共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~ 作:フォルカー・シュッツェン
店から出た私達は坂道を下り、溜池へと着いた
とても澄んでいてきれいな水が溜まっており、街の人々の生活用水となっている
住民の憩いの場ともなっているが、朝日が昇ったばかりのこの時間では人の姿は殆ど見られない
軽く談笑しながら歩いていると向こうから青年が歩いてきた
「いよぅ、悪ガキども!今日も三人お揃いだな。アウルさんもご一緒でしたか」
彼の名前はグラッド
この街の駐在兵士で帝国軍人らしい
帝国と言うのはここリィンバウムにある国の一つだ
他には聖王国と旧王国の二つがあるらしいが旧王国は傀儡戦争と呼ばれる戦争によって実質的な壊滅状態にあるようだ
そして帝国軍人は帝国の有する軍事力であり、陸軍と海軍に分かれている
剣や槍を手に戦う者だけではなく、召喚術を専門とする者達もいる
グラッドは細身だが、陸軍所属の槍を専門とする肉体派だ
今はこの街の駐在兵士として警察のようなことをしている
「悪ガキだなんて酷い言い様じゃないの、グラッド兄ちゃん」
「この街で起こる事件の大半はお前ら絡みなんだぞ?その度に駆り出される俺の身にもなってくれよ」
「あ、あれはリシェルが勝手に…!」
「連帯責任だ」
「う…っ」
どうやらここトレイユは平和な街のようだがそれでも事件は起こるらしい
しかしそれがこの三人の起こす悪戯のようなもので大半を占めるというのだから世話がない
「ははは…グラッドさんは朝の見回りですか?」
「ええ、そうですね。アウルさんはフェアの手伝いですか?」
「はい、行き倒れてた私を介抱してくれた上に居候させて貰っていますからね。何もしないわけにはいきませんよ」
「それは…そうですよね。しかしアウルさんも大変ですよね、旅の途中で行き倒れた上に記憶までないとは…」
そう、私はフェア、リシェル、ルシアンの三人以外には自身の出自に関してのことを話していない
何故なら名もなき世界からの召喚獣は貴重な研究対象であり、心無い召喚士達にそれが知られれば捕らえられ研究されるのが目に見えているからだ
その為他の人には旅人であり、旅の途中で行き倒れていてそこをフェアに拾われた、ということにしている
記憶に関しては過去を詮索されないようにする為の詭弁だ
カバーストーリーを用意しても良いのだが単純に面倒なのと余程作り込まないと矛盾が生じてそこからバレてしまう危険性がある
「にしてもグラッドさんも大変よねぇ~、毎朝毎朝飽きもせずこうして見回りしなきゃいけないなんて」
「一日三回の見回りは駐在兵士の日課だからな!それにこうして見回ることで平和が保たれるんなら良いことじゃないか」
「そうよ、リシェル。人生平和が一番!こつこつと真っ当に生きる、これに尽きるよ」
「こだわりだもんねぇ、フェアさんの」
「分かってないわね、乙女には刺激が必要なのよ。じゃないとすぐに枯れちゃっておばさんになっちゃうわ!」
「だからって毎度毎度事件を起こすのは勘弁してくれよ…いつも謝ってばかりのポムニットさんが可哀想だろ」
「うぅ…」
リシェルは言葉に詰まった
ポムニットとはブロンクス家のメイドでリシェルとルシアンの教育係でもある
そのせいか何か事件を起こす度に方々に頭を下げて回っているらしい
確かに不憫である
「うううぅ…もう知らないっ!行くわよ、フェア!!」
「わ、ちょっと…腕を引っ張らないでよぉー!」
リシェルはフェアの腕を引いて先にずかずかと歩いて行ってしまった
後に残された私とルシアンは苦笑いを浮かべるしかなかった
「うはぁ…怒らせちまったか」
「すいません、グラッドさん。姉さんも分かってるんですけど…」
「ははは…良いさ、あの年頃の女の子は何かと難しいもんだ。俺の妹も同じくらいだから分かるさ」
「ですがいつまでもあのままというわけにも…」
「まぁそうですけどね…」
「おーい!置いてくわよー!!」
「ほら、呼んでるし行ってやりな!アウルさん、あいつらをよろしくお願いします」
「ええ、任せてください」
そう言って私達はフェアとリシェルの後を追った
二人と合流した私達はそのまま目的地である家に向かった
ちょっとした坂を登るとそこにはとある一軒家がある
その家には立派な菜園があり、様々な野菜が育てられている
蒼の派閥という組織に属している召喚士であるミント・ジュレップの家だ
蒼の派閥というのは召喚士で構成された組織であり、最も大きな組織の一つでもある
召喚術を研究し、世の中の真理を解き明かすことを目的に活動している組織だ
そしてミントは異世界の野菜を研究しており、フェアはその研究成果である新鮮な野菜を貰って食堂で使っている
