この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン 作:Tony.Stank
いやー、book walkerで0時から読んでたら筆も遅くなりますよね。
新刊の愚か者やばいです。
※今回少し残酷なシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
里に来てから一日が経った。
新たな拠点となったサキュバス・ランジェリーという酒場兼宿屋から出て、朝日を全身に浴びながら伸びをする。
「あっ! おはようスタークさん! 昨日あれだけ飲んでたのにこんな早く起きれるなんてすごいね! ご飯はすぐに用意するよ」
「ここの酒がおいしくてね。ヤケ酒とかじゃないからな?」
「酒場の区画を閉める寸前まで色々飲んでたもんね。スコッチ一本空にしたのは驚いたよ」
店の入り口付近を掃除しながらそう言ってきたのは、八重歯が特徴的な長い黒髪の女の子。
ねりまきと言う名前で、この店のマスターの娘だ。
「おとーさーん! スタークさんが起きたよー!! 朝ごはーん!!」
「あいよー!」
ねりまきが叫ぶと、店の奥からマスターの大きな返事が返ってきた。
ちなみにこの店に初めて入るとき、店の名前に少し胸躍らせたのだが、出迎えたのはマスターのおっさんだった。
スコッチ一本まるまる飲み干したのは、騙されたのが悔しかったからじゃない、断じて違う。単純においしかっただけだ。
マスター曰く、店の名前は里で随一の知力持ちが考えたらしい。きっと僕に匹敵しうる知力の持ち主に違いない。
その後、マスターと娘特製の二日酔い対策ミソスープとスクランブルエッグとベーコン、パンを食べ終え、食後のコーヒーを飲む。
良い朝だ。
朝食を堪能していると、見覚えのある服に着替えたねりまきが二階から降りてきた。
「その服……君も学生か?」
「うん、そうだよ。そろそろ行かなくっちゃ。今日も宿に泊まっていくんでしょ? またねスタークさん!」
「あぁ、またな。今日のお酒も楽しみにしてるよ」
ねりまきを見送った後、再び図書館に向かうべく宿を出て歩く道中。
「おっ、いたいた! 見つけましたよ、スタークさん!」
そういって遠くから駆けてきたのは、この里の族長だった。
「やぁ、族長。わざわざ僕を探してたのか? 次からは魔法を空に打ち上げろよ。飛んで行ってやる」
「はは、ここじゃ上級魔法がしょっちゅう空を舞うのでね。誤認しかねないですよ」
「‥‥そうか」
僕が読んだ本には、街の中で上級魔法なんて使おうものなら即しょっ引かれると書いてあったのだが。
この里の中と外の常識の違いは、異世界の常識について学んでいる途中の僕にとっては混乱の元だ。
なんて、考えている時。
「『トルネード』ッ!! 『クリエイト・ウォーター』ッッ!!!」
「ほら、あんな感じに」
魔法の詠唱が聞こえた方に顔を向けると、水を含んだ巨大な竜巻が発生し、空まで登っていた。
トルネードは風の上級魔法。食らったものは空の上まで巻き上げられ、洗濯機に放り込まれたかのような様になる。昨日僕が調べて作った警戒すべき魔法リストの中でも上位に位置する危険な魔法だ。
そんな魔法が突然放たれたことに驚くが、そこで自分が頭に浮かべた単語にハタと気付く。洗濯機……。
「なぁ、今やってるのって洗濯か?」
「よくわかりましたね。そうです、洗濯ですよ。これを見た外の人はみんな驚くんですがね」
