共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~   作:フォルカー・シュッツェン

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第二十話 獣皇との邂逅

「拾った…だと?」

 

「ええ、そうよ。たまたまこの子を拾ったから私達はこの一件に深く関わってきたの」

 

「ピィッ♪」

 

 忘れじの面影亭にてアロエリへの事情説明が行われている

ただあまりに突飛な始まりにアロエリは不信感を丸出しにしていた

 

「信じられん…それだけの理由でわざわざ俺達の戦いに関わるとは、かえって不自然だ」

 

「あんたねぇ…人間のこといったいなんだと思ってんの?」

 

「敵以外の何者でもない」

 

 リシェルの苦言を一刀の下に斬り伏せたアロエリは更に続ける

 

「人間というものは傲慢で、欲深くて、油断がならない。俺達はずっとそう教わってきたんだ」

 

「でも、それは貴女たちの立場が特別なものだったせいで…」

 

「この世界の同胞達の多くは、その特別な立場とやらにある。都合良く使われている、道具同然の立場にな」

 

「…っ」

 

 ルシアンの言葉もあっさりと突き返す

 

「否定するなら試しに尋ねてみるといい。きっと俺と同じ考えを持つ仲間達が沢山いるはずだ」

 

 それを聞いて思い出されるのはあの時のミルリーフの言葉

 

(繋がれてるみんなが嫌がってたから助けたの…自由になりたい、生まれた世界に今すぐ帰りたいって…なのにどうして助けてあげたらいけないの!?)

 

「そうかもね…」

 

 目を閉じていたフェアがそう呟くと、目を開けて真っ直ぐにアロエリを見た

 

「でも、それとこれとは話が違うんじゃないの?」

 

「なんだと?」

 

「貴女がどう思おうとも関係なく私達はミルリーフのことを助けたいって思ってるの。理屈なんかじゃなくて、そうしたいって思ったからやってるの。それだけなのよ」

 

「信じるも信じないも、結局は本人次第と言うことになるわけか。試されておるのはそなた自身だぞ、アロエリよ」

 

「くっ…」

 

 セイロンに諭され、それを否定出来ないのか悔しそうに顔を歪ませている

そこにリビエルが言葉を掛けた

 

「関わるだけの理由がどうしても必要だと言うのでしたら、少なくともフェアにはそれがありますわよ」

 

「理由だと?」

 

「ほう、それは初耳だな」

 

 恐らくはフェアの父親の話をするつもりなのだろう

御使い達は冒険者をしているフェアの父親に助けられたと聞く

その娘であるから関わる理由はある、と…筋が通っていないこともないだろう

 

「話してあげてもいいかしら?」

 

「別に、良いけど」

 

 フェアに確認を取ったリビエルはアロエリとセイロンに向き直ると話し始めた

 

「先代がなくなった時、私達を逃がすために戦ってくれた冒険者、彼女はあの男の娘よ」

 

「!?」

 

 瞬間、二人の顔が驚愕に染まった

そしてセイロンは神妙な顔になり、アロエリは…一切の表情がなくなった

これは、危ないかもしれない

 

「詳しい事情を聞いたわけじゃないけどさ、あのバカが関わってる以上知らんぷりも出来ないのよ」

 

「その話は…本当なのか?」

 

 絞り出すといった感じでアロエリが言葉を口にする

そして腕に力が入り始めているのが分かる

 

「え、ええ…そうですけど……」

 

 二人が何故こうなっているのか分からずに戸惑いながらもリビエルは肯定した

 

「そうか、ならば…」

 

 アロエリは決意を固めた表情をして、右手を握りこんだ

間違いない、本気で殴るつもりだ

 

「償いは貴様の命でしてもらうっ!!!!」

 

 そう叫んだ直後アロエリは机をなぎ倒して状況が飲み込めていないフェアに向かって拳を突き出した

しかしその拳はフェアに届くことは無い

私が横から彼女の腕を掴んで止めているからだ

 

「え、ちょ…なに!?」

 

 フェアは前振りなく突然襲われたことに混乱しているのかまだ動けていない

咄嗟にグラッドがフェアの前に出てきて彼女を庇う

 

「人間が…邪魔をするなぁぁぁぁ!!」

 

 私に攻撃を防がれたアロエリは反対の手で私の顔面を殴ろうとしてくる

私はそれを当たる直前で躱してから伸びきった腕を掴んだ

するとセイロンがアロエリの後ろに周り込んで私に目配せをしてきた

それを受けた私は掴んでいた彼女の両腕を下に振って離す

そして彼女の元へ戻った腕を今度はセイロンが掴んで後ろへと回し、擒拿術で抑え込んだ

これでもうアロエリは動けない

 

「離せ、離せえぇぇっ!!殺してやる、殺してやるうぅっ!!」

 

「やめよ、アロエリ!!」

 

 アロエリが抑えられている間にフェアはグラッドやミントに連れられて少し離れた位置に移動していた

 

「なぜですの!?どうして、そこまでこの人を憎むの!?」

 

 リビエルが声を荒らげて聞くとアロエリは

 

「仇だからだ…」

 

