名門大卒ニートの俺が、動画投稿者で居続ける訳 作:motetyan
「ああ、こんな青春を送りたかったという」思いをぶつけた一作になっています。
プロローグ
「どうも皆さんこんにちは、コーチャンネルでっす。」
俺は、三脚に乗せたビデオカメラを前に一人で話し出した。部屋は散乱しており、俺以外には誰もいない孤独な空間で、動画を撮っている。
大学卒業後、就職活動に失敗したために親からの支援でもらっている金を元手に今も就職浪人生という名目で一人暮らしを続けている。世にいうニートだ。
自慢ではないが再生回数は、1本平均150回チャンネル登録者は827人とても人気とは言えない。周囲の人間にはフリーランスの仕事と話しているが実態はただのプー太郎ってわけだ。
「この動画が面白いと思った人は、いいねボタンとチャンネル登録よろしくな!!」
ビデオカメラの録画ボタンを止め、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
プシュッ。缶ビールから一気に泡があふれ、消えていく。俺の人生もこの泡のように消えていくのか。もちろん、泡のように一瞬俺の人生も沸き上がったときはあった。もう5年前になるか、高校三年生の夏が俺の人生の泡があふれた時だった。
第一章
「ミーンミンミン。」
夏空の下、セミの求愛に満ちた声がうるさい。今の俺は恋なんかに興味ないし、高校生の本分は勉学だ。
高校三年の夏、俺は大学受験に追われていた。第一志望の大学は、だいぶ背伸びをしており正直冬の本番に間に合う気がしない。
「おーい、庄戸高校三年二組高橋幸樹君。模試の結果、第一志望校の判定はD判定の、高橋幸樹君。」
「おい、誰に自己紹介してるんだ。しかも、俺の名前を。」
「さあ?この作者が、主人公の紹介忘れて慌てる姿が想像できて。」
「なるほどな。」
こいつは、高校一年からの腐れ縁で三年間同じクラスの柊真奈。容姿端麗才色兼備と周りははやし立てているが、こいつの性格を知っている奴は俺以外いないからだろう。
「柊真奈の性格は、」
「あんたも誰に話してるのよ。」
「さあ、お前に謎キャラをつけようと作者も必死なんだろ。」
「なるほどね。」
実際柊は、頭もよければ運動神経もいい。顔だって。
「ミーンミンミン。」
「だから、恋なんかしないって。」
「誰に言ってるの?」
「さあな。」
「ところで、幸樹君暇?」
「参考書のいっぱい入ったクリアケースを持っている俺に対してよくそんなことが言えるな。」
「いいから、付き合いなさい!」
高校一年のころから、彼女は傲慢だ。入学後、誕生日順で彼女の席の前に俺がなった時からこの傲慢さは変わらない。
あの時の第一声も、「購買にパン買いに行きたいからついてきて。」だった。
「で、どこいくの?」
「内緒!新しい趣味ができたんだ!!」
「はいはい。どうせまたザリガニ釣りだの山菜採取だの昭和みたいな遊びだろ。」
「ノーノー!考えが古いよ幸樹君。時代はデジタルなのだよ!」
そういった彼女の顔は、今まで見てきたどの顔よりも希望に満ち溢れていた気がした。これが俺が動画投稿を始めるきっかけになるとはこの時は思ってもいなかった。
第二章
彼女に連れられてついた場所は、庄戸高校から徒歩8分ほど歩いた住宅街の一角にある何もない空き地であった。
「なんだこのいかにも日本の代表的キャラクターたちが遊んでそうな空き地は。」
「そのキャラクターが何かは察したけど、言及しないでおく。」
柊はおもむろ背負っていた黒いリュックサックを地面に置いた。
「さっきから気になってたんだけど、そのいかにも重そうなリュックはなんだ?」
「すっごいものだよ!期待して待たれよ!」
「なるほど。今まで楽しかった、刑務所に行っても元気でな。」
「人を殺人犯にするな!」
そういい終えると、柊はリュックサックの中から黒光りする物体を取り出した。
「なんだその本格的なビデオカメラは。」
「ふっふっふ。私たちはこれから動画投稿活動をします!!!」
「最後の文化祭に向けてか?」
俺は、あっけらかんとした顔で聞き返した。
