名門大卒ニートの俺が、動画投稿者で居続ける訳   作:motetyan

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幸樹は夢をきっかけに自分の過去を思い出す。
夢に出てきた、柊の秘密を知った幸樹は撮影に集中できなくなっていった。




柊が、動画投稿を始めた訳

第18章

「話してみ。」

 部屋に戻ってきた、元は俺の姿も見ずに一言声をかけてきた。

「特になんもないよ。」

「強がんなって。みんなお前の子と心配してるんだぞ。」

 元は、いつものようにおちゃらけた口調ではなかった。俺はそんな元を初めて見た。

「夢を見たんだ。」

「どんな?」

「俺が幼い頃に、柊と公園で会う夢を。」

「なるほどな。」

無駄な言葉を挟まず俺の言葉をすべて聞こうとする元にすべてを話そうと思った。

「あれは夢じゃなかった。思い出したんだ。あいつと俺はあってた。俺は忘れてたんだその事実を。」

 うまく言葉は出なかった。そんな俺に対しても、元は親身に聞いてくれていた。すべてを話し終えると元は黙り、何かを考えていた。

「幸樹、行くぞ。」

「どこに?」

 元は、それだけ言うと俺の質問に返答せず部屋を出た。この時の俺は、スマートホンを操作している元についていくことしかできなかった。

 その時、俺のポケットに入っていたスマートホンに通知が入ったが俺はあえて確認しなかった。

 元が向かった先は、昨日夕食をとった大広間だった。そこにはすでに、井上さんと広瀬さんが座っていた。

「おっまたせー!汗かいてるから先にお風呂入ってきちゃった。どうしたの急に召集なんかかけて!」

 いつものように元気な姿の柊が入ってくる。元気な柊がまぶしく感じ、俺は下を向くことしかできなかった。

「た、確かに、は、はじくん急にしょ、招集なんてどうしたの?」

「武藤君がみんなを集めるなんて珍しいね。」

 今の状況を飲み込めていない、井上さんと広瀬さんからは不思議そうな様子がうかがえた。

「俺たちは仲間だよな。」

「お!元君がそんなに真面目そうに物事言うなんて珍しーじゃん!!」

「おう!確かに珍しい!この先こんなことは二度とないかもしれん。だからこそ今はまじめに話したいことがある。」

「何々!?」

 柊は、まじめにというよりもいつもの調子で元と話している。

「俺たちは集まって以来、自分たちの本音とか本性とか過去とか、つまり自分自身のことを腹を割って話したことないよな。だから今ここで俺たちは、腹を割って自分たちのことを話そう。」

 にこにこしていた、柊の表情が一変したのを感じた。多分、元の言葉を聞いてすべてを理解したのであろう。

「そういうことなら私は…。」

「まずは俺からだ。」

 柊が何かを言おうとした直後、その言葉をかき消すかのように元が話し始めた。

「俺、武藤元は4月2日生まれの18歳だ。選挙権も持ってる。そんな俺は世界で一番、井上奈菜華を愛している。今のところ抱えている悩みは特にないが、親友の幸樹が悩んでいることが俺の悩みだ。」

「今日の武藤君、なんか猛々しいね。」

 元の言葉を聞いて、井上さんは耳を真っ赤にしてうつむいていた。目の前で好きといわれてしまっては彼女として恥ずかしいのは当たり前だろう。しかし、元が言いたいのはそんな恥ずかしさもなしに、すべてを話そうという意味なのであろう。

「はい、じゃあ次奈菜ちゅんお願いします。」

 元はその場を仕切り始めた。柊にはその場を離れてほしくないかのような口調であった気が俺にはした。

「は、ははい。私は…。やっぱりは、恥ずかしいです。」

 想像通り、あがり症である井上さんには本音で話し合うことは厳しかった。そんな井上さんのことを、元は何も言わずにじっと見つめていた。井上さんを説得するではなく、井上さん自身を信じていることが元の姿からは感じられた。

「…。私、い、井上奈菜華は8月3日生まれです。げ、現状か、彼氏さんがいます。そ、その彼氏さんは、私の不安なことなんかをいつも持ち前の元気で吹っ飛ばしてくれます。どんなことがあっても誰よりも親身になってくれて、私の横にいてくれる、そんな彼氏さ…、武藤元さんのことが世界で一番大好きです!。」

 最後の言葉を、どもらずに話している井上さんにその場にいた全員が驚きを隠せなかった。井上さんをからかうでもなく考えていることをすべて話したその姿に皆感動していたのだと思う。

「俺も愛してるぞ奈菜ちゃん!じゃあ次は広瀬さんだな!」

「やっぱり私の番くるんだ。私奈菜華ちゃんみたいに大それた気持なんか持ち合わせてないしなあ。」

「なんでもいいんだよ!!高校時代に感じたことでも、これまでに感じてきたことでも。大か小かではなくて隠し事話にしようっていう話し合いなんだからさ。」

「そうだよね。」

 広瀬さんは何か心あたる節があるのか、深く考え込んでいた。きっと何か隠していることでもあるのだろう。そのことを言ってしまうことで何かを失ってしまうことがあるのか、俺には広瀬さんが深く考え込む理由に心当たりがなかった。

「うん。私、広瀬舞は2月17日生まれのJKです。私は、自分が周りから特別な目で見られていることに高校に入ってから気づきました。人は私をかわいいや奇麗と見た目で判断する人が多いですが私は正直、そういう人が苦手です!『私のすべては顔じゃない!』と声を大にして叫びたいと考えています。そんな私を、顔ではなく内面で見てくれる人がいることを知りました。私はその人のことが大好きです!もちろんここにいるみんなも、私自身のことをしっかりと正面から見てくれているから大好きです!」

 広瀬さんの言葉は告白のように聞こえた。そう聞こえたのは、最後にはみんなを大好きといっていたが、その直前に広瀬さんは『その人のことが』という言葉を使っていたからだ。それが誰に対する告白なのかはわからなかった。もしそれが自分に対するものであったのなら、俺は素直に喜べるのだろうか。その自問に対して俺は自答することができなかった。自分自身のことが分からなくなっていることだけは理解できた。

「じゃあ次は…。」

「次は私ね。」

 元が、次の人に振ろうとする言葉をさえぎって柊が名乗り出た。

「はあ。私、柊真奈は重度の心臓病を抱えて生きています。多分あと一年以内には、この世を去ると思います。」

 柊の口から放たれた言葉は、あまりに現実味がなくこの頃の俺には真に受けることができなかった。それは、俺だけではなくこの場にいた誰もがそうだったのであろう。

 真夏の蒸し暑い夜がその一言によって、凍えるように寒い夜になった。

 




ストック分は全部出し尽くさせていただきました!
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