この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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お盆休み等でだいぶ遅れてしまいました、申し訳ないです。


第8話 SUPER HERO LANDING!!

 ──銀髪の義賊の捕獲。

 

 クエストを受けることにしたのはいいものの、依頼書にはターゲットについての詳しい情報が書いていなかったため、その辺の冒険者連中からどんな奴なのか詳しく聞きまわることになった。

 依頼書に書いてあった王城で話を聞いてもよかったのだが、やはり最低限知識は持っておきたい。

 

 そうして聞きまわって分かった事といえば……。

 神出鬼没にして暗中飛躍。王都の騎士団や警察が捜査を行っているのも関わらず足取り一つつかめないようだ。

 ちなみに、目撃者によると銀髪の義賊はかなりの美少年だとかなんとか。

 

 そんな銀髪のイケメン義賊は悪徳貴族が持つ後ろ暗い金を華麗に盗み、エリス教の孤児院にすべて寄付するという、ヒーローのような存在だという事だ。

 

 どうやらこの世界の貴族は犯罪を平気で犯してもみ消したり、身分の違いを悪用して横暴にふるまうなど、ロクでもないのばかりらしい。

 

 多少あくどさは違えど、僕が元居た世界の腐った政府の役員どもと大して変わらないという事だ。

 既に僕の中での貴族に対するイメージは最低なものになっている。

 

 そんな貴族を懲らしめる義賊を捕まえて良いものかと少し逡巡したが、そいつは捕まえてから考えることにした。

 僕なら捕まえた後にこっそり逃がすこともできるだろうし、そもそも他に生徒を喜ばせられるようなクエストが見当たらない。

 

 そんなこんなで、僕は依頼書を持って王城まで来ていた。街中のどこにいても視界に移るくらいにはバカでかかったので迷うことはなかった。

 大きさだけなら依然見た魔王城に全く引けをとらない。

 

 入口の門の前で城を見上げていると、門番であろう甲冑を身にまとった二人の騎士の内の片方が話しかけてきた。

 

「王城に何か御用ですか? 招待状などをお持ちであればご提示を……」

 

 その柔らかな物腰につい顔をしかめそうになる。

 来ているスーツの違いでこうも対応に差があるとは。

 アイアンマンスーツを着ていた時は、道行く騎士に妙なものを見る目で見られたものだが。

 

 今の僕は全身ビジネススーツだ。

 パリッとしたスーツに身を包んで気分もビジネスモード。

 ちなみに鋼鉄スーツの方は人気のない建物の屋上あたりに飛ばして待機させておいた。

 

 僕は門番に言われたとおりに懐から出した依頼書を出して見せる。

 

「招待状は無いが、これは代わりになるかな?」

「ん……? これは……え、あなた冒険者なんですか……?」

「僕が冒険者に見えないのか? ……冗談だよ、見えるわけないよな。とりあえずこの先どうしたらいいのか教えてくれ」

「で、では……これをクレア様の元へ届けてまいりますので……」

 

 そう言い残すと門番は依頼書を持って城の中へと消えていった。

 

 さて、次は応援要請だ。

 懐から端末を取り出し、たった一つだけの連絡先に繋げる。

 

『はーい、クリスだよ。どうかしたの? もうあたしが恋しくなっちゃった?』

 

 無線に出たクリスは、クスリと挑発的な笑いを無線越しに届けてくる。

 この間の仕返しだろか。案外子供っぽい彼女を少し微笑ましく思いながら僕は反撃を開始する。

 

「あぁ、君の明るくて可愛らしい声が聞きたくなってね」

『……それ、今まで色んな女性に言ってきたんじゃない?』

「……バレたか」

 

 僕の反撃はあえなく失敗した。

 

『大体、そんな歯の浮くようなセリフでなびく人なんて早々いないでしょっ!』

「前の世界だと大体こんな感じでもイチコロだったんだが……」

『モテモテだったんだね……まっ、あまり気軽にナンパしないことだね。痛い目見るよ?』

 

 そうは言いつつも、その声色はどこか上機嫌そうだ。かわいい声と言われるのに悪い気はしないらしい。

 

