ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
緊迫した空気が流れる中。
「…どうする?」
「無論、私とシグレ君は上の層に向かい、皆を待つ事にするつもりだが…」
シグレの言葉にヒースクリフは答えながらキリトに目をやり。
「…キリト君。君には、私の正体を看破した報酬を渡さねばなるまい」
「報酬?」
ヒースクリフの言葉にキリトは訝しげに返す。
その口調は、完全に敵に向けられるものだった。
「チャンスをあげよう。ここでシグレ君と戦い、勝てばゲームクリア。君達は無事にログアウトできる……どうかな?」
それはつまり、シグレと殺し合いをしろ、ということである。
「これまで仲間だったシグレとの殺し合い…随分悪趣味なイベントだな」
言いながら、キリトは剣を構える。
それはつまり、ヒースクリフの案に乗るということ。
しかし、それを止める者がいた。
「…待って、キリト君」
彼を止めたのは、アスナ。
「その戦う役…私がやるわ」
キリトの隣に並び、アスナが細剣を抜いて構える。
「…ヒースクリフ」
「……まぁよかろう」
シグレの言葉にヒースクリフが溜息交じりに了承する。
それと同時にメニューを操作しだし。
「くっ…なんだ、これ…!?」
皆が次々に倒れていく。
その場に立つのは対峙するシグレとアスナ、そしてヒースクリフのみ。
他の皆は、麻痺の状態異常でその場に伏してしまう。
「っ……」
アスナは息を呑み、細剣をシグレに向ける。
一方のシグレは刀を構えるでもなく、自然な体勢でいる。
「…考えてみれば、俺がこの世界に来て、初めて話をしたのは…お前だったな、アスナ」
「うん…そうだね。その時は…こんな風になるなんて…思ってもなかったよ」
シグレの言葉に、アスナは笑みを零しながら答える。
けれど表情は曇ったままだったが。
「……私ね。貴方のこと…好きだったんだよ。最初は、私を助けてくれた貴方への憧れだった」
とてもこれから殺し合いを始めるとは思えないほどの会話。
けれど、その言葉を止める者は誰もいない。
「でも、無茶ばかりして『幻影の死神』なんて呼ばれる貴方を止めたくて。私が強くなれば隣で戦えて…貴方に無茶をさせることもなくなるかもって…そう思ってた」
それはきっと、シグレを追いかけた皆が思っていた事。
アスナだけでなく、サチも、ストレアも、キリトも。
「…どうして、こんな事になっちゃうんだろうね」
自分を責めるように言うアスナ。
その言葉にシグレは目を伏せ。
「…誰が悪い、ということではあるまい。いろいろな要素が絡み合った結果だ」
「……そっか。シグレ君が言うのなら…そうかもしれないね」
シグレはアスナに答えを返す。
その答えにアスナは頷き。
「でもね…だからこそ、私は…君に勝つよ、シグレ君」
勝って、貴方を、止める。
そう言って、シグレを見据えるアスナの目つきが変わる。
敵に対峙する、その視線は、第一層で出会った頃のアスナとは別人といえるほどの、剣士としての風格。
そんな彼女に敬意を表するかの如く、シグレも刀を構える。
「…いいだろう。俺も全力で行く…気を抜けば、狩られると思え」
「っ……」
アインクラッド解放軍に対してシグレが向けた、モンスターを狩るように人に刀を振り下ろすシグレの殺気。
それが自分に向けられているという事実にアスナは軽く恐怖する。
けれど、長く戦い続けてきたアスナは、それを押し殺す方法を知っていた。
それでも、これから剣を向ける相手は、想い人。
その事実は、アスナに重く圧し掛かる。
…やがて、決闘開始のカウントは0になる。
ルールは、このゲームにおいて禁忌となりうる、全損決着モード。
シグレとアスナの、文字通りの殺し合いが、今始まる。