共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~ 作:フォルカー・シュッツェン
☆・☆・☆・☆・☆フェア視点☆・☆・☆・☆・☆
「奴らはここに入っていったのね?」
「あぁ。空から確認した、間違いない」
あれからアプセットとミリネージを撃退した私達は閃光を発して逃げた2人(?)を追い掛けて洞窟の入口のような場所に来ていた
さっきの会話からも分かる通り追跡はアロエリが空からしてくれたから漏れはないと思う
「よ〜し、それなら早速乗り込んで…」
「ちょっと待って、フェアちゃん」
逸る気持ちのまま乗り込もうとした私をミントお姉ちゃんが留めてきた
どうかしたのかな?
「どうしたの、お姉ちゃん」
「ここが敵の拠点なら激しい戦いがあると思うの。さっきの2人が私達のことも報告してるだろうし、しっかり準備を整えてからの方が良いんじゃないかな?」
「確かに…アウルさんも居てくれた方が良いだろうし、準備ついでに呼んで」
「いや、それはダメだ」
「え?」
グラッドお兄ちゃんが私の言葉を食い気味に止めてきた
いつも明るくて爽やかなお兄ちゃんにしては珍しく硬い表情をしてる
「どうしたのよ、戦いがあってしかもそれが結構キツいものになるのも分かってるんでしょ?だったらアウルが居た方が良いに決まってるじゃない」
リシェルの言う通りだよ
その事が分からないグラッドお兄ちゃんじゃないからきっと何か理由があるんだろうけど…
「確かにそうなんだがな…皆も知っての通りアルバを助けた際に紅き手袋の暗殺者を何人か捕らえたよな」
「ええ…今は彼らの監視と護衛についてるんですよね」
「ああ、そうだ。そして俺は既に本部へアイツらを捕らえたことを報告したし、帝都へと移送する護送隊も近日中に到着する。そんな状況でアウルを連れてきて見張る人がいない中、何かがあったりしたら間違いなく俺は失脚するだろう」
「何よ、自分の保身の為に戦いを危険なものにするって言うの?」
「ちょっと、リシェル…その言い方はあんまりだよ」
「だって」
「確かにお前の言うことも分かるがな…ただ考えてみてくれ。俺が失脚して辞令が出た場合、この街から出なきゃいけなくなる。そして代わりの奴が派遣されるだろう…そうなるとこの戦いのことを本部に隠さず報告しちまうんじゃないか?もしそうなっちまったら……」
「帝国が本格的に絡んで来て今よりずっと厄介なことになるってことね…納得したよ、グラッドお兄ちゃん」
「なるほどね…悪かったわ、保身の為だとか言っちゃって」
「いや、良いんだ。俺も言葉足らずだったしな」
グラッドお兄ちゃんの言うことは尤もなことだった
だけどアウルさん無しで敵が守りを固めている場所に乗り込まなくちゃいけないのか…いつもよりも子を引き締めないといけないね
「そなたの言うことには得心した。あまり時間をかける訳にもいかぬし、早々に準備をしに戻らぬか?」
「そうだな、もう遅いかもしれないが早くした方が奴らの不意を突ける可能性も高くなるだろう」
「同時に時間をかければかけるほど私達が不利になる、ですよね…急ぎましょう!」
全員が状況を理解したところで私達は走って街まで戻って行った
✼•┈┈•✼•┈┈•✼アウル視点✼•┈┈•✼•┈┈•✼
先程グラッドが戻って来たかと思えば色々と準備して慌ただしく出ていった
事情は聞いて把握している
まさか魚を求めて湖に行ったらそんなことになっていたとは…流石に予想外だ
状況的には私も同行したいところではあったがここの警備を疎かにするわけにもいかず、それは皆も分かっているとのことだったので残ることにした
暗殺者達は相変わらず黙りだし、襲撃者も後を絶たない
私を殺しにくることもあれば捕まった仲間を殺しにくる場合もある
今のところそのどちらも未然に防げてはいるがいつまでもそう上手くいくとも限らないので帝国の本隊には早く来て欲しいものだ
それにしても…
「さっきからこそこそとこちらを窺ってどういうつもりですか?殺るならさっさと来なさい」
「…やはりバレているか。流石だな」
未だに正確な位置は把握出来ていないが、誰かがいる
それも明確な悪意を持った者だ
位置を特定させない癖に気配を隠そうともしない辺り寝首を掻きに来たわけではなさそうだが…何が目的なのやら