『それで、今回は一体どうしたの?』

「君の盗賊としての知識を借りたい」

『‥‥ほほう?』

 

 今までは女神エリスとしての彼女の知識を聞いてきたので、盗賊のクリスとしての知識を聞くのは初めてだ。

 そのせいか、クリスは興味深そうにうなる。

 

 僕は聞きたいことをそのまま口にした。

 

 

「銀髪の義賊を捕まえようと思っ」

『ぼばぁっ!?』

 

 端末の向こう側から盛大にむせ返る声が聞こえた。

 ボバ? ボバ・フェット? 彼は好きだ。

 

『ゲホッ! ゲェッホ、ゴホッ!!』

「……大丈夫か?」

『う……うん……なんとか……それで、銀髪の義賊だっけ……?』

「ああ、なんか知っているか?」

『知ってる……うん、知っているよ……盗賊の間でも有名だしね』

「なるほどな。だったら、ここ最近の活動については何か知ってるか?」

 

 正直明日の課外授業で都合よくその義賊とやらが向こうから現れるとは思っていない。

 ベストなのは盗みを働いているところをちょうど阻止しての大捕り物だが、別に潜伏先を特定してからの襲撃でも構わない。

 アジトを襲撃されて逃げる義賊、追いかけるはアイアンマン。これでも生徒たちは喜びそうだ。悪くない。

 

『うーん……。と、特に無──』

「まぁ、無いなら無いで別に構わないさ。どうせ僕のテクノロジーを駆使して探せばすぐに見つかるんだからな。どれだけ優れた盗人かは知らないが、せいぜい授業の資料になる程度は逃げ回ってもらいたいところだ」

『‥‥‥‥‥ふーん』

 

 急にそっけない返事になったが、それでもかまわず話を続ける。

 

「ああ、言ってなかったか。実は銀髪の盗賊を捕まえる様を生徒たちに見せようと思ってるんだ。リアルタイムでね。どうだ? アイアンマンが王都を賑わす盗賊と壮絶なチェイス‥‥僕が本気を出したらすぐ捕まってしまうだろうから、多少は手加減するつもりだが……いい授業になると思わないか?」

『‥‥‥‥‥へぇー』

「……クリス?」

 

 クリスの様子が何かおかしい。

 雰囲気がどこか剣呑だ。実際に会って話しているわけでもないのに、なんだかピリピリとした感じがする。

 

『あるよ。いい情報が』

 

 声色こそ今までと変わらないものの、僕は奇妙なプレッシャーを無線越しに感じていた。

 ‥‥‥なんだ? この感じ……。

 

『あのね、これは盗賊同士の情報網からなんだけど、銀髪の義賊が狙いそうな悪徳貴族をいくらかに絞っているんだってさ。どうせ捕まえられないけど、取りあえず現れそうなところだけでも予想しておこうってことでね』

「あ、ああ。それで?」

『その情報を聞いてあたしなりに貴族の情報とか、屋敷の警備状況とか色々調べた結果、エヴルー家っていう、()()()()()狙われそうな悪徳貴族を見つけたんだけど……興味ない?』

「課外授業は明日だ。もしそれが本当なら実に都合が良いが……」

『あたしのカンは当たるよ? それじゃ、また……』

 

 通話を切ろうとしたクリスを僕は引き止める。

 

「あー、ちょっと待ってくれ」

『……どうかした?』

 

 どこか不機嫌そうだが、これだけは聞いておかなくては。

 義賊の情報について聞くのは殆ど世間話程度のつもりだったのだが、クリスが予想以上に情報を持っていたために話が少し脱線してしまった。

 元々クリスに連絡を取った本当の理由は……。

 

「なぁ、明日なんだが……君も授業に出ないか?」

『ふぇっ?』

 

 さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら。無線越しに素っ頓狂な声が返ってくる。

 フェッ? ボバ・フェット? 彼は好きだ。

 

