて魔王軍を文明力の差でボコボコにしてもいい。

 

 だが、最後に確認しておかなくてはいけないことがある。

 

「あー……なぁ、これだけは言っておくが……僕は講師ってガラじゃない、なにしろ性格は欠点だらけだ。話してる途中でもわかっただろ? 無礼だし、皮肉屋だし、むしろ生徒に悪影響かもしれな……」

「スタークさん」

 

 だんだん卑屈っぽくなってきた僕の言葉を、奥さんは遮る。

 そしてにっこり笑い……。

 

「多少毒があった方がかえって面白いものです。我々紅魔族はあえてステータスを下げる呪われた武器を使ったりもするのですよ? なぜなら、それがカッコ良いから!」

 

 ……その赤い目を、ひと際輝かせた。

 紅魔族っていうのが段々とわかってきた気がする。

 最初はただスーツのロマンがわかる良いセンスを持った一族程度にしか思ってなかったが、僕の考えが甘かったらしい。

 彼らはそのロマンやセンスに対して清々しさすら覚えるほど全力投球なのだ。

 

 そんな彼らを見ていると、自分の性格がどうだの生徒に悪影響がどうだのってのもどうでもいい問題に見えてきた。

 

 ものは試してこそ科学者だ。

 

「さて、スタークさん。いかがなされますか?」

 

 答えは決まった。

 

 

 

「乗った」

「そう来なくては!」

 

 族長が差し出してきた手を取って、固く握手を交わす。

 

「交渉成立だな」

 

 ‥‥と、笑ったその時。

 

 妙な視線を感じ取り、そちらの方に視線を向けると‥‥‥。

 夫妻が座っているソファーから数メートル程後方にあるドアをほんの少しだけ開け、そこからちらっと顔をのぞかせている女の子と目が合った。

 

「‥‥っ!」

 

 やあ、とでも言って気さくにあいさつしようかと思ったのだが、僕と目が合うや否やびくりと体を震わせて、ドアの奥に引っ込んでしまった。

 

 その様子を見た族長が。

 

「ああ、あの子は我が娘のゆんゆんです。紅魔族なのに自分の名乗りすら恥ずかしがる変わり者でしてな」

「そのせいか、里でも浮いてしまってて‥‥友達がサボテンとまりもくらいしかいないんですよ」

「僕よりひどいって凄いな」

 

 僕と違って普通の感性を持っているだけなのに、それで友達がいないとかいくら何でも切なすぎる。

 僕が微妙な顔をしていると、奥さんは僕に笑いかけてきて。

 

「あの子も学校に通う生徒の一人です。なにとぞ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますね?」

「……善処するよ。ところで、僕はいつから教師をやれば良いのかな?」

「それはまた追々‥‥。今日はひとまず里を回って体を休めてください。食事処と宿が書いてある地図を渡しますので」

 

 そう言って、族長がパンフレットみたいなものを手渡してきた。

 表紙にでかでかと書かれた赤文字が目に入る。

 

 ──『里の秘密に迫りし超極秘機密資料』

 

「なぁ、これ‥‥」

「ワクワクする地図でしょう?」

「…………」

 

 

 ▽

 

 

 里のそこらじゅうで無料配布してある超極秘機密資料を広げながら里の中を探索する。

 

 気になる場所はいくつかあるが、まずは腹ごしらえだ。

 ダクネス達の装備開発と試験をしていたおかげで朝から何も食べていない。

 ひとまずは喫茶店へと、足を動かした時だった。

 耳につけていたインカム越しに、フライデーから通知が入る。

 

『ボス、クリス様より着信です』

「クリス? まだ別れてから二時間も経ってないだろうに。繋げ」

 

 クリスには僕から携帯端末を送ってあった。

 彼女は異世界に送られた僕がどんな影響を及ぼすのか見届けるよう上から命令されている。

 僕としてもこの世界について詳しく、僕の事情を知っている彼女といつでも連絡が取れるようになるのは好都合だった。

 

『えーっと、これで良いのかな? もしもしトニー、聞こえる?』

「ばっちりだ。で、何の用だ? もう僕が恋しくなっちゃった?」

『おぉ……毒電波受信中……なーんて。あはは、冗談だよ。この通信手段を試しておきたかったっていうのと、今紅魔の里でどうなったのか気になって電話したんだ』

「そんなことか。おおむね順調だ。この里で講師をやることになったが」

『え゛っ』

 

