共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~ 作:フォルカー・シュッツェン
明くる日の午後、私は一人で道の整備を行っていた
最初に来た時は土が剥き出して石が突き出ていたりして歩きづらく、ただの坂道であったのだが今はかなり歩き易くなっている
まず突き出ていた石を掘り起こしていき、土を均して凸凹だった坂道を平らにする
そして次に平らにした道に敢えて凹凸を作り階段状に形を整えてから石や木を用いて固定する
そして最後に手摺を作れば取り敢えずは完成
これが私が思い描いていた作業内容で、今のところ順調に進んでいる
既に道を平らにするのは終わっているので今は階段を作る段階で、これも半分ほど出来た
あと数日もあれば全ての階段は完成するだろう┈┈┈勿論、この作業のみに没頭出来ればの話ではあるが
因みにフェアは手伝おうとしてくれたがミルリーフが街を見てみたいと言い出したのでリシェルとルシアンと共に行かせた
気持ちは嬉しかったが、ミルリーフと一緒にいてあげるべきだしそもそもこの作業に関してフェアが力になれるかは怪しい
教えれば出来るようになるのだろうがそこまでやるとなるとキャパオーバーしてしまうかもしれない
彼女は十二分に頑張っているのだし、こんなことまでさせたくはない
それにその内戦いは激化するのが目に見えている
今の内にミルリーフと穏やかな時間を過ごさせてあげたいという想いもある
そんなこんなで私は黙々と道の整備を続けるのだった
何時間か経っただろうか
フェア達の気配と足音が聞こえてきたので作業を止めて宿屋に戻る
手を洗い汚れを落とし、作業用の服から着替えて珈琲の用意をする
何故かは知らないが大人二人分…おそらくはミント、ポムニットの気配もしたのでその分も合わせて用意しておく
ミルリーフにはまだ早いだろうしミルクだけにした方が良いだろうか
そんなことを考えながら用意を終えると丁度フェア達が入ってきた
「お帰りなさい、皆さん。珈琲を淹れましたが如何ですか?」
「ただいま、アウルさん。んー…貰おうかな。ありがとね」
…何だかやけに疲れている
それに生傷もあちこちにあるし一体何があったのだろうか
敵との戦闘…にしては何処か不自然だ
この傷の付き方は戦闘行為によるものではない
まるで幼子が外で遊んで転んだりして出来たような…そんな傷だ
大人達も真剣な面持ちをしているし、本当に何があったのやら
「聞きたいことは色々ありますが…まずは珈琲を飲んで落ち着いて下さい。その後傷の手当をしてから話は聞きますので」
「そうね…その方が良いわね」
「かなり疲れたしね…」
「じゃあ、また後ほどここに集まることにしようか」
ミントの言葉を合図として各々自由に動き始めた…とは言っても殆どやっていることは同じだ
皆まずは珈琲を一杯飲んでから傷の手当を行っている
私もフェアの脚に出来た傷の手当をしている
ポムニットはリシェルとルシアンを、ミントは自分でやろうとしていたが呆れ顔をしながら上の階から降りてきたリビエルが手当を始めた
ミルリーフは皆に守って貰えたのか傷らしい傷は何一つ負っていない
だがその顔には明らかに不満を湛えていた
暫くして各々の治療が完了し、落ち着きも出たところで何があったのかを聞いた
曰く、最初はただ普通に散歩をしていてちょっとしたトラブルはあったものの平和に過ごしていたらしい
しかし街の出入口付近の広場…この街の流通の要であり様々な物資が行き交う場所で事件は起こった
なんとミルリーフが物資運搬役の召喚獣達を繋いでいる手綱を全て解いてしまったのだ
召喚獣は人間に無理矢理言うことを聞かされ仕事を強要させられていたためこれを好機と捉え、逃げるために暴れ回った
フェア達や偶然付近の見回りをしていたグラッドが何とか暴れる召喚獣を取り押さえ、獣属性召喚士であるミントの介入により事態は収束したようだ
疲れきった皆は宿に戻ることにしてグラッドは事後処理に動いているらしい
話を聞き終えた私はなるほどと納得すると同時に軽い軽蔑の念を感じずにはいられなかった
フェア達の行動は間違っていない
周囲の人になるべく被害が及ばないようにしていたのだし、その行動によって助かった人は大勢いるだろう
ではミルリーフの行動が間違っていたのかというとそれも否だ
故郷から無理矢理連れ出され、別の世界の者の為に強制的に働かされる…それも「物扱い」と言っても過言ではないほどの扱いでだ
恐らくはそんな憐れな召喚獣達を助けたいと思ったのだろう
その心は間違っているはずなどなく、思うだけで留めずに行動に移したその勇気も評価出来る
惜しむらくは誰も傷付けずに、そして確実に救えるように手段を考えたり期が熟すまで待てなかったことだが…それを自我が生まれたばかりの子に求めるのは酷だろう
ならば私が感じている軽蔑は誰に対してのものなのか
それは個人ではなくこの世界の者全てに対してのものだ
召喚獣は物扱い、それが当たり前で人権などない…それがまかり通るこの社会に対して怒りを感じる
