ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第6話:帰還を待つ者 / Sinon

** Side Sinon **

 

 

その頃、現実世界では『SAO事件』被害者の搬送が次々行われていた。

私が部屋を借りているマンションでは。

 

 

「いいか、ナーヴギアの電源関係、ネットワークの接続に常に注意しろ!」

「「了解!」」

 

 

医療関係者が慌ただしく動いていた。

ニュースでも、様々な地域でこれと同じ光景が広げられていた。

中には搬送中にネットワークが切断されて、プレイヤーが死亡する事故があったらしく、搬送するほうもかなり慎重のようだ。

しかし、日本全国で1万人というメンバーのうち1人がここにいるというのもなかなかの確率だ。

そう思い、私…朝田詩乃はそっと玄関を開け、外の様子を見た。

その時、被害者がタンカに乗せられ運ばれていく途中で。

 

 

「え…?」

 

 

ナーヴギアに覆われ、顔全体を覆ってこそいるが、それでも分からないはずがない。

けれど、私を救ってくれた彼の事を、忘れるはずがない。

ギア越しの顔を見て、私は言葉を失った。

 

 

「せ…先ぱ…い……?」

 

 

そこにあったのは、私を救ってくれた大切な人…華月時雨先輩の姿だった。

私は部屋着であることも忘れ、運ばれていく彼に縋るように追いかけていく。

 

 

「先輩!?どうして先輩が!」

「ご家族の方ですか?」

「いえ、違います…違いますけど、私も一緒に行っていいですか…!?」

「……分かりました」

 

 

通常は家族の同伴なのだろうが、家族と連絡が取れない、との理由で特別に同伴を許可してもらった。

先輩からは家族の話を聞いたことがないが、聞きにくい話題ということもあり聞けなかった。

それでも、連絡がつかない、というのはどこか妙な気がした。

 

 

 

救急車に乗り、近くの病院まで搬送された。

搬送中も電源に留意されながら移され、病院に移されるまで問題なく搬送が終了した。

搬送されたとはいえ、特に身体的に問題があるわけではないので、ただ病院のベッドに寝せられ、電源を繋がれただけだが。

 

 

「…先輩」

 

 

静かな病室で、無機質な電子音だけが、先輩が生きていることを伝えてくる。

医師に軽く挨拶をされ、これから家族への連絡を試みるということで、カーテンに仕切られた病室の一角には眠り続ける先輩と私だけ。

眠り続ける先輩を見ると、かつての事を思い出す。

ある事件があったとき、彼が私を救ってくれた。

それ以来、疎遠になっていたけれど、またいつか会いたいと。

会って、お礼を言いたいと思っていたのに。

 

 

「どうして、こんなことに…どうして…!」

 

 

あの時から、たとえ会えなくても私の心の支えだった。

いつか、私も強くなって、あの時のお礼をしたいと、ずっと思っていたのに。

いざ彼が危険に晒されている今、私は何も出来ていない。

 

 

「…お願い、どうか無事に帰ってきて…先輩…!」

 

 

眠り続ける先輩の手を取り、祈るだけで精一杯だった。

先輩が私の事を覚えていてくれているかなんて分からない。

彼が目覚めたとき、ひょっとしたら初対面のように扱われるかもしれない。

けれど、それでも。

 

 

「どうか…!」

 

 

無事にもう一度会えれば、きっとやり直すことも出来るから。

 

 

 

** Side Sinon End **


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