名門大卒ニートの俺が、動画投稿者で居続ける訳   作:motetyan

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柊の秘密は、メンバー全員を沈黙に陥る内容であった。
どう行動すればいいのかわからなくなってしまった高橋が撮った行動とは…。


俺が、自分に正直になった訳

第19章

「ほら暗くなった!こうなると思って隠してたのに!秘密を語り合おうって言ったのは武藤君なんだからこの空気になったのは武藤君の責任ね!」

「やっぱり…。」

 俺は言葉に詰まった。自分が想像していた通り柊は病気を抱えていた。しかし、俺は【それ】が心臓病なんていう深刻なものだとは予想もしていなかった。しかも、余命先刻までされているなんて…。

「何がやっぱりなのさ!あ、幸樹君自分の夢の内容が的中したとでも思ってるの!それは違うから!断じて違うから!」

「どちらにせよお前…、病気抱えてたじゃないか!予想何のじゃない、お前の体が心配なんだよ!」

 俺は声を張り上げていた。なぜ柊は、病気のことを言ってくれなかったのか。そのことに俺は苛立ちを覚えていた。

「真奈ちゃん心臓病ってホントなの?それなら、撮影なんかしてる場合じゃ…。」

 広瀬さんは柊の体のことを心配して、声をかける。

「それは絶対に嫌。せっかくもう少しで完成するんだよ!こんなことで撮影が、今までの頑張りが全部なくなるなんて嫌だよ!」

「広瀬さんはお前の体を心配していってくれてるんだよ!今すぐにでも病院に戻れ!じゃないとお前…。」

「もうしつこいな!幸樹君まで私を否定するの!ここまで、ここまで私は…。」

 柊は何かを言いかけると、走って部屋を出て行ってしまった。まるで目の前で起きていることがドラマの1シーンのようで俺たちは今でも現実味を持てずにいた。

「さて、どーする?」

 そんな中でも、元は深刻そうな表情を見せずに冷静なそぶりだった。

「なんでお前はそうやって冷静にいられるんだ…。」

「俺は、中性的なんだよ。柊さんが言いたいこともわかるしな。」

「俺は、どうすればいいのかわからない。」

 暗い道で一人立ちすくんでいるかのようだった。もし自分が見た夢が本当なのだとしたら、あいつにとってこの映画撮影は、自分の命を懸けるほどに大事なものなのかもしれない。でも、それは同時に俺たちがあいつの命をもてあそんでいるかのようにも感じられた。

「とにかく、今は柊さんを探しに行きましょう!」

 いつもは言葉に詰まる井上さんが、興奮気味に発した言葉は透き通り聞きやすかった。全員その言葉に魔法をかけられたかのように、柊を探しに外へ出た。そんな中でも俺は、まだあいつを探しに行けずにいた。

「お前さ、真実を知りたがってたよな。あんときのお前って、その真実知ってどうする気だったんだ?この撮影やめようっていう気だったのか?それとも、柊さんのことを思って続けようっていうつもりだったのか?」

 元が、部屋から出る直前扉の前に立ち俺に話しかけてきた。部屋には俺と元二人しかいなかった。

「俺は…。」

「幸樹がどう考えてようと俺には関係ないことだし、柊さんの秘密を話させたのは俺の責任でもあるから、これ以上は言わないけどよ。自分の蒔いた種くらい自分で回収しろよ。もうこれは他人事じゃないんだから。」

 元は、そういうと部屋を後にした。俺にとって柊は、なんなのか。ただの友達だったのか。俺の頭の中を、柊と過ごした時間が駆け巡る。その中の記憶の一つが頭の中で色濃くなっていくのを感じた。

 その記憶の中で、俺が放課後の教室で白紙の進路希望調査を眺めていた。自分が何をしたいのか、何になりたいのかわからず立ち止まっていた。そんな俺の顔を柊がのぞき込んでくる。

「なーにしてるの!あ、真っ白じゃん!」

「うるさいな。特にやりたいこと決まってないんだよ。とりあえず偏差値のいい大学に行こうって漠然な目標しかたってないしな。」

「へー。つまんないね!」

「は?今の世の中じゃ、いい大学に行っていい会社に勤めんのがいい人生の送り方だろうが。逆に柊はなんて書いたんだよ!」

「私?私、大学行く気ないんだよね。」

「は!学年一位の学力を持った生徒が何言ってんだよ。」

「確かに世の中から見たらおかしなことかもね。でもさ、たった一度きりの人生じゃん?だったら、教科書通りの人生送るより、死ぬ間際に本当いい人生だったって言える方が幸せだと思わない?」

 柊の言っていることはいつも俺には理解できなかった。常識離れしていた。

「確かにそうだけど、そのためにもお金が必要でそのためには働くことが…。」

「あーーー!!うるさいなあ!そうやっていつも幸樹君は現実しか見ない。もっと思い立ったら即実行みたいな行動力を持つべきだよ!」

「は?天才の言うことはよくわからん。」

「わからなくていいよ。わからなくていいから、もっと自分に正直に生きてみたら?」

 この一言が、俺の中で呼応した。まるで今自分が置かれている状況に対して、メッセージを送っているかのように感じた。どうすることが正しいかじゃない、自分が今どうしたいか…。