私とブロンクス姉弟はその野菜を運ぶ手伝いをするのだ
「おはよう、ミントお姉ちゃん!今日の分の野菜もらいにきたよ」
「おはよう、三人とも。アウルさんもおはようございます」
「おはようございます」
「へへへ、オヤカタもおっはよー♪」
「ムイッ!」
『オヤカタ』というのはミントの召喚した護衛獣で『テテ』という種類の小型の幻獣だ
庭の警邏をしていて『ムイ』と鳴く
ミントはオヤカタと完全に意思疎通をすることが出来るがこれは召喚術に通訳の術のようなものが組み込まれている為である
それもそのはず、召喚しても意思疎通が出来なければ何の指示もすることが出来ないので意味がない
フェアやリシェル、ルシアンもオヤカタと軽い意思疎通が出来るがこれは長年の触れ合いの賜物らしい
ちなみに護衛獣とは文字通り護衛をする為に召喚された召喚獣で、召喚主に付き添いその身辺の警護をするのが本来の目的である
「お野菜はいつものところに置いてるからね」
「はーい、行きましょアウルさん」
「ええ」
私達は家の裏側に回り、そこで冷やしてある野菜を持ってきた野菜籠に入れていく
私はかなり大きな籠三つに野菜を傷付かないように詰めていくと一つを頭に乗せ、残りの二つを両手に一つずつ持った
「相変わらず…なんていうか、圧巻よね」
「うん、そうだね…力もそうだけどバランス感覚がすごいよね」
「あれは私にも真似出来ないしね」
三人はそれを見て苦笑しながら好き勝手なことを言う
初めて見た時は開いた口が塞がらないという状態になっていた
ミントなんて「へ????」という顔になって暫く放心していて少し面白かった
「うーん、今日の分は特に美味しそうね!」
籠に詰めた野菜の一つを手に取り、フェアが言う
その顔は笑顔だ
「でしょでしょ?自分でも大成功かもって思ってたんだ~」
そう返すミントの顔も笑顔で嬉しそうなのが伝わってくる
「今回は何を変えたの?」
「うーん、特に何かを変えたってわけじゃなくて土を研究した成果が出てきたって感じかなぁ」
その会話を聞いていたルシアンが口を開く
「ミントさんってほんとに土いじりが好きだよね」
「そりゃそうでしょ、だってそれが仕事なんだもの」
リシェルがそう返すがミントがやんわりと否定とも肯定ともつかないことをいう
「仕事半分、趣味半分ってとこかしらねぇ。好きだからこそ続けられるって部分はあるかも」
「なるほど…」
「あーあ、同じ召喚士なのにあたしのパパとは全然違うんだもんなぁ。口を開けばお金だ利益だって…ほんっとサイテー!」
「まぁまぁ…リシェルちゃんのお父さんが属しているのは金の派閥、お金を稼ぐことが目的だから仕方がないよ」
金の派閥はミントの言った通り金銭を稼ぐことを目的とした召喚士の組織で、蒼の派閥と同じく最も大きな組織の一つである
いうなれば蒼の派閥は研究機関であり、金の派閥は企業だ
「あたしはキライだもん、お金の計算ばっかしててさ…離れて暮らしてるママのことなんてこれっぽっちも考えてないし……」
「リシェルちゃん…」
リシェルは暗い声で俯き、そう言った
それに対してミントはなんと声をかけていいのか分からず名前を呼ぶことしか出来ない
リシェルは天真爛漫でお転婆な性格をしているが寂しさは感じているのだろう
そのせいか教育係のポムニットに母親の姿を少しだけ重ねて過度に甘えているのかもしれない
「みんなー、なにやってるのー?帰るよーー!」
少し話し込み過ぎたのかその場を少し離れていたフェアから声がかかる
朝の仕込みもあるしこれ以上長居するのも良くないだろう
朝ご飯もまだなのでお腹も空いている
「もうっ!分かってるわよー!」
「さようなら、ミントさん。オヤカタもまたね」
「ムイムイ」
「では、私も失礼しますね。お野菜、いつもありがとうございます」
「いえいえ♪宿のお仕事頑張ってくださいね?」
「ええ、頑張ります!少しでも彼女の負担を軽くしてあげたいですしね」
軽く会釈して来た道を戻る
もちろん頭に乗せた籠も、その中身も落とさない
いつもより多く時間を喰ってしまったこともあり、私達は少し急ぎ足で宿屋へと戻った
店に戻った私は貰ってきた野菜の入った籠をフェアに任せると、店内の掃除を始めた
床、机、椅子、窓などなど様々な個所を綺麗にしていく
ルシアンは観葉植物の植わっている鉢植えや小さいながらも綺麗な花を咲かせている花瓶の手入れを丁寧にしていく
フェアは貰ってきた野菜を種類毎に分けて水場で冷やしておくとそのまま朝ご飯の準備をテキパキと進める
リシェルは……リシェルは椅子にどっかりと座りテーブルを叩いて朝ご飯の催促をしている
手伝いに来たのではないのだろうか?
