ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第96話:戦う理由

食事は平和に終わり、とはいっても寝るには早すぎる時間。

 

 

「……」

 

 

そんな中シグレは一人、暇を持て余していた。

キリトは眠ったユイの世話をしつつ、自分も眠気が来ているようで、今にも寝そうな感じでソファに腰かけている。

アスナとサチは食器の洗い物。

初めは手伝いを申し出たシグレだったが、そこまで人が入ると窮屈になり、逆に効率が悪くなるという理由で断られてしまう。

ストレアはストレアで散歩の疲れが出たのか、部屋に戻って休んでいるらしい。

これまで、自分の家を持たず、ただ攻略に明け暮れていたが、それがあってか、いざ暇ができるとどう過ごせばいいか分からない。

 

 

「…戻って休むか」

 

 

結局出した答えは、部屋に戻るという事だった。

とはいえ、戻ってする事があるわけでもない。

75層攻略に向けて、フィールドモンスター狩りを行う方法もあるだろうが、そうすれば戻った時に何を言われるか分かったものではない。

戻らなければいい、とも考えたが、そうなれば追いかけられ、更に強く言われそうな気がする。

先ほど、キリトとの決闘から戻った時のアスナの威圧感が、シグレを思い留まらせていた。

 

 

 

そうして部屋に戻ると、当然だが明かりもついていない。

けれど外から入る月明かりで部屋が照らされ、家具が淡く照らされている。

部屋の明かりのスイッチを入れると、昼間とはまた違った明るさで部屋が照らされる。

 

 

「…」

 

 

部屋を歩き、ベッドに腰掛ける。

そして、何をするでもなくぼんやりと、目を閉じる。

74層で、罠とはいえ、自分はリタイアしかけた。

けれど、幸運にも、まだ生きている。

生かそうとしてくれた者がいる。

 

 

「……本当に、物好きだな」

 

 

攻略の前線についてきて、共に戦い続けてきたストレア。

追いかけてきて、共に戦っているキリト、アスナ、サチ。

そんな皆を物好き、の一言で片づけるシグレ。

皆に聞かれれば、何かしら反論されるかもしれない。

しかし、少なくとも皆より自分の命を軽んじているシグレにとっては、その言葉以外にあてはまるものを知らない。

他に強いて言うなら、お人好し、という言葉ぐらいか、とシグレは思う。

 

 

「だが…それでも」

 

 

その物好きのおかげで、今自分は生きている。

ならば、ただ死ぬのではなく、その者達の為に。

それが、今の自分にできる、せめてもの。

 

 

「…そんな終わりなら、許されるだろうか」

 

 

誰に許しを請うのか、それはシグレにも分からない。

それは、シグレの言う、物好きか。

それとも、今この世にいないシグレの両親か。

あるいは、両方か、それ以外か。

答えは、シグレにも分からない。

そしてそれが、許される結末なのか、ということさえも、分からない。

 

 

「…そういえば、あいつは」

 

 

ストレアは全力で止める、と言っていたのを思い出す。

とはいえ、この暖かさが仮想世界、このゲームをクリアして終わるのなら。

クリアをして、何も得るものがない現実に戻るというのならせめて、それを望む者達を助ける形で終われれば。

 

 

「…いい、終わり方か」

 

 

少なくとも、シグレにとっては。

目を閉じ、考える。

…ここから先、どこまで共に居られるかは分からない。

だとしても、シグレは決意する。

彼らが現実に戻るために戦い続けるのなら、どんな形であれ、最後まで、戦い続けようと。

 

 

「俺を仲間だというのなら、せめてその仲間のために…」

 

 

この世界がクリアという形で終わるその時まで、その仲間の為に戦う。

その決意を知るものは、ただ一人もいない。


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