               【俺は…。】

 気づくと俺は、部屋を後にしていた。今俺がどうしたいのか。そんなの単純なことだったのだ。俺は、柊を探しに行った。

 

第20章

 柊は、どこにもいなかった。撮影に訪れた場所、部屋、思いつくすべての場所に向かってみたがどこにもその姿はなかった。

「あいつどこ行ったんだよ。」

 思いつく場所はもうなかった。まさか、家に帰ったのかと思ったが夜も更けていたので電車はない。タクシーだってないような場所だったためその可能性は考えられなかった。

 探している途中俺は何か違和感を感じていた。この場所観たことある。なぜかその場所には既視感を覚えていた。柊に連れられてきたはずの場所であるためそんなはずはなかった。現に、この場所についた時にはそんな感覚は覚えなかったのだ。しかし、夜のこの場所を歩いていると、どこか懐かしい雰囲気に包まれていた。

            【この場所どこかで…。】

 俺は何かに導かれるかのように足を運んでいた。自分でもわからなかった。でも、ここのことを知っていることは確かのような気がした。そんな不確かな感覚を、確かなものにしたのはその後すぐのことだった。目の前にあった公園は、夢の中で幼い俺と柊が出会ったあの場所だった。

 その瞬間俺はすべてを思い出した。この場所は、俺が幼少期に家族で旅行に着た場所であった。あの日、俺は家族とはぐれ一人この街をさまよっていた。気づくと目の前に公園があり、そこで俺と少女…、いや柊と出会った。

 あのときのあの光景を再現するかのように、公園のブランコに一人の少女が座っていた。その少女は少女という年齢ではなかった。思い出の中の少女よりも背格好も、何もかもすべてが大きくなった彼女の姿は月夜に輝き美しかった。まるでかぐや姫が、月からの迎えを待つかのように俺の瞳には彼女の姿が寂しそうに、儚げに映った。

「見つけた。ここにいたのか。」

 柊は俺の声に気づき、驚いた表情でこちらを振り向いた。

「なんで。」

 この場所を俺が見つけられたことを不思議に思っているかのようだった。

「この場所。やっぱり夢に出てきた場所と同じだ。もう嘘はつかないでいい。すべて、思い出した。柊との出会いも思い出も何もかも。」

「そっか。」

 柊は何かを悟ったかのように一言発しただけだった。その後、俺たちの間には無言の時間が続いた。何を語らずとも、お互いのことがすべてが伝わってくるような不思議な時間だった。その静寂は俺たちを飲み込み、思考を整理するには十分すぎるほどの時間を与えてくれた。その深々とした、沈黙を破ったのは柊だった。

「私さ、生きてるって証を残したかったんだよね。」

「え?」

「昔っから体は悪かったんだけど、ひどくなったのは最近で、余命宣告されたのもつい数週間前のことでさ私自身まだ現実味を持ててないというかなんというか。親はすぐにでも入院しろって言ってきたんだけど、もうあそこには戻りたくないんだよね。真っ白でなにもない部屋。生きてるのに生きてる感覚のしない社会から遮断されたあの場所。私の大っ嫌いなあの場所…。」

「戻らなきゃいい。」

 俺は自分の思っている気持ちを、ありのままに伝えた。柊はその一言に驚いた表情を少しだけ見せた。

「お前の生きた証をこの世に残そう。楽しかったって後悔しない人生を送りたいっていつの日か言ってたよな。その通りにしようぜ。子供のころここでお前と会ったとき、またいつの日か柊を迎えに来るって言ったよな。今まさにお前を迎えに来た。10数年かかっちまったけど、やっと迎えに来れた。【Tomorrow】。明日も明後日も、その先も。柊が、この世にいた証を残そう。」

「何かっこつけてるの(笑)。いつもの幸樹君らしくない(笑)。しょうがないなあ、幸樹君がどうしてもって言うなら戻ってあげましょう!みんなにも申し訳ないし。」

 柊の顔には、大粒の涙が流れていた。自分の命がいつ終わるのかわからない恐怖心と戦いながらも生きてきた彼女の人生に心から感服した。

「その代わりこの撮影が終わったらすぐにでも、病院に戻れ!どんないい人生送れても親に迷惑かけちゃいけないだろーが!」

「確かにここに来るのも、黙ってきちゃってるしね。わかりましたよ!お節介の幸樹君。」

 その後俺たちは、柊が見つかったというメッセージを皆に送り宿へ戻った。号泣する広瀬さんと井上さんの姿が目に焼き付いた。自分の親友が、死の間際にいることを知った人間がその悲しみに耐えられるはずはなかった。しかし、俺と柊の気持ちを告げると皆撮影に対して協力の姿勢を見せてくれた。いい親友を持った、この時の柊はそんなことを考えていたと思う。

 翌日の撮影は、皆集中しきっていた。ミスもなく、真剣な表情で。早く終わらせて、柊を病院に連れて行こうとする意識が感じられた。

 こうして俺たちの最初で【最後】の撮影が終わった。無事映画が完成した。

 

 




物語は佳境を迎えます。
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