『えっ……えっと……生徒として? 確かに興味あるとは言ったけど……』

「まさか。先生としてに決まってる。まぁ、正確に言えば僕と同じ特別講師だが……課外授業は明日だって言ったろ? そこで考えたんだが、生徒を交えて銀髪の義賊対策会議をやろうと思ってるんだ。クエストってのは作戦を考えたりもするだろ? 君たちとクエストをこなしている時もそうしてたしな。だから、生徒たちにクエストに協力してもらうのと同時に、作戦立案という形でだがクエストを体験してもらおうと思っているんだ。面白くなると思わないか?」

『あ、あはは……あはははは……』

 

 なにかあきらめたかのように笑うクリス。

 一体どうしたんだ。

 

「なんか笑えるようなことでも言ったか? ジョークを披露した覚えはないんだが」

『い、いや……あたしって、仮にも幸運をつかさどる女神って面も持ち合わせてるはずなのに、どうしてこんな面白いことに巻き込まれるんだろうなってね…………』

「……?」

 

 そう言ってため息を吐いた。

 確かに女神が盗賊を捕まえる手助けをするなんて言うのもおかしな話かもしれない。

 

 いや、悪さする弟をぶちのめすために地球に降りてきた雷神もいるわけだし、そんなぶっとんだ話でもないのか? 

 

 気さくな神様達について頭であれこれ考えてたが、とりあえず思考を切り替えてクリスに答えを聞く。

 

「で、どうだ? 君も作戦会議に参加してくれるか? 君には盗賊クリスとしての知識を披露して僕らにアドバイスしてほしい」

『ま、まぁ……それくらいなら構わないよ。ただ、あまり遅くまではだめだからね? 用事があるから』

「交渉成立だな。大丈夫だ、作戦会議の間だけで構わない。どうせなら君にとらえた盗賊を見せたいところなんだけどな?」

『ふふふ……できたらいいね? 幸運を祈ってるよ。あっ、テレポート代は高いから迎えに来てよね? それじゃまた』

 

 イタズラっぽく笑ったかと思うと、そう言い残して彼女は通話を切った。

 端末をポケットの中に入れて、夜空を見上げる。

 王城への門付近は街灯と松明の火で明るいが、それでも夜空に光る星々の輝きはしっかり見えた。

 

「幸運の女神から『幸運を祈ってる』……か。神の祝福だなんだなんてものは信じたことないが……いいことあるかもな」

 

 そんな独り言をつぶやいていると、王城の中へ入っていった方とは別の門番が僕に奇妙なやつを見る目を向けていた。

 

「なんだ? これはただの交信魔法の魔道具だ。王都にいるくせに見たことないのか?」

「ハッ。そ、そうでしたか。失礼いたしました。気が触れてしまったのかアクシズ教徒なのかと……」

 

 あの目で見られ続けるのは嫌だったので交信魔法とか適当言ってみたが、まさかあっさり信じてもらえるとは思ってなかった。

 そうか、あるのか……交信魔法……。無線機を広めて驚かせようとか思っていたが、冒険者カードといい、街を照らしている動力源の見当たらない街灯といい、意外とこの世界の技術力は発展しているのかもしれない。

 

 なんて、舌を巻いていると。

 

「お待たせいたしました。クレア様から許可が下りましたのでこちらへどうぞ」

 

 依頼書を持って門の中に消えていった門番が戻ってきた。

 下襟をつかんでスーツのズレを直し、ネクタイを締めなおす。

 

 さて、クエストも商談も成功させなくっちゃな。

 

 

 ▽

 

 

「はぁ……」

 

 トニーがくれた通信の魔道具をポケットに入れ、星空を見上げながら大きなため息をつく。

 目星をつけてた悪徳貴族のところへ盗みに入るのはもう少し先の予定のはずだったのだけれど……。

 

「どうしてこうなっちゃったんだろ……」

 

 思わず愚痴がこぼれる。

 いや、悪いのは私だ。聞き流せばよかったのに、ついついその場のノリでトニーの言葉に乗ってしまった。

 

 ……本当になんで乗ってしまったのだろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 しかも明日は盗賊クリスとして紅魔の里に赴き、特別講師になって自分自身の対策会議に参加するという、とんでもなく頭の悪い事態に巻き込まれることになっている。