出来ることなら変えたいが太古の昔より続くものを変えるのは並大抵のことではなく、私には不可能だ
怒りを感じつつも何も出来ない自身に対しての軽蔑も含まれていた
「ねぇミルリーフ…どうしてあんなことをしたの?」
「……。」
「言ってくれなきゃ分からないでしょ?」
「…可哀想だった」
「え?」
「人間に繋がれて命令されるのはもう嫌だ、故郷に帰りたい…そう叫んでた。だから助けたの!ミルリーフ、何にも間違ってない!」
「そうは言っても、召喚獣は個人の資産ってことになってるしそれを勝手に逃がしたりしたら…」
「そんなのおかしいよ!どうしてそんなことが出来るの?人間だったら偉くて召喚獣だったら偉くないの?違うよ、そんなの間違ってる!」
「御子様の仰ることは正しいですわ。ですが、人間は決してそれを認めたりはしないでしょう…今までずっとそうして来ましたし、これから先も変わりはしないのですから」
「おかしい、おかしいよ…そんなことしちゃいけないのに……どうして……」
「っ……」
ミントやリシェルにルシアンが悲痛な面持ちになる
彼らとて分かってはいるのだ、こんな社会間違っていると
召喚獣には何の罪もないのにこんな扱いを受けるのはおかしいと
しかし自分達が産まれる遥か前から連綿と続いてきた風習だし、自分の力で変えることなど出来ない
それに心の何処かでそれを当たり前のことだと認識してしまっている部分もある
その事実を突き付けられて平然としてはいられない、それ程には彼らは善人だった
「…言いたいことは、それだけ?」
そんな中、フェアの口から冷たい言葉が放たれた
「…え?」
「ミルリーフ、貴女の言い分は分かるよ。確かに私だってこんなのおかしいとは思う。でもね…そういうのは自分で責任が取れるようになってからやりなさい!」
「…っ!」
確かに、ミルリーフのしたことの責任を取ったのはフェア達だ
駐在騎士であるグラッドや召喚士のミントのお陰で罰されることはなかったものの、一歩間違えれば全員牢屋行きになりかねないことだった
そうなれば当然事を起こしたミルリーフも捕まるし、素性がバレればそのまま研究施設へGOだ
状況を考えると軽率であったことは否めない
「良い?ミルリーフ。世の中の理不尽に対して疑問や不満を抱くのは良い事だよ。それがあるからこそ少しずつ世の中を変えていけるの、良い方向にも悪い方向にもね。だけどそうやって変えていくにはどうしても力がいる。これは単純な力強さじゃないよ、人生経験による知識や知恵、思慮深さとか…そういう色んなものが必要なの。それがないまま行動に移すと何にも変わらない、変えられたとしても悪い方向にしか転ばない。そして貴女はまだ産まれたばかりの子供だからそういった力はまだないでしょ?」
「でも…」
「まだ分からない?貴女が今回した事で誰か笑顔になった?色んな人に迷惑かけただけで終わったでしょ。貴女が助けようとした召喚獣も助からなかった。勿論そうしたのは私達だけど…でも例えあのまま逃げ切れたとしてもあの子達は絶対に幸せにはならなかったよ」
「どうして…?」
「はぐれ召喚獣になるからよ。そうなった後にもしも人を襲ったりしたら殺されちゃったりもするんだよ?それに襲わずに隠れたとしても、見つかったら逃げ出した罪としてかなり重い罰が課される…理不尽だけどこの社会はそうなってるのよ。この社会の仕組みを変えずにあんなことをしたらあの子達を救うどころか追い詰めかねない…分かる?」
「難しいけど…なんとなく……」
「なんとなくでも、ちょこっとだけでも分かれば良いよ。まだまだ分からないことも多いと思うけど忘れないで。誰かを助けるには力がいる、けれど力じゃどうにもならないことだってある。そういう時にはグッと堪えることも大事なんだ」
「うん…ごめんなさい」
「…驚きましたね。ここまでしっかりと諭すことが出来るとは。初日から既に立派に親らしいじゃないですか」
「そ、そうかな…なんだか照れるや」
「私も驚きましたわ…御子様の教育係として負けていられませんわね」
「…なんか、一番大人っぽいわよねあんた」
「私まだ15なんだけど…」
「良い意味でしっかり者ってことですよ。そうならざるを得なかったとしても、それは貴女の力です。誇っていいですよ」
「そう?…ありがと、アウルさん」
「いえいえ」
フェアの見事な説教によりミルリーフは己の非を認め、その後は一瞬不穏な空気が流れそうになったがなんとか穏やかなものに出来た
しかしそんな時間は長くは続かなかった
平穏な時間の終わりはグラッドの叫び声と共に訪れた
「大変だ、商店の近くで乱闘騒ぎが起きた!治めるのを手伝ってくれ!!」
「はい?」
リィンバウムや各キャラの紹介をするコーナーというか話を設けた方が良いですか?
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欲しい
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要らない