ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Asuna ***
76層に到着した。
いつもなら、上に進めたことを喜んでいるはずなのに。
今の私…私たちの空気は、非常に重い。
「…ったく、何をやってんのよあの馬鹿男共は…!」
苛立ちを隠そうともしないリズの言葉が、どこか遠くに聞こえる。
男共、というのはシグレ君とキリト君のことだろう。
…悪いのは、私なのに。
シグレ君の考えに気づかずに、彼を貫いてしまった、私なのに。
「リズ…ごめんね。私が…私が、シグレ君を……そのせいで、…!」
「っ…アスナ……ごめんね。アスナを責めるつもりはないの…」
このやりとりも、もう何度目だろう。
シグレ君を貫いた感触が、未だ手から消えない。
今まで、何度もモンスターを貫いてきたのに。
シグレ君は、私たちをこの世界から解放するために、わざと貫かれたのだと分かっている。
だけど。
「ぅ、う……シグレ君…シグレ…君……!」
辛いのは、私だけじゃない。
だから、こうして塞ぎ込んでばかりじゃダメ。
それは、頭では分かっている。
だけど、まるで自分が細剣で貫かれたような痛みが胸に残る。
…ふと、あの戦いが終わった後の、ストレアさんとのやり取りを思い出す。
『っ…なんで、なんでシグレを……!』
『……』
『アタシは…シグレが生きていてくれれば、それでよかったのに…なんでシグレを……っ!!』
ストレアさんがどれだけシグレ君を想っていたかは、全てはわからなくとも、ある程度はわかる。
だからこそ、彼女が私に怒りをぶつけるのは、当然なのかもしれない。
けれど、その言葉だけで、それ以上は何もなかった。
頬の一発も叩かれると思ったけれど、それすらもなかった。
『…本当は、決闘でシグレの仇を討ってもいいかなって思ったんだ。それで仮にアスナに負けて、殺されてもいいって。でも…そんな事きっとシグレは望んでないから』
その言葉だけで、その話を終わらせた。
確かに、シグレ君なら、そう言ったかもしれない。
だけど、そこで感情を律することができるストレアさんは大人だな、と思った。
…或いはAIであるが故の合理的な判断、というやつなのかもしれない。
あれから、ストレアさんから笑顔が消えてしまったけれど。
どうやって謝ったらいいのか、全然分からないけれど。
「…ごめんね、リズ。いつまでも塞ぎ込んでなんて…いられないよね」
「アスナ…」
顔を上げて、何とか笑顔でリズに話しかける。
うまく笑えている自信はなかったし、実際上手くできていなかったのだろう、心配げな表情が目に映る。
「…ごめんなさい、皆。こんなところで立ち止まっていられないよね」
「大丈夫なのか…?」
私の言葉に、エギルさんは心配げに声をかけてくれる。
私は頷き。
「…シグレ君の事はすぐには割り切れないけど…立ち止まってばかりも、いられませんから」
「……そうか。でも今日はとりあえず休んだほうがいい…どっちにしても、キリトがいない以上、下手に動けないだろう」
実際のところ、エギルさんの言う通りだった。
私達も、75層を突破してきたことは事実だが、戦力はギリギリだった。
そこから、キリト君が抜けた穴はあまりに大きい。
「…でも、実際キリトはどうしちまったんだ?」
「私は…よくは知らないですが……」
クラインさんと、下の層でキリト君と知り合ったっていうシリカちゃんがキリト君について話しているのが耳に入る。
そう、キリト君が突然転移の光に包まれ、どこかにいってしまった。
彼のことだから、すぐに死んでしまう、ということもないだろう。
とはいえ、どういうわけかこの76層より下の層に下りられなくなっていて、確認ができない。
「…とりあえず、まずはキリト君を探しましょう。それから…今後の攻略について話していかないと」
そう…ここで立ち止まってしまえば、それこそシグレ君の犠牲を、私自身で無駄にしてしまう。
だから、私は…前に進んでいくよ。
それこそが…私にできる償いだって、そう思うから。
*** Side Asuna End ***