共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~   作:フォルカー・シュッツェン

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というわけでお待たせしました!
……え、待ってない?

待っててくださいお願いします何でもs...


第二十七話 高潔なる騎士

 ……妙だ

自室で椅子に座りながら私は1人そう思う。シンゲンを宿屋に連れ帰り、飯を食わせた後私達は旅をして来たという彼にとある質問をした。その内容は『最後の御使いを見かけなかったか』である。どうやら最後の御使い、御使いの長はアロエリの兄らしく有翼亜人という目立つ容姿をしていることから各地を旅して来たシンゲンが見聞きしている可能性に掛けてのことだ

 

 しかし彼の返答は「知らない」であった。これまでのことから考えて御使いには追手が掛かっているとみて間違いはないだろう。そうなると彼はその追手と戦っているはずなのだ。それなのに旅人の耳にすら入らないのは奇妙としか言えない……既に敵の手に堕ちたか……いや、それならその身柄を利用すれば良いはずだ。レンドラー辺りは嫌がるだろうが敵の大将は殺し屋を手駒にしているのだ、慈悲など向けては来ないだろう。あるいは……

 

「ん?この音は……」

 

 思案に耽っていた私の耳が聞き馴染みのある音を拾う。鎧が擦れ、土を叩く音。言うまでもなく剣の軍団の襲来だ。どうやらこちらの本拠地となっている宿屋の位置を特定したらしい……殺し屋共の仕業か。武器としているナイフを脚のシースから抜き、調子を確かめつつ椅子から立ち上がる。ナイフをシースに戻したタイミングで部屋の扉を開け放ちながらセイロンが入って来た

 

「アウル!その様子を見るに気づいておるようだな」

 

「ええ、剣の軍団ですね。他には?」

 

 私の問いにセイロンは首を横に振った

 

「アロエリが空から偵察したが見当たらなかったそうだ。何か不安要素か?」

 

「いえ、見当たらなかったのなら構いません。今はレンドラー達に集中しましょう」

 

 私の言葉に頷いたセイロンと共に表に出た私達はレンドラーと対峙してるフェア達と合流した

 

「役者は揃ったようだな。こうして相見えるのは久方振りだな、アウルよ。待ちわびたぞ」

 

「私は出来れば会いたくはなかったですがね。それはそうと一つ聞かせなさい、ここを特定したのは誰です?」

 

「ふんっ、‘そういうこと’に長けた者達がいるだけだ。今はまだ情報収集しかさせてはいないがな。……だが、いつまでもその状態でいられる保障は出来んがな」

 

 レンドラーの言葉にフェア達が少し怯む。殺し屋が戦いに加わってくる……それは彼女達には重いだろう、そうなったら私が対処しなくては

 

「そうなる前に、早く竜の子をこちらに渡すのだ!」

 

「出来るもんですか!ミルリーフは必ず守るわ!何があってもね!!!」

 

「ママ……」

 

 フェアが見事に啖呵を切った。なら私はそんな彼女の想いを守るために裏表関係なく最大限協力するだけだ。彼女の言葉を聞いてお互いに戦う覚悟を決めたのか場の緊張感が高まっていく。やはり戦いは避けられないか……仕方がない、今は剣の軍団を——―レンドラーを倒そう

 

「ふふ、ふはははははははは!その心意気、最後まで貫けるものか……見せてもらおうか!!!」

 

 レンドラーの裂帛の気合と共に剣の軍団の面々がそれぞれ武器を手に取り構え、それに呼応するようにこちらも皆が武器を構えた。レンドラーの意識は完全に私一人に向いている、タイマン勝負以外眼中にないらしい。やれやれ……竜の子が欲しいのか私と戦いたいのかどっちなんだ。仕方がない、相手をしよう。そう決めた私はレンドラーへ向けて1歩踏み出す

 

「ふ、流石はアウルだ。吾輩の誘いに乗ってくれたか」

 

「不本意ではありますが、ね……それにしても今日は斧ではないのですね」

 

 そう、今回レンドラーはあの巨大な戦斧ではなく大剣を持っていた。その大剣も常人では持ち上げることも出来なさそうな程のものであるのだが……

 

「まぁ、な。折角貴公と死合えるのだから万全の状態で挑みたかったが……生憎整備中なのだ」

 

