共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~ 作:フォルカー・シュッツェン
☆・☆・☆・☆・☆フェア視点☆・☆・☆・☆・☆
翌日、いつも通り継承の儀を終えてこれからの方針を固めた私は街の外にある泉に来ていた
ここは忘月の泉って呼ばれてて素敵な名前なんだけどとっても汚れてるのよね
水は濁って汚い色だし周りの木々も枯れてて鬱蒼とした雰囲気を出してる
でも何故だか私はここにいると落ち着くの
なんでこんな所でって自分でも思うけど、人が殆ど来ないから考え事とかする時には重宝する
そして今考えてるのは最後の御使い、クラウレのこと
意外なことに最後の御使いはアロエリのお兄さんらしく、御使いの長も務めるくらい優秀らしい
私はてっきりロレイラルの人かと思ってたんだけど…まぁロレイラルの召喚獣がはぐれ化することは殆どないから可能性は元から低かったのかな
だけどそれだけ優秀なのに未だに姿を見せない
セルファン族最強の戦士って言ってたしかなりの規模の追っ手がかけられてるのかもしれない
だから私達はこっちから探しに行くことにしたの
「それにしても…」
私はふと今朝のアロエリのことを思い出す
昨日のことを謝りに来たんだけど全然素直じゃなくって…まぁあれはちょっと可愛らしいと思ったから怒りは感じないし、それにもう気にしてないしね
そんなことを考えてると泉に花束が浮かんでるのを見つけた
「あれ、また浮かべてある。時々見かけるけど誰がやってるのかな…なにか意味でもあるのかな?」
「あぁ、それはきっとおまじないのつもりなんじゃないかな」
「っ誰!?…ってルシアンか、びっくりさせないでよ」
「あはは、ごめんごめん」
急に後ろから声が聞こえてきたと思ったらルシアンが少し離れたところに立ってた
女の子の独り言に聞き耳立てるなんて褒められないぞ?
それは良いとしてさっきの続きを聞こう
「おまじない?なんの?」
「あの泉にはね、不思議な言い伝えがあるんだよ。月の煌めく夜に輝く泉の水を汲んで病人に飲ませると、たちまち元気になっちゃうんだって」
「飲むってこの濁った泉の水を???」
私は泉を見た
濁った水はねずみ色になっててとても飲めるようには見えない
私の言いたいことを察してかルシアンは笑いながら続けた
「この場所がまだ汚れていなかった頃の話だよ。今そんなことしたらお腹壊しちゃうってば」
「だよね…」
「病気が治った人は感謝の気持ちを花束に込めて泉に捧げたんだって」
「へぇ…」
「きっと、ずっと昔に泉のお陰で病気が治った人が今もお礼の為に花束を捧げてるんじゃないのかな?」
「なるほどね…素敵な話だね」
「うん、そうだね」
それから私達は少しの間話をした
✼•┈┈•✼•┈┈•✼アウル視点✼•┈┈•✼•┈┈•✼
「大変だそ、おい…って何してるんだ?」
店の天井に張り付いて埃を拭き取っていたら慌てた様子でグラッドが駆け込んできた
が、その直後私を見て呆れたような理解出来ない事態に脳機能が停止したみたいな顔をして聞いてきた
因みにグラッドはいつからか私に対して敬語を使うことを辞めていた
私としてもその方が気楽で良い
「ちょっと普段中々掃除出来ないだろう天井の掃除をしています」
「だからって普通張り付かないわよ…ほんと、呆れるほど凄いわよねあんたは」
私の言葉にリシェルが返してきた
それは…まぁ確かに普通はこんなことしないだろう
しようとも思わないだろう
「鍛えればなんとかならないこともありませんよ、っと」
粗方掃除の終わった私は天井から降りてグラッドの所まで歩く
「それで、何が大変なんですか?」
「あぁ…今しがた軍本部から通達があったんだが、なにやら帝都方面で『紅き手袋』が暗躍をしてるらしいんだ」
「なんですって!?」
「紅き手袋…確か犯罪代行組織でしたか」
「あぁ、そしてその構成員は暗殺者でもある」
「暗殺者って…つまり殺し屋!?」
グラッドから告げられた言葉にリシェルが過剰に反応している
…いや、普通はそうなるのか
「そういうことだ。奴らは常に背後から隙を狙って襲いかかってくる連中だ。敵に回したらこれほど恐ろしい相手もいない」
「騎士のように情けをかけてくることもありませんしね。確実に息の根を止めるための一撃を常に繰り出してくる」
「あぁ…」
「……」
場の空気が重くなってしまった
ここはなんとかしなくては
「でもそれって帝都での話なんでしょ?だったら私達には関係ないんじゃない?」
いつの間に居たのかフェアが私たちの後ろから声をかけてきた
「帰っていましたか、天井の掃除粗方終わりましたよ」
「ん、ありがとねアウルさん」
「ってことはそんなに重く構えなくてもいいってことじゃない!びっくりさせないでよね」
「まあな。しかし、これから先も無関係でいられるとも限らないからな」