「ねぇ~ご飯はやくぅ~!」
「はいはい、もうちょっとで出来るから待っててねー」
「もう待てないぃ~お腹ペコペコで死にそう~」
「はい、お待たせ!二人も出来たよー!」
「待ってましたっ!」
「わぁ、美味しそうだなぁ!」
「ほら、アウルさんも早く座って座って!」
「はいはい、今行きますよ。私も正直フェアの料理は他の何を後回しにしてでも食べたいですからね」
「ちょっと、それは言い過ぎだよ…」
フェアは顔を少し赤くして照れている
しかし私の言ったことは言い過ぎでも冗談でもない
フェアの作る料理は今まで食べたどんなものよりも段違いに美味しく、彼女の料理の虜になっていると言っても良かった
こういうのを胃袋を掴まれると言うのだったか
皆が席に着くと、手を合わせて食前の挨拶をする
こういう風習は私のいた世界と似たものが多く、馴染むのに苦はなかった
「「「「いただきます!」」」」
今日の朝食はクロワッサン(自家製)、目玉焼き、野菜スープだ
パンを個人で作るのは凄く大変だし専用の機械もないこの世界ではその苦労はさらに増すにも関わらず、その出来は素晴らしいの一言でサクサクとふわふわが見事に調和を取っていて美味しいどころか噛んでいて楽しいとすら思える
目玉焼きは絶妙な焼き加減で白身は存在感がありつつ、主張が強すぎない
黄身は固焼きよりの半熟で、しっかりとした食感とトロリとした食感が共存している
そして目玉焼きと言えば塩か醤油か、などの議論があるがここではそんなことはまず起きない
何故ならフェア特製のソースがかかっており、これこそが完成された目玉焼きにかけるべきものであると言わざるを得ないほど合っているのだ
野菜スープもこれまた絶品でスープを一口飲めば優しい味わいが口中に広がり、野菜はシャキシャキとした食感を残しつつ柔らかくなっておりとても食べやすい
今でこそ安定した生活が出来るが…幼い頃から極限状態で生き続け、酷い時は虫や木の根すらも食糧とせざるを得なかった私はこのフェアの料理に惚れ込んでしまっている
そのせいか私は一度フェアの料理を食べ始めると夢中になってしまい黙々と食べ続けてしまう
「相変わらず凄い食べっぷりよねー。こっちの声も聞こえないくらい夢中になっちゃってまぁ」
「フェアさんの料理とっても美味しいもんねぇ。街の人達もワザワザここまで食べに来るくらいだし」
「もうっ、やめてよ。でもアウルさんの食べてる姿って見てて嬉しくなるから私も作り甲斐があるよ」
褒められたフェアは照れつつ満更でない様子だ
それから完全に完食した私は皆の分の食器等の後片付けを引き受ける
これも毎朝の恒例行事のようなものだ
そのまま仕事の準備はしつつもゆったりとした朝の時間を過ごしたかったのだが…それはバタバタという足音と共に破られるのだった
リィンバウムや各キャラの紹介をするコーナーというか話を設けた方が良いですか?
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欲しい
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要らない