共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~   作:フォルカー・シュッツェン

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第十七話 第二の御使い

 グラッドに先導されて向かった先では、乱闘が…いや、一方的な戦いが行われていた

髪が赤くカンフー服のようなものを着ている男性が私達を最初に襲ってきた鎧連中に剣を向けられている

しかし誰が斬り込もうとも

 

「ふぅぅぅぅ…ほわっちゃぁぁぁぁ!」

 

「ゲバァッ!」

 

 あんな風にやられている

しかしあの動き…敵を近付けない遠距離型の体捌き

もしかして劈掛拳か?

両腕両足をまるで鞭のように振り回しているしどう見ても劈掛拳だ

相手は剣を持っているのが複数人いるのだから近付けない為に劈掛拳を使うのはそんなに悪手ではない…だがこの世界に私の世界と同じものが存在するとは思わなかった

 

「なんか…すっごく強そうだよあの人」

 

「そうねぇ。しっかしあの喧しい叫び声はなんかのよ!」

 

 ルシアンとリシェルが緊張感もなく感想を言っている

野次馬じゃないんだから…

 

「あれはストラの息吹だね」

 

「すとら?」

 

「うん、呼吸によって体内の機能を活性化させて治癒力を上げる技だよ」

 

「それだけではありませんわ。本来ストラとは肉体強化法の一つですの。ああして強化したセイロンの蹴りは巨岩をも粉微塵にしますのよ」

 

「うっへぇ…ん?なんであの人の名前知って……まさか!?」

 

「ええ、あの者の名はセイロン。御使いの一人ですわ!」

 

「なんだって!?」

 

 とんだ偶然もあったもの…いや、リビエルの話には道中守ってくれた冒険者にこの街へ集まるよう言われた旨もあった

となると他の御使いもこの近くへと来ている可能性が高い

 

「でもあの人一人で何とかなりそうじゃない?これなら加勢しなくても…」

 

「そういうわけにはいかんっての!」

 

 フェアの言葉にグラッドが反応する

 

「このまま乱闘が続いて規模が大きくなれば商店や人への被害が出ちゃうよ。そうなる前に…」

 

「止めるってことね。もう、しょうがないな」

 

 ミントの言葉を受けて仕方が無いと覚悟を決めたようだ

確かに今回暴れている敵は練度も低く、大した脅威ではない

だからといって油断するのは良くない…後できちんと言っておかないと

そうこうして私達は御使いのセイロンへ加勢することになった

 

 まずはセイロンにこちらが味方であることを知らせなければならない

今セイロンのいる場所と私達がいる場所は花壇や鉄柵等で妨げられている

セイロンが強いとはいえ多勢に無勢、敵には斧を持ったものや投げナイフを持った者もいる以上一人でいるのは不利極まりない

合流を急ぐ必要がある

 

「この…邪魔よ!」

 

 フェアが斬りかかってきた敵の剣を自分の剣で受け止めて鍔迫り合いになる

そこから押し返して焦った敵の足を払う

 

「のわ!がっ…」

 

 姿勢の崩れた敵の頭を掴んで地面に叩きつけた

フェアだけじゃなく皆それぞれ敵を相手にしている

思っていたよりも敵の数が多くて進軍しにくい

いち早くセイロンと合流したい私は目の前のナイフを持った敵の顎を蹴り上げて失神させてから皆に声をかけた

 

「私はセイロンの元へ行きます!こいつらを任せましたよ」

 

「行くってどうやって…ちょちょちょ、嘘でしょお!?」

 

「うっはぁ…圧巻だなぁ」

 

 皆が驚いているのは私が跳躍で一気にセイロンの近くに向かったせいだ

空中で身を翻して体勢を整えてから着地、セイロンの後ろから手斧を振り下ろそうとしていた敵の手へ蹴りを放って斧を叩き落とす

 

「ぬ、お主は?」

 

「この騒ぎを治めるため加勢します。面倒な説明は省きますが御子の味方です」

 

「なんと、そうであったか!うむ、苦しゅうないぞ。ハッハッハッハッハ!」

 