正直僕も驚いている。上級魔法の景気のいい無駄遣いっぷりに。
「おっと、話がずれましたね。あなたを探していたワケですが、今から学校に来ていただきたいのですよ」
「……今からか?」
「スタークさんには今後午前か午後の授業のどちらかを担当していただくことになると思います。いやぁ、急にすいませんね。本当は昨日のうちにお伝えしようと思ったのですが、里に眠りし邪神の封印が解けかけていましてな……その件について会議してたのですよ」
邪神なんてのもいるのか。いや、すでに女神二人にあっているのだし特に驚くものでもないか。
それにしても‥‥。
「ずいぶん物騒なもんが里に封印されているもんだ」
「他にも『世界を滅ぼしかねない兵器』とか『名もなき女神』とかも封印されてますよ?」
僕はその言葉につい昨日究極の戦術破壊兵器になることを決意した女の子を思い出した。
その兵器がどんな威力のものかは知らないが、よさげなライバルがいるじゃないか。
それはそれとして、封印された女神はともかく世界を滅ぼしかねないという兵器はとても気になる。ぜひ見たい。
「この村は危険で興味を惹かれるものばかりだな」
「そう言ってもらえて幸いです。『邪神が封印された村とかカッコよくないか?』と、がんばってここまで持ってきて封印した先祖たちも喜んでいることでしょう」
「そんな小学生みたいな理由で危険物をひょいひょいここに封じ込めてるのか!? 気に入ったよ。君たちは本当にぶっとんでて面白いな」
皮肉交じりの僕の言葉も紅魔族的には褒め言葉みたいだ。族長は嬉しそうに笑いながら。
「はっはっは! いやはや、うれしいお言葉ですよ! はっはっはっは!! さて、こんなところで立ち話もなんですので学校へと向かいましょうか。道中に学校で教えていることなどを説明しますよ」
踵を返し、ご機嫌そうに歩く族長の後ろについて僕は学校へと向かった。
この里には、まだまだ面白いものが眠っているようだ。
退屈とは無縁そうで何より。
▽
「──というわけで、今日からここで特別講師になるトニー・スタークだ。好きに呼んでくれてかまわない。以上、よろしく」
学校に付いた僕は族長に見送られた後、入り口で待機してた教員に案内され、職員室まで来ていた。
職員たちの前で軽く自己紹介を終えると、僕より少し年下くらいの中年男がおもむろに席から立ち上がり、名乗りを上げた。
「我が名はぷっちん! アークウィザードにして上級魔法を操る者! 紅魔族随一の担任教師にして、やがて校長の椅子に座る者!! あなたが話題の新入教師か! よろしく!」
紅魔族特有の名乗りを上げて満足そうに椅子に座りなおすぷっちん。
今の名乗りを聞き、一番奥の席で顔をヒクつかせてるのが校長だろうか。
他にも数名の教師が次々と名乗りを上げていく。
全員のカッコつけが終わると、最初に名乗ったぷっちんが僕の前まで歩いてくる。
「来て早速仕事で悪いが、俺の授業に一緒に出てくれ。養殖の手伝いをしてほしい」
「了解だ。スーツに着替えて来る。登場の演出は?」
「もちろんいる」
「だよな」
演出を考えておいてよかった。気に入ってくれればいいが。
まぁ、その辺は自信がある。おまけのジョークだって考えてあるんだ。
ぷっちんとの会話を終えた僕は、準備を整えるべく職員室を出て校庭へと向かった。
──養殖。
それは、この世界の経験値システムをうまく利用した育成方法。
