「教師になれ?」
「そうじゃ」
学園長に呼び出され再び学園長室にやってきた坂田銀時。
そんな彼に学園長は開口一番に放った言葉は、まさかのこの学校で教師として振舞えというかなりの無茶振りであった。
「あのさ、俺はさっさと元の世界に返せって言ったよね? なのになんでそっから俺が先公にさせる必要があんの? やっぱボケてんのか、ボケてんだなクソジジィ、ボケてますって素直に白状しろ」
「ボケてねぇし! いいか銀髪、おぬしは今からこの麻帆良学園の一教師を装って、己の本当の素性を隠し通す必要があるのじゃ」
執拗に呆気てしまっているのだろうと尋ねて来る銀時に一喝すると、学園長は何故こんな無茶振りを彼に要求したのかその理由を語り始める。
「第三世界の住人というのはなにかと昔からわし等魔法使いと強い因縁がある、中にはおぬし等に恨みを持つ者も星の数ほどおるじゃろう、故にうっかり正体がバレてしまってはならん、もしバレたら第一世界に住む魔法使い達がすぐにでもここにゾロゾロとやって来ておぬしを捕まえに来るやもしれん」
「どんだけ過去の事引きずってんだよそいつ等、攘夷志士かっての」
「もしそうなったらこっちも面倒なんじゃ、だからおぬしの正体は出来るだけ拡散を防ぐ為に、この学園にいる他の魔法使いの教師達にも話しておらん、おぬしの素性を知るのはわしとエヴァ達、それとこの後紹介する一人だけじゃ」
彼の素性を知る人が増えてしまうと何かと厄介だ、ここは出来るだけ穏便に済ませ、コソコソと隠し通して何事もなく元の世界に返そうというのが学園長の判断だった。
出来るだけこの麻帆良学園に面倒事を起こして欲しくない、故に彼は銀時が第三世界の住人だというのを隠蔽し、ただの教師として周りに溶け込ませようと狙っているらしい。
「木を隠すなら森の中、とかいうじゃろ? ここはまずおぬしには普通の教師を演じてもらい、元の世界に帰れるその日まで己の素性を隠してもらいたいんじゃ」
「別に正体を隠すなら家にずっと引きこもってても良いんじゃね? 俺そっちの方が良いんだけど、楽だし」
「そんな事あのエヴァが許す訳ないじゃろうが、それにアレじゃぞ、最近じゃその年で引きこもりになると逆に目立つ時代なんじゃぞ、「いい年して幼女に養ってもらっている引きこもり」とか題されてテレビに映されるぞ?」
しかしボリボリと髪を掻き毟りながら銀時はあまりやりたくない様子、だが学園長はここで彼がやってもらわないとこっちも面倒事になるので引かない。
「とにかくこれは決定事項だから、おぬしにはもう3年A組の副担任としてしばらくここで働いてもらうからな、他の教師達にもおぬしの事は「いい年してずっと引きこもりの息子を持つ親に頼まれて、こちらで教師として預かる事になった」とわしが上手く説明しておいたから」
「全然上手い説明になってねぇんだよ! なんだその設定! 結局引きこもりじゃねぇか俺!」
学園長のいらん設定付けに銀時はツッコミを入れつつ、渋々といった感じで彼の提案を受け入れるしか無かった。
こうなったらヤケだ、自分にとって教師というモノがはっきりイメージできるのは幼い頃に出会った「彼」だけだが
要するに教科書に書かれている事を適当に言ってればなんとなく教師っぽく見えるであろう。
「ったく、じゃあとりあえず教師としてまず何すればいいんだよ」
「そりゃまずはその服装じゃろ、言っておくがわし等の世界ではそんな恰好するモンはほとんどおらんぞ」
「マジでか、もしかしてこの世界では俺の格好って時代遅れって奴?」
「数百年分時代遅れじゃの」
「そんなに!?」
ようやくやる気になった様子の銀時に最初に学園長が持ち出した問題の解決は彼の服装であった。
今時着物を普段着にしている者などこの時代ではほとんどいない、それに腰に差してる木刀も普通に危ない……
「この世界で教師になるならやはりスーツじゃの、あとその木刀は物騒じゃから見に付けんでくれ」
「いやコレは侍としてのアイデンティティなんで、俺にとってはもうおしゃぶりみたいなモンだからこの木刀だけは譲れねぇ」
「そうか、まあウチの生徒達の中にも、真剣所持してたり手裏剣隠し持ってたり、終いには重火器沢山持ち歩いてる物騒な子もおるから上手く誤魔化せるか」
「ちょっと待て! 今サラッとヤべぇ事言わなかったかジジィ!?」
この木刀だけは手放せないと拒否して見せる銀時に意外にもあっさりとそれを了承する学園長。
どうやらこの学校には自分以上に危ないモノを持っている生徒達も沢山いるようだ、銀時は本当にここは学校なのかと疑問に思いつつ、踵を返して学園長に背中を向ける。
