ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第106話:未来を賭けて

緊迫した空気が流れる中。

 

 

「…どうする?」

「無論、私とシグレ君は上の層に向かい、皆を待つ事にするつもりだが…」

 

 

シグレの言葉にヒースクリフは答えながらキリトに目をやり。

 

 

「…キリト君。君には、私の正体を看破した報酬を渡さねばなるまい」

「報酬?」

 

 

ヒースクリフの言葉にキリトは訝しげに返す。

その口調は、完全に敵に向けられるものだった。

 

 

「チャンスをあげよう。ここでシグレ君と戦い、勝てばゲームクリア。君達は無事にログアウトできる……どうかな?」

 

 

それはつまり、シグレと殺し合いをしろ、ということである。

 

 

「これまで仲間だったシグレとの殺し合い…随分悪趣味なイベントだな」

 

 

言いながら、キリトは剣を構える。

それはつまり、ヒースクリフの案に乗るということ。

しかし、それを止める者がいた。

 

 

「…待って、キリト君」

 

 

彼を止めたのは、アスナ。

 

 

「その戦う役…私がやるわ」

 

 

キリトの隣に並び、アスナが細剣を抜いて構える。

 

 

「…ヒースクリフ」

「……まぁよかろう」

 

 

シグレの言葉にヒースクリフが溜息交じりに了承する。

それと同時にメニューを操作しだし。

 

 

「くっ…なんだ、これ…!?」

 

 

皆が次々に倒れていく。

その場に立つのは対峙するシグレとアスナ、そしてヒースクリフのみ。

他の皆は、麻痺の状態異常でその場に伏してしまう。

 

 

「っ……」

 

 

アスナは息を呑み、細剣をシグレに向ける。

一方のシグレは刀を構えるでもなく、自然な体勢でいる。

 

 

「…考えてみれば、俺がこの世界に来て、初めて話をしたのは…お前だったな、アスナ」

「うん…そうだね。その時は…こんな風になるなんて…思ってもなかったよ」

 

 

シグレの言葉に、アスナは笑みを零しながら答える。

けれど表情は曇ったままだったが。

 

 

「……私ね。貴方のこと…好きだったんだよ。最初は、私を助けてくれた貴方への憧れだった」

 

 

とてもこれから殺し合いを始めるとは思えないほどの会話。

けれど、その言葉を止める者は誰もいない。

 

 

「でも、無茶ばかりして『幻影の死神』なんて呼ばれる貴方を止めたくて。私が強くなれば隣で戦えて…貴方に無茶をさせることもなくなるかもって…そう思ってた」

 

 

それはきっと、シグレを追いかけた皆が思っていた事。

アスナだけでなく、サチも、ストレアも、キリトも。

 

 

「…どうして、こんな事になっちゃうんだろうね」

 

 

自分を責めるように言うアスナ。

その言葉にシグレは目を伏せ。

 

 

「…誰が悪い、ということではあるまい。いろいろな要素が絡み合った結果だ」

「……そっか。シグレ君が言うのなら…そうかもしれないね」

 

 

シグレはアスナに答えを返す。

その答えにアスナは頷き。

 

 

「でもね…だからこそ、私は…君に勝つよ、シグレ君」

 

 

勝って、貴方を、止める。

そう言って、シグレを見据えるアスナの目つきが変わる。

敵に対峙する、その視線は、第一層で出会った頃のアスナとは別人といえるほどの、剣士としての風格。

そんな彼女に敬意を表するかの如く、シグレも刀を構える。

 

 

「…いいだろう。俺も全力で行く…気を抜けば、狩られると思え」

「っ……」

 

 

アインクラッド解放軍に対してシグレが向けた、モンスターを狩るように人に刀を振り下ろすシグレの殺気。

それが自分に向けられているという事実にアスナは軽く恐怖する。

けれど、長く戦い続けてきたアスナは、それを押し殺す方法を知っていた。

それでも、これから剣を向ける相手は、想い人。

その事実は、アスナに重く圧し掛かる。

 

 

 

…やがて、決闘開始のカウントは0になる。

ルールは、このゲームにおいて禁忌となりうる、全損決着モード。

シグレとアスナの、文字通りの殺し合いが、今始まる。


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