ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
それから、どれくらい歩いたか。
シグレ達は、雰囲気が変わりそうにない樹海の中を、ただ彷徨うように歩き続けていた。
「これ…もしかして迷ってるんじゃ……」
フィリアの懸念に、シグレは返さない。
その可能性が否定できないほど、歩き続けていたから。
とはいえ、実際に樹海がそれほどまでに広い可能性もある。
いずれにしても、このままではまずい状況なのは変わらないのだが。
そんな感じで歩いていると。
「…?」
シグレが立ち止まり、前方を注視する。
「わぷっ!?」
フィリアは気づかなかったか、シグレの背中にぶつかり、変な声が出る。
「…どうしたの、シグレ?」
「……転移だ。何かが…来る」
フィリアが尋ね、シグレが答え、指さす先を見ると、そこには二人も見慣れた転移の光。
先ほどまでそこに何もいなかったということは、ここに転移してこようとしていることになる。
シグレが刀の柄に手をかけ警戒をし、フィリアもそれに倣って警戒する。
…やがて、そこに現れたのは。
「……キリト、か?」
全身黒ずくめの見慣れた姿に、シグレが声をかけると、相手は驚いたように。
「シグレ…!?お前、なんで…あの時…え…?」
振り返り、シグレの姿を確認すると混乱を露にする。
75層での出来事を見ていた彼にとっては、混乱しかなかった。
そんな彼…キリトを見て、シグレは警戒を解く。
平然とするシグレ、混乱するキリト、状況が理解できないフィリア。
一度、状況の整理が必要だろう、と誰もが思い、一度安全な場所で話をすることにした。
そうして、キリトとシグレで状況を整理し、それをフィリアに説明する形で話を進める。
「…つまり、二人は知り合いで…75層でシグレは一度死んで…え?じゃあなんでシグレは今ここにいるのよ?」
とはいえ、情報量が多すぎるのか、フィリアは混乱を隠せない。
「確かに俺はあの時、アスナに貫かれて死んだはずだった。だがそこからの記憶はない」
「俺も、確かに見た。お前が光の粒になったのを。けど…そのお前の光の粒を、謎のアバターが取り込んだ。お前は…そいつに取り込まれたはずなんだ」
「だとすれば…俺は何だ?」
キリトが知る、シグレのその後。
謎のアバターに取り込まれたのなら、今ここにいるシグレは何なのか。
キリトとシグレはそれに、答えが出せない。
「…でも、シグレはシグレなんでしょ?…とりあえず、それはそれでいいじゃない」
「そうは言っても…」
「たとえ、今のシグレの体が偽物だとしても、持ってる記憶やらなにやらは本物…それ以前に私たちの体はそもそも偽物なんだし今更じゃない?」
フィリアの言葉に、キリトは苦笑しながら確かに、と返す。
当事者のシグレはどこか腑に落ちない様子だったが、やがて考えても結論は出ないと悟ったのか。
「……なら、そういうことにしておく」
溜息交じりにそう、返すのだった。
「ま、いいか。シグレが生きてたってのが…一番大事なことだしな」
そう、結論付けてキリトが立ち上がる。
「…帰ろうぜ。お前がいなくなって、落ち込んでるやつがいるんだ…元気づけてやってくれ」
「……そうなのか」
「あぁ。アスナはお前を殺したっていう罪悪感が強いみたいだし、サチとストレアも部屋から出てこなくなってるんだ。サチには黒猫団の皆がいるけど…な」
キリトはそこまで言って、少し暗い表情になる。
一時期は葬式みたいな雰囲気だった、と語るキリトの言葉が全てなのだろう。
とはいえ。
「それは構わないが…その前にやることがある」
「やること?」
「あぁ……お前は、この近くで安全エリアを見なかったか?」
「いや、見てないけど…どうかしたのか?」
シグレはキリトの問いに答える。
フィリアとともに、スカルリーパー…75層のボスを撃破した事。
助けてくれた彼女を、安全エリアに連れていくと約束した事。
シグレはその約束を反故にするつもりはなかった。
「…そういうことなら、みんなでアインクラッドに行けばいいじゃないか」
「……」
突拍子もないようなキリトの案に、シグレとフィリアが一瞬言葉を失っていると。
『「ホロウ・エリア」データ、アクセス制限が解除されました』
そう、無機質なアナウンスがどこからともなく流れたのだった。