共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~ 作:フォルカー・シュッツェン
紅き手袋からの刺客を殺した日の翌日、私は一人で駐在所に居た
グラッドは朝の見回りに出ている
今私は普段グラッドが処理している書類の中でも簡単なものを代わりにやっているのだが…暇だ
重要な書類は私がやる訳にもいかないから簡単なものをやるのはいい、しかし簡単すぎてやり甲斐が無いのだ
勿論また刺客が来ても対応出来るよう気を張ってはいるが、その様子も見られない
更に宿屋の道の整備をやり残した状態で来ているのでそっちも気になって暇に拍車を掛けてくるのだ
そうして暇と戦うこと数十分、思いもかけない訪問客が来た
「あ、アウルさん!グラッドさんは帰ってませんか!?」
「ミント?どうしたのです、息を切らせて」
なんとミントが慌てた様子で駆け込んできたのだ
どうやらグラッドを探しているようだが何があったというのか
「グラッドさんがアルバ君を連れ出しちゃったんです!」
「…なんですって?」
アルバと言えば先日助けた少年剣士だ
暗殺者にやられた傷が骨にまで到達しており、まだ真面に歩けないはず…そんな彼を連れ出すなんて何を考えているんだ
「えっと、実はもう杖を付きながらだと歩ける程には回復したんです」
「幾ら何でも早すぎでは?リビエルの奇跡も足には使わないようにしていたはずですが…」
「あぁ、それはセイロンさんのストラによる効果ですね。そのお蔭で自然治癒力がかなり上がっているんです」
「なるほど、しかしそれでは…」
「ええ…アルバ君の体力をかなり消耗します。だから私の家の庭の中だけって約束で歩くことを許可したんですけど」
「まったく…でもそういう事なら恐らくフェア達の所に行けばいると思いますよ。と言うより態々約束を破ってまで行く所が他に思い当たりません」
「そうですね…行ってみます。ありがとうございます」
「いえいえ、お気を付けて」
慌てた様子で駆けていくミントを見て、これは帰ってきたら説教が必要だなと思う私だった
フェアの料理が食べたい…
☆・☆・☆・☆・☆フェア視点☆・☆・☆・☆・☆
私は宿にグラッドお兄ちゃんとアウルさんを除いた皆を集めて相談をしていた
事の始まりはアルバが家に来たことだった
足を早く治して任務に戻りたいとリハビリに励んでいる彼を見て、私も力になりたいと思ったの
でも私には何も出来ない…医術の心得なんてないしね
そう思って落ち込んでたところをあるお爺さんの言葉で私に出来ることが分かった
人の身体を作っているのは普段口にしている料理、だから私の得意なその料理で力になってやればいい
そう言われて私は骨に良い料理を作ることを決心したの
だけどどんな料理を作れば良いのか分からない…だからそういうのに詳しそうなミントお姉ちゃんやセイロン達に相談しようと思って集めたのが今の状況ね
出来ればアウルさんにも聞きたかったんだけど暗殺者達を見張り続ける必要があるから離れられないって言うから仕方ない
「う〜ん、薬草とかなら力になれるとは思うけど…骨に効く食べ物ってなんだろう?」
「牛の乳や魚の骨だ。特に魚は骨まで食べられる小魚が良い、骨を食べることで骨は作られるからな」
「詳しいんだね、アロエリ」
「こんなのメイトルパに住むものなら誰でも知ってる常識だ、自慢にもならん」
ミントお姉ちゃんの疑問にアロエリが答えた
ふむふむ、小魚に牛乳ね…
「骨まで食べられると来ればヒメミズハに勝るものはなかろう」
「ヒメミズハ?」
「澄んだ淡水に住む、美しい魚だ。そのまま焼いてやれば丸っと食べるられるのだよ。確か、近くの湖でも獲れたと思うが」
セイロンが続けてそう言った事で今後の方針は決まった
取り敢えずお魚屋さんでヒメミズハを買ってそれを調理してアルバに食べさせる
リシェルとルシアンには試食係になってもおうかな
そう意気込んで買い物に行ったのは良いんだけど…
「売れないってどういう事よ!!」
「いや、そう言われてもな…うちの魚は皆ルトマ湖で獲れる奴なんだが、どういう訳か最近入荷して来ないんだよ」
「そんな…」
「そういう訳で売れねえんだわ、スマンな嬢ちゃん」
…てな訳で買うことが出来なかった
ここまで来て諦められなかった私は皆とルトマ湖に来た、のは良かったんだけど…
「湖が、凍ってる!?」
そこには完全に凍りついたルトマ湖があった
「これでは確かに魚は獲れんな。そもそも、獲る気にすらならん」
「ここはこういう状態が普通なのかね?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「そうよね…この辺りは近くにある火山の影響もあって、冬でも完全に凍りつく事なんてないはずだもの」
セイロンの疑問に私とミントお姉ちゃんが答える
「そうなると考えられるのは異常気象か人為的なもの…街に影響が出てないことを鑑みるに人為的なものって線で決まりだな」
途中で寄った駐在所から着いてきたグラッドお兄ちゃんが見解を述べた
因みにアウルさんは残して来てる
「…湖が凍ってたって魚はいるんでしょ?だったら氷に穴開けてでも釣ってやるわよ!」
「ちょ、ちょっとフェア?あんた目が据わってるわよ?」
「ここまで来て諦められるわけないでしょ…何がなんでもアルバに食べさせてやるんだから!!」
「あわわわわわわわ…」
リシェルとルシアンが戸惑ってるけど関係ない、私は剣を抜いて氷に向かって突き刺そうとして…
「あはははははははははははは、そんなことしても無駄ですよ〜んだ!」
「…誰っ!?」
唐突に聞き覚えのない声が聞こえて来た
その方角を見ると、以前に戦ったアプセットやローレットに似た感じの人形が…ていうかアプセットもいた
てことは…
「これはあなた達の仕業ね!」
「当然黙秘…」
「そうだよ、これは教授とミリィ達の仕業で〜っす!」
「ミリネージ…」
アプセットが黙秘しようとしたのにミリネージって呼ばれてた機械人形があっさりと自白した
なんだこれ…緊張が薄れるじゃないの
「相変わらず落ち着きのないことですわね、貴女…」
リビエルも呆れたように話しかければ
「あ〜デコ天使!」
「なっ!?ぶ、無礼ですわよ!!」
「デコにデコって言って何が悪いのよ〜。ねぇ、デ・コ・て・ん・し?」
「むきぃ〜!頭に来たしたわ!火中で爆ぜる木の実の如くバチバチと来ましたわ!!」
「落ち着け、リビエル」
ミリネージの挑発にいとも簡単に乗ったリビエルをセイロンが捕まえて落ち着かせてる
ていうか…どちらかと言うとミリネージの方がおデコ広い気が…いやそんなこと気にしてる場合じゃないよね、うん
「敵と出会った以上は見逃したりはしない、覚悟しろ!」
「イーッだ!それはこっちの台詞だよ〜だ!」
「交戦必至…intercept作戦開始。対象の逃亡を以て任務完了とする…OK?ミリネージ」
「きゃははははは♪みぃんな纏めてぇ、やっつけまぁす!」
「馬耳東風…」
こうしてイマイチ緊張感のない中私たちと機械人形達の戦いは始まった
戦闘ってもっと緊迫するものだと思うんだけどなぁ…