時刻は午前10時を回った頃。
小雨が降る瀬戸内海は、霧に覆われていた。
通過する商業船が、薄っすら見えるが、ほとんど視界が遮られている状態で
ほとんどの船は、出航を控えており、沖合いを進む船はほとんどいなかった。
そんな中霧深い瀬戸内海を1隻の中型貨物船が航行していた。
日本国籍の貨物船「しれとこ丸」は、シンガポールで食料品を積み、大阪へ運搬中であった。
船長である大口澄夫(おおぐちすみお)42歳は真っ白な視界に目を凝らし周囲の
状況を把握していく。
大口「、、、両舷20、、、面舵15、、ヨーソロー、、、、全く視界が悪いんじゃあ、大阪の到着も遅れそうだな」
大口は腕時計に目をやった。
霧による視界不良の影響により、当初の通過予定時刻が過ぎており、大口の顔から余裕の表情は微塵もなかった。
遅れた時間を取り戻したい気持ちが強くなり、焦りばかりが積もっていく。
そしてそんな状態の中、船体が大きく揺れた。
前を見ると、大きな波しぶきが上がり、その中に船が突っ込み、大量の海水を被っていたのだ。
周囲の海面は、穏やかにも関わらず、起きた大きな波に大口は困惑を隠せなかった。
大口「なんだ、、今のは?、、、ん?」
ふっと船首の方に目を向けると、人の姿があった。
霧のせいで、表情までは見えないが、その姿からして、女性だろうか、
船首ですっと佇んでいた。
航海長「船首に人?、、」
大口「いや、、、人じゃない、、本船に女性の乗組員は居ないし、、海面から船首まで登れる訳がない、、」
大口の、言葉に航海長は何かを察したかのような表情を浮かべ、再びその人影を注視する。
大口「あれは、、深海棲艦で間違いない、、、、今のうちに救助要請を出しておけ、、」
航海長「了解」
船員「船長、、、、」
船員の恐怖に怯えた声で呼ばれた瞬間背後から、副砲を突きつけられた。
恐る恐る背後を振り向くと、そこには、白色の長い髪を漂わせ、青い瞳でこちらを睨み副砲を向ける
戦艦タ級の姿があった。
タ級「、、、コノ船ハ、、、乗ッ取ッタ、、、殺サレタクナケレバ、私達ノ指示通リニ船ヲ動カセ、、、」
大口「わ、分かった、、、その代り、絶対クルーには、危害を加えないでくれ」
大口は両手を挙げ、指示に従う意志を示した。
タ級「、、、約束シヨウ、、、ダガ、従ワナケレバ殺ス、、、、ソレト、コノ船ノ積荷ハ?」
タ級は、何かを期待しているのだろうか、瞳を輝かせていた。
大口「し、、シンガポールの、お菓子類です、、」
タ級「、、、オカシダト、、、右へ一杯舵ヲトレ、、、」
積荷を知ったタ級は、興奮気味に大口に指示を出した。
船橋にいた他の深海棲艦も、声こそ出さないが、お互いの顔を見合い
喜びを分かち合っていた。
大口「は、、はい、、、面舵いっぱい!」
大口の号令で、「しれとこ丸」の船体が大きく傾き右へと針路を変え、霧へと消えていった。
「しれとこ丸」で起きた事件は、すぐさま呉鎮守府に伝えられた。
そして、提督室に大淀が招集された。
大淀「発生日時本日午前10時30分頃、発生状況としては、日本国籍のコンテナ船しれとこ丸が瀬戸内海上を航行中複数の深海棲艦にジャックされ、行方が分からなくなった模様、現在空自のRF4偵察機が、現場海域周辺を偵察中です」
海崎「そうか、報告ありがとう、、深海棲艦によるジャックともなれば、人質にどのような危害を加えるか想像すらできない、早急な救出が求められるだろう、あらゆる事態を想定した、作戦を検討するぞ」
海崎は、そういうと「しれとこ丸」が消息を絶った海域の海図を広げた。
そこに、数枚の写真を抱えた長門が入ってきた。
長門「航空自衛隊RF4偵察機がしれとこ丸を発見したぞ!、、、偵察写真も届いた。」
机に航空写真が並べられた。
その写真に写るしれとこ丸の状態に海崎も、大淀も目を疑った。
写真には、一つの島が写っており、その砂浜に「しれとこ丸」は乗り上げていたのである。