 笑いながらナイフを持った敵の横っ面を掌で打って一撃で失神させている

剣を脇に抱えるようにして固定した敵が私へ向かって突撃してくる

剣が突き込まれる直前にすり足で斜め前へと移動して相手の手首と首を掴んでそのまま地面へと叩きつける

鼻が折れて血が出ているが命があるだけマシだろう

悶絶している敵の首を片手で締めて数瞬で落とす

 

「ふむ、強いなお主」

 

「貴方も中々の功夫ですね」

 

「そうであろうそうであろう、ハッハッハッハッハ!さて…」

 

 笑顔から真面目な顔になったセイロンは私の後ろを見ている

私も振り返り同じ方を見ると少し離れた位置にリーダーと思しき剣兵とその側近のように見える槍兵

そして…長いフード付きローブを着込んだ召喚士と思われる人物がいた

 

「彼奴から僅かに妖気が漂っておる…おそらくは鬼妖怪の召喚士だ」

 

「なるほど…優先的に倒すべきですね、しかし」

 

「あぁ、彼奴等が妨害してくるであろうな」

 

「そうですよね。ま、すぐに片付けますよ」

 

「ハッハッハ、頼もしい限りだ。して、どちらを取る?」

 

「では槍の方を」

 

「我は剣だな、承知した。では往くぞ!」

 

「ええ」

 

 打ち合わせを終えた私とセイロンは三人に向かって突進する

特攻をしかけて来るとは思ってなかったのか多少の動揺はあったものの、すぐに気を取り直して剣兵と槍兵が前に出て召喚士を守りに来た

召喚士は後ろで何やら詠唱を行っている

途中飛び出してきたナイフ使いは飛び膝蹴りをかまして移動のスピードを緩めることなく排除した

打ち合わせ通り槍兵の前へ出ると槍兵は槍を突くのではなく前に向けて構えた

私のいる方向を正確に捉えて向きを素早く調整してくる

一対一で槍衾擬きをして来るか…しかしその判断は正しい

突きや払いをすればその直後の隙を利用して接近、そのまま関節を取ったり無防備な顔面を攻撃したり出来る

だがこうして牽制されるとこちらも攻撃されないが槍兵を倒せない

そうして時間を稼いでいれば召喚士の詠唱が完了してしまう

そうやってちまちまと削ってくるつもりだろう

セイロンは剣兵の懐に入り混むことに成功していたが、直ぐに剣を手放し短剣へと持ち変えられたことで凌がれていた

あの練度の低い鎧集団と同じ奴らとは思えないほど良い動きをしている

動きを封じられてしまったが時間をかけてはいられない、ここは多少強引に突破させてもらおう

私はバックステップで一度距離を取ってから直ぐに真っ直ぐに走った

当然槍兵は槍を構えているしこのまま突っ込めば槍で刺される

別段刺されたとて死にはしないが辺りに鮮血が多量に吹き出すのであまりよろしくない

私は槍の目の前まで迫ると同時に手を槍の穂先の上に置き、下に向けて寸勁を放つ

槍の先端に強い力が加えられたことで槍兵は槍を支えることが出来ず、槍の穂先が地面に叩きつけられた

そのまま槍を使えなくする為に槍の上を走り敵の目の前まで迫る

槍から地面に降りる最中に両膝で槍兵の頭を挟み込んで上体を捻じる

腕を伸ばして地面に着いたら捻った身体を戻すようにして膝で挟んだ槍兵を頭が激突しないように地面へと叩きつけた

腕は折れたかもしれないが命に別状はない

槍兵を無力化した私はセイロンと戦っている剣兵を倒そうとした

だがその必要はなかった

セイロンは先程までの長距離型の戦い方から急激に動きを変えて超近距離型に切り替えた

その動きについてこれなかった剣兵は掌底を真面に喰らって意識を失う

劈掛拳と八極拳の合わせ技

基本的だが効果の高い連携技だ

そのまま二人で召喚士へと迫ろうとするが…少し遅かったようだ

召喚術が発動し、呪いの藁人形が巨大化したような召喚獣が出てくる

しかもその手には釘を打ち込む木槌を持っていた

まるで釘を打ち込まれ続けた藁人形が怨嗟の念で動き出したような、不気味な召喚獣だ

 

