「朝か……」
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの朝は早い、学校があるからだ。
昨日は色々と散々な事に巻き込まれ余計なモンまで預かる身となってしまった彼女だが
それもほんの短い間の筈だと決めつけ、さほど気にする様子も無くいつも通りに熟睡していつも通りの朝を迎えるのであった。
犬小屋の中で
「ん? あれ? あれぇぇ!?」
周りの空間が妙に狭いと寝ぼけながら見渡そうとすると、すぐにゴツンと頭を打って我に返ったエヴァ。
即座にここが自分が寝ていた私室ではないと気付くと、すぐにバッとその狭い小屋から飛び出す。
「あ、あの野郎……!」
小屋に書かれていた表札が「きんとき」ではなく「くそちび」に改名されていたのであった。
一方その頃、本来その犬小屋に住む筈であった銀時はというと
「起きて下さい、朝食の時間です」
「ん~もうちょっと寝かせてくれよ……俺基本的に昼まで寝るタイプだからさぁ……」
「……」
勝手にエヴァの私室に入り込み、更には彼女のベッドの上でゆっくりと起床するのであった。
エヴァ専属のからくりメイド・絡繰茶々丸は、彼女が寝ていると思ったらいつの間にか髪の毛ボサボサの天パのおっさんと入れ替わっていたことに「?」と首を傾げて見せた。
「失礼ですがマスターはどこに?」
「マスター? マスターってなに? 酒場の?」
「マスターはマスターです」
「いや知らねぇよ、なんでもマスターで通じると思うなよ、世の中全部マスターで渡りきれると思ったら大間違いだ」
彼女の言うマスター=エヴァという事に関してはまだピンと来ていない様子で、銀時はベッドの上で上体を起こしながら瞼をこすりながら文句を垂れると、再びゴロンと横になり
「とりあえず俺はジェダイの騎士でもポケモントレーナーでもねぇからさ、マスターなんてモンに興味ねぇんだ、だからこのまま寝かせてくれ、夕方まで」
そう言って再び寝入ろうとする銀時だが、するとそこへ下からドタドタと勢いよく階段を上って来る足音が
「なに人のベッドで寝てんだ貴様ァァァァァァ!!!」
「あら、おはとうございますマスター、いつお出かけになられてたんですか?」
「茶々丸! お前なんで主が外で寝ていた事に気付かなかったんだ!」
2階であるここまで全力ダッシュで駆け上がって来たのは案の定エヴァであった。
銀時に寝床を奪われた事に怒り心頭の様子で、同じく自分の存在にずっと気付いていなかった茶々丸にも怒鳴りちらす。
「ええいもういい! お前はさっさと下で朝食の用意しろ! ちゃんとハムエッグとコーヒーだろうな!」
「残念ですが今日は卵かけご飯です」
「またか! ここ一ヶ月ずっと卵かけご飯だぞ! 新手の嫌がらせか!? 主に対する遠回しの謀反か!?」
「いえ、ただ私が卵かけご飯を作る練習をしてるだけです」
「その練習に強制的に付き合わされてるのか私は! ていうか卵かけご飯作るのに必要なのか練習!」
朝から茶々丸と不毛な言い争いを続けるのエヴァに、流石に銀時もうるさかったのか再び上体を起こして不機嫌そうに
「うるせぇぞクソチビ、俺の眠りを妨げるたぁいい度胸じゃねぇかコラ」
「貴様こそ人のベッドを勝手に横取りして二度寝しようとするとはいい度胸だな!」
勝手に人のベッドにお邪魔して悪いと微塵も思っていない態度の銀時に、エヴァはズンズンと彼の方へ詰め寄る。
「というか貴様、いつの間に私をあの犬小屋にほおり出したんだ……」
「ああ? 夜中にコッソリ屋根伝いに2階の窓から忍び込んで、バカ面晒して寝てるお前をベッドから引きずり降ろして、そのまま1階にいた小せぇからくりロボと数十分喋り込んだ後、お前を犬小屋にポイして俺はここに戻って寝た、そんだけだ」
「普通に屋根上って忍び込んでくるな! 侍と自称してたクセにやってる事忍者じゃないか! というかチャチャゼロなにしてんだアイツ!」
ペラペラとやたらと詳しく語り出した銀時に、エヴァが腕を組みながらワナワナと怒りに震えていると
「マスター、学園長から電話です」
「ああ!?」
そこへ1階に戻っていた筈の茶々丸が再びひょっこりと顔を覗かせ出て来た。
「今忙しい! 後にしろ! 今から私は吸血鬼のプライドに賭けてこの人をナメ腐った天パをボコボコにする!!」
「いえ、用事があるのがどうやらマスターではなくそちらの坂田様の様です、なんでも至急学園長室に来いと」