 ガタンッと物音を立て、奇妙な声を上げるエリス。

 多分、元の世界のみんながこれを聞いたら同じ反応をするだろう。

 

「なんだよ、そんなに意外か?」

『意外というかなんというか‥‥そういうの嫌がるタイプだと思っていたから……でも、里の講師ってことは紅魔族の学校のことだよね? 魔法使いの学校で何を教えるつもりなの?』

「僕が元の世界で得た戦闘経験や教訓なんかだ。将来生徒が冒険者になったときに何かの役に立つかもしれないだろ? あと、外の世界の知識は生徒たちにとっていい刺激になるとも言ってたな」

『なるほど‥‥ちょっと内容気になるなぁ……』

 

 異世界を救うという名目で送られた僕が、のどかな田舎の里で教師をやるという衝撃的な展開にも関わらず、興味深そうな反応をエリスは示す。

 てっきりそんなことやってる場合かと説教されると思ったのだが、あまりこちらの動きにあれこれ言うつもりはないらしい。

 

 ……僕が今立てている計画について聞いてみるか。

 

「なぁ、エリス。僕の世界の技術や知識をこの世界に提供して、魔王軍に対して有利に立とうと思ってるんだが、どう思う?」

『うーん……この世界に悪影響を及ぼさない範囲であれば……多少は大丈夫だよ。今まで似たようなことをしてきた転生者もいるみたいだし」

 

 意外とあっさりした答えに少々面食らう。

 が、少し間を開けたのちにクリスが僕に真面目そうな……というか、おそるおそると言った感じで。

 

『ねぇ、その……失礼な質問になったら悪いんだけど‥‥‥武器を売るつもりなの?』

「……まぁ、そうなるな。だが今は状況が違う。人と人が殺しあってるんじゃなくて、人と魔物が戦っている。一般人や悪人の手に渡らないよう管理はしっかりするし、魔王軍との戦いが終わったら全て使えなくなるよう細工でもするつもりだ」

 

 正確に言えば武器を売るんじゃなくて、ただの技術提供だ。

 S.H.I.E.L.D.のヘリキャリアにリパルサー・エンジンを搭載してやったのと同じだ。

 再び武器商人をやるつもりはない。

 ちなみにそのヘリキャリアはヒドラという悪の組織が乗っ取ったことにより危うく数十万単位の人命が失われかけたし、水の底に沈んだしで散々だったがそれはそれ、これはこれだ。今度は上手くやる。

 

『それなら安心だね。でも、世界を滅ぼしかねない破壊兵器とか作っちゃだめだよ? 約束だからね?』

「僕がそんなもん作るわけな……いや、なんでもない、わかった。約束だ」

 

 通話越しなのになぜか冷たい目を向けられてるのがわかってしまった。

 

「それじゃあ、その技術提供についてなんだが……どうすればいいと思う? この世界でそういったものを売り込むのに適している場所に心当たりはあるか?」

『そうだね……とりあえず王都に行ってみればいいんじゃないかな。王都の近くの平原までよく魔王軍が襲撃に来るからそこで実際に使って見せるなりすれば……』

 

 と、そこまで言ったところで。

 

『ママー、あの人変な板にしゃべりかけてるー』

『しーっ、多分アクシズ教徒よ。見ちゃいけません』

『えっ、待っ、違っ』

 

 突如聞こえてきた一般人の声と焦った様子のクリスの声を最後に通話が途切れてしまった。

 ……かわいそうに。

 エリスは幸運を司る神様らしいが、どうも本人は不幸体質みたいだ……。

 彼女の幸運と、おいしくお腹を満たしてくれる料理に想いを馳せつつ、喫茶店へと向かった。

 

 

 ▽

 

 

「おや! 今里で話題になってる鎧の男じゃないか! いらっしゃい! 紅魔族随一の喫茶店へようこそ!!」

 

 デッドリーポイズンという、飲食店を経営する気はあるのかと正気を疑いたくなるような名前の店に入った僕は、男勝りな口調の恰幅のいい女性店主に案内されて席に着く。

 ちなみに定食屋もあったのだが、そちらはデスクリムゾンという名前だった。いずれ行ってみよう。

 

 暖かい日が差すテラス席に座り、メニュー表を開く。

 

