ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
大きな敵を消滅させたところで。
「……」
青年は刀を納める。
それを見てか、女性も短剣を納める。
二人の視線は、消滅したスカルリーパーがいた場所を見ていた。
少しして、先に動いたのは。
「…」
青年の方だった。
踵を返し、用は済んだとばかりに歩き出す。
装備の刀が、彼が知る物より弱いステータスだったので、装備を整えたい、というのもあったのだが。
「…待って」
女性に呼び止められ、青年は足を止める。
けれど振り返らずに、視線のみ女性に返す。
青年なりの、先の促し方。
「……どうして、私を助けたの?」
「…敵を、倒しただけだ」
「背後から斬りかかるって…言ったでしょ?カーソル…見えてるわよね」
「…オレンジプレイヤーだな」
プレイヤーを表すカーソル。
通常は緑。
犯罪を犯すとオレンジ。
その中でも、プレイヤー殺しをした者は、カーソルこそオレンジだが、区別も兼ねてレッドプレイヤーと呼ばれる。
…アインクラッドにおける、笑う棺桶のように。
「……私、人を殺したの」
女性の告白に、青年は動じない。
しかし、視線も動かさない。
「そうか」
青年は視線を前に戻し、女性に完全に背を向けて言葉を続ける。
「…なんとも思わないの?」
「……殺しはいけない、などという綺麗事を言える程、奇麗な生き方はしていない」
「そう…それと」
女性が言葉を切ったところで、青年は再度視線を向ける。
「……さっきは助けてくれて、ありがとう」
女性からすれば、青年がいなければここで死んでいたかもしれない、という状況を救われた。
仮に自分だけで対処できたとしても、彼に救われたという事実は変わらない。
だからこそ、一言だけでも感謝の言葉を述べる女性。
それには、青年は返さなかった。
その代わりに。
「…聞きたいことがある」
「……いいわよ」
「ここは…何だ?」
青年は女性に質問を投げる。
しかし。
「…分からない。私は一月前にここに飛ばされたんだけど…生き残るのに精一杯で、碌に探索できてないし」
「そうか」
帰ってきた答えは、青年が期待するものとは少し違っていた。
とはいえ、それをどうこう言うつもりもなく。
「…街や、圏内エリアの場所は?」
「……」
「……そうか」
青年の問いに対し、女性は無言。
その無言から答えを察し、青年はやれやれ、といった様子だった。
「…世話になった」
これ以上の問答は不要と悟り、青年が歩き出そうとする。
しかし。
「……私も一緒に行くわ」
女性が同行を申し出る。
青年はそんな女性を訝しげに見る。
「別に同伴は不要だが」
「…さっきの話しぶりから、圏内エリアを探すつもりなんでしょ?見つかれば私にとっても利点はあるから」
「…好きにしろ」
溜息を吐く青年を追いかけるように女性がついていく。
女性の話では、一月経っても見つからなかったのだから、見つけるのは容易ではないだろう。
そういう意味では協力は確かに利点がある。
そう青年は考え、同伴を認めるのだった。
「…そういえば、名乗ってなかったわね。私はフィリア…どれくらいの付き合いになるか分からないけど、よろしく」
「……シグレだ」
アインクラッドとは似て非なる、けれどSAOの中という不思議な場所を歩き出すのだった。