共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~   作:フォルカー・シュッツェン

5 / 29
第三話 日常②

「見つけましたわよ!!」

 

 扉を勢い良く開けて開口一番大きな声で怒鳴りながら、女性が入ってきた

アウルと同じ紫の長髪に紅い両目をしておりメイド服を着込んだ彼女はブロンクス家のメイド、ポムニットだった 

「げっ…ポムニット……」

 

 その姿を認めたリシェルがゲンナリした様子で呟く

リシェル自身はポムニットのことが好きだし容赦なく甘えていたりするが、今この状況では会いたくはなかった

何故なら今ポムニットは怒っており、こういう時の彼女は口うるさくて敵わないからだ

 

「お二人共、朝早くから御屋敷を抜け出しただけでは飽き足らず他所様で朝ご飯を頂いちゃうとは何事ですか!?特にお嬢様!貴女はいずれブロンクス家の家督を継ぎ当主となられる御方です、その自覚を持って日々を過ごすべきであり────」

 

 そのまま長々と説教をしようとするポムニットを見てリシェルは明らかに嫌な顔をしているしルシアンも困り顔だ

しかしその説教は長くは続かなかった

 

「ですからじでっ────げほっこほっ……」

 

 …噎せたのだ

 

「もう、慣れないことするから…はい、お水」

 

 そう言ってフェアが背中を擦りながらコップに入った水を渡す

それを受け取ったポムニットは両手でコップを持ち、こんな状況にも関わらず上品に水を飲んだ

流石というべきなのだろうか

 

「はぁ〜…ありがとうございます、生き返りましたぁ…」

 

 そうお礼を言ってコップを返した

その顔は穏やかなもので苦しさが消えたことを表していた、のだが

 

「じゃなくって!!」

 

 先程とは一変して顔を顰めると今度はフェアに対して苦言を言い始めた

 

「フェアさん、貴女もどうして甘やかしてしまうのですか!」

 

「え、わたし!?」

 

「そうです、貴女から言っていただければお嬢様もお坊ちゃまも聞いて下さりますのに…このままだとまた旦那様に叱られてしまいます……」

 

 ポムニットの目には涙が溜まっている

彼女も自らの責務と我が子のように面倒を見てきた二人を甘えさせたい気持ちで板挟みになっていて辛いのだろう

その様子を見かねたフェアがリシェルの方を向いた

 

「ねぇ、リシェル?」

 

「…分かったわよ。戻れば良いんでしょ戻れば」

 

 その言葉を聞いたポムニットは少し顔が明るくなり

 

「そうですそうです、今ならまだ旦那様には内緒に─」

 

「私に隠し事とはどういう了見だ、ポムニット!!」

 

 高圧的な声が響き、ポムニットの顔はまた暗くなってしまった

現れたのはテイラー・ブロンクス

ブロンクス家の現当主であり、リシェルとルシアンの父親だ

因みに忘れじの面影亭のオーナーで、フェアの雇い主兼保護者だ

 

「だ、旦那様……」

 

「お前には後でたっぷり説教をしてやる。今はそれよりも───」

 

 テイラーはフェアに向き直ると顔を顰めた

 

「フェア、貴様何様のつまりだ?雇われ店長の分際でうちの娘らに仕事を手伝わせるとは」

 

「それは違うわ!」

 

「そうだよ、父さん!僕達が自分から手伝うって─」

 

「お前達は黙ってなさい!!」

 

 リシェルとルシアンが反論するが、テイラーの一声により退けられる

 

「私は今こやつの店長としての心構えを問うておるのだ。フェアよ、貴様と私の娘達が幼馴染みなのは不本意ながらも認めよう。しかし、貴様に店を任せる時に私は言ったはずだ。大人として毅然とした態度を持つようにと。そして貴様もそれを了承しただろう」

 

「……すいません」

 

「なんだその態度は。なにか不満があるのか?」

 

「ありません」

 

「…ふんっ、都合の悪いことを言われるとすぐ反抗的な態度を取るのは父親と同じだな」

 

「一緒にしないで!」

 

「…っ」

 

 父親のことを言われた瞬間、フェアが激昂した

その怒気にテイラーも少し気圧される

 

「あんな連絡も寄越さない無責任な奴とは違う!」

 

「…まぁよかろう。そこまで言うなら働きによって証明してみせるのだ。帰るぞ、リシェル、ルシアン」

 

 そう言うとテイラーは店を出ていった

慌ててポムニットが後に続く

 

「フェア…」

 

「ほら、行きなよ。また怒られちゃうよ?」

 

「ごめん…」

 

「いいの、気にしないで。リシェルは何も悪くないんだから」

 

「うん…」

 

 暗い顔をしたリシェルをフェアが慰めるが、その表情が晴れることはなかった

フェアに嫌な思いをさせてしまった原因が自分にもあると思い、責任を感じているのだろう

しかしリシェルのことだ、少しすれば元気になってまた来るに違いない

 

「はぁ…」

 

「お疲れ様です、フェア」

 

「うん、ありがと…」

 

 机に突っ伏して溜息を吐くフェアは疲れただけではなく、軽い自己嫌悪の情も含まれているように感じる

おそらく父親のことを言われた途端冷静さを失った自分を恥じているのだろう

落ち着きのある大人になりたい、いやならなければならない彼女にとって先程の激昂は恥ずべきものなのだ

テイラーとのあのやり取りは私も何度か見ていて、最初はテイラーのあまりの言い草に苦言を呈したのだがフェアによって止められてしまって以来はしないようにしている

 