「なに? まさかもうコイツの処遇について結論が出たのか? ジジィのクセに早いな……」
どうやら学園長から電話が来ていたらしく、それもエヴァではなく銀時に対してのメッセージだったみたいだ。
それを聞いてエヴァは顔をしかめながら銀時の方へ振り返る。
「おい、ジジィが貴様を今後どう扱うか決めたみたいだぞ、さっさと行って来い、お仕置きは一旦後にしてやる」
「くかー……」
「だから人のベッドで寝るなぁぁ!!!」
「ぐぼッ!!」
一瞬目を離した隙にまたもや自分のベッドで眠りに入ろうとする銀時に
エヴァはベッドの上に飛び乗って彼の腹に勢いよく両膝を落とすのであった。
それは一枚の手紙
ネカネお姉ちゃんへ
拝啓、新春を過ぎた頃。
僕、ネギ・スプリングフィールドが受け持つA組の皆さんが晴れて中学三年生になって数週間がたちました。
みんなとても元気で、むしろ元気過ぎる生徒ばかりで、というか元気過ぎて過激な行動に出てばかりで
担任として如何なモノかと、少しは空気読んで欲しいと思っているんですが、それ言うと火に油を注ぐ結末になるのが目に見えてますので、今は心密かに願うのみです。
おかげで毎日がハードワークです、教師はブラックだと聞いてましたがブラックというよりもはや漆黒です。同僚の先生方の中にも目が死んだ人達がいます、社会は怖いです、というか年頃の中学生が怖いです
でも僕は元気にここで生活を送っています、生徒達ともちゃんと接し(例外もありますが)
僕も一人前の先生になる為に彼女達から勉強させてももらってます。
特に一緒に住んでいる、木乃香さんと明日菜さんにはとってもお世話になっています。
木乃香さんは優しいし料理も美味しいし、凄く良い人です。
明日菜さんはすぐ人を張り倒す乱暴者で性格もガサツでおまけに勉学も怠っていてテストは毎回赤点です。
けどそんなダメ人間の明日菜さんでも良い所はあります、例えば……あ~……あ、日本で有名な週刊少年ジャンプという漫画雑誌をたまに貸してくれます、面白かったです。
「努力・友情・勝利」、これはジャンプ作品におけるという三大原則らしいです、僕も初めて知りました。
でも僕はジャンプの中で一番好きな作品は「ギンタマン」という作品であり
先程行った三大原則を見事に完膚なきまでに破壊していました、跡形も無く残ってませんでした。もはやジャンプ作品でありながらジャンプに真っ向から喧嘩を売ってるんじゃないかと思うぐらい。
でも明日菜さんは言います
「そこがいいのよ、人気が無いのが残念だけど革命的で私は好きだわ、わかる奴にはわかるの」
と、さも自分はギンタマンのよき理解者なのだとアピールしながら熱く語っていました。
少々に鼻につく言い方だなとも思いましたが、僕もそういう所が「ギンタマン」の好きな所なので認めざるを得ませんでした。
しかしそんな「ギンタマン」も遂に最終回を迎えてしまいました。
完結後、僕もショックでしたが、明日菜さんに至っては奇声を上げながら学校の窓を突き破って2階から飛び降りました。
無傷でした、何事もなくそのまますぐに立ち上がりました。
あの人多分トラックに轢かれても死なないんだろうなと思います。異世界転生は無理そうです
彼女は学校の校庭を泣きながら走り回り、ギンタマンについての思いを延々と叫び出し始め
最後には数十人の生徒と先生方によって怒り狂い暴れ出した彼女を無事に捕まえました
何名か軽傷を負いました、僕もその一人です
作品はモノによっては時に人を狂気に駆り立てる事がある、実にそれがよくわかる事件でした……
だから僕はこの事件をきっかけに明日菜さんを反面教師とし、例え好きな作品が終わってもそれを笑って見送る覚悟を持とうと決めました。
P・S
ところで僕は今、ギンタマンの作者さんに「ギンタマン2はまだですか?」と書いて手紙を送っています。
もしネカネお姉ちゃんも暇な時間が空いているのであれば手伝ってくれれば幸いです。
P・SのP・S
もし書いてくれなかった場合ネカネお姉ちゃんの家にギンタマンの呪いが振り撒かれます。
「……」
自分の家に届いたその手紙を金髪の女性、ネカネ・スプリングフィールドは読み終えると
「これ……私に対して脅迫してるのかしら……?」
思った疑問をポツリと呟きつつ、コレを書いてくれたあの純粋無垢であった筈の少年が
社会に毒され、みるみる自分の知る頃からかけ離れているのだと感じるのであった。
