自由が望みと言うけれど    作:ほうれんそう

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幕間

 

 

─────大嫌いだった。

そして、嫌われていた。

だがそれで構わなかった。どうでもよかった。

 

ただひとつ、自由だけが望みで。

 

 

「思ったよりも長生きしやがる。」

 

うまくもない飯が二人分、渡される。

十分な量もない。帰り際には陰口。

 

「……聞こえてるっつの。」

 

待つのはクソガキ。

最悪の環境だ。

 

「あ、?」

 

そう。

最低、最悪で、息の詰まる、

 

「足が、」

 

自分を嫌いになるしかない場所。

 

「─────しにたくない。」

 

死が近い。

そう思いながら12年。俺はまだ生きている。

 

 

 

 

 

「……っは、?」

 

意識が、とんでいた。

目の前が真っ赤になるとは、こういう事を言うんだろう、と。妙に冷静な部分でそう思う。

気がつけば荒い息で、手にはよく知った子供の血がついている。

目の前のガキは、赤く腫れた頬で、瞳だけが嫌に冷めていて。

あぁ、俺はまたやったのかと。停止した頭が徐々に働きを取り戻した。

もう、これを、何度か繰り返している。

最近は、能力の衰えが、顕著だ。

 

恐ろしかった。

なんの自由も、意味もないままに。

死んでいく事実が。

この目の前の子供が。

そしてなりより、クズに成り下がる俺自身が。

 

……なぁ、死ねと言えばいいだろう。

死んでくれと、ただ一言。

そう、言ってくれれば。

 

「…………。」

 

……言ってくれれば、なんだっていうんだ。思わず自嘲の笑みがこぼれた。

責めてくれたら、救われるのにって?

そりゃ、楽だろうな。

そうしてまた、全部こいつに押し付けて。

そうしてまた、こいつを殴るのか。

この、俺の、…………いや。

そうだな。最低だ。最悪だ。

死んでしまいたい。けど、死にたくなんてない。

自由に、なりたかった。

そうしたら、満たされる気がした。

 

ジェハは、俺に何も言わない。

だから、俺は、こいつが嫌いなんだ。

 

 

 

  ◇

 

 

 

はじめは、よく喋るガキだった。

生意気なのに変わりはないが。

ものを話すようになると、その小さな龍の足を動かして、俺の元に来て、口を動かす。

この薄暗い部屋をものともせずに。

この無愛想な男をものともせずに。

ぺらぺらと話す、頭のいいガキ。

このときは、よかった。

早く死ぬのはわかっていた。

足の能力だってまだあって、精神的にも余裕があった。

だから、死ぬまでの数年、こいつにかまってやろうと、そう思って。

 

「ジェハ。」

「なに?」

 

呼べば必ず返ってくる、その笑顔が好きだった。

周りは冷たい人間ばかりだった。世話にはなってるが、暖かさなんて何も無いそこで。

はじめて見つけた大事なもの。

大切にしたいと、思っていた。

そのときは、確かに。

 

 

 

─────はじまりは、12年前。

俺が15歳のとき。先代が死んでからもう10年ほど経っていた。

鎖は付けられていなかったし、見張りはいたけど、いつでも逃げ出せる環境にいた。

それでも逃げなかったのは、自由を願いながら留まったのは。

先代が、死んでから。

俺の面倒を見てくれたのは里の人間だったし、飯の融通をしてくれたのもこの里だ。

好きになれはしなかったが、世話にはなっていて。彼らが何を恐れているのかも、十分に理解しているつもりだったから。

……なんて、理由をいくら作ろうと、ただ、俺が臆病だっただけなんだろう。

 