海崎「これは、、どこの島だ?」
大淀「島の形状から、江ヶ島かと思われます。 江田島の東側にある無人島ですね」
海崎「そうか、しかし厄介だな、見た感じ目的は身代金ではなく、積荷、積荷の略奪が目的だろう、要するに、これは海賊対処か、、よし、速やかに救出作戦を開始するぞ、作戦に際しては、船内へ入り、人質を保護する第1艦隊及び、阻止するために攻撃を仕掛けてくるであろう、敵艦隊から第1艦隊を護衛する第2艦隊を編成し、救出作戦を展開する、長門すまないが、各艦隊の編成を頼む、編成完了次第出撃だ」
長門「了解した」
長門は、編成を行うため部屋を後にした。
事件発生から1時間経過
救助作戦に参加する艦娘達が続々と集まってきた。
長門の選出により選ばれた艦は総勢12隻は、整列し現場における総指揮を執る第2艦隊旗艦戦艦日向の作戦説明を聞いていた。
神通「皆さん、、遅れないようについてきてくださいね!」
作戦説明を聞き終え、救助部隊である、第1艦隊の旗艦を命じられた軽巡洋艦神通は、後ろを振り向き艦隊メンバーの様子を伺った。
そして、編成を完了した艦隊から順次出撃していった。
長門「提督、此度の作戦の編成内容を持ってきたぞ、目を通しておいてくれ」
長門は、そう言うと2枚の資料を机に置いた。
第1艦隊は神通改二以下天龍、秋月、皐月、霞、朝潮の軽巡2隻と4隻の駆逐艦で編成されていた。
救助を行う第1艦隊を護衛する第2艦隊は日向以下伊勢、利根、筑摩、瑞鶴、翔鶴の戦艦2隻と重巡2隻、空母2隻で編成されており、海崎はその資料を見つめると窓の外へと目を向けた。
海崎「頼むぞ、、、」
その頃出撃した第1、第2艦隊は「しれとこ丸」が座礁している島に近づきつつあった。
次第に大きくなっていく島に、ぐっと気を引き締めた時天龍が声を上げた。
天龍「敵艦隊発見!、、3時方向こちらにまっすぐ近づいてくるぜ!」
天龍からの報告を聞いた神通は咄嗟に周囲を見回すと言われた通りの方向から
深海棲艦たちが、陣形を作りこちら側に向かってきていた。
重巡リ級を先頭に、軽巡ツ級、そして駆逐イ級で編成された艦隊で、明らかこちら側の存在を知っているような様子だった。
日向「私らの出番だな、神通達は上陸に専念しろ、敵艦隊は、私ら第2艦隊が引き受ける!」
第2艦隊は、第1艦隊の列から離れ、敵艦隊へと向かっていった。
その動きに気づいた敵艦隊は、主砲を向け戦闘体制をとっていた。
日向「第1艦隊を援護するぞ!、、、各艦、撃ち方はじめ!」
日向の号令を合図に、第2艦隊の艦娘たちが砲撃を開始した。
リ級「、、ック!?、、各艦撃テ!」
日向の放った砲弾を顔面に喰らったリ級は、片手で傷口を押さえつつ主砲を撃ち返す。
見た目とおりの撃ち合いとなり、海が白波を立て、水柱が上がった。
そんな中神通達は、島に上陸し「しれとこ丸」が打ちげられている砂浜へと向かって行った。
砂浜に打ち上げられた「しれとこ丸」の周囲には、空のコンテナが、重なり合うように、
散らばっており、その間に人一人分ほどの隙間が空いて、まるでコンテナの森のようだった。
神通「それにしても、石油タンカーを襲うのではなく、民間のコンテナ船を襲うなんて不思議な事ね、、、一体積荷は何なのかしら、、」
神通は、コンテナに手を当て、足元を見ながら歩いていった。
そして、コンテナの森を抜け、天龍の足が止まった。
秋月「天龍さん?、、どうかしましたか?」
天龍の後ろを歩いていた秋月型駆逐艦1番艦秋月が後ろから覗き込み、不思議そうな表情を浮かべた。
そんな天龍は、耳に手をあて、黙って何かを聞いている様子だった。
皐月「入電じゃないかな?」
天龍「そうか、、、、神通、第2艦隊の日向から入電だ、、、<戦闘終結、、、我ガ艦隊被害甚大二ツキ、即時現場海域ヲ離脱スル、、尚敵警戒部隊ハ壊滅、以後貴隊ノ武運ヲ祈ル>らしいぜ、、」
