中華喰種ー你好、リンリンー   作:賀楽多屋

1 / 1
東京喰種にまで手を出してしまった・・・。南無三。


悲劇のリンリン、ガギとグゲに捕まる。

 その日、ガギとグゲの二人は、アニキのヤモリのために丁度よさそうな“玩具”を探して、6区を彷徨っていた。

 

「ガギ、ギギギ」

 

「グゲ、ガググ」

 

 しかし、この二人。

 声帯が発達していないのか、そもそも声帯すら持っていないのかは分からないが、まともに言葉を喋ることが出来ない。

 

『十三日の金曜日』に登場する殺人鬼が被るような仮面を装着し、白スーツを纏う大男の二人がこのような不気味な会話を交わしている光景は、肝の座ったホラーマニアであったとしても、腰を抜かしてしまうことだろう。

 

 たとえ、夜も更ける午前3時頃の人通りの少ない高架下であったとしても、人と遭遇することを忘れてしまうのだろう。

 

 ───不幸なことに。

 

 

「ひょえええ────っ!!」

 

 それが、星すら見えない夜空をバックに高架から落ちてきて、その着地点に()()()()とんでもない化け物がいるという、ファンタスティックなのかファッキューなのかも分からない出会い方だとしても。

 

 

 間抜けな叫び声を上げながら、お団子頭から伸びる二つの三つ編みを宙に残して落ちていくその少女は、見事ガギの頭上に落っこちた。

 

「ひでぶっ!」

 

 が、少女よりも悲惨なことになりそうなガギは、首を90度近く捻っているにも関わらず悲鳴すら上げない。

 

 そのままズルズルとガギの上から落ちていった少女は、ひっくり返ったカエルの如くお腹を見せて「死ぬかと思ったー」と独りごちている。

 

 自分の落下によって、一人死ぬような目に遭っている大男がいるのだとは知らず、東京の汚いパノラマを見上げている彼女は、ふうと額に滴る汗まで拭う。

 

 そんな一息ついている少女を残っているグゲが見逃すはずもなく。

 

「グゲ、ゲゲゲげ!!」

 

「……グッドイーブニング、喰種さん」

 

 怒りを露わにしているグゲに、にへらと笑い挨拶した少女の脳内ではけたたましく警報が鳴り響く。

 

 ───これは、完全に関わっちゃいけないタイプだよねー絶対。

 

 しかも、死ぬような怪我を負っていた筈のガギもすっかり首を元通りに戻して、グゲと同じく仰向けの少女を見下ろす。

 

 グゲだけなら何とか出来るかと算段を立てていた少女は、しかしもう一人同じような格好をしたガギの登場に、組み立てていた脱出計画をさっさと握り潰す。

 

「がぎぎぎ!! がぎぎ!」

 

对不起(ごめんなさい)。ワタシ、ニホンゴショーショー」

 

 引き攣り笑顔で、思い出したかのように外国人ぶる少女をガギとグゲは勿論、アジトに持って帰ることにした。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 いつからかは分からないが、この地球の食物連鎖の頂点には、“人間”と“喰種”という2種類の生命体がいる。

 

 先ず人間だが、これは喰種に比べてかなり軟弱な生命体であり、また捕食対象でもあるのだが、繁殖力は喰種よりも高く、また雑食性であるために喰種の唯一の天敵にもなり得た。

 

 そして喰種。この生命体は、人間と珈琲豆だけを餌とするもので、力に関しては、地球上最も凶悪的と言って差し支えないだろう。しかし、他の生命体と比べて、圧倒的に繁殖力が弱いので、その数はあまり多くない。

 

 人間と喰種による戦いの歴史は長く、なんとも血腥い。

 

 しかし、どちらも絶滅することも無く迎えてしまった平成の世では、あともう少しという時間で、彼等の関係が少し変わろうとしているのだが、それはまだ先の未来である。

 

 ガギとグゲに連れ去られた少女は、彼等のアジトへ着くや、ガギとグゲよりも小さな男の前に放り投げられた。

 

「ぶべべべべべっ!」

 

「ガギ、グゲ! なんだ、このちっかいいきもほは!?」

 

 優雅にソファに腰掛けて、何かの写真をムフムフ鑑賞中であったその男は、急に現われた小さな生き物に怒り爆発だ。

 

 折角の至福の時間だというのに、それを邪魔するとはいい度胸だと言いたい所なのだが、残念ながら学のないこの男には、その怒りを表現する語彙力が足りなかった。

 

「ナギ、ギギギギ!」

 

「あー、なんか怒ってんだな、お前ら。ガキ、なにやらかした?」

 

 後ろに流した前髪を整えながら、放り込まれたこともあって寝そべっている少女の顔を覗き込むように、その迫力ある赫眼(かくがん)で凝視する。

 

 黒に染った粘膜と赤い瞳孔が特徴的なその赫眼は、正に喰種であることを示す。

 

 3人揃って白いスーツを来ていることも相まり、いよいよもってヤバい連中に絡まれているのだと自覚した少女は、覚悟を決めた。

 

「ワタシ、中国からやって来た喰種のリンリン。赤舌連っていう大きな喰種集団の首領が殺られてから、祖国じゃ生きることが難しくなったの。だから、日本に出稼ぎに来た。でも、日本は小さいから喰場もいっぱいあるし、掟だらけ。今日も掟を破って喰種に追い掛けられてたら、そこの大きな人と出会ったの。そしたら、此処に連れてこられた」

 

 本当は、四川の隅っこで生きていたかった。

 

 西安や香港なんて、そんな都市で生きていくつもりなんて、さらさら無い。

 

 貧しい農民をチビチビ喰べているだけでリンリンは満足であったのに、在る日、中国中の喰種を束ねていた最大の大手である赤舌連の首領が、喰種捜査官に狩られてしまったのだ。

 

 それからは、もう地獄のような日々であった。

 

 たった一人の首領が殺されたというニュースだけで、大きなあの国はごった返した。

 

 皆が皆、喰溜めようと人間を狩りまくったり、新しいチームが台頭しようと暗躍したり、人間も喰種も弱者では生きられなくなってしまった。

 

 強者だけが生き残る群雄割拠の乱世が、再び母国に訪れてしまったのだ。

 

 だから、リンリンは国を出た。

 弱者である自分では生きられないからと、海を渡って日本にやってきた。

 

 しかし、その日本でも弱者である自分は追い立てられる日々。

 

 中国と違って、国土も狭く、人の数も多くない日本では、喰種達も余裕が無いらしく、外国人ということもあって殊更厳しい洗礼を受けることになった。

 

「……会っただけで、ガギとグゲは怒らねぇけどなー」

 

 だが、しかし。

 

 この男はリンリンのカミングアウトなんて、なんのその。

 

 リンリン自身のことよりも、どうしてガギとグゲがあんなにも怒っているかの方が気になるらしく、首を捻ってうむむと唸っている。

 

 これには、リンリンも肩透かしであった。

 

 ───けっこう、勇気をだして話したんだけどなぁー。

 

 喰種はこう見えて閉鎖的なのだ。

 

 同じ都民同士であれば、協力体制も取ることもあるのだろうが、リンリンは中国から密入国してきた外国人である。

 

 外交問題もあって、日本と中国は互いの心象が悪く、殊更中国人は日本人に厳しい目で見られがちだ。

 

 はァ、とまだ思い悩んでいる様子の男を前に、つい嘆息を吐いてしまったリンリンである。

 

 

 

 

 刹那、「おい」と空気を震わせるような、低い男の声がこの場に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。