 

 これはもはやギャグだろう。

 盗賊活動のこと自体秘密にしているけれど、もしこのことをアクア先輩に相談したら大爆笑されるに違いない。

『エ、エリスってば……ププッ……自分で自分の捕縛作戦の会議に出るとか……プークスクス!! 超笑えるんですけどー! 今時コントでもそんなの見ないわよ!』なんて言いそうだ。

 

 ‥‥‥うん、声まで聞こえてくる。

 

 まさにコントだけれど、作戦会議に出る事によって相手の手の内をすべて把握できる。

 なんだか悪い事してるみたいだけれど、あれだけ啖呵を切ってしまった以上やるしかない。

 

 でも、思えばこれはいい機会かもしれない。

 一週間クエストを一緒にこなして来たけど、彼の本気は見ていない。

 

 転生される前の自分の世界を自分自身の手で救ってきたその実力を、実感してみたい。

 

 彼の本気を見てみたい。

 

「ふふふ……」

 

 さっきまでため息が出ていたけれど、なんだかやる気が出てきた。

 これでも女神のはしくれ。安いプライドと言われてしまえばそれまでだけど……この世界の先輩として逃げ切ってみせたい。

 

 

 

 

 …………捕まっても、事情を話したら許してくれるかなぁ。

 

 

 ▽

 

 

「到着しました。ここが応接室です」

 

 視界がぐにゃりと曲がったかと思うと、瞬きする間に目の前に大きな扉が現れた。

 

 こんな中世ヨーロッパレベルの技術力の世界に、人力以外で動くエレベーターなんて無い。

 バカみたいに長い階段を登るハメになるのかと思っていたが、城に入るやいなやデカい魔法陣が描かれた妙な床の上に立たされ、門番が壁にある小さな魔法陣に触れたらいつ間にか応接室の前まで飛ばされていた。

 

 ……テレポートか? 

 

「これは……」

 

 思わず口から出た言葉に、門番の男が笑う。

 

「ははは、やっぱり驚かれますか。これはそういう魔道具ですよ。貴族でも中々手が出せないような代物でして。室内限定ですが、指定した場所の空間と空間を繋ぐのだとか。私も詳しいことは分かりませんがね」

「空間と空間を繋ぐ……興味深いな……」

 

 羨ましいくらい便利だ。

 こんなのがあったらラボの中の移動もかなり楽になるだろう。

 スキャンしたり解体したりして組成を調べてみたい衝動に駆られるが、今は商談だ。

 歩いて扉の前まで歩く。

 

「ああ、最後に」

「なんだ?」

「あの、相手は貴族の方ですので、あまり無礼な態度はとらない方が身のためですよ? 普段から冒険者と話すことも多々あるので、多少砕けた発言には目をつむってくれるとは思いますが」

「ご忠告どうも。無礼だと言われたことは結構あるが、それで罰せられたことはないから大丈夫だ」

 

 そう言ってフッと笑い、ノックする。

 

『入れ』

 

 ドアの向こう側から声が返ってきた。どうやら女性のようだ。美しい声してる。

 

 

 この世界の常識や身分のヒエラルキーなどについては一週間のうちにクリスやダクネスからある程度教わっていた。

 貴族の話になるとダクネスがなんとも言えない顔をしていったっけな。なにか貴族との間にあったのだろうか。

 

 僕自身もこの世界の貴族についてはあまりよく思っていないが……。元の世界の時みたいにうっかり皮肉を言ったりするだけでブチ切れられないか少し懸念する。

 

 場合によっては逮捕されたりすることもあるみたいだが……。

 

 なんて、色々考えながらドアノブを握って引き……。

 

 …………。

 

 なんだこのドア? やたら重いんだが……。

 大きいドアだとは思ったが、これはちょっと重すぎやしないだろうか。結構な力を入れているのに全く動かない。

 

 ……前の世界の常識が通用するか分からない、そんな異世界での初商談を前に、この僕がプレッシャーを感じているとでも言うのか? 