「我らの暗殺を幾度となく躱し、防いでいるだけはある。正直こんなことは初めてだ、これほどのやり手は見たことがない」
「お褒めに預かり光栄です。そういう貴方も相当出来るようですね、位置の特定をさせないで存在を感知させるなんてそうそう出来ることではありませんよ」
「ほう、わざとであることまで見抜かれたか。これはますます…」
「…ますます、何です?」
不自然に言葉を切った相手に聞き返す
返ってくる言葉は想像出来るが…
「なに、簡単なことさ。私が今日来たのは君を害する為ではないということだ」
「やれやれ…お断りします」
「…まだ用件を言っていないが?」
「仲間にならないか、でしょう?それくらい想定出来ますよ」
「話が早いのは助かるが、応じる気がないのは困ったものだな」
想像通りだったようだ
「私の見立てでは君は元同業者だと思うのだが」
「ええ、その通りです。ですが私に戻る気はありません」
「二度と?」
「二度と」
そこで言葉が切れ、暫く沈黙が流れる
やがて相手側が徐に口を開いた
「一応、理由を伺っても良いだろうか。譲歩出来る範囲ならしてみせよう」
「残念ながら無理でしょうね。私が闇に戻らないのは利益の為に殺すことを辞めたからです」
「そうか…非常に残念だよ。建前などではなく本心からね。君ほどの使い手がいてくれれば我らが得られるものは莫大に増えるだろうに…」
その声は本当に残念そうだ
おそらく言葉通り演技などではないのだろう…その気持ちも分からなくはない
私だって同じ立場にいれば間違いなく勧誘するだろう、そして望んだ結末が得られないのならば…
「ならば仕方がない、次の妥協案だ。これから先お互いに不干渉とするのはどうだろうか」
「ん…意外ですね。てっきり問答無用で殺しにくるか仲間の命を脅かすかと思いましたが」
「勿論それも考えているし準備も済んでいる。だがそうしたらしたで君は黙って見ていないだろう?正直なところ君とは敵対したくないと言うのが本音だ…だからそちらが我らのやることに関わらないでいてくれるのなら我らも君達に関わらない。お互い煩わしい相手のことを考えなくて済んでwin-winじゃないか」
「本当にそうしてくれるのならそれでも良いのですがね…でも無理だと思いますよ。私達の置かれている状況を分かっているでしょう?」
「そうだな…無色に協力を求められれば結局は争うことになるからな」
「こうなってしまった以上、もうどうしようもありませんよ。ただ1つだけ約束してあげます」
「なにかね?」
「私達は争いを望んでいません。ですから防衛目的以外での攻撃は一切行わないと…その代わりそちらが攻撃してきた場合は一切の躊躇いなく返り討ちにしますよ。貴方方の取る手段が下劣であればあるほどに」
「なるほど…やるにしても正々堂々とやれと言いたいのだね?しかし暗殺者にそれを望むのは酷というものだろう」
「分かっていますよ。しかし私としても譲れないのでね…さぁ今日はもう帰りなさい、そろそろ駐在武官が戻ってくるかもしれませんからね」
「おや、見逃すと言うのかね?」
「今日の所は誰にも危害を加えずにただ話をしに来ただけでしょう?なら殺す意味も捕らえる理由もありません。そんなことをすれば寧ろより険悪になって互いにとって良くないでしょうからね…」
「そうかもしれぬな…相分かった、もう帰るとしよう。目的は叶わなかったが、有意義な時間だったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って声の主の気配は消えた
程なくしてグラッドが戻って来たので結果を聞いたところ、どうやらゲックが暗躍してサモナイト石を人工的に製作していたらしい
ミント曰くこれはとんでもないことであり、過去に人工的に精製に成功した者は一人もいないとのこと
その為に強力な冷却装置が必要でその影響から湖が完全に凍りついていたらしい
装置は完全に破壊したのでもう大丈夫であることと、魚は事前に準備されていたと思われる生簀への避難が完了していたので無事に手に入ったことを聞いた
それと帝国からの護送隊は明日来るとのことなので明日の夜には宿屋に戻れそうだ
早くフェアのご飯が食べたい……