 そう、答えた

 

「え?」

 

「俺はこの目で見た!先代様の首を跳ねたその張本人は…コイツの父親だっ!!」

 

「なぁ…!?」

 

 その言葉にフェアの目は見開かれ、空いた口は塞がらない

 

「ウソ…そんな、だって……」

 

 リビエルも同じような顔になっており、困惑している

 

「事実だ、リビエル」

 

 そこにセイロンが落ち着いた声でリビエルに告げた

 

「だが、あれにはやむを得ぬ事情が…」

 

「聞きたくない!!どんな理由であろうと、コイツの父親が先代を殺したんだぞ!?先代さえご存命なら、『ラウスブルグ』も守れたはずだ…なにもかも、みんな貴様の父親によって壊されたんだ!!」

 

 アロエリの言葉にフェアは悲痛な顔になり、何も言えなくなってしまった

 

「そんな男の娘の言葉など、俺は信じないっ!!」

 

「ぐぅっ!」

 

 アロエリはそう言い放つとセイロンの膝に蹴りを入れて体勢を僅かに崩してから肩を自ら外して無理矢理脱出した

関節を嵌め直すとそのまま文字通り店を飛び出していってしまった

 

「待って、アロエリ!?」

 

「ピイィッ!」

 

 そしてリビエルとミルリーフが後を追って行ってしまう

…いや、ミルリーフが行っては駄目だろう

そう思いはしたが、まずはこの場を収めないといけない

単純にあれた机や椅子を戻すだけじゃなく、セイロンから事情を聞いてフェアの心を落ち着かせなければ

私はミルリーフの無事を祈りながら場の収束の為に動くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、また食堂に集まった私達はセイロンから話を聞くことにした

 

「ねぇ、本当のことなの?セイロン…バカ親父が、先代の命を……」

 

「ああ、事実だ。しかし、それは先代自身が望まれた結果なのだよ」

 

「え?」

 

 セイロンから告げられたのは先代が死ぬことを望んでいたという事実だった

 

「お主の父親は、請われて介錯を務めたに過ぎぬ。そこに悪意はない、その場に立ち会った我が保証しよう」

 

「そっか、そうだったんだ…」

 

 フェアは安心とも悲しみともつかない表情を浮かべている

 

「でもどうして自分から死ぬことを選んだりしたの?守護竜の力ってとてつもなく凄いものなんでしょ?」

 

「そうよ、そうよ!戦ってたら勝てたかもしれないのに」

 

 ブロンクス姉弟の質問にセイロンは真剣な眼差しで答える

 

「確かにアロエリが言ったように、先代が本気で力を用いれば『ラウスブルグ』を守ることは可能であったやもしれん。だが、先代にはそれが出来ぬ理由があったのだよ」

 

「理由?」

 

「争いの火種を外から持ち込んで来たのは、クラストフの一味だ。だが、実際に反旗を翻したのは…『ラウスブルグ』で共に暮らした、同胞達だったのだよ」

 

「内紛ってことか!?」

 

「長きに渡って守り、慈しんできた民達に牙を向けるなど先代には出来なかった。戦う以前に、気持ちをくじかれていたのだ」

 

「だからって自分から命を絶つなんて…」

 

「敵の目的が己の力であると、先代は知っておられたのだよ。故に、それを確実に防ぐ決断をされた。命を絶ち、力の全てを形見に封じ込めて、後継者として眠っておられた御子殿と共に逃がされたのだ」

 

「そこまでして止めようとした敵の目的ってなんなのよ?」

 

「それは我にも分からぬ。ただ、残された最後の一人…先代の側近を務めた御使いの長ならば、あるいは」

 

「最後の一人…御使いの長…」

 

「うむ…アロエリも本当は分かっておるのだ。先代が、自分の意思でお主の父親の刃を受け入れたことを。だが、納得するには彼女は余りにも若い。そなたに理不尽な怒りをぶつけねばいられぬほどにな。すまなかった…」

 

 そう言ってセイロンは頭を下げた

普段の快活で少し偉そうな振る舞いからは考えられないが、この男は本来こういう真面目な気質をしている

だから身内がある意味恩人である男の娘を理不尽に殺そうとしたことに誰よりも責任を感じ、心を痛めていたのだろう

 

「……っ」

 

 フェアはそんな様子に何も言えなかった

自分自身は怒っておらず、許してはいても事の重さ的にそう簡単に結論を出していいものではない

普段とは全く違うセイロンの態度も相まってどうしていいのか分からなくなっているようだ

流石に十五の娘に背負えるものではない、そう思って私が口を開こうとした、その時

 

「…ん?」

 

 外から羽音が聞こえてきた

アロエリのものではなく、リビエルだ

リビエルは相当に慌てた様子で食堂に転がり込んで来ると、大声を上げた

 

「た、大変ですわ!?」

 

「ど、どうしたんですかいったい?」

 

 その様子に戸惑いながらもポムニットが尋ねる

 

「アロエリが御子様を連れて出ていってしまったんです!!」

 

「なんですって!?」

 