 ──『暗黒神の加護を受けしシチュー』

 ──『溶岩竜の吐息風カラシスパゲティ』

 ──『魔神に捧げられし子羊肉のサンドイッチ』

 

 ‥‥‥。

 これまたすごい名前だ。なんの料理かさっぱりわからない。

 スーツに狂喜するセンスはあっても、ネーミングセンスはないらしい。

 

「あー……なぁ、オススメはなんだ?」

「今日のオススメは『死の女神による永遠の炎で揚げられしカツサンド』と『大地の女神の祝福サラダプレート』だ!」

「じゃ、それで」

「あいよ!」

 

 備え付けの果汁入りの水を飲んで一息つく。

 さて、この後はどうしようか。

 まず行くべきは図書館だろうか。あのコンクリート製らしき建物も気になる。

 

「やぁ、こめっこ! お兄ちゃんがおいしいものあげ……なんだい? その妙な形のおも」

「どーん」

「ノォォォォォーッ!! 目が!! 目がああああああっ!!」

 

 騒がしいな。

 今後について考えているのだから静かにしてほしいんだが。

 

 

 

 聞こえて来る鳥のさえずりや、何処かで聞いた声の絶叫を聞きながら、僕が置いてあるスーツの前にできた人だかりを眺めて待つこと数分。

 店主が料理を持って僕の席までやってきた。

 

「おまちどう!」

 

 テーブルの上にカツサンドとサラダが並べられる。

 どちらも美味そうだが、目を引くのはカツサンドだ。親指の腹より厚いカツは、その断面をあふれる肉汁でコーティングし、日の光を反射して淡く輝いている。

 衣も一目でサクサクしているのがわかる。素晴らしい。中世時代の文明と聞いて、料理は野菜と穀物のごった煮が主食とか想像していたのだが、今のところ不満のある料理は出ていない。うれしい誤算だ。

 

 さっそくカツサンドを手に取り一口。

 

 かぶりついた時に歯を通して伝わってくるパンと衣と肉の感触が最高だ。

 あふれだす肉汁に舌をやけどしそうになるも、口に広がるジューシーな肉の味と香ばしい衣の香りを満喫する。

 

「お客さん、美味そうに食うねぇ。作った甲斐があるってもんだよ」

「こんなうまいカツサンドは初めてだ。いい腕してるな」

 

 続いてサラダだ。実は生野菜はこの世界に来て初めて食べる。

 ギルドではいつも炒められた付け合わせのグリル野菜を食べてた。

 

 フォークで刺し、一口サイズに切られたキャベツを口に運び、咀嚼する。

 シャキシャキとした歯ごたえが‥‥。

 ……なんだこのキャベツは。瑞々しさと歯に伝わる弾力が元の世界のキャベツと桁違いだ。

 今まで僕が食べてきた野菜は腐ってたのかと錯覚するほどに。

 

「なんてこった……この世界にきてベジタリアンに目覚めそうになるとは……」

『ポッツ様もお喜びになるでしょう。ジャンクフードばかりは体に悪いですから』

 

 キャベツの美味さに感動し、もう一口食べようとフォークをサラダプレートに伸ばしたその時。

 

 まるで落ち葉が落ちる様を逆再生したかのような動きで、皿の上のキャベツが宙に舞い上がった。

 

 その光景に僕があっけにとられていると、そのままキャベツは僕の方に向かって来て……。

 

 ──僕の頬に、強烈なビンタをかましてきた。

 映画かアニメの音源にそのまま使えそうなくらいの強烈なビンタ音が周囲に響く。

 

 ‥‥‥‥‥!?!?!?!?!?!?!? 

 

「Arghhhhhhhhhh!!!!」

「お、お客さん!?」

 

 僕の脳から発せられる危険信号に反応し、喫茶店の前に置いてあったスーツが見物客をよけながら飛んできて僕の体を包む。

 そのままリパルサーを高威力のまま射出し、一瞬でキャベツを消し炭に変えた。

 ……料理が乗ったテーブルごと。

 

「お客さん! どうしちまったんだ!?」

「見てなかったのか!? キャベツが‥‥キャベツが宙を舞って僕の顔をビンタしてきたんだぞ!?」

 

 自分で言ってて頭がおかしくなりそうになる。女性にビンタされたことは星の数ほどあるが、キャベツにビンタされたのは生まれて初めてだ。

 