どういう原理かは知らないが、経験値はモンスターにトドメを刺した者にしか入らない。
だがそれを逆手に取り、あえて教師がモンスターを行動不能にした後で生徒がトドメを刺し、ひたすら経験値を稼がせていると、道中で族長から聞かされていた。
一見残酷かもしれないが相手はモンスター。元々は人間に害を為す存在で討伐対象だ。
レベルアップもできて脅威も減らせて一石二鳥だと彼は言っていたが……。
なるほど実に効率的だ。さすがは戦闘民族の教育機関。
本来は氷漬けにする魔法などを使って拘束するみたいだが、魔法の使えない僕はどうするべきか……。
……別に問題はないか。
要するにモンスターを安全に仕留めることができたらいいんだ。
妙案が浮かんだ僕は授業が始まる時間をぷっちんに尋ね、まだ少し暇があることを確認すると、スーツを装着し──
▽
「さて、全員揃ってるな! これより野外の実戦授業を行う! いいかよく聞け!! 里のニート……手の空いていた勇敢な者達を連れて里周辺の強いモンスターはあらかた駆除しておいた。よって今この周辺には弱いモンスターしかいない!」
校庭のど真ん中で熱弁する担任教師のぷっちん。
私たちは真面目な顔をして話を聞いている。今日は初めての養殖だ。
ここで敵を葬りまくり、究極の戦術破壊兵器に向けて一歩、また一歩と近づくのだ。
「だが、弱いモンスターと言えどモンスターはモンスターだ! 油断すれば命の危機があると思え!」
命の危機。その言葉に生徒たちが若干ざわめく。
隣で不安げな顔をするゆんゆんが私に顔を寄せ、小声で話しかけてきた。
「ね、ねぇめぐみん……命の危機だって……今日の授業は緊張するね……」
「ふっ……臆病ですね、ゆんゆんは……我らは選ばれし一族である紅魔族ですよ? こんな程度でビビッてどうするのですか」
「そ、そうだよね……族長を目指すんだもの。これくらい乗り越えなくちゃ!」
「その意気です。まぁ、私が目指すのは究極の戦術破壊兵器なので、ここら辺の生物をゆんゆんの分まで刈り取って見せますよ」
「そんな物騒なもの目指してるの!? やめなよ!」
そういえば、破壊兵器を目指せと言ったあのイカした鎧の男は何をしているのだろうか。
上級魔法を教える代わりに鎧が変形するところを見せてくれると言っていたし、まだ里にはいると思う。
また図書室に行けば会えるだろうか。
なんて色々考えていたが、先生がごほんと咳払いしたところで、私は我に返る。
その咳払いでざわめいていた生徒たちも静まり返った。
「命の危機と言ったが安心しろ。そのために
「先生ー!
「おっと‥‥この俺としたことが……口を滑らせてしまったようだな……」
ふにふらが質問するが、意味深な返しをする先生に首を傾げ、そのツインテールを揺らす。
ゆんゆんだけは、何か知っているのかひとり納得したような顔をしているのが気になる。
何か知っているのかと聞こうとした時、先生が天を指さして。
「さぁ! 我ら教師の鉄の盟約の元、地獄より来たれ!! トニー・スターク!」
……えっ。
とても聞き覚えのある名前に思わず先生に聞き返そうとしたその時。
『────ッッッ!!!!』
「「「!?」」」
思わず耳をふさぎたくなるような、すさまじい爆音が校庭に轟いた。
例えるなら、金属製の弦をメチャクチャに引っ掻き回し、その音量を無理やり上げて響かせたような、そんな音……いや、曲?
そんな破壊的な旋律の中に、男の絶叫が混じっている。歌……? なのだろうか?