神通「了解しました、、、さて、どこから船に入るか、、、よね」
目の前に聳える、座礁した「しれとこ丸」の船首を見上げた。
ざっと、ビル5~6階分はあるだろうか、到底登れるような高さじゃなかった。
天龍「海側からも行けなさそうだし、、、穴開けるか?」
皐月「いや、その必要はなさそうだよ、、ほら、これを見てよ」
「しれとこ丸」の左舷側から、木々が生い茂げる森林部に向けて複数の足跡が続いていた。
森林部とはいえ、深海棲艦が、人質を連れて身を隠せれるとは思えない。
それこそ、島内に洞窟でもない限りは、隠れる事は難しいだろう。
神通「とにかく、足跡を辿ってみましょう。、、この先にいる事は間違いないわ」
神通は、そういうと足早に森林の中に入っていった。
霞「艦娘だというのに、山の中で活動だなんて、どこの鎮守府行っても、ここだけよ」
文句を吐きつつも、隊列に遅れないように、後をついていく。
森林に入り、5~60メートル程行った所で、岩肌が露出した箇所にたどり着いた。
そしてその先は、岩の壁があり、ちょうど目の前に、大きな洞窟があった。
秋月「こ、、ここ入るんですか?、、、わ、私たち灯りとか、何も持ってませんけど、、、」
洞窟の中は、真っ暗で奥がどうなっているのか、全く見えなかった。
その暗闇に、秋月をはじめ、天龍たちも若干入るのを躊躇っていた。
神通「えぇ、、敵が隠れるとすれば、この洞窟が一番有力だと思うので、
それに、灯りでしたら、私の探照灯があるから心配いりませんよ、皆さんは絶対私の後を離れず着いてきてくださいね」
神通はそう言うと探照灯で中を照らし、中に入っていった。
洞窟の中は、ひんやりとしていて、天井から水滴が落ちる音と、自分たちの足音以外何も音がしなかった。
皐月「、、、何か出てきそうで怖いよ、、、ひゃう!?」
天井から落ちてきた水滴が、頭に当たった皐月は、思わず声を出してしまった。
秋月「皐月さん大丈夫ですか?」
皐月「う、うん、大丈夫だよ、、、水滴が当たっただけ、、」
神通「大丈夫ですか?、、、逸れないよう、前の人の背中についてくださいね」
神通は、探照灯で前を照らしつつ、前へと進んでいく。
そして、洞窟に入って1時間ほど歩いた所で、奥のほうから、冷たい風が吹き、
その風に混じって、磯の香りが漂ってきた。
神通「この香り、、、」
天龍「海の匂いだな、、、」
神通「この先ね!、、、皆さん!行きますよ!」
神通は、小走りで匂いを辿り進んで行った。
そして、しばらく前に進むと、入り口らしい場所に着いた。
入り口には、明らか人工的に置かれた板があり、隙間から外の明かりが漏れていた。
神通「ここね、、皆さん配置に」
入り口を挟むような配置に着き突入の準備についた。
その頃、
洞窟の中から、神通達が突入する準備を進めている事を知らないタ級達は、
ロープで縛った大口達の前で、積荷のチョコ菓子を食べ合い、人間の嗜好を
楽しんでいた。
その中心には、黒いワンピースを身に纏った戦艦棲姫が鎮座していた。
戦艦棲姫「コレガ、、、人間ノ作リ出ス嗜好ナノネ、、、フフフ増々人間ノ作リ出ス物ワ面白イワネ♪」
口の周りがチョコ塗れになった戦艦棲姫は、無邪気に微笑みチョコの味を堪能している。
その周囲で、タ級達も同じように口の周りをチョコ塗れにしていた。
タ級「コノ、、、間抜ケナライオンノチョコハ、、中々絶品ダナ!、、、旨イ!」
マーライオンの姿を模したチョコレートを一口、また一口と口に運ぶタ級は、満足と言わんばかりに
頬を押さえ、幸せ溢れる笑顔を浮かべる。
そして、呆然と見つめる大口達に視線を向けた。
大口「、、あいつらの目的って、、人間の食べ物を強奪する事だったのだろうか、、、燃料とかの資源ではなく、、」
自分が想像していた深海棲艦とは全く違う姿に拍子抜けした大口は、チョコ菓子を貪るタ級達をただ見つめていた。