「何言ってんだい! キャベツが飛ぶなんてあたりまえのことだろう!!」

「あんたが何言ってるんだ!!」

 

「──なんだなんだ!?」

「──おおっ! あの鎧手から光線が出たぞ!」

「──新しい演出か!?」

 

 スーツの近くに集まってた里の住民たちは何が起こったのか把握できていないのか、とりあえず僕のスーツを見て目を輝かせている。

 気楽でいいなこいつら。

 

「お客さん、まさかキャベツが空を飛ぶってことを知らないのかい……?」

「知ったことに絶望しそうだ。少なくとも、僕が住んでいる国では空飛ぶ野菜なんていなかったぞ‥‥」

 

 信じられないといった顔をする店主。

 不満のある料理は出てないとか思っていた五分前の僕をビンタしてやりたい。

 

「はぁ‥‥とりあえずテーブルと皿の代金を弁償させてくれ‥‥」

「あ、あぁ‥‥」

 

 

 ▽

 

 

 お腹を満たしに来たはずなのにげっそりとした僕は学校の図書館に来ていた。

 あらゆる意欲が下がっているが、やるべきことはやらなくては。

 

 入り口のドアを開け中に入ると、そこにはたくさんの本棚がならび、その本棚一つ一つにぎっしりと本が詰められていた。

 幻想的に輝くサーバールームに比べると若干見劣りするが、たまにはこういうのも悪くない。

 古い紙と新しい紙、そしてインクの匂いに胸を躍らせ、部屋の中を歩き回る。

 

 ──『暴れん坊ロード』

 ──『タニシでも社交的になれる本』

 ──『読むだけで友達ができる禁断の魔導書』

 

 アホみたいなタイトルの本が視界にちらつくが、それらは無視して魔法について記された書物を探し続ける。

 

「魔法……魔法……ん?」

 

 ──『爆裂魔法の有用性』

 

 爆裂魔法。僕が今一番詳しい魔法だ。

 めぐみん曰く、ありとあらゆる敵を一撃で葬り去ることができる最強魔法。

 あの時の説明を聞く限りではかなり恐ろしい魔法に聞こえたが、弱点や問題面については聞いていない。

 

 最強の魔法と言うくらいだ、使用者と敵対する機会はこの先あるだろう。

 食らうことが無いように調べておかなくては。

 

 その本を取ろうと手を伸ばした時、もう一本の腕が僕の左下から伸びてきた。

 

「左から失礼‥‥って、さっきの鎧おじさんではないですか」

 

 爆裂魔法の本を取ろうと手を伸ばしてきたのは、なんとめぐみんだった。

 僕のことを鎧おじさん呼ばわりした彼女は、そのまま僕が狙ってた爆裂魔法の本をさっと取る。

 

「おい、僕のことを鎧おじさんって呼ぶのはやめろ。ちゃんと名前があるんだ」

「……そういえば、あなたの名前は聞いてなかったですね。なんて名前なんですか?」

 

 僕は背の低いめぐみんを身長差を活かして見下ろし、指パッチンしながら人差し指を立て、それをめぐみんに向ける。

 そういえば、彼女は紅魔族随一の天才と名乗ってたっけな。

 

「僕の名はトニー・スターク。人類随一の天才さ」

 

 そういって、ニヤリと笑って見せた。

 めぐみんは、僕が紅魔族式とは違うものの、派手に名乗りを上げたことに感心した様子で僕を眺めてたが、やがてハッとした顔を浮かべて。

 

「この私を差し置いて人類随一の天才とは聞き捨てなりませんね! それだけ言うのであれば勝負しようではありませんか!」

「もちろんいいとも」

 

 そう言って、まるでガンマンの早打ち勝負のようにお互いカードを取り出して相手に突きつける。

 めぐみんのカードに書かれていた値は‥‥。

 

「‥‥ばかなっ!! なんですかそのデタラメな数値!? まさか……この私が‥‥」

 

 すさまじく悔しそうな顔をするめぐみん。だが……。

 

「あれっ? 魔力が……」

「おっと、天才対決は僕の勝ち。はいおしまい」

 

 ゼロに近い魔力を見られまいと、素早くポケットにカードをしまう。

 その様子を見ためぐみんは実に憎たらしくニヤニヤと笑う。

 クソ、遅かった。

 

