ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
モンスターが消え、安全となったその場所で。
「……」
シグレは刀を鞘に納める。
そうして目を閉じ、息を一つ吐くシグレ。
けれど、シグレは振り返らず。
「…それで?」
「え?」
突然声を掛けられ、キリトは驚いたように返事をする。
「目的のマッスルブルホーンは撃破したが…この後は?」
「あ、あぁ…」
しかしその口調、振り返るシグレの視線がいつも通りであることに少しだけ拍子抜けしながら返事を返す。
「出口に向かおう。それでミッションは終わるはずだ」
「そうか」
言いながら、歩き出そうとしたシグレに。
「…待ってくれ」
キリトが静止をかける。
それにシグレは足を止め、キリトに視線を向ける。
訝しげなシグレの視線を受け止めながら。
「お前…確か、剣道やってたって…言ってたよな?」
「…あぁ、言ったな」
キリトの問いに、シグレは思い出すように返す。
孤児院で、確かにそう言っていた。
「お前のそれは…本当に、剣道なのか?」
キリトは、今の戦いを見て率直に感じた疑問をぶつける。
「ど、どういうこと…?」
フィリアは質問の意図が掴めなかった。
それに答えるように、キリトが繋ぐ。
「剣道だって…わかりやすく言えばスポーツだ。それは相手との間に確かなルールがあって、その中で全力を尽くして戦う」
スポーツには、ルールがある。
それを守る中で、相手に勝つために全力で戦う。
そこには少なくとも、相手に対する敬意はある。
けれど、今のシグレの戦い方は。
「…今のお前の戦い方は、剣道のそれじゃない。殺すことに特化しすぎてる」
それは、少なくともこのご時世では、必要のない剣だと、キリトは考える。
それに気づいてか気づかずか。
「……そうか、お前は剣道をしていたのだったな」
「少しだけだけどな」
なら気づくか、と言葉を漏らしながら溜息を吐く。
やがて、諦めたかのようにシグレは顔を上げ。
「…察しの通りだ。俺の剣は…その方向に特化したものだ」
シグレはそう、答える。
このご時世に必要のなさそうな剣術。
それを身に着けたシグレ。
「…あなた、人を殺したことがあるの…?」
フィリアが尋ねる。
ゲームの中とはいえ、人を殺したというフィリア。
シグレはそんなフィリアに視線を向け。
「……あぁ。何十の人間を…殺した。この世界でも……現実でも、な」
そう、答える。
その答えに、尋ねたフィリアだけでなく、キリトも息を呑む。
当然の反応といえばそうだろう。
けれど、シグレはそれが分かっていたかのように。
「……だが、それだけ殺しておきながら、俺は本当に守りたかったものを…守れなかった」
人を殺したという罪。
守りたいものを守れなかった後悔。
その二つが、シグレを今も苛み続けていた。
「赦しを請うつもりはないが…このまま生き続けても疲れるだけだ」
「だから…死を求めた」
「それが、誰かの助けになるのならそれでもいいと…考えていた」
実際はそうならなかったが、と苦笑するシグレ。
キリトとフィリアには、その苦笑が痛々しく見えていた。