その日。

空がいつも以上に綺麗で。

透き通り、晴れ渡るその空に。近づいてみたいと思った時には、足が地を蹴っていた。

ぐんぐんと小さくなる里。後ろから声が追いかけるが、そんなことは気にならなかった。

空を飛ぶ。遠く、彼方へ。

気持ちがよかった。何にも縛られない、何にも遮られない、広い空。

どこまでも、どこへでも行ける気がした。

ふと、足下に小さな町が見えて。

近くの森に降りたって、そこに向かった。活気の溢れる通りは、俺の知る里にはないもので、気分が高揚したのを覚えている。

でも、それは一時だけ。

金なんて持っていやしなかったし、知り合いだってもちろんいない。

誰も俺の事なんて気にしない。見やしない。

そこで、自由になったところで、俺には行く場所も、会いたい人もいないことに気づいた。

結局、俺の居場所は、あの息苦しい里にしかないのだと。

緋龍王が、迎えに来てくれるなんてこともなく。

自分が、どうしようもなく、いらない存在なんだと。

 

確かに、自由を望んでいた。

誰にも、何にも遮られない、この空のような自由。

でも、居場所を求めた時点で、その望みは変わっていたのかもしれない。

ただそのときは、望みが真の意味で叶うことなど、永遠にない事だけを悟って。

そうして、その後。

唐突に、何かに引っ張られた気がして。

行かなければ、会わなければならないと思った。

引き寄せられるように、急いで里に戻って。

 

「龍の、足。」

 

そこで、ジェハに会った。

伸ばした手に、ジェハの振り回す小さな龍の足が触れる。

赤ん坊にしては強いかもしれないが、それだけの力。

 

「……ちっちぇ、足だな。」

 

その日から、俺の話し相手はこいつだった。

 

 

 

─────それから、5年。

俺はまだ、死んでいない。まぁ、そんなこともあるだろう。

だいたい3~4年で能力が継承されると聞いている。きっと、俺もそろそろだ。

……足の力は、まだ衰えてはいないが。

 

幾らか下を歩いて跳ねる、緑の尻尾をもった頭を引き連れて、食料を引き取りに向かう。

力を使って、最近は里の用心棒紛いの事もやっている。その報酬も兼ねて、今日はちょっと多いはず。

こいつも喜ぶだろう。そのよく変わる表情を動かして。

それを想像して、少し笑った、つかの間の平穏。

俺は、このとき、こいつを連れて行かなければよかったと、ずっと、後悔している。

連れて行かなければ、もう少し、マシだったんじゃないか、と。

このときから、俺たちの関係は狂い始めた。

……いや、俺自身が、かもしれない。

 

「まだ死なねぇのか、お前。」

「は、」

 

食料を手渡されながら、蔑んだ様な目で見られる。

陰口を叩かれることなんてよくあるが、こうも直接的に悪意を向けられることはそうそうない。

だから、一瞬、止まってしまった。

 

「さっさと死ね。食料の無駄だ。

俺たちに、厄しか呼ばねぇ、化け物が!」

 

その一瞬が、歯車を狂わせた。

 

「─────は?」

 

ジェハが、俺を軽く押し退けて前に出る。

渡された食料が、いくらかこぼれて落ちていく。

俺が止めるより、この優しい子供が口を開く方が早かった。

 

「俺たちが生きてることで、お前に迷惑かけたことなんてねぇだろうが。

過去のことを持ち出してまで、不満を俺たちにぶつけてんじゃねぇよ。」

 

いつもより、いくらか低く聞こえる声。

険しい顔で、相手を見据えているんだろう、と。見てもいないのに想像できた。

それに、男が激昂する。

 

「っこの、クソガキ!」

「ジェハ!」

 

そして、怒りのままにジェハへ掴みかかる。

身長差に、ジェハの小さな身体が浮いた。

 

「っクソガキでも、あんたの言う、化け物でも、一応、人間なんでな。

それに、同じ血も流れてる。

自分を、っ棚に上げんなよ。

俺からしたら、お前の方が!よっぽど、怪物だ。」

「ジェハ、やめろ!

悪いな。こいつちょっと口が悪くて。ガキの言うことだろ、離してやってくれ。」

 

ギリ、と相手の腕に力が入るのがわかった。

怒りを湛えた赤い顔。まだ、殴らないだけ冷静さは残っているか?

なんとか引き離さねば、と。

思って。

 

「は、ははははははっ!!」

 

男の、嗤い声が。

ジェハの目が見開かれる。

 

「そうだよな。そう思いたくてしかたがないよなぁ。

ほかの人間がそうだと思ったほうが、いいもんな?