「おやぁ‥‥? おやおや‥‥。知力が高いのに、魔力がゼロとはなんてもったいない!」

「僕に魔力は関係ない。魔法使いになるつもりはないからな」

「へ? ではなぜ魔法について調べようと……」

「僕の住んでる国じゃ、魔法が普及してなかったからだ。だから魔法について調べてるだけだ。あとその本、僕が先に見つけた奴だぞ」

 

 そう言ってめぐみんが手に持ってた本をかっさらう。

 

「ああっ! 子供が持ってた本を奪い取るとかそれでも大人ですかあなたは!? このっ! このっ!」

「これが大人だ。大人について知れてよかったな。こういうのは本じゃ学べないぞ?」

 

 めぐみんがジャンプして僕から本を奪い返そうとするが、身長差がある上に僕が本を持った手を頭の上まで上げてしまっている為手が届かないでいる。

 

「大体、君は爆裂魔法についてよく知っているじゃないか。僕が調べたっていいだろ?」

「うぐぐぐ……仕方ありませんね。爆裂魔法の魅力がわかる同志が増えるかもしれない良い機会です。見逃してあげますよ……」

 

 そうしてプリプリと怒りながらもあきらめて他の本を取りに行っためぐみん。

 ちょっと悪いことしたかもな。あとでスーツの変形でも見せてやろう。

 

 そうしてその場でパラパラと本をめくってみるのだが‥‥。

 

「……なんだこれは‥‥ボロクソじゃないか‥‥」

 

 描かれていた内容は凄惨たるものだった。

 使用する魔力が大きすぎてまともに使える魔法使いはほとんどいない、使えば魔力は枯渇して他の魔法を撃つことすらままならない。

 周囲の地形は変わる、音につられて魔物は寄ってくる、使用者は地雷扱い。上げればキリがないくらいの叩かれっぷりだ。

 ‥‥‥めぐみんは、このことを知っているのだろうか。

 爆裂魔法を愛している彼女のことだ、これを知ったらきっと……。

 

「今ですっ! ふはははは!! 油断しましたね!!!」

 

 そんな声と共に、めぐみんが横から爆裂魔法の本をかっさらっていった。

 ひゃほうと叫び、図書室の中を駆け巡る。

 ‥‥あのガキ。

 

 そのあと、上級魔法や中級魔法について書かれた本をいくつか取り、部屋の中にあった椅子に腰かけて本を開く。

 しばらく本を読んでいると、めぐみんが近くの席に座りだした。

 

「‥‥なんだ? この本も奪うつもりなのか?」

「奪いませんよ! そんなちっぽけな魔法になんて興味ありません! 私が目指すのは最強の文字のみですから!」

「その最強の爆裂魔法とやらはネタ魔法扱いで、使用者は地雷魔法使いとまで書かれてるのにそれ言うのか?」

 

 そういうと、めぐみんの顔がだんだんと曇っていって‥‥シュンと、うなだれる。

 ‥‥‥。なんだその顔は。さっきまであんなに誇ってしゃべってたのに……。

 

「‥‥魔法について調べ始めたばかりのあなたでも、そう思いますか?」

 

 めぐみんは、うなだれていた顔を上げて。

 

「‥‥あなたも、爆裂魔法はネタ魔法だと思いますか?」

 

 つらそうな、くじけそうな顔をしながら、僕にそう言ってきた。

 彼女は、なぜこうもつらい顔をするのだろうか。この学校にいる生徒はまだ全員魔法を覚えていないというのは知っている。

 ただ好きなだけならこんな顔はしないはずだ。

 

「‥‥君は、爆裂魔法を習得するつもりなのか?」

「‥‥‥」

 

 何も言わず、彼女は小さくコクリとうなずき。そして、自嘲気味に笑った。

 

「はは……何で親とかでもないあなたに打ち明けてるのでしょうね‥‥いずれ居なくなる里の外の人間だからでしょうか……そうです、私はネタ魔法と言われている爆裂魔法を習得しようとしています。小さいころ、一度だけ見た爆裂魔法が忘れられないんです。あの、すべてを蹂躙するかのような破壊の化身のごとき大魔法が。私の目標は爆裂魔法を覚えて、極めて、私に爆裂魔法を見せてくれたあの人に、私の爆裂魔法を見せる事なんです」

 