そんな事も露知れず、今年教師になったばかりの10才の少年
ネギ・スプリングフィールドはあわてて走りながら目的地 麻帆良学園へと向って行た。
「はぁはぁ……! 大変だ寝過ごしちゃった……!」
昨日の夜に突然、学園長から電話があり話しと会わせたい人がいるということで明日は早めにくるようにすること、と言われていたのにうっかり忘れていた
「社会人であるのに遅刻するなんて僕としたことが……けど学園長もあんな時間に電話する事無いのに……」
一人で愚痴りながら走って行くと、そういえばと、ふと自分が住んでいる女子寮にいる二人の生徒を思い出す。
「今頃は明日菜さんと木乃香さんも学園に向う準備かな……明日菜さんはまだギンタマンショック引きずってるから遅刻しそうだな……」
校門を潜り抜けながらふと我がクラス一番の問題児の事を思い出し、ふと不安になるネギ。
「そういえば今日はジャンプの発売日だっけ? いつもは僕が購買部で買っておいて、朝のH・Rが始まる前に読んで終わったらそのままアスナさんに奪われるっていつものパターンだけど、ギンタマン終わってもまだジャンプ読むのかなぁ、明日菜さん」
大のお気に入りの作品が終わってもなお彼女がまだジャンプに固執するのであろうか
いや多分読むだろう、ギンタマン以外にもジャンプには夢と希望と冒険が詰まった作品達が揃い踏みなのだ。
「どうしよう、買いに行きたいけど、学園長の話しがあるし、今日は諦めるしかないか……」
今から購買部に寄る時間など無いと察し、ネギは深いため息をついて改めて目的地に向かうのであった。
他の教師陣達と何度かすれ違って挨拶しながら、ネギは学園長の部屋の前にようやく辿り着いた。
少々遅刻してしまったが、学園長の事だ、案外約束自体忘れてるかもしれない……そう思いながらドアをノックすると、ネギは学園長の部屋のドアを恐る恐る開けた。
「し、失礼しまーす……すみません遅刻しました」
申し訳なさそうにしながらゆっくりと部屋に入って行くネギ、しかしそこにいたのは学園長ではなく……
「遅刻だぁ? テメェ社会ナメてんのかコラ、次やったら『マッスルスパーク』だからな、もしくは『マッスルグラビティ』」
「……へ?」
見知らぬ銀髪の男の人が、ジャンプ読んで学園長の椅子に勝手に腰掛けて優雅に読書していたのだ。
銀髪の天然パーマで、服はスーツの上に白衣を着て、足元はサンダル
眼鏡を付けて、口にタバコを咥え、そして目は死んだ魚の目をしている……
そして一番気になるのは腰に差す「洞爺湖」と彫られた木刀だ。
一体誰なのかとネギがしばらくジロジロ見ていると、その視線に気付いたのか銀髪の男はジャンプから顔を上げて
「何見てんだコノヤロー、俺が持ってるジャンプそんなに気になんのか?」
不機嫌そうに銀髪の男が呟いた、怒ってるのかどうかよくわからない表情だ。いまいち掴み所が無い。
ネギはしばらく躊躇いを見せつつも、後頭部を掻きながら思い切って彼の方へ自ら歩み寄って行き
「えっと……どなかか知りませんがとりあえず遅刻してすいませんでした、それとジャンプ読みたいです」
謝りながらも己の自分の欲求に逆らう事は出来ないと、今週号のジャンプを読みたいと素直に告白するネギ
すると銀髪の男はけだるそうに顎をさすりながら
「俺が読み終わったら貸してやるよ、あとそんなに何回も謝るな、まるで俺が悪モンみたいじゃねぇか」
「ああいえ、別にそんなつもりじゃ……」
「いいか、ジャンプ読む奴に悪い奴なんざいねぇんだ、俺は他人に金は絶対に貸さねぇが、同じジャンプを愛する男ならいつでも貸してやらぁ」
「えぇ!? あ、ありがとうございます!」
「感謝しろよ、特に今の俺は機嫌がすこぶる良いしな」
銀髪の男はまた同じテンションで答えた所から見て、どうやらこれが彼にとっていつもの状態なのであろう。
別に不機嫌ではなく元々こういう性格なのだ。
そう思うとこちらもそんな警戒する必要無いんじゃないかと、ネギは同じジャンプ好きだし友好的に接してみようと試みようとする、だが……
「なにせあの醜悪なる『ギンタマン』がようやく消えてくれたんだからよ」
「……?」
「だが俺としては早く抹殺して欲しかったがな、まあジャンプの唯一の汚点が綺麗さっぱり消えてくれて万々歳だ、オメェも嬉しいだろ?」
「待って下さい……」
「あ?」
彼のその失言をキッカケに
