共生の物語 ~屍人と響界種と守護竜と~   作:フォルカー・シュッツェン

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第六話 変わりゆく日々

「いったあああぁぁぁぁあああぁぁぁあああああああいぃ!?」

 

「んぅ!?」

 

 翌朝、私は凄まじい叫び声で目を覚ました

フェアの声であるのは間違いないのだが、なんなんだあの絶叫は…

もしかしたら窮地かもしれない

昨日は結局あの竜の子を連れて帰ってフェアと一緒の部屋で寝かせた

その竜の子の仕業か、もしくは敵が来たか…恐らくは前者だ

いくら寝てても敵意のある者の接近に気付かない訳がないし、もし私に気付かせないほどの実力者ならそもそもフェアが声をあげることも出来ないほど鮮やかに殺して竜の子を奪っていくだろう

だからフェアは無事…と考えて良いだろうが、そしたら今度は何があったのか気になる

万が一にも緊急事態かもしれないのでタンクトップとジャージというダラしない姿を気にせずフェアの部屋へ向かった

フェアの部屋の前まで来るとフェアが部屋から出てくるところだった

 

「あ、アウルさ〜ん!?」

 

「おぉっと…ど、どうしたのですか?」

 

 部屋から出たフェアが私を認めるとしがみついて来る

流石に予期出来てなかった私は驚きつつも受け止めた

 

「な、なんかね?なんかね?起きたら竜の子がいなくてね?さらになんか知らない子がいてね?ものすっごい力で噛まれて…」

 

「落ち着きなさい」

 

「ひゃっ…!」

 

 明らかにパニックになっていたので両手で頬を摘んで軽く伸ばした

ん、ぷにぷにしてて中々触り心地が良い

暫く摘んで遊んでいたらフェアから抗議の目線を感じたので離した

 

「落ち着きましたか?」

 

「う、うん…落ち着いたけどなんか恥ずかしい。私の顔で遊ばないでよ」

 

 フェアが批難してくるがそんな頬をぷっくり膨らませながらだと可愛いだけだ

これは中々に弄り甲斐が…っとそんなことを言ってる場合ではなかった

 

「それで、何があったのです?」

 

「あ、うん…えっとね」

 

 そう言ってフェアは難しい顔をしながら話し始めた

 

「昨日はあの後竜の子を連れて帰って来て取り敢えず私と一緒に寝たでしょ?それで朝起きたら、その…知らない女の子がいて…思いっきり腕を噛まれたの」

 

「ふむ…」

 

「あ、その目は信じてないでしょ」

 

「そうですね…少し突拍子も無さすぎるのでこの目で見ないと信じられないですね」

 

「それもそっか。じゃあ、開けるよ…」

 

 取り敢えず部屋を見て確かめることにした私達はフェアの部屋へと入った

そして布団を捲ると…そこに居たのは紛れもなく昨日

拾った竜の子だった

 

「……。」

 

「竜の子、ですね」

 

「ほ、ほんとだよ?本当にさっきは知らない女の子がいて思いっきり…わひゃっ」

 

「落ち着いて下さい」

 

 

 再びパニックになりかけたフェアの両頬を今度は片手で掴み、中央に寄せる

うむ、やはり触り心地が良い

少し堪能してから離すとフェアは「うぅ〜…」と唸った

 

「今ある事実を並べると、フェアは先程見知らぬ女の子に腕を噛まれた。その歯形も残っている。しかしここには竜の子しか居らず、その女の子の姿は見当たらない…と」

 

「アウルさんはどう考えてるの?」

 

「可能性としては三つ。一つ目は単純にフェアが寝惚けていた可能性。現状を見るとこれが一番有り得そうなことです」

 

「でも…」

 

「分かってますよ。あくまでも可能性の話です。二つ目に何処かから見知らぬ召喚獣が侵入して噛むだけ噛んで出ていった可能性。この場合だと霊界の召喚獣…特に吸血鬼の類の仕業である可能性が高いですね。とは言えフェアに何の症状も出ていないため確率的には低いでしょう」

 

「な、なるほど…」

 

「最後に三つ目。これも確率的には低いですが…幻術の類をこの子が使った可能性。それによってフェアにはこの子が人間に見えた、と」

 

「そんなことこの子に出来るの?」

 

「昨日のリシェルの話を聞く限りでは出来ないこともなさそうです」

 