わかるぜ。俺だったら死ぬほど辛い。

誰よりも嫌われるその力が!そんなものがあろうと!誰も、お前たちを、必要としない!!

そのせいで疎まれているっていうのにな?誰も迎えになんか来やしない。無意味な生だよなぁ。」

 

時が、止まったような感覚がする。

こちらを傷つけようと意図した言葉。わかってる。聞く必要はない。

でも、言葉が心臓に突き刺さり、塞がらない傷を掻き回す。

 

「そして、誰にも求められないまま、地上に繋がれたまま、お前たちは死ぬんだよ!!

自由も!望みも何も叶えられないまま!!」

 

望みが、叶わないことなんて、5年も前から知っていた。

そう、わざわざ、言われなくたって。

 

「それが、お前たちの運命なんだよ!!」

 

歪んだ顔がこちらを見下す。

そして、立ち上る怒りの気配に、漫然と目を向けた。

 

「……なんで、お前に、そんなこと、」

 

やめろ、やめてくれ。

それは、だめだ。

 

視界に、俺と同じ、緑の長い髪が舞う。

上手く腕を解いたらしい。

力の付きはじめた龍の足が、地を強く蹴るのがわかった。

 

あぁ、だめだ。

ガシャン、と。

薄氷が割れるように呆気なく、脆く繋がれた何かが、崩れる音がした。

 

「決めつけられなきゃ、なんねーんだよ!!」

 

飛び上がった、小さな身体は。

鞭の様にしならせた片足で、相手の横っ面を蹴り飛ばした。

 

「俺は!自分の行き先くらい、自分で決める!!」

 

一応、龍の足で蹴らなかったのは優しさか。

それでも勢いのついた、子供にしては重い一撃に、男は地面に打ち付けられた。

 

その時、俺が感じたのは、恐怖だった。

それが、俺のための怒りであると知りながら、恐ろしいと、思ってしまった。

俺の命を引き剥がして、ジェハへと継がれていく、その力が。

ようやく自覚した、俺に迫る死の気配。

息を整えて、こちらを見上げる、ジェハに応える余裕は、俺にはなかった。

 

「……ごめ、ん。、なさい。

余計なことした。先に、戻ってる。」

 

普段を取り繕おうとして、上手くできないまま不格好に笑って。落ちた食べ物を拾って去る、その背中を。

俺は、追いかけることが、できなかった。

男の言葉に、俺だけが、傷ついているわけでもないだろうに。

 

そして、その日から。

関係を立て直すこともできないまま。その日から、今までずっと。

脱走の意志ありとして、ジェハは鎖に繋がれている。

 

 

 

  ◇

 

 

 

絶対に忘れられない瞬間というのは、多くある。

俺の場合それは幸せなものでなく、いつだって黒い感情が付き纏う。

関係が壊れた、あの日から。俺たちの会話は劇的に減った。

それこそ、あの男の言ったように、無意味で、価値のない、色彩の欠けた日々。

そして、あの日を境に、俺の能力は衰えはじめた。

恐ろしかった。どうしようもなく。

気が狂いそうだった。いや、狂っていた。

でなければ、俺より15も年下の、子供を殴るなんて暴挙にでない。それも、大切にしたいと、思っていたはずの存在を。

怖かった。

怖かった。

怖かった。

死も。そして、殴られても抵抗しない、このガキも。

不気味だった。わからなかった。

怖かった。

あの、諦めきった瞳が、あの日の俺を映すようで。

 

─────はじめて、ジェハを殴ったときのことを、鮮明に覚えている。

 

