ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
食事は平和に終わり、とはいっても寝るには早すぎる時間。
「……」
そんな中シグレは一人、暇を持て余していた。
キリトは眠ったユイの世話をしつつ、自分も眠気が来ているようで、今にも寝そうな感じでソファに腰かけている。
アスナとサチは食器の洗い物。
初めは手伝いを申し出たシグレだったが、そこまで人が入ると窮屈になり、逆に効率が悪くなるという理由で断られてしまう。
ストレアはストレアで散歩の疲れが出たのか、部屋に戻って休んでいるらしい。
これまで、自分の家を持たず、ただ攻略に明け暮れていたが、それがあってか、いざ暇ができるとどう過ごせばいいか分からない。
「…戻って休むか」
結局出した答えは、部屋に戻るという事だった。
とはいえ、戻ってする事があるわけでもない。
75層攻略に向けて、フィールドモンスター狩りを行う方法もあるだろうが、そうすれば戻った時に何を言われるか分かったものではない。
戻らなければいい、とも考えたが、そうなれば追いかけられ、更に強く言われそうな気がする。
先ほど、キリトとの決闘から戻った時のアスナの威圧感が、シグレを思い留まらせていた。
そうして部屋に戻ると、当然だが明かりもついていない。
けれど外から入る月明かりで部屋が照らされ、家具が淡く照らされている。
部屋の明かりのスイッチを入れると、昼間とはまた違った明るさで部屋が照らされる。
「…」
部屋を歩き、ベッドに腰掛ける。
そして、何をするでもなくぼんやりと、目を閉じる。
74層で、罠とはいえ、自分はリタイアしかけた。
けれど、幸運にも、まだ生きている。
生かそうとしてくれた者がいる。
「……本当に、物好きだな」
攻略の前線についてきて、共に戦い続けてきたストレア。
追いかけてきて、共に戦っているキリト、アスナ、サチ。
そんな皆を物好き、の一言で片づけるシグレ。
皆に聞かれれば、何かしら反論されるかもしれない。
しかし、少なくとも皆より自分の命を軽んじているシグレにとっては、その言葉以外にあてはまるものを知らない。
他に強いて言うなら、お人好し、という言葉ぐらいか、とシグレは思う。
「だが…それでも」
その物好きのおかげで、今自分は生きている。
ならば、ただ死ぬのではなく、その者達の為に。
それが、今の自分にできる、せめてもの。
「…そんな終わりなら、許されるだろうか」
誰に許しを請うのか、それはシグレにも分からない。
それは、シグレの言う、物好きか。
それとも、今この世にいないシグレの両親か。
あるいは、両方か、それ以外か。
答えは、シグレにも分からない。
そしてそれが、許される結末なのか、ということさえも、分からない。
「…そういえば、あいつは」
ストレアは全力で止める、と言っていたのを思い出す。
とはいえ、この暖かさが仮想世界、このゲームをクリアして終わるのなら。
クリアをして、何も得るものがない現実に戻るというのならせめて、それを望む者達を助ける形で終われれば。
「…いい、終わり方か」
少なくとも、シグレにとっては。
目を閉じ、考える。
…ここから先、どこまで共に居られるかは分からない。
だとしても、シグレは決意する。
彼らが現実に戻るために戦い続けるのなら、どんな形であれ、最後まで、戦い続けようと。
「俺を仲間だというのなら、せめてその仲間のために…」
この世界がクリアという形で終わるその時まで、その仲間の為に戦う。
その決意を知るものは、ただ一人もいない。