 竜とは召喚術に於ける永遠のテーマでもあり、研究が殆ど進んでいない分野であるらしい

何でも高等な竜は人間より遥かに高い知能と魔力を備えており、捕獲することは疎かその姿を見ることすら叶わないというのだ

低級の竜であれば獣属性の召喚術で呼び出すことは可能のようだが、先日この子を手に入れるためにあんな武装した輩が襲ってきたことを考えるとこの子は高等な竜なのだろう

そして研究の進んでいない、何も分かっていない高等な竜であれば人智を超えたことをやってのけても不思議はない…というのが三つ目の可能性の根拠である

あくまでも推測に過ぎないが…

 

「そっか、そう考えることも…」

 

「おーい!フェア、アウルさーん。無事ですか〜!」

 

 外から大きな声が聞こえてきた

この声はグラッドのものだろうか

恐らくは先程の大声を聞いて駆けつけて来たのだろう

私達は玄関を出てグラッドと対面した

 

「おはよう、グラッド兄ちゃん」

 

「おはようございます」

 

「おう、おはようフェア。それにアウ…うおっ!?」

 

 私を見たグラッドが何やら動揺した

何故そうなるのか分からない私を見たフェアが慌てた様子で

 

「ちょっ、アウルさん!格好が…何か羽織ってきて!!」

 

「ん?あぁ…」

 

 と言ったことで把握した

今の私は下はジャージを履いているが上はタンクトップ一枚だ

カップが付いたものとはいえ、かなり無防備な格好である

どうやらこれが原因のようだ

見るとグラッドは顔を赤くして背けているし、フェアは私を宿の中に戻そうと押してくる

下着や裸なら羞恥心も沸くが、このくらい別に気にならないんだけど…それを言ったところで聞く耳はなさそうだ

仕方なく私は宿に戻って身嗜みを整えてから外に出た

するとフェアはムスッとしていてグラッドは何か可哀想な人を見る目になっていた

 

「アウルさん、こいつも何かと大変ですのでどうか支えてやって下さい。本官もなるべく気にかけるようにしますので」

 

「ちょっと、私は大丈夫だってば!」

 

「大丈夫じゃない奴は皆そう言うんだよ。じゃあな、仕事熱心なのも良いけどちゃんと休みも取れよ」

 

 そう言ってグラッドは爽やかな笑みで去っていった

…私の返事も聞かずに去るのはどうなのだろう

それは良いとして何があったのかフェアに聞くと、どうやら今朝の大声のことを説明する為に竜の子のことも話してしまったらしい

襲ってきた男達のことは伏せたのでそこは追及されなかったが、どうやら信じてもらえずああして心配されてしまったと

まぁ普通すぎるくらい普通の話だが、そんな事を気にしている時間はあまりない

今日もいつもと同じように朝の仕事をしなければならないのだ

その時にミントに少しだけ相談して、必要であれば時間のある昼過ぎ以降にゆっくりと話をしよう

そう決めて私達は野菜を貰うためにミントの家に向かうのだった

 

 

 

 

「おっそいわね、お腹空いちゃったじゃない。何やってたのよ?」

 

 ミントの家から宿に戻って来るとリシェルが中に上がり込んで椅子に座っていた

勝手に上がっておいて遅いと言い、さらにご飯の催促とは…相変わらず図々しい娘だ

だが不思議と不快に感じない

 

「ちょっと色々あってね…ルシアンは?」

 

「あの子なら二階の掃除とベッドメイキングやってるわ。ほんとマメよねぇ」

 

「そんな事も出来たんですね、彼は」

 

 私は彼の器用さに感心すると同時にそれが原因で姉にこき使われるのかもしれないという憐憫の思いを感じた

ここだけ聞くとリシェルが凄く嫌な奴に思えるが、決してそのようなことは無い

人を気遣う心を持っているし、何よりルシアンのフェアへの気持ちに気付いて(というかバレバレ)いてなんとかフェアと良い仲にさせてあげようと奔走していたりもする

それにフェアやルシアンもリシェルのことを全く嫌っておらず寧ろ大切な友人、姉として快く想っているくらいだ

ただ少しがさつで言い方がキツいところがあるだけで、基本的には所謂「良いやつ」なのだ

その後フェアは料理を始めて私はホールの掃除を、戻ってきたルシアンは花瓶等の手入れといつも通りの作業をこなして朝食を摂る

今朝の朝食はモンティクリフト(フレンチトーストにチーズやベーコン等を挟んで焼いたサンドイッチのようなもの)にキャベツとアンチョビのソテー、そして私の淹れた珈琲だ

モンティクリフトは外はカリッとしていて中はトロトロ、フレンチトーストの甘みにチーズとベーコンの塩味がベストマッチしている

キャベツとアンチョビのソテーも柔らかさとシャキシャキが共存したキャベツの自然な甘さが素晴らしい

そしてそんな甘さがコクの深い珈琲を引き立ててくれる

私は珈琲を淹れるのが得意だ

自分で言うのもあれだが、フェアの作る料理にとても合っていて芳醇な香りが意識を覚醒させると同時に安らぎをも与えてくれる

フェアの作る料理を食べているこの時間は至福の一時であり、何にも替え難い時間だ

因みに竜の子もフェアの料理に夢中になっていて「あんたらなんか似てるわね」とリシェルに半ば呆れられながら言われたのはどうでもいい事である

 