「『無職の派閥』との協力関係、ですか」
「あぁ、もしもクラストフ家が支援を要請したなら…」
「『紅き手袋』から暗殺者が派遣される可能性もある」
「そういうことだ」
そうなると本当に急がないとならない
私にとっては日常だったがこの子達…特にリシェルとルシアンには荷が重いだろう
もしも戦うことになったなら最大限警戒しなければならない
そしてそうなる前に最後の御使いを見つけるのが一番だ
そう結論付けた私達は仲間たちを集めてさっそく街の外へと繰り出した
「待てっ!」
街の東から南東に向けて広がる広大なシトリス高原を歩いている途中、アロエリが急に鋭い声を発した
「な、なによ急に…」
「血の匂いだ、かなりの深手らしいな」
「!?」
その言葉を聞いた皆の顔が引き締まる
私も意識を鼻に集中させると、確かに微かに血の匂いを感じ取れる
だがそれは本当に微かなもので、傷の状態までは分からない
流石に亜人というべきか、こういった感覚器官の性能は私よりもいいようだ
「クラウレなのか?」
「いや、兄者ではない。これはおそらく人間のものだな」
「……っ!?」
それを聞いたフェアが駆け出そうとするのをアロエリが止める
「どこへ行く!?今の俺達には無関係だぞ!」
「うるさいっ!だからって知らんぷりしてられるもんですか!!」
「行きましょう、アロエリ」
「アウル?しかし…」
「どちらにせよ手掛かりなんてないんです、闇雲に探し続けるよりトラブルに首を突っ込んだ方が何かしら得られるかもしれません」
「そう、だな…」
私の言葉に納得したのか拘束を解いたアロエリが先導してその場所へ向かった
┄┄┄┄???視点┄┄┄┄
アウル達が向かっている場所では一人の少年が大勢の大人達に囲まれていた
どうやら少年は足を負傷しており立ち上がることが出来ず、方膝立ちで身体を支えている
「クソ…っこの足さえ、やられてなかったら…」
「……」
取り囲んでいる者達は言葉を発しない
まるで獣の狩のようにじわりじわりと少年を取り囲んでいく
「泣き言は、騎士には似合わないよな…うん。おいらは最後まで諦めないぞ!」
「シャアアアァァッ!」
少年が剣を構えると同時に奇声を発した男の一人が後ろから少年へとナイフを繰り出す
覚悟を決めた直後の一瞬の隙を狙った迷いのない一撃
うなじへと突き出されたナイフはそのまま気道まで達し、確実に少年の命を奪ったであろう
横槍が入らなければ、だが
「させませんよ」
「ッ!?」
男の目の前にいきなり女性が現れ、ナイフを奪う
男は機敏に対応し、距離を取ろうとするが女性が動く方が早かった
手足の腱を断たれたことで動けなくなった男は地面に伏した
「大丈夫か!?」
そこへ続々と新たな者達が現れる
人間と召喚獣の入り交じった団体…フェア達だ
「ちょっとアウルさん、いきなり飛び出さないでよ!」
「失礼、しかしああしなければ間に合わなさそうだったのでね」
男を戦闘不能にしたアウルは負傷した少年を庇うように立つ
フェア達も人数を活かして少年を取り囲んでいた者達を退かし、包囲を解くことに成功していた
「君達は、いったい…」
「いいから怪我人は大人しくしてなさい。私が代わりにぶっ飛ばしてあげる!」
「無茶だって!そいつらは野党なんかとは違うんだぞ!?」
「暗殺者でしょう?それも『紅き手袋』の」
「え…?なんで知って…」
「あいつらの殺気を見れば暗殺者であることは分かります。そしてあの紅い手袋…血染めの手袋をしているとなれば答えは明白でしょう」
「危険な相手なのは分かってますから、心配しないで、ね?」
アウルとミントに諭され、少年は何も言えなくなった
その隙に暗殺者達も体勢を建て直し、陣形を組んでいる
さっきのアウルの鮮やかな手並みを見た少年はこの人達なら大丈夫かもしれない、そう思い頼ることにした
「おいらは足を負傷して満足に動けない…申し訳ないけど、頼っても良いかな?」
「任せて下さい。そもそも正面からの潰し合いになった時点で暗殺者としては負けも等しい。貴方を狩れないと分かれば勝手に退散することでしょうしね」
「要するにこの人を守りつつ適度に撃破していけばいいってこと?」
「そういうことです。今回は敵を皆倒す必要などありません」
「…悪いがそういうわけにもいかないんだ、俺の立場としてはな」
アウルがフェアに説明しているとグラッドが割り込んできた
グラッドは警察のような業務もしているためこんな奴らを野放しには出来ないのだ
「俺は奴らを捕まえる気でいく」
「それは止めませんが、十分に気を付けて下さいね」
「あぁ、分かってるよ」
そう言葉を交わしたグラッドは先頭に立ち、高らかに宣言した
「帝国陸戦隊所属、トレイユ駐在武官グラッドだ!『紅き手袋』の走狗め、真聖皇帝の名の元に裁きの刃を受けよ!!」
こうして戦闘の火蓋は切られた