「違いまーーーす。そういうと思ったわ。私たちが動画投稿するのはUtubeにです!!」
Utubeというのは、現在中高生間で人気沸騰している動画掲載サイトだ。俺自身は、受験生ということもあり、利用を控えていた。しかし、柊は頭もよく受験に対して何の問題もないらしくUtubeにはまっていてもおかしくはない。
「つまり、俺がお前の馬鹿な姿をカメラで撮って全世界に配信すればいいわけだな?理解した。そういうことなら断る理由もない。お前の才色兼備の化けの皮を剥がしてやる。」
「ちょっと!ストップ、ストップ!!いつ私が出演するって言ったの。出演するの私じゃないから。」
「じゃあ誰が出演するっていうんだよ。」
柊は、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。嫌な予感がした。こいつが笑みを浮かべてこちらを見てくるとき大体は俺にとって不利益なことを考えているときだ。
「先に言っておくぞ、俺は嫌、、、」
「よーーし幸樹君さっそく撮影の準備をするぞ!主役なんだからばっちり決めてくれよ!」
嫌な予感は的中していた。断りの言葉を言う隙を与えなかったということは、断られること自体予想通りだったのだろう。
「くだらない。俺は予備校もあるし帰るぞ。」
正直目立つことは嫌いだったし、学校にばれて進学に支障を与えたくもなかった。
「へえ、くだらないねえ。そう言うと思ったよ幸樹少年。」
「何キャラだそれ。」
「そう言うと思って、実は幸樹少年が一年生の頃に舞ちゃんに告白している一部始終を激写していたのだ!」
手に一枚の写真を持った柊は、それを俺に向けてぺらぺらと見せつけてくる。
「お前それ!どうして!!?」
「私と広瀬さんが友達だったのを知らなかったとは言わせないよ幸樹少年。あの日、広瀬さんと一緒に変える約束してたんだけど、約束の時間になっても来なかったから探しに行ったらなーんとそこは告白現場でしたとさ。」
広瀬舞は、俺が一年の頃に初めて好きになった女性だった。黒い長い髪は、彼女のトレードマークであり、控えめな性格ではあったが男からの人気は高かった。そんな彼女に、惚れた俺は一年の時告白をしたものの玉砕したわけだ。
「それをどうするつもりだ柊の親分さんよお。」
「さあねえ、返事次第によっては学校中にばらまくかもなあ。」
悪魔だ。こいつは化け物ではない悪魔だ。
「あーもう勝手にしろ!告白したのは事実だし、大学に入学したらそんな黒歴史もチャラだ!俺は絶対にやらんぞ!!」
「いいんだそれで、舞ちゃんは幸樹少年と同じ大学を志望していた気がするんだけどなあ。」
冷汗が背中を滴るのを感じた。もしそれが事実なのだとすれば俺のキャンパスライフは希望を膨らませる前からジ・エンドだ。
「それは本当か?」
「私は嘘は嫌いだからね!しかも、舞ちゃんUtubeの動画大好きだからまたつながれるチャンスかもよ?」
その言葉に心が動くのを感じた。
「わかったやる。その代わり条件がある。」
「条件?」
「俺だけじゃなくお前も出ること。そしてやるのは学生創作映画だ!」
「名にそのジャンル聞いたことないんだけど。」
「俺たちが映画をつくる、そしてそれを投稿する。この条件じゃなきゃ俺はやらん。」
少しの沈黙とともに、柊は少し不貞腐れながら言葉を返してきた。
「主導権は私が握ってたはずなんだけどなあ。まあそれでもいいのか。うん!じゃあそれでいいよ!」
彼女がぶつぶつ言いながらも納得した姿を見て、俺は心の中で渾身のガッツポーズを決めてみせた。学生創作映画なら視聴回数が伸びることもなければ俺以外の人物も出ることによって影を薄くすることができる。大学に入学後話題にされても、若気の至りと連帯責任のような口実も作れると考えたからだ。
「それじゃあ、脚本作りからだな。そのカメラは締まって、明日構想を練るぞ。」
「何言ってるの?今日ここで、チャンネル立ち上げのあいさつ動画は撮らせてもらうよ?」
「は?」
こうして柊と俺が撮る初めての動画ができることになった。
次回の投稿は、一週間以内を予定しています。