 何考えてるんだ。今時そんなのにビビる男だったか? 鋼鉄なのはスーツだけじゃないことを……。これなんか下品だな、やめておこう。

 

 よし、もう一度力を込めて……。

 

 

 

「あの、そのドア引くんじゃなくて押すんですが……」

 

 僕は突入するかのように一気にドアを押して中に入った。

 

「きゃっ……び、びっくりした! なんだ貴様! ドアはゆっくり開けろ!!」

「話聞いてましたか!? どうしてドアをそんな勢いで開けちゃうんですか!? 失礼ですよ!?」

 

 後ろから門番の叫び声が聞こえるが、気にしない。

 

 真顔でドアを閉め、目の前の相手と向き合う。

 気品の漂う白いスーツを身にまとい、腰に装飾が施された剣を差した金髪で短髪の美人だ。

 

「失礼。私の国では大事な話をする時程ドアを気合い入れて強く開ける習慣があるもので」

「な、なんとも変わった習慣だな……」

 

 気恥ずかしさとイライラでドアをぶち開けた気まずさを誤魔化すために適当に言った出まかせを信じ、ため息を吐く彼女。自分で言っておいてなんだが、それでいいのか。

 

 部屋の中はというと、豪奢ながらも派手過ぎない装飾で飾られており、程よい上品な高級感が醸し出されていた。

 パリやモナコの最高級ホテルのロビーに勝るとも劣らない内装は、一冒険者相手の応接室にしては少しやりすぎな気がしないでもないが、僕的には見慣れた光景の一つなので、リラックスして話ができそうだ。

 

 とりあえず部屋の中央に鎮座する、美しい装飾が施され、氷水の入ったピッチャーとコップが乗っている大きな木製丸テーブルを挟むようにして交渉相手の前に立つ。

 

 良い机だ。これ欲しいな。

 

「……私の故郷の風習紹介は置いておいて、早速クエストの話と行きませんか? それと、今回はクエストとは別件で交渉もしたい」

「交渉だと? 冒険者が交渉とはどういうことだ?」

「私の国の技術を買ってほしい。損はさせません。この国の防衛にきっと役立つと約束しましょう」

「……あなたの国の技術……? 悪いが、クエストの話より先にそっちの話をお聞かせ願えないか?」

 

 彼女はすこし警戒の声色が混じった口調で質問してくる。まぁ、クエストの話をしに来たのかと思ったらいきなり交渉しようなんて言い出したらそうなるよな。

 

 その質問には言葉ではなく、腕時計を取り外して机の上に置き、端末を操作してホログラムの映像を出すという行動で答える。

 お決まりのパターンだ。

 

 今回映した映像は、蚊を模した超小型偵察用ドローンや、様々な武装を施した大型の攻撃ドローン、防衛用ターレット、果ては敵の侵入を知らせる生体探知センサーから地雷まで、僕が今までに開発してきた兵器や高度な防衛システムをわかりやすく説明したもの。

 

「こ、これは……」

 

 その映像を、交渉相手の金髪白スーツは呆然と眺めていた。

 いいね、やっぱり自分が作った発明品を見て驚いている奴の顔を見るのは楽しい。

 

 一通りの映像を見せ終え、腕時計をつけなおして端末をしまい、金髪白スーツに向き合う。

 

「ここでクエストの話に戻りましょう。私には今とある計画があります」

「う、うむ……というのは……?」

「銀髪の義賊を、私の国の……いえ、()()()()()の全てをもって捕らえて見せましょう。そして、捕らえた暁には先ほど見せた私の数々の装備の配備、並びに配備できるだけの資材と資金の確保を検討していただきたい」

 

 そう、これこそが僕の本当の狙い。

 紅魔のちびっこたちにクエスト体験をさせつつ、僕の持つ技術を認めさせ、この国の軍事力を上げる事。

 義賊捕縛のクエストがあったのは幸運だった。

 

 今の僕に必要なのは資金と資材。

 ラボにある資材だって無限じゃない。オマケについ最近あるものを作るのにかなり資材を使ってしまった。

 装備の試供品を作って渡す分まで考えたら、もう本当に余裕がない。

 