先生も何が起きているか分からないようで、驚いた顔で周囲を見渡している。
とりあえずこの耳がおかしくなりそうな爆音から逃れようと‥‥あれ? 意外と悪くないかもしれない。
他の生徒たちもそう思い始めたみたく、耳を覆っていた手を次々と下ろしていく。
流れた曲もピークなのか、その旋律がどんどん激しいものになる。
そして、まるで曲のクライマックスに合わせるかのように、ソレは降りてきた。
ズンッとした衝撃が地面を伝わり私たちの体まで響く。
もはや墜落と言えるほどの速度で着地した、拳を地に突き立てている全身鎧のソレは……いや、その男は……。
「やぁ、諸君。初めましてかな?」
平然と立ち上がり、大仰に腕を上げ。
「鉄の盟約も結んでいなければ、地獄からの使者でもない新任教師、トニー・スタークだ。スターク先生と呼んでくれ」
鎧の前面をガシャガシャと変形させ、馬車を降りる貴族のようにゆったりと歩き出てきた。
▽
ぷっちんと生徒のやり取りを、校庭に仕込んだマイクとHUDのズーム機能越しに上空二百メートルから眺め、完璧なタイミングを見計らってからの降下。
決まったね。
演出はばっちり。おまけに完璧な着地だ。
僕はぷっちんの肩をたたきながら自慢する。
「なぁ、見てたか? 今のはきっと紅魔族的に百点だろう。君もいい演技するじゃないかぷっちん、おかげで登場しやすかった。ほら、生徒たちの目が赤く……あ、赤すぎる‥‥。本当にビームとか出てこないよな?」
思った以上の効果に自分で若干引くが、とりあえず話を先に進めなくてはならない。
「ぷっちん、授業を進めてくれ。このままじゃ僕のスーツ自慢ショーで一日が終わってしまう。それも悪くないかもしれないが、大事なのは授業だろ?」
「スターク……今の……もう一回やってくれ……」
「ぷっちん、君もか……」
真っ赤な目をしてこちらを見てくるぷっちん。
むさい男からこんな熱視線浴びてもうれしくない。
「ほら、こんなの毎朝この学校に通勤する時に見せてやるからしっかりしてくれ」
「あ、ああ、そうだったな」
なんで新人教師が初っ端から先輩教師を注意しなくちゃいけないんだ。
我に返ったぷっちんが指パッチンすると、周囲に武器とスピーカーが現れる。
なんの装置かはぷっちんにも教えてなかったので驚かせてしまったが。
「えー、スターク先生の派手な登場も終わったところで本題にはいるぞ。全員注目!」
ぷっちんのその言葉に生徒たちも我に返り始める。
そんな中、今だこっちを唖然とした顔で見てる少女が二人。
「めぐみん、ねりまき。一体どうしたんだ? 授業だぞ? ほら集中」
僕がそう言ってパンパンと手を叩くと、二人はハッとした顔で。
「ど、どうしたじゃないですよ! なぜここにいるんですか!?」
「本当だよ! 昨日も今朝もなにも言ってなかったのに!」
「えっ……二人とも知り合いなの……?」
あの時家で会った族長の娘のゆんゆんが不思議そうな顔で二人に尋ねる。
二人は気まずそうな顔をして。
「えっと……昨日二人きりの図書室で私に新たな扉を開いてくれた人です」
「昨日の夜私のところに泊まっていった人かな‥‥」
「おい冗談じゃないぞ。その言い方は誤解を招くから今すぐ変えろ」
さっきまで尊敬の目で見てた生徒たちの目がすごい勢いで冷めていく。
赤く輝く目から放たれていた熱視線も今となっては七十年ほど凍り付きそうな程冷たい視線に早変わりだ。
シャレにならない。
「スターク……さすがにそれは大問題だぞ……」
ぷっちんまでゴミを見るような目だ。勘弁してくれ。
「めぐみん! ねりまき! いい子だから誤解を解いてくれ! このままじゃ僕は天才から変態にジョブチェンジだ!」
「で、でも……私の人生を左右したあの一言をここで明かすわけには……」
「その‥‥こういうことになるなら言ってほしかったな……今夜もウチに来るんでしょ? ちょっと気まずくなっちゃうね……」
「君達は僕をクビに追い込みたいのか!? フライデー助けてくれ! このままじゃらちが明かない!」
『えっと……ボスは女性には優しく接するお方ですよ?』
「フライデー!」
こんなに焦ったのはいつぶりだろうか。
見覚えのない女が次々僕の家に集まって『お腹にあなたの子供がいる』と訪ねてきた時も、そいつらが突如玄関先でバトルロイヤルを始めた時もこんなには焦らなかった。
その後なんとかめぐみんとねりまきに誤解を解かせ、授業が再開したのは二十分先のことだった。
──校庭から少し里の外へと進んだ森の中。
僕が用意した武器を持って生徒たちの前を、僕とぷっちんが先行する。