 …いくら頭に血が上っているとはいえ、そこまで考え無しの行動に出るとは

色々と言いたいこと、やらなければならないことはあるが…今するべきことはただ一つ

 

「わ、私、必死になって止めたんですのよ!?でも、でもっ……!全然、聞いて…くれなくて…っ」

 

「アロエリの奴め、軽率な…」

 

 リビエルは泣いているし、セイロンも流石に余裕がない

フェア達も完全に同様している

ここは私が纏めた方が良さそうだ

私はリビエルに近付くと首筋に指を当てて血流を制御して心臓の鼓動を抑える

 

「取り敢えず落ち着きなさい、リビエル」

 

「え、ええ…そうですわね」

 

「向かった方角は分かりますか?」

 

「えっと…街の東で草原の向こうまで行っていたような…」

 

「フェア、その方角には何があります?」

 

「街の東、草原の向こう…それって!?」

 

「墓地…よね?」

 

 フェア達の回答にみんなの顔が一瞬暗くなる

が、ここで立ち往生している訳にもいかない

早く連れ戻さなければ

 

「分かりました、では行きましょう。道案内は頼みましたよ!」

 

「わかったわ!絶対に連れ戻してひっぱたいてやるんだから!」

 

 そうして私達はフェアを先頭に墓地へと向かった

その先に最悪の敵がいるとは露知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけました!」

 

 ポムニットの言葉通り、私達はアロエリとミルリーフを見付けた

しかしアロエリは巨大な体躯の亜人と戦闘しており、膂力の差もあってか分が悪い

アロエリ達との距離はかなり空いている上にこの墓地は中々高低差の高い段々畑のような構造になっているのですぐに接近が出来ない

 

「獣皇だと!?よりによってこのような時に…」

 

「あのままじゃ、二人ともすぐにやられちゃうよ!」

 

「くそっ、どうすりゃいいんだ!?」

 

 私が跳躍で一気に…とも考えたが周りには鬱蒼と木々が生えておりそれが邪魔で上手く行けるか分からない

しかし考え込んでいてもどうにもならないので私は走り出した

 

「アウル!?いくらそなたでも無茶だ!!」

 

「ならこのまま黙ってやられるのを見てますか?違うでしょう!!」

 

 セイロンが止めて来るが正論をぶつけて黙らせる

すると後ろの方でフェアの声がした

 

「ミルリーフ!よく聞きなさい!貴女が、アロエリを守りなさい!!今の貴女はもう、守られるだけの存在じゃないはずよ!貴女の為に必死に戦ってるアロエリの想いに応えてあげたいなら…ありったけの力を振り絞りなさい!!」

 

「っ!?」

 

 フェアの声に呼応してか、フェアから不思議な力の波動を感じた

召喚術の魔力?

いや、違う…そういった私が知っているものとは全く異なるものだ

それが何なのかは分からないが私のやることは変わらない

しかし、アロエリ達までまだ距離がある…しかも今アロエリが吹っ飛ばされてしまった

 

「ぐあ、がっ…」

 

 アロエリはそのダメージでまだ立ち上がれていない…急がなければ!

その時、アロエリと獣皇の間にミルリーフが入った

 

「ピギャア!」

 

「!?」

 

「ピギャアァァァァ…っ、ギュアァァァ!!」

 

 ミルリーフの体が光ったかと思うと人型となったミルリーフがその小さな拳で獣皇を殴り飛ばした

 

「グガアァッ!?」

 

 獣皇は三段上にまで飛ばされている

見たところ多少のダメージはあるようだが、すぐに立ち上がってこちらに突進してくる

同時に私は二人に合流した

 

「はぁっ、はっ、はぁ…やった……やったよ、ママっ♪」

 

 ミルリーフはフェアに向かって手を振っていた

その可愛さに和みたい所だがそうは言っていられない

私はミルリーフの頭を撫でながら話しかける

 

「良くやりました、ミルリーフ。成長しましたね」

 

「うんっ!」

 

「ご褒美をあげたいところですが今はそういう状況じゃないのは分かりますね?では、貴女はアロエリを連れてフェア達と合流して下さい」

 

「…アウルお姉ちゃんは、どうするの?」

 

「私はあいつと戦います。なに、心配は要りませんよ」

 

「でも…」

 

「それに、周囲には獣の軍団や召喚士がいます。獣皇との戦いに水を刺されないよう彼らをフェア達と共に足止め、及び撃破をお願いしたいんですよ。一人前の貴女に、ね?」

 

「アウルお姉ちゃん…分かった、任せて!」

 

 そう言うとミルリーフはアロエリを支えながら近付いてきたフェア達と合流を果たした

途中亜人達の攻撃があったりしたが、それは空を飛べるリビエルの召喚術によって撃退されている

それにしても、お姉ちゃんか…なんだかんだミルリーフに名前を言われるのは初めてだったのでこの呼ばれ方も初めてだ

悪くないな、そう思いながら轟音を上げて迫ってくる獣皇の拳を躱す

さて、他は彼女達に任せて私は私のやるべきことをしようか

そして私は獣皇と対峙した

その予想外の強さに驚愕するのは、それからすぐのことだった

 

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