 何としても認めてもらう必要がある。

 まぁ、映像を見た彼女の反応からして特に問題はなさそうだが。

 

 その当の本人である彼女はというと。

 

「……私の一存では決めかねる。だが、さっき見せてもらった装備で義賊の捕縛を行いたいというのであれば構わん。ぜひ見極めさせてほしい。とりあえず名前を聞かせてもらおうか」

「喜んで。私の名前はトニー・スターク。人類随一の知力の持ち主にして、やがてはこの世界を救……」

 

 そこまで言ってハタと止まる。

 ………………。

 

「…………スターク殿には紅魔族の血が流れているのか?」

「いや……紅魔の里に滞在していたおかげで少し変な影響を受けてしまったようです。お気になさらず」

「そ、そうか……」

 

 里にいたわずかの間に色んな紅魔族に名乗られたおかげか、自然に紅魔族風の挨拶をしてしまいそうになった。

 たった二日の滞在でこんなことになるとは……。

 

「では、クエスト内容の確認に入らせてもらう……が、その前に私の名前を教えておこう。私はこの国の大貴族であるシンフォニア家の長女にして、王女様の護衛を務めているクレアと言うものだ」

 

 自慢っぽく名乗りを上げたクレアは、そのまま話を続ける。

 

「それで、捕まえる算段は立っているのか?」

「狙われているのはエヴルー家という悪徳貴族で、侵入は明日の夜だそうです。私のパーティーメンバーに情報通の盗賊が居ましてね。彼女なりのツテやカンだそうですが……私は信用に足ると思っています。あぁ、これ注ぎましょう」

 

 そう言ってテーブルに腰を掛け、コップに水を注いでクレアに渡す。

 

「おい、テーブルに腰をかけるな。無礼だぞ」

 

 部屋の隅のほうから鎧を身にまとった騎士が怒号を飛ばしてきた。

 僕は腰かけた姿勢のまま首だけ騎士の方に向けて指を指し。

 

「さっきまで置物かと思ってたぞ」

「なっ……? ふざけた男だ……これだから冒険者は……」

 

 クレアはいきり立つ騎士を、手をつきだすことで制止させる。

 

「この程度構わん、気にするな。そうか、エヴルー家か……うむ、良い見立てだな。あそこは黒いうわさも立ってるし、金をケチっていて警備兵のレベルも低い。なるほど、わかった。では、今回は少し特殊な例ということで処理をし、技術提供の」

 

 と、そこまで言った時。

 けたたましい鐘の音が静寂の夜を切り裂いた。

 何事かと身構えると、アナウンスのような機械を通した声が部屋の中に響き渡ってくる。

 

『魔王軍襲撃警報、魔王軍襲撃警報! 騎士団はすぐさま出撃。高レベル冒険者の皆様は協力をお願いします! 現在巡回部隊が襲撃を受けています! 一刻も早く救援に向かってください!』

 

 そのアナウンスを聞くと部屋で立っていた、さっきまで置物だと思ってた鎧の騎士たちが次々と部屋から出て行った。

 その様子を見たクレアがため息をつく。

 

「全く……また性懲りもなく……まぁ、夜襲部隊なら数も少なめだろう……すまない、少し待っていてくれ。すぐに片付くはずだ」

「あー……さっきの放送を聞く限り、敵がすぐ近くまで攻めてきているのでしょう? 私が力を貸しましょうか?」

「……? 貴方は高レベルの冒険者なのか?」

 

 クレアが不思議そうに尋ねてくる。

 今夜は幸運続きだ。明日クリスに会ったら感謝の一言でも言っておくべきかな? 

