ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第11話:一方的な戦い

その後、三人は森の中をモンスターを散らしながら歩き続け。

 

 

「…あれか」

 

 

キリトが、若干違うオーラを纏った、というべきか、強敵の気配を感じるモンスターを見つける。

実際、確認をすれば、目的とするマッスルブルホーンであると判明する。

 

 

「……」

 

 

シグレはそれを知りながらも、抜刀すらせずに、普通に歩いて近づく。

気配を消して近づくでもない、正面から、普通に。

 

 

「お、おいシグレ!」

「ちょっと、何を…!」

 

 

そんなシグレを、キリトとフィリアは止めようとする。

相手はここまで戦ってきた、所謂雑魚ではなく、ボスクラス。

だとすれば、不用意に接近すること自体が危険な事。

ここまで生き残ってきたからこそ、キリトとフィリアはそれが身に染みて分かっている。

しかし、それはシグレとて同じはずだった。

というより、単独ボス撃破なんてことをやってのけるのだから、彼ら以上に、知っているはずだった。

だからこそ、キリト達にはシグレの行動が、分からなかった。

 

 

「……」

 

 

そんな二人の静止の声を聞いてか聞かずかシグレは一歩、また一歩と距離を詰める。

そこはすでに、モンスターが持つ巨大な斧のような武器の射程範囲内。

 

 

「シグレ!」

 

 

フィリアがシグレの名を呼ぶ。

それにシグレは振り返らず、抜刀する。

モンスターもそれに合わせるように、武器を振り下ろす。

攻撃態勢にすら入っていないシグレの眼前に迫りつつある斧。

仮に反応できても、シグレの武器では対応できない。

しかし、二人の目の前には、予想とは違う光景が目に映る。

 

 

「な…」

「え……?」

 

 

突如モンスターが武器に引っ張られるようにうつ伏せに倒れた。

片足のバランスが崩れたのか、武器の狙いは逸れ、シグレにモンスターの攻撃は命中しなかった。

 

 

「……」

 

 

地に伏すモンスターを見下ろすシグレ。

その瞳は、何を映しているか分からないほどに、冷めきっていた。

 

 

「っ…」

 

 

かつて、アインクラッド解放軍のコーバッツとの決闘。

その時から、キリトはシグレが敵に対して向ける冷酷さを知っていた。

……知っているつもりだった。

けれど、今のシグレは、その時の比ではなかった。

敵でなくて本当によかったと、キリトは思う。

普段のシグレを知っていたから余計にそう、なのかもしれない。

一方で、フィリアはどうか。

そう思い、キリトがフィリアに視線を向ける。

 

 

「……」

 

 

武器を構え、飛び込もうとしていたのだろうか。

けれど、突然の目の前の光景が信じられていないのか、それとも別の理由か、動けずに目の前の光景を整理しているようだった。

とはいえ、ボスモンスターは撃破されたわけではない。

武器を支えに、腕に力を入れて立ち上がろうとするボス、マッスルブルホーン。

それを見てか、シグレは刀を構え。

 

 

「…」

 

 

それを振るい、相手の肩を裂く。

シグレはモンスターに立ち上がることすら許さない。

相手がアルゴリズムに従って動くとはいえ、その動きを潰すかのようなシグレの戦い方。

シグレはソードスキルをそれほど使わないが、そうしなければダメージを与えられないわけではない。

ただ一撃の威力は下がる。

その為、敵を倒すのに時間がかかる。

それは、シグレの『弱み』だとキリトは考えていた。

しかし、今目の前で繰り広げられる光景を見て、キリトはそう思わなかった。

 

 

「…な、何なのよ…!」

 

 

フィリアも感じる、恐怖。

それに気づいてか気づかずか、シグレは、まるで削ぎ落すかのように、マッスルブルホーンの体の部位を裂いていく。

その間、シグレは僅かな抵抗すら許さない。

…時間がかかっても、自分へのダメージがなければ、何も問題はない。

それがシグレの戦い方なのだと、キリトは理解せざるを得なかった。

それにより、少しずつ巨体の体が削られていく。

そのダメージが蓄積してきたのか、モンスターのHPゲージは残り一本、半分を切っている。

体が光の粒に変えられるたびに、モンスターは悲鳴ともとれる雄たけびを上げる。

 

 

「…終わりだ」

 

 

もう黙れ、といわんばかりにシグレはモンスターの喉に、刀を突きたてる。

それが致命傷となり、マッスルブルホーンはボスとしての威厳を示すことなく、あっさりと光となって霧散した。


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