「なるほど。それなら手加減した方が良いですか?」

 

 答えは分かりきっているが、敢えて含み笑いをしながら私はそう言った。当然彼にもその意図は伝わったらしく、口の端を持ち上げて笑った

 

「ははは、思っていたよりノリが良いではないか。だが笑いのセンスはイマイチらしい」

 

「おや、それなりに自信はあったのですが……残念です」

 

「心にもないことを。まぁよいわ、それよりもそろそろ……始めるぞ」

 

 そう言うとレンドラーは長大な大剣を鞘から抜き放った。どうやら時間稼ぎもここまでらしい。仕方がないと覚悟を決めた私は素手のまま彼に対する。そんな私の様子にレンドラーは疑問を呈してきた

 

「貴公は武器を使わぬのか?」

 

「生憎とこれが私の1番得意なスタイルでしてね。何か不満でも?」

 

「いや、手加減するつもりなのかとな。それが最も強いのなら何も言うまい……行くぞ!」

 

 レンドラーが大剣を両手で構えながら突進してきた。構え方は脇構えに似ていることから横薙ぎしてくると予測、しかし彼はあの戦斧をまるで手足のように扱っていたことを鑑みると油断は禁物だ。私は動きを先読みしつつも決め付けることはせず、自然体で待ち構える。するとレンドラーは大剣をいきなり下段に構え直した直後に突き上げてきた。自然体で構えていた私はその突きに対して対応し、お返しに蹴りを放つが左腕を挟み込まれて防がれてしまった。前方への踏み込みもしていなかったので鎧の上からダメージを与えることは叶わなかったのだ

 

「あれを避けるとは、流石だな」

 

「それはどうも」

 

 彼を相手に戦闘中の時間稼ぎなどしている暇はない。会話に意識が多少なりとも削がれたのを好機と見て私は踏み込む。一足飛びで懐へと入り込みまずは大剣を封じる。ここまで接近されては大型武器では分が悪い

 

「っ!?」

 

 しかしそれでも流石は将軍といったところか。意識を刈り取る為に顔へ突き出した私の左手を身をよじることで回避した。だが、それこそこちらの狙いだ。私は右腕をレンドラーの胸へ向かって伸ばしつつ脚から腰、そして背中から肩へと変則的な力のかけ方をして捻じる。そのまま避けた彼の左胸の辺りに指先を整えた右掌を当てて力を流し込んでいく

 

「ぬぐぅっ……!!」

 

 中国拳法の基礎、発勁。その中でも体内へのダメージが大きい浸透勁だ。鎧の上からとはいえこれならしっかりとダメージが通るだろう。その証拠にレンドラーは大きく呻き後退りながら胸を抑えている。このチャンスを逃す手はない、私はそのまま彼へ接近してハイキックを叩き込もうとした

 

「ぬおおおおおお!」

 

「っ!?」

 

 今度はこちらが驚く番だった。あの長大な大剣をレンドラーはあろうことか右腕1本で正確にこちらへ向かって振り抜いて来たのだ。横薙ぎに振られたそれの上に手を付き、跳躍しながら身体を回転させることで回避。そのまま全力で鉄山靠を放つことで彼の身体を大きく吹き飛ばす。そこそこの距離を飛んだ彼の身体は地面に打ち付けられ、息が詰まったのが見て取れる。これで沈んでくれれば楽なのだが……

 

「ぬ、ぐぅぅ……流石、だな。鎧ごと吹き飛ばされるなど、初めての経験、だぞ」

 

「まだ立ち上がりますか……貴方本当に人間ですか?」

 

 レンドラーは立ち上がった。大剣を支えにしながらではあるがそれでも立ち上がり、言葉さえ放ったのだ。並外れたタフネスである、私も男に産まれればあれくらいになれたのだろうか……などと邪推しかけるも、すぐに意識を切り替える。彼は両手で柄を握っており、なんとか立っているという風貌だ。普通ならこの隙に畳み掛けるのが定石なのだが……油断は禁物だろう。ドイツの古流剣術にはあの体勢から一瞬で斬り上げてくる技がある、彼ほどの遣い手であればそれくらいしてきても不思議はない。冷静に観察し、状態を把握する

 

「ふ、冷静だな。まだ我に一撃を放つ余力があることを見抜いたか」

 