足が、重くなるという明確な変化。

頭が真っ白になって、目の前のガキが俺を殺す怪物に見えた。

みっともなく震えた腕を振りかぶる。

当たり前に、ジェハは目を見開いて、その後。諦めたように、目を伏せた。

一瞬、意識がとんでいて。

気がつけば、ジェハの頬は痛々しく腫れていた。

心臓が、壊れるんじゃないかというほど激しく、嫌な音を立てる。

汗が吹き出た。

体温が下がった。

狼狽える俺を見て、ガキに似合わない大人びた表情で、ジェハは苦笑した。

「仕方ない。」そんな声が聞こえた気がして、自分のことが、とてつもなく恥ずかしくなった。

こいつは、この理不尽を、受け入れてしまった。

その事実に、傷つけた俺の方が、動揺したのが場違いで。

この小さな子供なら、なんとかしてくれるんじゃないかと、思っていた奥底の自分に気づかされた。

今までの日々が、温かさの方が夢だったのに。それをもたらしたジェハなら、何かを変えてくれるんじゃないかと。

その『何か』が、何なのかもわからずに。

こんな子供に救いを求めていた。

甘えていた。そんな自分が情けなくて。

 

もう、あの笑顔は向けられない。

当たり前のこと。

そう、この事実が当たり前であるはずだった。最初から。夢を、見すぎたせいだ。

 

─────大嫌いだった。

ガキのくせに、大人ぶって俺を気遣うこいつも。それを知りながら、甘えの抜けない自分自身も。

そして、嫌われていた。

嫌っていてほしいと、思っていた。

 

ただひとつ、叶わずとも、自由だけが望みで。

 

「……自由になりたい。」

 

ここを出るには、俺にはしがらみが多すぎた。

望んだままに行動するには、俺には恐ろしいものが多すぎた。

これから何かを変えるには、俺には時間がなさすぎた。

 

いつか、ひとりで飛ぶのだろうか。

それを許せないと思う汚い感情と、飛んでほしいと思う矛盾した精神が、鈍く軋んで、崩れていく。

 

 

 

 

 

─────ジェハが生まれて、12年。

俺はまだ、生きている。

 

「……お前。」

「なに。」

 

返る笑顔がないことを、思い出したように自覚する。

自分の行いの結果を突きつけられる。

あの、ころころと変わるはずの表情は、今はあまり動かない。

 

「外に出ようと、思わないのか。」

 

深く考えてはいなかった。

考えたくなかっただけかもしれない。思考は鈍り、恐怖だけが日に日に降り注いでいく。

ただ、この強気だった子供が、ここを出る素振りを見せないことには気が付いて。

浅はかなことを聞いた。

 

「出てどうすんだよ?

あんたが、連れ戻すんだろうが。」

 

ジェハの顔は、皮肉げに歪められていた。

当たり前のことだった。

 

「……そ、うだな。」

 

それに、俺は、なんて言おうとした?「そんなことない?」?どの口が。

外を願わないでほしいと思う。

そして、出てほしいとも願う。

偽善者顔した心の表面。

でも、奥底は。

俺のように、願わないのかと。自由を。

出たいと、思わないのか。なぜ。なぜ。なぜ。

それが、俺のせいであると、わかっていながら。

どうして、と。

 

「……あぁ、そうだろうな。」

 

出て行って、俺のように諦めて、ここに戻ってほしいと。

望みが叶わないと知ることで、俺と同じになってほしいと。

ここから、俺だけ置いて、出ていくことが許せないと。

ジェハの自由を願いながら、奥底で。消えない思いが募っていく。

どろどろとした汚い感情が、底なし沼のようにたまって、混ざって、渦巻いて。心まで、侵していく。

あぁ、最低だ。狂ってる。

知ってるんだよ、俺は。

それが当たり前なんだ。

こいつだって、ここにいたいと、思ってはいないこと。

そんなこと、知っている。

俺が一番、知っていた。

俺がいるから、こいつはここから出られない。

こいつの自由は、俺が奪っている。

何よりも憎むべきこと。俺にとっての、この能力のような。この里のような。俺自身のような。

俺が、死ねば。こいつは。こいつだけは。

 

「あんたは、」

 

そのときの、ジェハの表情も。俺の目に焼き付いて離れない。

……それでも。

飛んでほしいと、願うことも本心だった。

穢れのないまま。こんな思いをしないまま。あの美しい空へ。

ほかでもない、ジェハのまま。

 

 

 

  ◇

 

 

 

─────能力は継承される。

 

