ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

113 / 251
第109話:無意味な犠牲

それで、決闘が終わりを告げたかと思われる、次の瞬間。

 

 

「っ!?」

 

 

一瞬、空…というより、天井の部分に亀裂が入り、血のような真っ赤な液体が不気味に流れ落ちて一ヶ所に集まる。

その光景は、ここにいる誰もが、覚えていた。

 

 

「…なんで今、『これ』がここに…!?」

 

 

クラインが立ち上がり、けれど驚いたのか、たじろぎながら言う。

それは第一層で、SAOがデスゲームであることを告げた、あの赤いローブ。

 

 

「…どういうことだ、茅場!」

 

 

キリトがヒースクリフに問い詰めるが、ヒースクリフは答えなかった。

…否、答えられなかった。

そんな混乱を知ってか知らずか、赤ローブは、霧散していく光…シグレをそのローブの中へと、吸い込むように取り込んでいく。

 

 

「シグレを…取り込んだ!?」

 

 

サチがその様子に、そう結論付ける。

赤ローブは周りの混乱を知ってか知らずか。

それ以前に意思があるかどうかも疑わしいが、光の粒を取り込んだ後に、ゆらめきながらその場から姿を消した。

その様子は、何もかもが第一層のそれと同じだった。

 

 

 

突然の事に、皆が固まる中。

 

 

「…そういえば、ログアウトの件は、どうなったんだ」

 

 

誰かが、そう呟く。

確かに、元々はログアウトを賭けての戦いだったのだ。

しかし、ヒースクリフは目を伏せ。

 

 

「先程確認したが…私から、管理者権限が外れている。今の私に、君達をログアウトさせることはできない」

 

 

淡々と、事実を述べる。

 

 

「な…そんなのってありか!?お前が最初に言い出したんだろうが!!」

「ふざけるな!」

 

 

皆から非難の声が上がる。

だがそれ以上に。

 

 

「じゃあ…私は、何のために、シグレ君を……!」

 

 

アスナのショックは大きかった。

ログアウトをかけて戦い、アスナの件はシグレを貫き、シグレはその命を犠牲にした。

しかし、それが叶わないというなら、シグレは何のために剣を受け、命を散らしたのか。

先ほどの戦いが無意味だったと、暗に言われているようで。

 

 

「アスナ…」

 

 

ストレアが、そんなアスナに近づき、彼女の背を撫でる。

戦いでは凛々しかったアスナの背は、震えていた。

 

 

「…だが、私がきっかけを作ったことは事実だ。本当に私を恨むなら、私を貫くがいい…今は私は不死ではないし、抵抗をするつもりもない。今の諸君なら簡単に討てるはずだ」

 

 

ヒースクリフが言うが、アスナの様子を見た皆は動けなかった。

戦う前のやりとりも含めて見ていた彼らにとって、一番その資格があるのはきっと彼女であり、自分ではないと、皆が思っていた。

 

 

「…次の層への扉が、開いてる」

 

 

ぼんやりと、ケイタが呟く。

その言葉に、まだこの戦いは終わらないのだと、皆が絶望に捉われる。

 

 

 

……終わると思われた戦いは、一人の犠牲と共に、終わることなく続いていくことが確定した瞬間だった。

 

 

 

To be continued to next chapter...


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。