「やはりそうでしたか。しかしこれで貴方の勝ち目はほぼ無くなりました、降参しては?」

 

 レンドラーは私の言葉を鼻で笑った

 

「ふんっ、吾輩を甘く見るなよ?このような窮地、幾らでも切り抜けて来たわ。それに……1度挑んだ戦いから逃げるなど、騎士の風上にもおけんわ!!」

 

 裂帛の気合と共に大剣を青眼に構え、こちらを見据えてくる。その眼はどこまでも澄み切っていて、確かな信念の色をしていた。これ程までに高潔な騎士が何故竜の子を狙う組織にいるのか、答えは簡単だ。それだけの忠誠を捧げるに足る主君がいるのだろう。彼の真っ直ぐな姿を見てその主君に興味が湧いた、機会があれば話をしてみたいものだ。だが、その前に……

 

「……分かりました。では」

 

「ああ、この戦いの決着を付けよう」

 

 彼を、倒す

 

 私は呼吸を整えて構える。どこまでも真っ直ぐな彼に敬意を表して真正面から倒すことにしよう。暫しの間膠着した私達だが、私の左後方から剣が弾かれ宙を舞う音が聞こえる。恐らくフェアが弾き飛ばしたのだろう。その剣が地面に落ちる音がした瞬間、それを合図とした私達は同時に突進した

 

「つぇりゃああああああ!!!」

 

 レンドラーは全ての力を振り絞って大剣を振り上げ、大上段からの叩きつけを放ってくる。予想通りだ。それを見越していた私は予め内側に捻っていた右腕を大剣の横を滑らせるように突き出しながら捻れを元に戻していく

 

「っ!?」

 

 レンドラーの目が見開かれる。無理もない、私を真っ二つにする軌道を描いていた大剣が横に大きくズレ、私の開かれた右足よりも右側にまで動いたのだ。かつての日本で刀を持った武士に素手で対抗する為に開発された、古流空手の基本技である。大剣を逸らすと同時に突き出した拳はそのまま吸い込まれるように彼の顔面へと叩き込まれた

 

「ごはっ……!!」

 

 明らかに鼻が折れたレンドラーが鼻血を散らしながら後ろに倒れ込む。彼に起き上がる様子はない、私の勝ちだ。手当をしようかとも思ったが、既に複数の部下がレンドラーの元へ向かって助け起こしている。彼等は歴戦の騎士だ、手当の心得くらい十分にあるだろう。そう考えた私はフェア達と合流すべく踵を返そうとしたが、前方から仇を取らんとばかりに武器を構える剣の軍団の面々が迫って来ている。これで彼女達と合流しようと後退すれば挟撃されてしまう、仕方がないのでこのまま前進して逆に彼らを挟撃することにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆・☆・☆・☆・☆フェア視点☆・☆・☆・☆・☆

 

「たりゃああああ!!」

 

 目の前にいる兵士が持っている剣を真上に弾き上げる。すかさずグラットお兄ちゃんが槍の石突で側頭部を叩いて地面に転がした。レンドラーはアウルさんが引き受けてくれるから私達は剣の軍団の兵士達だけに集中出来てる。勿論こいつらも一人一人が決して油断ならない猛者なんだけど、それでもレンドラーに比べれば脅威度は低いからね

 

「フェア!レンドラーを倒したアウルがそのまま前進している。挟撃出来るぞ!」

 

 槍兵が突き出してきた槍を剣で横に逸らしてると空中から矢を射つつ戦況を確認していたアロエリから報告があった。あのレンドラーを1人で倒すなんて流石……と感心してばかりもいられないね

 

「了解!みんな、畳み掛けるよ!」

 

「「「「応っ!」」」」

 私の言葉に皆が応じてくれた。そのまま私達は一気呵成に攻めて、その勢いに押され始めた頃を狙ってアウルさんが後ろから思いっ切り暴れてくれたお陰であっけなく勝負はついた。私達は確実に強くなってる、それを実感した私はちょっとした高揚感に囚われていた

 

だからなのかな、これで今日の戦いは終わったんだって油断しちゃったのは……まさかあんなことになるなんて

 

「そこまでだ!」

 

 突然響いたその声の先を辿った私達は、そのまま息を呑んだ―――

 

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