「んじゃまあ、スーツの方はこっちで適当に調達して来るわ、それとなんか教師っぽく見えるアイテムとか」
「やる気になってくれたようで安心したわい、どうせわしの話など聞く耳持たんと思うておったが」
「郷に入っては郷に従えって奴だ、俺だってこんなめんどくせぇ事したくねぇけどよ、今更ここで駄々こねてても仕方ねぇしな」
「ほーん、ただのチンピラみたいな奴かと思うておったが意外と素直な所あるんじゃな、それなら今の内にこちらからもう一つ提案があるんじゃが」
「あん?」
こうも上手く段取りが進んでくれるとは思ってもいなかった学園長は、スーツを調達しようと部屋を出て行こうとする銀時にまた一つ新たな提案を下す。
「おぬしの名前は坂田銀時じゃったな、だがそれは第三世界での名前じゃ、この世界では別の名前を使ってもらう、いわゆるより身分を隠す為の偽名じゃな」
「やれやれ今度は偽名かよ……とことん行き辛ぇ世界だなここは、で? どんな名前」
「そうじゃのぉ、3年A組の坂田……あ」
素性だけでなく名前まで周りにバラすなと釘を刺されてしかめっ面を浮かべる銀時に、学園長はしばし長い髭を撫でながら考え込むと……
「ラグナ=ザ=ブラッドエッジはどうじゃ?」
「坂田要素どこいった!」
学園長の意外なな厨二のネーミングセンスをすぐにダメだと評し
最終的に銀時自ら考える事になり、結局某ドラマに出て来る教師にちなんだ偽名を使う事になるのであった。
「そして生まれたのがこの坂田銀時改め」
「坂田銀八です」
「その偽名も偽名ですんごいパクリなんですけど……」
要約まとめた銀時の説明を聞き終えたネギの第一声は
銀時自身の胡散臭さとその偽名は訴えられないかという二つの不安感が混じっていた。
「この人が先生やるんですか……? 目が死んでますよ? しかも3年A組の副担任って……僕の生徒とケンカする確率が高い、というか間違いなくやらかすと思うんですが……」
「大丈夫大丈夫、俺結構腕は立つから、中坊なんざ余裕で半殺しよ」
「いや生徒相手に半殺しはダメですよ!」
スーツの上に白衣を着飾りさも教師っぽく演出しているのだろうが、そのどこかで見た眼鏡の奥にある濁った眼からして完全に教師としてのやる気は皆無
こんな見るからに化学反応起こしそうな劇薬を一癖も二癖もある三年A組に投入したら、何かしら危険な兆候が起きて、最悪核爆発でもしそうだ……
「つうかお前こそ大丈夫なのよかよ、見た目完全にガキじゃねぇか、いくつだ」
「えーと10才ですけど……」
「10!? 労働基準法とかそれ以前の問題だろうが! どうなってんだこの学校!」
「あーそれはですね、一応理由があるんですよ」
自分の年齢を聞いて驚いた反応を見せるのも当然だと察し、ネギはすぐに自分の素性も語り出した。
名前は「ネギ・スプリングフィールド」、出身国はイギリス
この麻帆良学園に教師として赴任したのは見習い魔法使いにとっての修行の一環であり
早く立派な一人前の魔法使い「マギステル・マギ」になる為に、日々自分より年上の生徒達相手に悪戦苦闘しながら心身共に鍛えている所だと
「だから僕も一応魔法使いなんです、まだ見習いですけど」
「ほーん、魔法使いってのはガキの事から随分とハードな教育させんだなぁ、俺がお前等ぐらいの頃は一人前に認められたいとかそんな事考えず、ただ漠然とした夢も抱かずに日々戦場に捨てられた屍を漁ってただけだってのに」
「しょうがないですよ、魔法使いが一人前になるなら誰もが通る道……ってあなたの方がハード過ぎません!? 一体第三世界でどんな人生歩んでたんですか!?」
サラッと言ったのでつい流しそうになってしまったが、この銀時、見た目はちゃらんぽらんではあるが色々とヤバい事情を抱えている様だ。
過去について詳しくと慌てて追求するネギだが「まあ面白くねぇ話だから今言う必要ねぇだろ」と銀時が軽く受け流す、すると学園長がおもむろに
「というかネギ君、君はあまり驚かないんじゃな、この男があの第三世界の住人じゃと聞いても」
「え?」
「魔法学校でも教科書に載っておったじゃろ? あそこの世界の者達がこちら側に戦争吹っ掛けて多大な被害が生まれた事を」
「ええまあ、正直ちょっとビックリはしましたが、別に第三世界にいる人達みんなが悪い人だとは思っていないんで、昔あの世界にいる人に助けて貰った事もありますし」
「え、そうなの? それはわしも初耳なんじゃけど?」
ネギが過去に第三世界の住人に助けて貰った恩があるなど聞いてもいなかった学園長はちょっと驚いたような反応を見せた。