子供に武器を持たせるのは若干危なっかしいが、本来は生徒たちの身の丈ほどもある剣や斧を用意すると言っていたので、それらよりはマシだろう。
ちなみに、持たせた武器は電気バトンだ。いきなりモンスターを剣で切り殺すのも精神衛生上よくないと考え、電気で即死させる高電圧の電気バトンをラボから用意してきた。
「スターク、どうだ?」
「この先に生体反応が二つ……僕らの気配に気が付いたみたいだ。走って逃げていくぞ」
「ちっ……追いかけて凍らせるのは面倒だな……」
「僕に任せろ」
推進リパルサーを噴出し、レーダーを頼りに逃げた二匹のモンスターに追いつく。
角が生えたデカい兎だ。
尻尾をふんづかまえて生徒たちの前まで持っていき。
「ほらぷっちん。氷漬けにするなりなんなり好きにしてくれ」
「うむ。『フリーズ・バインド』ッ!」
僕が放り投げた兎二匹の首から下をぷっちんが氷漬けにし、そのまま地面に転がす。
「ふうむ……空を飛ぶ鎧だなんて……実に興味深いね。鎧が飛ぶなんて発想はなかったから、良いインスピレーションを受けたよ。早速我が小説の禁断の書に書き留めなくては‥‥」
そう言って胸元からメモ帳を取り出しスラスラと書き込んでいくのは、同年代のめぐみんがかわいそうになってくる程の発育を持つ少女。
たしか名前は‥‥。
「あー……あれま? 君小説書いてるのか?」
「あるえです」
「失礼」
「我が邪眼によると、スターク先生は面白いことをたくさん知ってると出ています。今後の授業で教えていただいてもよろしいですか? ぜひ私の小説の参考にさせてください」
外に出て戦うための知識としてではなく、小説のネタとして僕の授業が聞きたいのか……。
「小説のジャンルは?」
「勇者が仲間と共に血のにじむ努力を経て魔王を打ち倒す王道ストーリーを描く予定です」
「ありふれた題材の中でやっていくつもりか? せいぜい本屋で他の本の下に敷かれるのがオチだぞ」
おっと、先生になったというのに否定から入ってしまった。
あまり手放しで応援できる道じゃないとはいえ、なにも嫌味を言うことはなかったか‥‥。
どう言い直そうかと悩んでいたのだが、あるえは不敵に笑って見せ……。
「フッ……王道ながらも独特な視点から描かれる我が小説は世界を圧巻し、賞賛と混沌の渦で包むことでしょう……」
世界を混沌の渦に包む小説とはなんなんだ。
売れるかどうかは別として、僕の嫌味に対して嫌な顔一つしないあたり、道を曲げるつもりは一切ないんだろう。
行く先が気になる。
「なるほど。自分の話がネタになった小説ってのは興味があるな。ぜひ面白おかしく書いてくれ、あろえ」
「あるえです」
「冗談だよ」
作家の卵をからかって遊んでいると、生徒たちのほうから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「先生ー! これどう使うんですかー?」
どうやらスタンバトンの使い方がわからないようだった。
僕は生徒が持ってきたスタンバトンを手に取って。
「その一、棒を握る。その二、このセーフティーを外す。その三、嫌な奴に先っちょをくっつける。その四、この赤いボタンを押す。その五、あら不思議、ミディアムレアステーキの完成。以上だ」
ボタンを押すとバトンの先っちょに青白い光がバチバチと音を立てて灯る。
そもそも僕が許可を出すまで武器のセーフティは外れないようにしてあったので使えないのは仕方がない。
「フライデー、武器のロックを解除しろ」
『了解しました』
フライデーに武器のロックを解除させ、手をパンパンとたたいて生徒たちの注目を集める。
「いいか諸君。今から君たちが持つのは武器だ。人の命なんてたやすく奪える。今回は君たちを信用して渡すが、冗談でも人に向けて遊んだりしたら二度と触らせないからな!」
僕の言葉に生徒たちも真面目な顔で頷く。
これなら大丈夫そうだ。
生徒たちが各々バトンを持って、氷漬けの兎に向き合う。
ちなみにぷっちんは僕があるえと話したりしてるうちに他の場所へとモンスターを探しに行った。
「う……いざ殺るとなると、中々きついね……」
「うん……つぶらな瞳がまた……キューキュー鳴いてるし……」
生徒たちは可愛らしい見た目をした兎相手に戸惑っているようだ。
なおさら剣にしなくてよかったな。
電気バトンにしておいて正解だった。
「お先にいいかな?」
戸惑う生徒たちの中、あるえが前に出ると兎の周りに集まってた生徒たちが頷いて一歩引く。
みんなが下がったことを確認すると、兎の首筋にバトンの先を当て……。
「今夜は兎のステーキだ!」
‥‥僕のさっきのセリフが気に入ったのか?
