ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
やがて、アインクラッド解放軍を名乗る五人はその場を後に去っていく。
キリトこそ最近よく行う決闘で彼の威圧感を知ってこそいたが、コーバッツに向けられるそれが、その時の比ではなかった。
キリトでさえそうなのだから、決闘をしないアスナ、サチ、ストレア、ユイからすれば、嫌な意味で新鮮であった。
「…どうした?」
決闘を見守っていた皆にシグレが声をかける。
その様子は、先ほどまでのシグレとは違う、彼らの知るシグレだった。
「う、ううん…何でもない!さ、戻ろ?お腹すいたでしょ?」
気丈に振舞うアスナがシグレの右腕に抱き着き。
「…さっきのシグレ…すごかったね」
左腕にサチが抱き着く。
まるで、先ほどの別人のようなシグレを、今のシグレで上書きしようとせんばかりに。
シグレからすれば、どうしたのだろうと疑問符を浮かべるばかりだが。
「……そうなのか?キリトとの決闘と同じくらいだと思っていたが」
キリトに尋ねれば、返ってくるのは苦笑のみ。
それにいよいよ訳が分からない、と言わんばかりのシグレだったが。
「そんなことないよー、今のシグレ、ちょっと怖かったよ?」
「…そうか」
言いながら、背中から抱き着いてくるストレアにバランスを崩しながらも支えるシグレ。
「だって…あんな言い方されたら、アタシだってシグレみたいにやっちゃってたかもしれないし」
ストレアの言葉に、アスナやサチも一瞬考える。
あそこまでの殺気を纏って、とはいわずとも、コーバッツに対していい感情を抱くことはなかっただろうと考えると、ストレアの言うことも分かる。
「だから、アタシ達の代わりに怒ってくれて、ありがとね、シグレ?」
「…随分ご都合解釈だな」
「いいの、アタシがそう思ってるんだからー」
ストレアの感謝の言葉に皮肉で返すシグレ。
ストレアはそんな返しに頬を膨らませるが、本気で怒っているわけでもないようですぐに笑顔に戻る。
「えへへー」
ぐいっと、体を惜しげもなく押し付けるストレア。
そうすることで彼女の豊満な胸が押し付けられることになるが。
「二人よりおっきくてごめんねー?」
ストレアがシグレの両腕に抱き着くアスナとサチに、ニヤリとしながら言う。
その視線はからかい半分、挑発半分といったところだろうか。
とはいえ、二人がそこまでされて黙っているほど大人しい性格でもなく。
「む…」
「…っ」
アスナとサチも負けじと、強くシグレの腕を抱きしめる。
二人がストレアと比べて劣っている部分があるとはいえ、決して女性としての魅力がないわけではない。
そうなれば、シグレが出来ることといえば。
「…いい天気だな」
現実逃避ぐらいであった。
天気を語るシグレの目はどこか遠くを見ていたが、それに気づいたのは、少し離れた場所にいたキリトとユイくらいのものだった。
そんな微笑ましい光景を遮るかのような通知が、キリトの目の前に現れる。
「…?……っ!」
通知は、攻略トップギルド『血盟騎士団』団長、ヒースクリフから。
そこからの通知と、その内容に、キリトは息を呑む。
「…どうした?」
キリトの只ならぬ気配に、シグレが視線を向ける。
それに対し、キリトは真面目な表情で。
「攻略の応援の依頼だ……75層、フロアボスについて」
キリトの言葉にシグレも真剣な表情になり、女性陣も言い争いを止める。
…抱きついたままなのが、いまいち決まっていなかったが。
「…説明をしたいから、55層の本部まで来てくれってさ。皆で」
「……そうか。なら、休暇は終わりだな」
キリトの言葉にシグレが頷く。
今一度、皆が攻略に戻る覚悟を決め、55層に向かうこととなった。