ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第3話:手を汚した者達

大きな敵を消滅させたところで。

 

 

「……」

 

 

青年は刀を納める。

それを見てか、女性も短剣を納める。

二人の視線は、消滅したスカルリーパーがいた場所を見ていた。

少しして、先に動いたのは。

 

 

「…」

 

 

青年の方だった。

踵を返し、用は済んだとばかりに歩き出す。

装備の刀が、彼が知る物より弱いステータスだったので、装備を整えたい、というのもあったのだが。

 

 

「…待って」

 

 

女性に呼び止められ、青年は足を止める。

けれど振り返らずに、視線のみ女性に返す。

青年なりの、先の促し方。

 

 

「……どうして、私を助けたの?」

「…敵を、倒しただけだ」

「背後から斬りかかるって…言ったでしょ?カーソル…見えてるわよね」

「…オレンジプレイヤーだな」

 

 

プレイヤーを表すカーソル。

通常は緑。

犯罪を犯すとオレンジ。

その中でも、プレイヤー殺しをした者は、カーソルこそオレンジだが、区別も兼ねてレッドプレイヤーと呼ばれる。

…アインクラッドにおける、笑う棺桶のように。

 

 

「……私、人を殺したの」

 

 

女性の告白に、青年は動じない。

しかし、視線も動かさない。

 

 

「そうか」

 

 

青年は視線を前に戻し、女性に完全に背を向けて言葉を続ける。

 

 

「…なんとも思わないの?」

「……殺しはいけない、などという綺麗事を言える程、奇麗な生き方はしていない」

「そう…それと」

 

 

女性が言葉を切ったところで、青年は再度視線を向ける。

 

 

「……さっきは助けてくれて、ありがとう」

 

 

女性からすれば、青年がいなければここで死んでいたかもしれない、という状況を救われた。

仮に自分だけで対処できたとしても、彼に救われたという事実は変わらない。

だからこそ、一言だけでも感謝の言葉を述べる女性。

それには、青年は返さなかった。

その代わりに。

 

 

「…聞きたいことがある」

「……いいわよ」

「ここは…何だ?」

 

 

青年は女性に質問を投げる。

しかし。

 

 

「…分からない。私は一月前にここに飛ばされたんだけど…生き残るのに精一杯で、碌に探索できてないし」

「そうか」

 

 

帰ってきた答えは、青年が期待するものとは少し違っていた。

とはいえ、それをどうこう言うつもりもなく。

 

 

「…街や、圏内エリアの場所は?」

「……」

「……そうか」

 

 

青年の問いに対し、女性は無言。

その無言から答えを察し、青年はやれやれ、といった様子だった。

 

 

「…世話になった」

 

 

これ以上の問答は不要と悟り、青年が歩き出そうとする。

しかし。

 

 

「……私も一緒に行くわ」

 

 

女性が同行を申し出る。

青年はそんな女性を訝しげに見る。

 

 

「別に同伴は不要だが」

「…さっきの話しぶりから、圏内エリアを探すつもりなんでしょ?見つかれば私にとっても利点はあるから」

「…好きにしろ」

 

 

溜息を吐く青年を追いかけるように女性がついていく。

女性の話では、一月経っても見つからなかったのだから、見つけるのは容易ではないだろう。

そういう意味では協力は確かに利点がある。

そう青年は考え、同伴を認めるのだった。

 

 

「…そういえば、名乗ってなかったわね。私はフィリア…どれくらいの付き合いになるか分からないけど、よろしく」

「……シグレだ」

 

 

アインクラッドとは似て非なる、けれどSAOの中という不思議な場所を歩き出すのだった。


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