これが俺の最後か、と。随分とくだらない人生だったと、思った。

ジェハはきっと、ここから外へ飛び出して、俺を置いて行くのだろう、と。

俺は、唯一の話し相手も失って、再び空を舞うこともなく。

あぁ、なんて、意味の無い。

 

行ってしまえば、いいと思った。

自由に空を翔ければいいと。

半ば投げやりな気持ちで、黒い感情は消えないまま。

でも、この子供は、結局俺の救いであり続けた。

なぜ、ジェハは、こうも俺の望む言葉を言うのだろう。

 

「行こう。」

 

差し出された手。

鎖を断ち切ったその足が、俺を縛り続けた宿命さえも、取り払って進んでいく。

認めよう。

一緒に、と言われたこと。

俺の死を望んでなんかいないこと。

挙句の果てに、痛みを嫌いながらも、それをもたらした俺自身を、嫌ってなんかくれなかったこと。

それをこの生で、一番嬉しいと思うこと。

俺自身が、お前を心底嫌ってなんかいないこと。

 

「っジェハ!」

 

だから、傷ついてほしくなど、なかったんだ。

俺の、ためなんかに。

もう、わかってる。わかってたんだ。自分の命が、あと半日ももたないこと。

 

「それが!!なんだっていうんだよ!!?」

 

だから、俺は、お前のそういう所が大嫌いだ。

お前が血を流すのを、なにも出来ずに見る、俺の気にもなってくれ。いい歳して泣きそうだ。

その、伸ばし続けた、同じ髪が。矢に断たれていくのを。

なに、笑ってんだよ、お前。この生意気なクソガキめ。

 

「……生きてる。」

 

全てを諦めていた。

ここから出ても、しかたがないと思っていた。

あの時の虚しい思いを今でも覚えている。

でも、あの時と明確に違うことが、ひとつ。

隣に、この生意気なガキがいること。

 

空を、飛んだ。

12年前にも見た、空の景色。

あのときの空の記憶が、鮮やかな色で塗り替えられていく。

心の底から、声を上げて笑ったのなんて、いつぶりだろう。

こんなにも満たされたのは、いつぶりだろう。

もしかしたら、はじめてかもしれない。

 

「ジェハ」

「なに?」

 

自由が、望みだった、あのとき。

もっと、早く。

もっと早く、この笑顔を。

あの薄暗くて大嫌いな場所でも、よかったのかもしれない。

ただひとつの、望みが叶う場所。

きっと、どこでだってよかったんだろう、俺は。俺の望みは。

やっと気付いた、俺の居場所は。

もっと、話して、怒って、泣いて、笑って。

おはよう、おやすみ。それだけで。

 

視界が霞む。

雫が下へと落ちていった。

 

あぁ、適わないな。

 

「おう。あんたも連れて行ってやる。」

 

きっと、こいつには。

こいつにはもう、矢だって届かない。

なにもこいつに追いつけない。

どこへだって飛んでいけ。

俺は、お前が大嫌いだからな。どこへだって行ってしまえ。

自由に、望みだって叶えられる場所へ。

だからどうか、護ってやってくれ。緑の龍神さんよ。

俺の、大切なものなんだ。

何にも、止められないように。ジェハを。

 

渦巻いてた黒い感情が、空にとけて消えていく。この空のような曇りない感情で、お前を送り出せる。

もう一度出会った暁には、お前の話を聞かせてくれ。

 

「……ガロウ?」

 

霞む視界。涙でもない。

……ようやくか。

それにしては、恐怖もない。

もう一度、ジェハに会えるときを楽しみにさえ思える。

たった一つの、約束で。

……あぁ、ただ、もう少し。

こいつの未来を、見ていたかった。もう、少しだけ。

 

力の入らない腕。

年上の意地で口角を上げて、最後の力で、その笑顔に手を伸ばした。

一番、好きだったもの。

それに、生きてるうちに気付けただけ、上々だ。

 

……最後に掴んだ。掴めたのは。

 

 

─────自由が、

 

 

「……あんがい、わるい人生(もん)でもなかったぜ。」

 

 

─────自由が、望みとは言ったが。

 




似たものどうし。
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