 

「レベルは高くはありませんが……戦うだけの力なら持っています。失礼、あそこのバルコニーに出ても?」

「あ、あぁ……」

 

 よくわからないといった顔をするクレアを尻目に、ドアを開けてバルコニーにで出て下を見て高さを確認する。

 

 Hmm…………よし、()()()()()

 確認を終えた僕は、そのまま数m後ろに下がる。崖から崖へと飛び移る準備をするかのように。

 

「えっと……あの、スターク殿? 一体何を──」

 

 

「また後でお会いましょう」

 

 そう言って僕は、助走をつけ……。

 

 

 

 

 華麗にバルコニーからダイブした。

 

「はっ……えっ……はああぁぁぁぁああああっっっ!?!? ス、スターク殿ぉぉおおおおお!!!」

 

 そんなクレアの絶叫を聞きながら、地面めがけて猛スピードで落ちていく。

 

 が、バルコニーから飛び出すとほぼ同時にすぐ下まで飛んで来ていた僕のスーツ、Mk.45が素早く僕の体を包んでいく。

 

 地面が目前まで迫ったところでスーツの装着を終え、スレスレのところでリパルサーを照射してピタリと止まり、ホバリングする。

 顔を上げた時、最初に目があったのはさっき応接室まで案内してくれていた門番だった。

 

「…………」

 

 時が止まったかのように彼は固まっている。

 気まずいな。なにか挨拶でもしておくか。

 

 

こんばんは(Good evening)

 

 そう門番に言って、猛スピードで上まで駆け上がった。

 

「ああああっ! うわぁぁぁああっ!! 異国からの客人が急にバルコニーから投身自殺した! だ、誰か来てくれ! ああっ! 大変な……事……に……」

 

 バルコニーの辺りで、まだ叫びまくっていたクレアは、月をバックに夜空に浮かぶ僕の姿を見るやいなや絶句する。

 

 僕はマスクを開けて、目玉が飛び出そうな程瞼をひん剥き、鯉のように口をパクパクさせるクレアの顔を直接見る。

 爆笑しそうになったが、とりあえずその衝動を封殺して。

 

「あぁ、貴方に言い忘れたことが一つ……」

 

 ニヒルな笑みを浮かべて。

 

「これが私の戦う力のほんの一部です。ではまた」

 

 そう言ってマスクを閉じ、たくさんのかがり火が見える場所まで飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺人タイムだぁーっ!」

「プリーストを呼べーっ!! 流血患者だぁーっ!」

 

 上空から見たそこには、ざっと三十足らずの騎士団が二百はくだらない魔王軍の雑兵相手にかなりの劣勢を強いられていた。

 

「ぐっ……全員持ちこたえろ! すぐに冒険者たちが来る!」

 

 声を張り上げたのは部隊長だろうか。

 大声で助けが来ることを叫び、仲間たちを鼓舞している。

 

 だが、魔王軍の部隊の中で一際派手な鎧を身にまとい、装飾でギラギラしている武器を構えたボスらしき奴がニタニタと下品に笑いながら。

 

「だぁーはっはっは!! そんときにゃすでに俺達は逃げるに決まってんだろボケがぁ! 今回も罵声を浴びせながら逃げて後味悪くしてやるぜ! その時にはもうお前たちは死んでるけどな!」

「お前たちは死肉の塊だぁーっ!!」

 

 ボスの絶望的な言葉に合わせるかのように、部隊の雑兵たちが悪辣なセリフを叫んでゲタゲタ笑う。

 

 ……あんなセリフ今時B級映画でも聞かないぞ。

 

「クソッ、これだからあの敵指揮官は大っ嫌いなんだ! ことあるごとにムカつくセリフ吐きやがって! お前なんていつかとっ捕まって酷い目に遭わされるのがオチだぞ!」

「ああ、捕まればな! ぎゃはははは!!」

 

 実に嫌らしく笑う魔王軍の指揮官とやら。

 様子を少し上から眺めた僕は、そのまま敵のど真ん中まで猛スピードで突っ込んでいく。

 

「……あ? なんだ? ありゃ。流れ星にしてはでけぇな……」

「ていうかこっちに……」

「た、退避……!」

 

 もう遅い。

 

 僕は群れの真ん中に拳から着地する。

 超高速で地面にぶつかることによって、衝撃波で周囲の敵が地面ごと巻き上げられた。

 

「「「ぐぎゃぁぁあああっ!?!?」」」

 