あるえがキメセリフと共にバトンのスイッチを押し‥‥。
「グガゲゴ!!」
「「「えっ」」」
兎はこの世のものとは思えない断末魔と共に、顔中の穴と言う穴からいろんな色の液体を泡状にしてあふれださせ、ボタボタと音を立てて地面に体液の水たまりを作っていく。
「ぐぼォォォォ……」
地獄の底から聞こえてきそうなうめき声をあげながらパチパチと音を立て、顔中から未だ垂れてくる液体を蒸発させて兎はついに息絶えた。
最後に誰かがつぶらな瞳と評していた目玉がでろりと顔から流れ出て、地面にできたグツグツの体液のスープの上に具とでも言わんばかりに落っこちて彩を与える。
‥‥‥‥。
威力の調整をミスった。これじゃ武器で切り殺すよりはるかに酷い。
周囲の空気が凍り付き、まるで時間が止まったかのように静かになる。
やがて生徒たちが震えだし……。
「わああああああああああー!!」
「ひいいいいいいいいいいー!!」
「いやあああああああああー!!」
「きゃぁああああああああー!!」
一斉に四方八方へと走って逃げて行った。
「待て! 待ってくれ! 次はキチンと即死するように威力を調節する! 危ないから森の中を走るな!」
「ドン引きですよスターク先生……何をどうしたらあんなおぞましい殺し方ができる武器が作れるんですか……魔王軍でもあんな兵器作りませんよ……?」
逃げずに横にいためぐみんが顔を真っ青にしながら言ってくる。
この場から逃げず残ったのはあるえとめぐみん、そしてゆんゆんだけだ。
「きゅう」
‥‥‥そのゆんゆんも白目をむいて倒れてしまった。
めぐみんが慌てて介抱に向かう中、あるえだけはその場に立ち……。
「なるほど……威力の調節によっては生き物をこんな風に殺すことも可能と……悪役の残虐性を示すシーンに使えるかもしれないね‥‥」
興味深そうにメモを取っていた。
凄いなこの子……。というか、あるえが僕から得たネタを元に書いたメモの内容が、僕の作った武器で苦しみもがいて死んでいく兎というのがなんとも言えない。
突如勃発した大惨事だったが、あっけにとられてる時間はない。レーダーを頼りに生徒を集めて授業の再開をしなくては。
あまりヘタなことをやらかしていると本当にクビになりかねない。
安易に受けるべきではなかったな……。
「フライデー! 最短ルートを割り出せ!」
『計算中……計算完了。三時の方角、ねりまき様から保護していって下さい』
レーダーに表示された光の線に沿うように、推進リパルサーを噴射して片っ端から生徒の元へ向かう。
まずはねりまきからだ。
「おーい! ねりまき! 安心してくれ! 次はちゃんと即死させる! 苦しまないようにするから戻ってこい!」
「ひいいいいいいーっ!! そのセリフを言いながら飛んで来るのはめっちゃ怖いんだけど!? こ、こないでえええええー!!」
波乱万丈の初日が始まろうとしていた。
ソー ラブ&サンダーの発表の熱に浮かされてエリス&ソーの短編を何かやるかもしれません。
やるのだとしたら、題名はLUCKY MIGHTY THOR とか考えてたりします。