 ここまでフェアに影響を与えている父親…ケンタロウ氏はクズ野郎として各地で有名である

冒険者をしており、バカみたいに強い戦闘能力を以て様々な事件や紛争に介入して滅茶苦茶にしてきたらしい

それもアフターケア等を行うことは一切なかったため、場合によっては相当恨まれている

そんな彼には子供が二人いる

一人はフェア、そしてもう一人がフェアの妹のエリカだ

妹のエリカは身体が弱い上に謎の病に冒されており、そのままでは死ぬことは明らかだった

だからケンタロウ氏はエリカの病を治す方法を見つける為に妹を連れて旅に出た

ここまでは良い、自分の娘を助けたいと思い行動に移すのは当然のことであるし何の問題もありはしない

問題なのは何故かその時にフェアを連れて行かなかったことだ

そのせいでフェアは5歳にしてこの広い家にたった一人で残されることとなり、とても寂しい思いをすることになった

普通に考えれば妹の病気の治療の為に姉を残したまま旅に出る、なんてことは有り得ないだろう

ここは異世界だから私の常識が全て通じる訳では無いが、この感覚はこの世界でも同じようで彼の行動を理解出来る者はいないらしい

そしてフェアはケンタロウ氏と交流のあったテイラーによって「一応」保護されることとなった

しかしテイラーもケンタロウ氏によって多大に迷惑を掛けられたらしく、フェアへの態度は厳しいものがあった

更にはケンタロウ氏によって不利益を被った者による報復が多々あったのだ

ケンタロウ氏への恨みを本人ではなくその娘に返すなど許されることではない上にそんなことをしたところで意味は無い

だがそんなことを省みることが出来ないほどに憤慨しているのだ、ケンタロウ氏の被害者は

テイラーの介入とフェアの戦闘能力によって大事には至らなかったようだがフェアの心への負担は凄まじいものがあっただろう

フェアはケンタロウ氏の血を濃く受け継いでいる上にケンタロウ氏によって物心着く前から戦い方を叩き込まれていたため既にある程度完成された強さを持っている

その修行も常軌を逸しており…例えば幼いフェアを滝の前まで連れて行くと剣を抜いた

そのまま離れた位置から剣を振るって滝をぶった斬ったあと

 

 

「さぁ、お前もやってみろ」

 

 と言ってやらせたり…話に聞く限り滅茶苦茶にも程がある

私もやろうと思えばやれると思うが、剣を振るうのに慣れてきたばかり、それも4歳児にそんなこと出来るわけがないだろう

普通なら剣を振るえるようになれば次はその速度、正確性、持続性の強化を行う

それから技を教えて磨き、駆け引きを教えていくものだ

いきなり滝割りをやらせるなど…はっきり言って修行を異常に急ぎすぎているとしか思えない

まるで教えられる時間がもうないことを分かっていたような…いや、考えたところでどうしようもない

結果としてフェアは幼い頃から一人で生きるしかなくなりそのせいで多大なストレスに晒され、彼女が無理にでも大人びようとしなければならない状況になったのに違いはない

ケンタロウ氏に直接会ったことはないし、言葉も交わしていないので実際にどんな人物か断定することは出来ないが話に聞く全ての事柄が悪口でしかないのだ

マトモな人物ではないと判断するには十分過ぎる

 

「はぁ…落ち込んでても仕方ないか。開店の準備をしよう、アウルさん!」

 

「…そうですね。では私は外の整備へ向かいますね」

 

「うん、お願いね」

 

 そう言ってフェアは立ち上がり、厨房へと入っていく

私は外に出て店までの道の整備を始めた

はっきり言ってこの店は立地が恐ろしく悪い

ここトレイユは山に沿うように開発されておりその影響か坂道が多めだ

そして忘れじの面影亭があるのはそんなトレイユの中でも一番高所に位置しており、訪れる為にはそこそこ長い坂道を登らなくてはならない

街の入口や中心は栄えていて宿や飲食店も豊富にあるためわざわざここまで登ろうとは思わないだろう

それにも関わらずこの店が一定の収入を得ており、黒字の結果を出しているのは偏にフェアの料理が美味しすぎるのが原因である

しかしそれでもこの坂道は客の気持ちを店から遠ざけるのに十分だ

そこで私は毎日少しずつではあるがこの坂道の整備を行っている

許可はテイラーから貰った

一人でするしかないため作業の進捗は順調とは言えないが、それでも効果は出ているらしく客足が徐々に増えてきたとフェアは笑顔で言ってくれた

…疲れた笑顔ではあったが

っと、そんな事を考えている時間はない

暫くすれば開店時刻となりそうなると店は客で溢れかえり、私もホール兼デシャップ兼バッシング兼ラウンド兼三番チェッカーとして働かなければならない

フェアは厨房に籠ってひたすら料理を作り続けるが私が来る前はこれらの仕事も一人でこなしていたとのこと

大変なんていうレベルではない

ともかく時間もない私はせっせと道の整備に取り掛かるのだった

リィンバウムや各キャラの紹介をするコーナーというか話を設けた方が良いですか?

  • 欲しい
  • 要らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。