「ちょっとお話よろしいですか……」
基本的に温厚で通っている筈のネギは怒りの限界点を軽々と超えるのであった。
それから数分後、ようやく部屋に学園長本人が戻って来た。
「いや~わしが遅刻してしまったスマンのネギ君、実はちょっと便の切れが悪くての、いや~若い頃はキレッキレな作品を生み出せたんじゃが……ん?」
聞いても無い事を言いながらドアから入って来た学園長だが、すぐに目の前で行われている出来事に小首を傾げ
「お前等何やってんの?」
「いいですか! 『ギンタマン』の凄さというのはあの常人には真似できないセンスなんですよ! ああいう素人じゃ真似できないブラックユーモアや、勢いのある叫び声やツッコミのキレが笑いを取れるんです!」
「はぁ!? あんなもんただの下ネタ満載のオンパレードだろうが! つうかもはや存在自体が下ネタだよ! ガキのくせにあんなもん見てんじゃねぇ! コロコロコミック読んでろ!」
「あの作品が終わった事でジャンプが今、深刻な作品不足に陥っているのにまだ気づいていないんですか!? それでもジャンプ愛読者ですか!?」
「お前こそバカ言ってんじゃねぇよ! ジャンプはあんなの終わったぐらいで屁でもねぇ! いくらでも替えがきくんだよ! それがジャンプの強みだ!」
学園長の存在に気付かずに、延々と銀髪の男とジャンプの方針について論争するネギがそこにいたのだ。
「すいません思わずヒートアップしてしまいました……」
それからしばらくして、ようやく学園長の存在に気付いたネギは深々と彼に謝るのであった。
「いやいいんじゃが……君でもあんなに異常なほどテンション上がるんじゃね」
「僕だってたまには周りの目を気にせず叫んでしまいたい事があるんです、そういう年頃なんです」
「ああそうなの……ていうか銀時、その年でジャンプの行方について子どもと討論するな、情けないと思わんのか?」
この人は銀時というのか……ネギは改めて喧嘩していた彼の名前を知ると、次にこの人なにをやっている人なのだろうかと疑問が頭によぎる。
すると銀時は自分を叱る学園長に向かって「チッ」と堂々と舌打ちをすると
「黙れエイリアン、大気圏で消し炭にすんぞ、ジャンプを愛する者に年なんざ関係ねぇ、みんな少年なんだよ、少年の心を持った純粋な者のみがジャンプを愛せるんだよ」
「訳わからん事言うでないわい! ていうかお前今普通に舌打ちじゃろ! わし学園長じゃぞ! この学校で一番偉い存在なんじゃぞ!」
「知るかよそんな事、どうせ元々いた学園長を殺して乗っ取っただけだろ、早く地球防衛軍に抹殺されろ」
「お前どんだけわしをエイリアンにしたい訳!?」
怒鳴り出す学園長に対してもこの態度、どうやら銀時という男はどんな相手であろうと基本ケンカ腰になれるらしい。
ネギは珍しいタイプの人だなと銀時を見上げながらそう思っていると、学園長はそんな彼を睨みつけつつ、先程銀時が座っていた自分の椅子に座ると、深呼吸してしばらくの沈黙の後やっと口を開けた
「ネギ君、改めて言っておくがこの男は坂田銀時という男じゃ、既に察していると思うが品性の欠片もない最悪の男じゃ、年上に対して敬いもせんこの救いようのない人間性、平気で人に罵声を浴びせるなどホントに酷い奴なんじゃ」
「そこまで言いますか!? 一体僕が見てない間にこの人と学園長の間でなにがあったんですか!?」
「いやまあそれはそれとして、こっからが本題なのじゃが……」
とりあえず銀時に対する学園長の評価がこの上ない最悪だというのがハッキリとわかると
学園長は少々言い辛そうに早速ネギに本題を話し始める。
「まあコイツ、この坂田銀時なんじゃが……当分の間ここで国語の先生になってもらう事にした」
「……へ?」
「そんで君が担任しておる3年A組、そこで”坂田銀八”という名で副担任になるから、ネギ君、君は今日からこの男が悪さしないようバッチリ監視しておくれ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
まさかの急展開にネギは素っ頓狂な声を上げて思わず銀時の方へ顔を上げる。
一体どういう事だ、この男が教師? それも自分のクラスの副担任になる? 坂田銀八という偽名で?
そして何より、なんで自分が監視しなければならないのか……?
数々の疑問が膨大に浮かび上がるネギであるが
次回、その疑問が次々と解明されていくのであった。