 昔の体でこんなことをしたら怪我してたところだったが、レベルが上がって身体のステータスが上がった僕の体はこんな無茶な動きも可能になっていた。

 どうでもいいと思っていたが、案外役に立つもんだ。

 

 パラパラと、巻き上げられた土と雑兵が地面に降り注ぐ。

 

「な、なんだぁあ!? こ、殺せ! 今すぐ殺せ! 囲んで殺せ!」

 

 敵の群れの中に突撃したので、当然自分の周囲360度敵に取り囲まれていた。

 つい最近の出来事だが、ウルトロンの雑兵達に囲まれたときのことを思い出すな。

 

「自分から敵地の真ん中に降りて来るとは何て間抜けな──」

 

 そう言ってとびかかってきた敵兵士は上半身と下半身がキレイに別れ、僕の頭上をクルクル回って通り過ぎる。

 

「──へっ?」

 

 とびかかってきた奴だけではない。僕の周囲を取り囲んでいた他の雑兵たちも次々と胴体やら体の一部を切り落とされ、地面に転がっていく。

 

 僕の両拳から照射され、僕の体を軸に周囲を薙ぎ払ったペタワットレーザーによって。

 

 今のでかなりの数の雑兵が倒れた。

 騎士たちの巻き添えを考慮しなければ、もっと倒せたんだがなぁ。

 

 その様子を見た指揮官はワナワナと震え。

 

「て、てて、撤退ーッ! 撤退しろ! 全速力で逃げろッ! アイツは絶対にヤバいッ!」

 

 そう言って、猛スピードで逃げていく指揮官とその配下の雑兵たち。

 人間どころか、馬でも追いつけなさそうな速度で走り去っていく。

 そして、走りながら器用に首だけ後ろに向けて捨て台詞を吐き始めた。

 

「これで勝ったと思うなよ! この便器に吐き出されたタンカス共が!」

「あぁっ! また捨て台詞はいてやがる! 恥ずかしくないのかあの野郎!」

「なんとでも言いやが……れっ……‥へっ?」

 

 指揮官は何かを言っていたが、突然その言葉を止める。

 

「やぁ」

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、手足をバタバタ動かして叫ぶ。

 

「おっ……おあああああー!? どーなってやがる!? 一体何が起こってやがるんだぁああああっ!?!?」

「さっきアンタらのど真ん中に僕が飛び込んだことをもう忘れたのか?」

「ああああああーっ!! 降ろしてくれぇええっ!! 俺は魔王軍準幹部と目されている指揮官だぞ! 俺には莫大な身代金が払われるはずだ!」

 

 僕の言葉にこたえることもなく、なにやら訳の分からないことをのたまう指揮官。

 

 僕は指揮官の首根っこをつかんだまま、後ろに振り返る。

 たくさんの明かりが見える。おそらく駆け付けた騎士団と冒険者連中だろう。

 

 僕は、その冒険者たちがいる方へ体の向きを変えて飛んでいく。

 

「おろせぇぇ! おろしてくれぇぇえ!」

「それじゃ、お望み通り」

「ぐぇっ!」

 

 喚く指揮官を放り投げて解放してやる。

 

 地面に叩きつけられ、呻き声を上げながら顔を上げた指揮官が、ピタッと固まった。

 

 

 

 …………大勢の冒険者や騎士団の姿を見て。

 

 やがて、カタカタと震えだし……。

 

「あ、あばばばばば…………」

 

 ただただ情けない声を上げ始めた。

 

「おい、あいつさっきギルドにいた奴じゃないか……?」

「ああ……銀髪の盗賊について聞きまわってた奴だろ……? 何でここに……いや、というより……」

「震えてるこいつは……いつも負けそうになると最低な捨てセリフを吐いて逃げてた野郎じゃないのか?」

 

 僕はただ一言。

 

「ご自由に」

 

 そのまま飛び立ち、再びバルコニーの方へと向かった。

 後ろから何やら凄い悲鳴が轟いて来たが、まぁ、僕には関係ない。

 

 クレアの反応が実に楽しみだ。


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