そんな時だった、神通の「突入!」との号令を合図に木の板が蹴り倒され、神通たちがなだれ込んで来た。
神通「動かないでください!!」
突入してきた神通達は、チョコ菓子を咥えて固まっている戦艦棲姫達に主砲を向けた。
天龍「動いたりしたら、ドカーン!と吹き飛ばすーー、、ぜ?、、って、お前ら何してんだ?」
突入したはいいものの、あまりに拍子抜けすぎて主砲をゆっくりと下ろした。
自分たちは、民間のコンテナ船が深海棲艦にジャックされて、救助のため、航空自衛隊すら偵察機を上げて、救出作戦に赴いてきたが、いざ来てみれば、深海棲艦が人質に砲口を向けて脅してる訳でもなく、
条件を提示してくるでもなく、積荷のお菓子をただ食べてお互いでシェアしているだけという状況に、
心の底から込み上げてくるモヤモヤとした感情が神通達のオーラとして吹き出てきた。
タ級「オ、、、オマエ達、、、ドウヤッテココヲ!?、、、、」
戦艦棲姫「カ、、、カエリ、、、ナサイ?、、、、ジャ、、、ジャナイト、、人質殺スワヨ?」
神通達の黒いモヤモヤを纏ったオーラを感じたのだろうか、戦艦棲姫達の声はどこか震えて
怯えていた。
神通「制圧開始!!」
天龍達「おーーー!!」
その後の事は言うまでも、「しれとこ丸」を襲撃したタ級と戦艦棲姫は、大破させた末、確保連行された。
大口達は、無事に救出され駆けつけた海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「かが」に乗り、大阪港へと
送られたのだった。
後の呉鎮守府の調べに対し、戦艦棲姫は、自らが民間コンテナ船襲撃の黒幕である事を自供し、
タ級達と共に、呉鎮守府で監禁する事となった。
神通「なんだか、、いつもの作戦の時とは違う疲れ方してしまいましたね、、、」
作戦を終えた神通は、補給のため、食堂に足を運んでいた。
天龍「全くだよな、、なんだか、不完全燃焼つぅか、、なんつぅか、はぁ、、」
秋月「あはは汗、、、まさか深海棲艦が燃料じゃなくて、積荷のお菓子を狙うというのは、
驚きましたけど、なんだか可愛らしくもあったような、、」
秋月は、そういうと笑みを浮かべ、お茶を啜った。
霞「可愛らしい?、、、笑わせないでよね、、例え、チョコを食べる姿が愛おしくても、、、敵は、、、敵は敵なんだからね、」
そういう霞も、若干頬を赤らめているのは、その場にいる誰もが目視していた。
皐月「まぁ、それはともかくさ、実はあの深海棲艦が食べてたチョコレート食べてみようよ♪」
皐月は、ビニール袋に詰められたマーライオン型チョコレートを取り出した。
霞「ちょっと、、あんたまさか盗んできたの!?」
神通「泥棒は良くないですよ?」
皆が怪訝そうに皐月を見つめたが、そんな皐月は、堂々とした面持ちを浮かべた。
皐月「皆人聞き悪いなぁもう、、、あのコンテナ船の船長さんが、お礼にって、くれたんだよ♪」
無邪気な笑みを浮かべる皐月に、皆「なるほど」と、怪訝そうな表情から一変、
目を輝かせ、チョコレートを見つめた。
神通「そういう事なら、、食べても問題ありませんね♪」
天龍「そうだな♪、、、」
秋月「早く食べてみましょうよ♪」
霞「仕方ないわね、、、食べてあげるわよ、、」
皐月「うん♪、、、、じゃあ、いただきまーす♪」
チョコレートを口に入れるタイミングはほぼ同じだった。
そしてーーー
神通達「甘ぁぁぁい♪」
神通達は作戦後の至福を満喫したのだった。
第4話終わり
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第4話のご閲覧ありがとうございます。
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(勉強になります)
ではまた、次回にお会いしましょう