ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
** Side Sinon **
その頃、現実世界では『SAO事件』被害者の搬送が次々行われていた。
私が部屋を借りているマンションでは。
「いいか、ナーヴギアの電源関係、ネットワークの接続に常に注意しろ!」
「「了解!」」
医療関係者が慌ただしく動いていた。
ニュースでも、様々な地域でこれと同じ光景が広げられていた。
中には搬送中にネットワークが切断されて、プレイヤーが死亡する事故があったらしく、搬送するほうもかなり慎重のようだ。
しかし、日本全国で1万人というメンバーのうち1人がここにいるというのもなかなかの確率だ。
そう思い、私…朝田詩乃はそっと玄関を開け、外の様子を見た。
その時、被害者がタンカに乗せられ運ばれていく途中で。
「え…?」
ナーヴギアに覆われ、顔全体を覆ってこそいるが、それでも分からないはずがない。
けれど、私を救ってくれた彼の事を、忘れるはずがない。
ギア越しの顔を見て、私は言葉を失った。
「せ…先ぱ…い……?」
そこにあったのは、私を救ってくれた大切な人…華月時雨先輩の姿だった。
私は部屋着であることも忘れ、運ばれていく彼に縋るように追いかけていく。
「先輩!?どうして先輩が!」
「ご家族の方ですか?」
「いえ、違います…違いますけど、私も一緒に行っていいですか…!?」
「……分かりました」
通常は家族の同伴なのだろうが、家族と連絡が取れない、との理由で特別に同伴を許可してもらった。
先輩からは家族の話を聞いたことがないが、聞きにくい話題ということもあり聞けなかった。
それでも、連絡がつかない、というのはどこか妙な気がした。
救急車に乗り、近くの病院まで搬送された。
搬送中も電源に留意されながら移され、病院に移されるまで問題なく搬送が終了した。
搬送されたとはいえ、特に身体的に問題があるわけではないので、ただ病院のベッドに寝せられ、電源を繋がれただけだが。
「…先輩」
静かな病室で、無機質な電子音だけが、先輩が生きていることを伝えてくる。
医師に軽く挨拶をされ、これから家族への連絡を試みるということで、カーテンに仕切られた病室の一角には眠り続ける先輩と私だけ。
眠り続ける先輩を見ると、かつての事を思い出す。
ある事件があったとき、彼が私を救ってくれた。
それ以来、疎遠になっていたけれど、またいつか会いたいと。
会って、お礼を言いたいと思っていたのに。
「どうして、こんなことに…どうして…!」
あの時から、たとえ会えなくても私の心の支えだった。
いつか、私も強くなって、あの時のお礼をしたいと、ずっと思っていたのに。
いざ彼が危険に晒されている今、私は何も出来ていない。
「…お願い、どうか無事に帰ってきて…先輩…!」
眠り続ける先輩の手を取り、祈るだけで精一杯だった。
先輩が私の事を覚えていてくれているかなんて分からない。
彼が目覚めたとき、ひょっとしたら初対面のように扱われるかもしれない。
けれど、それでも。
「どうか…!」
無事にもう一度会えれば、きっとやり直すことも出来るから。
** Side Sinon End **