 食べる幸せを思う存分に堪能した私はいつも通り皆の食器の片付けを始めた

デーブルではフェア達が今後どうしていくかを話している

話を聞くに一度ミントの元へ連れて行って獣属性の召喚士(専門は植物なのでどこまで頼りになるかは未知数)としての意見を聞き、方針を固めるようだ

本心では自分達で面倒を見たいようだが、大きくなるとそうもいかないだろうし何より竜の子を拾ったことに対する責任を取ろうとする意思が感じられた

まだ子供だというのに立派なものである

そこらの大人よりも大人だ

しかしそれが親に見捨てられたことによって形成され、そんな幼馴染みをずっと傍で見てきたからこそのものだと思うとやはり不憫だ

そんなことを思っていると気配と共にバタバタと足音が聞こえてきた

この足音は…まずい!

 

「おじゃまいたしま〜す!」

 

「やばっ!ちょっとルシアン、その子を隠しなさい!!」

 

「えぇっ!?急に言われても…あれ?」

 

 私は素早く竜の子を抱き上げると跳躍し、そのまま店内の角の天井に足を突っ張って張り付いた

あまりの行動に一瞬フェア達は呆気に取られたが、意図をすぐに理解して軽く手を合わせてから玄関の方を向いた

因みにリシェルだけはサムズアップだった…どうでもいいか

そして慌ただしい客は姿を現した

紫髪にメイド服、ポムニットだ

 

「やはりこちらにおいででしたわね、お嬢様にお坊ちゃま」

 

「はいはい、言いたいことは分かってるわよ。戻れば良いんでしょ」

 

「分かっているのなら初めから抜け出さないで下さいまし!」

 

「それは無理ね!ポムニットだって分かってるでしょ?」

 

「開き直らないで下さいましっ!!」

 

「わ、悪かったから。もう帰るよ、ポムニットさん」

 

「もうっ……ああ、それとは別に要件が」

 

「要件?」

 

「ええ。フェアさん、実は旦那様がお呼びなのです。お昼のお仕事の後でいらして下さい」

 

「私を?」

 

「どうせまた利益がどうのこうのって難癖付けるつもりよ」

 

「まぁ一応黒字ってだけだし、アウルさんが来てから収益も上がったけど…それでもあの人の満足するレベルでは無いしなぁ」

 

「そう言えばなのですけれど…そのアウルさんはどちらに?先程から姿が見えませんが」

 

「あぁ〜えっとねぇ…ちょっと道の整備に必要なものを調達しに行くって言って出掛けたわよぉ」

 

 リシェル…中々上手い返しだがそんなわざとらしく言ったら怪しすぎるだろう……

ほら、ポムニットも訝しんでるじゃないか

 

「…それならよろしいのですけど。さ、お嬢様、お坊ちゃま」

 

「分かってるわ。それじゃ、またねフェア!」

 

「朝ご飯ご馳走様、フェアさん!」

 

「それでは、失礼致しますわ」

 

 ふぅ、やっと行ったか

 

「もう降りてきて良いよ、アウルさん」

 

「そうですね。よっと…」

 

「相変わらず凄い身体能力だね…どうやったらそんなになれるの?」

 

「うーん、産まれてからずっと戦いの中で生きてきましたからね。そんな環境で過ごせば誰でもこうなりますよ」

 

「そんなものなのかな」

 

「そんなものです」

 

 まぁ実際にはなれない者の方が多いが、なれない者は死ぬだけだ

しかし厄介なことになった

昼の仕事が終わったらフェアはテイラーの元へ行かなければならない

その話とやらがどれだけかかるか分からないが、場合によってはミントの所へ行く日をズラさなければならなくなるだろう

そうすると方針を固めるのが遅れる

その遅れが致命傷となり、敵の手に堕ちる可能性もある

些か警戒しすぎだが、しておいて損はない

それに次の戦いが目の前まで迫っているような気がしてならないのだ

こういう時の勘は当たるものである

けれど、そうやって警戒ばかりもしていられない

色々あったがもうすぐ開店の時間だ

さっさと準備をしなければ間に合わなくなるだろう

こうして私は来たる二つの戦いに備えるのだった

 

 

リィンバウムや各キャラの紹介をするコーナーというか話を設けた方が良いですか?

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