 ‥‥僕は、開いていた読みかけの本をパタリと閉じて。

 

「……その話、僕にしたのは正解だったな」

「へっ?」

 

 素っ頓狂な声を上げて驚くめぐみんに、今度は僕が自嘲気味に笑いながら。

 

「実は僕は……武器を作ることが得意なんだ。昔はあらゆる武器を作っては、戦争の兵器として売りさばいていた‥‥まぁ、この話は関係ないか。僕が言いたいのは、僕には武器を見る目があるってことだ」

 

 ネタ魔法を習得しようとする彼女に、こんな話をしていいのだろうか。

 本当はやめさせてまっとうな魔法使いになれと言うべきなんじゃないだろうか。

 だが僕は、自分の直感のままに。そして、ロマンを追い求め茨の道を突き進まんとする彼女に少しだけ敬意を表し。

 紅魔族が好きそうな感じで爆裂魔法をプレゼンしてやる。

 

「戦術破壊兵器。君が爆裂魔法を極めようとするなら、戦術破壊兵器を目指せ」

 

 その言葉に、暗かっためぐみんの顔に明るさが戻っていき、目が少しずつ輝き始める。

 

「せ……戦術破壊兵器……! それは、どういう‥‥」

「簡単だ。君自身が、戦術破壊兵器そのものになるってことだ。一発撃てばもうおしまいなら、それでいいじゃないか。仲間なりなんなり脱出する手段を用意して、強力な化け物相手でも、雑魚の群れにでもデカいの一発ぶち込んで撤退すればいい。使い捨ての一撃必殺兵器……使い捨てって言い方はよくないな。だがまぁ、そんな感じでやりようはあるんじゃないか? あくまで、魔法使いとしての意見ではなく、武器を扱ってた人間としてのアドバイスだが」

「……!」

 

 その言葉を聞いた彼女は目を赤くし、興奮した様子で。

 

「あーはっはっは! なるほど! そうですか! そういうことですか! 私は世界を滅ぼす究極兵器と言うことですか! 私としたことが! こんなことにも気が付かないなんて!」

 

 悪の道に目覚めた悪役(ヴィラン)のような笑い声をひとしきり上げて。

 やがて、僕の方を向くと。

 

「ありがとうございます、トニー・スタークさん。あなたのおかげで自分が目指す道に自信が持てましたよ!」

「それはよかった。だがあいにく、僕は爆裂魔法を見たことが無い。今僕が示した道は、破壊兵器と言えるだけのパワーがその魔法にあるかどうかで決まるからな?」

 

 僕がそういうと、なんの心配もいらないと言わんばかりに、ガタッと椅子から立ち上がり。

 

「改めて名乗らせてもらおうか!」

 

 胸を張って、マントを翻し。

 

「我が名はめぐみん! 爆裂魔法を愛し、いずれはこの世で最強の戦術破壊兵器の称号を手にするもの!!」

 

 ‥‥クリス、悪いな。世界を滅ぼしかねない破壊兵器を作るなという約束だったが……今この場で作ってしまったかもしれない。

 




▽めぐみん

▽性格 冷静沈着 短気 喧嘩早い 中二病 好きなことには妥協しない 仲間想い

▽紅魔族の一人。
知力、魔力ともに紅魔族トップで、幼いころに賢者級の大人でも難しいとされた邪神のパズルを解き、学校では主席。
爆裂魔法と言う最大最強の魔法をこよなく愛しており、その魔法のみを追求せんとひた走る。
だがこの魔法は打てば動けなくなるなどの欠点が多く、基本的に彼女はぽんこつ。
常識人で、「ですます」口調で礼儀もわきまえてはいるがけんかっ早いのでトラブルを起こしがち。
また、精神的に強いわけではなく、追い詰められたり逆境に迫られたりすると途端に動けなくなってしまう。
とある少年曰く“まるで人形のように整った顔をしたロリっ子”。

冷静沈着だが短気でけんかっ早かったりと男勝りな面が目立つ。だが、小さくてかわいい生き物が好きで、黒い猫を飼っている。
きわめて仲間想いで、自分の友達や仲間がピンチの時は絶対に見捨てようとはしない。
中二病で短気なところに目をつぶればいい子。
紅魔族であるため、カッコ付けたり良いところを持っていこうとするのには全力で中二病チックにふるまって取り組む。
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