ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Sinon ***
…もう、二年経った。
忙しくて来れない日もあったが、出来るだけここに来るようにしている。
先輩が眠り続ける、病院の一室。
無機質な機械の音が、先輩が生きていることを無機質に伝えてくる。
「……」
ふと、本から目を先輩に移す。
二年前から比べると、体がすっかりやつれてしまっている。
点滴で生命維持をしているとはいっても、ずっと寝たきりで衰えてしまうのはどうしようもないのだろう。
このままでは、ゲームから帰ってくるどうこう以前に、先輩の体が限界を迎えるのでは、という心配が過る。
本音を言えば、助けに行けたら、と考えている。
けれど、私はゲームの知識なんて何もない。
仮に先輩のもとに行けたとしても、ゲーム初心者の私では何の役にも立たないだろう。
それが何とも歯痒い。
「…また、明日」
明日こそ、目を覚ましてくれたら。
何度そう思っただろう。
次、ここに来るまでの間に、死なないで。
何度そう思っただろう。
二年前から、変わらない想い。
…どうか、届いてほしい。
そう思いながら、私は先輩の病室を後にする。
そうして、病室を出たところで。
「あ…こんにちは」
「えぇ…」
数ヶ月前から、私と同じようにソードアート・オンラインに捕らわれた人の帰還を待っている人と話をするようになった。
話すようになったきっかけは、何度も顔を合わせているうちに、自然に、といったところだろうか。
「…こんにちは、桐ケ谷さん」
「こんにちは…朝田さん」
できるだけ笑顔を作って挨拶をすると、向こうもぎこちない笑顔で答えてくれる。
以前会話をしたところ、お兄さんの帰りを待っているらしい。
「貴女も…お見舞い?」
「えぇ…お兄ちゃんの」
「そう…」
お互いに、精神的に疲弊している。
それがわかるのは、私もそうだから。
それでも帰りを待ち続けるのは、いかにその人が大切かということ。
「…あの、私……」
少しの無言の後、桐ケ谷さんが話し出す。
その目は、少しばかり決意に満ちているようで。
「……行こうと思うんです」
「行くって…どこに…?」
決意を持った目。
行く、という言葉。
そこから先は察しはついたが、確認せずにはいられなかった。
「SAO…ソードアート・オンラインに。お兄ちゃんを迎えに…」
「…ま、待って。そんな事したら…!」
ソードアート・オンラインは、言わずと知れたデスゲームで、初回ロット以降販売は停止している。
ソフトの入手が困難な状況で、どうやって。
というより、それ以前にそんなことをしたら、お兄さんだけじゃなくて。
「貴女も…死んじゃうかもしれないわよ!?」
「…それでも。仮にここで手を拱いているうちに、お兄ちゃんが死んじゃったら…きっと一生後悔する」
だから…行きます。
桐ケ谷さんは、はっきりとそう言った。
大切な人を助けたいから、自分の命を賭けると決めた桐ケ谷さんは、とても強く見えた。
そんな桐ケ谷さんが羨ましくて。
私も、私の大切な人を助けるために、命を賭ける。
そんな覚悟は、とっくに済んでいる。
だから。
「…ねぇ」
「はい?」
「ゲームはあまり得意じゃないのだけど…VRMMOって、どうやればいいのかしら?」
私は、桐ケ谷さんに尋ねる。
そうしたら、親切にいろいろと教えてくれた。
私がこう思ったのなら、きっと貴女もそう思うって…分かってた、と桐ケ谷さんは言う。
上手く乗せられたような気恥しさはあるが、もう後には引かない。
「…待っててね、先輩」
もう…迷わない。
もう、待つだけ、なんてお断りだ。
これ以上、不安に苛まれ続けるくらいなら、貴方を助けるために、行動をする。
「ただ待つだけの…小説の中の弱いヒロインには…私はならない」
命の危険があっても、貴方と共に戦えるくらい、強くなりたい。
だから…私は、危険なところであっても、貴方の傍に行くから。
…先輩。
*** Side Sinon End ***