「こやつは"ノロイ"か!厄介な者を…」

 

「奴の特徴は?」

 

「何処からともなく巨大な釘を出現させ打ち込んで来る!また、憑依して対象の肉体的な強さを大幅に下げてくるのも厄介だ」

 

「それはそれは…御免蒙りたいです、ね!」

 

 上空から突然釘が何本も降って来る

それを避けて召喚士へ接近しようとするが今度は獅子舞のような召喚獣が突撃して来た

その突進を片手で止めるが、後ろからノロイが木槌で打とうとしてくる

咄嗟に跳躍して獅子舞の上に乗って回避すると同時にノロイに獅子舞を打たせる

獅子舞は怯み、味方を攻撃したことで動揺したノロイに向かって跳ぶ

それに気付いたノロイが左手で掴もうとしてくるがセイロンが飛び蹴りでそれを防いでくれた

私はノロイの左肩に右足を付けてそのまま強く踏み込むと同時に左膝で顎(顎っぽいところ)を、両肘で脳天(ここも脳天っぽい)を撃ち抜くくらいの強さで挟み込む

人間が真面に喰らうと確実に頭がグシャグシャになる威力の攻撃だが、ノロイはそうはならずに倒れ伏した

それを見た召喚士が慌てて詠唱をしようとするがそれよりもセイロンの正拳突きが炸裂する方が先だった

鳩尾に喰い込んだその突きにより召喚士は10mほど吹っ飛んで失神した

フェア達の方を見ると皆鎧達や騒ぎに乗じて暴れだした荒くれ者達を倒していた

腕や足や腹を抑えて地面に倒れ伏している男達から上がる苦悶の声は不協和音となって中々に不気味だったので全員締め落として周った

その後男達はグラッドが縛り上げて拘置所に連れて行き、戦闘の余波を受けて損壊した道や壁といった箇所の補習は私が行った

街の人達も協力してくれたのでセイロンをフェア達に託し、宿へと戻ってもらった

街の人達は一瞬怪訝な顔をしたが、荒くれ者を取り押さえたことで疲労しているだろうしその中心にいたセイロンに話を聞かなければならないからと言えば納得してくれたみたいだ

人間同士の戦いで壊れた部分は大した手間も無くすぐに修繕出来たが如何せんあのノロイが打ち込んだ巨大な釘が厄介だ

まず抜くだけで重労働となる

大の大人が5人いてやっと抜くことが出来るほど重い

それを片手で抜いたら化け物を見るような目で見られてしまった

そして抜いた跡の修繕がこれまた面倒臭い

道の整備をしていた経験がなければかなりの時間を要しただろう

因みに巨大釘は他の街の製鉄所へと格安で売り、そのお金を手伝ってくれた人や被害に遭った建物の所有者へと渡して事態を穏便に解決した

私も受け取るべきだと行ってくれる人が大勢いたが、私戦闘を行った一人だからと言って断った

それでも渡そうとする人がいたので今私が厄介になっているフェアの店に明日の昼にでも来て売上に貢献してくれと言い含めてなんとかなった

しかし戦闘のみならずその後にまで厄介さを残していくとは…まったく

 

 修繕作業のせいで日も落ちかけた時分に帰った私は新たな御使い、セイロンが仲間になる(居候する)ことと遺産は無事に守りきったことを聞いた

因みに夕飯ではハンバーグが出たのだがこれがまた絶品だった

一口サイズに切り分ければそこから肉汁が溢れ、口に運ぶと噛む度に肉本来の旨みが肉汁と共に口中に広がる

別で分けられていた特性のソースをかければ味が一変し、これまた幸せに溢れる素晴らしいものであった

バランスを取るために添えられたサラダはシャキシャキとしていて仄かに味が染みているので濃い味のハンバーグとの相性は最高だ

この食べる幸せだけは元の世界へ戻ることを私に躊躇わせる力を持っている

…向こうでもこの味が食べられるようフェアに弟子入りしようかな?

 

 

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