「ちなみにそいつどんな奴じゃった? やっぱアレか? 相当ヤバい奴じゃったか?」
「まあ頭の方は大分”ヤバかった”ですけど、普通に良い人でしたよ、僕のお父さんとは腐れ縁の中だとも言ってましたし」
「君のお父さんという事はあの英傑、ナギ・スプリングフィールドの知り合いなのか……うーむもう少しその辺の話を聞きたい所ではあるが、今はそれよりもこっちの男の処理をせんとな」
ネギ曰く、悪人では無いらしいがどうもその人物が引っかかる……
しかしここで今話すべき事は過去の話よりも今の話だと、学園長はすぐに切り替えた。
「とりあえず話は戻るがのネギ君、さっきも言ったが君にある事を改めて頼みたい。無論それはこの男がなにか問題事を起こさないか監視役になってもらいたいんじゃ」
「うーんやっぱりそういう事ですか……確かに野放しにしてると何かやらかしそうで怖いですもんね……」
学園長からいよいよ自分をここに呼びつけた理由を聞いて、ネギは不安そうにチラリと銀時を一瞥する。
いつの間にか彼は学園長室のソファの上で寝転がり、眠そうに欠伸を掻いていた。
「ったく、なんで俺がガキのお守りを付けられなきゃいけねぇんだよ。逆ならともかく俺がガキに面倒見られるって」
「ハハハ、仕方ないですよ……あなたの世界って色々と大変な事やらかしてますから、魔法側の人達にとっては、その世界にいたって時点で十分危険人物と認定されちゃう所あるんで……」
「そういう思想はどこの世界でも一緒だな、とにかく俺は監視されようが危険人物だと思われようがどうでもいいわ、俺は俺がやりたい事をやらせてもらう」
苦笑するネギにそう言うと、銀時は「よっこらしょ」とソファから起き上がってゆっくりと立ち上がった。
「教師になろうがそこん所だけは変えるつもりはねぇ、だからお前も覚悟して俺を見張っておくんだな、”ネギ先生”」
「心配しなくても僕はあなたが第三世界の住人だからって強い偏見とかは持ちませんよ、確かに学園長に監視役を任命されましたがそんな警戒するつもりはないですしね」
「そうかい、ならお言葉に甘えて自由にさせてもらうわ」
別に生まれた場所がちょっと違うだけで銀時もまた自分達と同じ血の通っている人間だ
それに魔力も持たない普通の人間、さほど強く見張る必要は無いだろうとネギが安易に考えて答えると
銀時は以前態度を変えずにボリボリと髪を掻き毟りながら、少年ジャンプを脇に挟んで突然学園長室を出て行こうとする。
「ジジィから既に聞いたんだけどよ、俺は今からガキ共のいる教室に行くんだろ? 副担任として赴任したという事でそいつ等と顔合わせしなきゃならねぇとかなんとか」
「そうですね、僕もこれから朝のHRの為に教室行きますから一緒に行きましょうか」
段取りをキチンとわかってくれているようでホッと一安心するネギ。
最初は学園長の言う通り人の言う事を聞きそうにない相手だと思っていたが、思ったよりもこちらの事情を把握してくれている様なので、これならこの先も円滑に彼とコミュニケーションが取れそうだ。
しかしネギがそう思ったのも束の間
「ってアレ?」
銀時がスタスタと歩いた後に
ポタポタと何か赤い水滴が学園長室の床に滴り落ちているのをハッキリと彼は見た。
これはもしや……とネギがふと不安に駆られながら視線を少し上に上げて銀時をよく観察してみると……
彼の腰に差す木刀の先から、先程の赤い水滴が落ちてるのを確認したのであった。
「ちょ! どうしたんですかその木刀!?」
「ああコレ? 別に気にすんな、ちょっとスーツを調達する時にまあある男に……抵抗されてつい」
「ついじゃないですよ! もしかしてその木刀でやったんですか! 殺ったんですか!?」
「人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ、少し眠ってもらっただけだ、まあ発見が遅れればそのまま永遠の眠りにつくかもしれねぇけど」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
平然と闇が深い事を話す銀時に、もう彼は既になにかしらの事件を起こしたのではないかと推測するネギ
しかしそんな事などどうでもいいと言うかの様に、銀時は学園長室のドアを開けて彼の方へ振り返り
「ほれ、行くぞネギ先生、可愛い教え子たちが待っているんだろ。早く銀さんに紹介してくれよ」
「……」
呆然と見つめ返しながらネギはハッキリと前言撤回して警戒心を強めた。
この男はしっかり自分が見張っておかねばと……
次回、銀さんと生徒達の楽しい顔合わせ