ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
直後、今までと同じような転送の光に包まれる。
少しして落ち着いたところで、ふと、目を開くが、景色は何も変わっていなかった。
森の出口の光景。
そこに浮かぶ、森の中には不釣り合いな、転送を行うであろうオブジェクト。
ただ一つ違うのは、キリトとフィリアがその場から姿を消していたことだった。
「……?」
シグレは状況を把握すべく、辺りを見回す。
けれど、考えるまでもなく、転送に失敗したということだろう、とすぐに察する。
『転送エラーが発生しました。対象のプレイヤーは管理区エリアに転送できません』
すぐに流れる、無機質なアナウンス。
つまり、どういう理由かはさておき、管理区とやらに入ることを許可されていない。
シグレはそう認識する。
…尤も、シグレはそれを問題視はしていなかった。
何故なら。
「…当初の目的は達成した」
シグレはそう、呟く。
管理区、というからにはフィールドのようにモンスターが出るわけではないだろう。
そう考えれば、圏内エリアを見つける、という目的は達成した。
であれば、これ以上行動を共にする理由はない。
それがシグレの結論だった。
「…」
とはいえ、ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
そう考え、次の目的地を見つけるために、辺りを見回す。
「……?」
ふと、シグレは遠巻きに、人影を見つける。
気配を感知した、とか大層なものではない。
単純に、視界に捉えただけ。
モンスターという異形が蔓延る中で、人というのはそれだけで目立っていた。
単純に、他にもプレイヤーがいたという興味だけであったが。
「……っ!?」
ふと、視界に入った、男の腕に刻まれた模様に、シグレは興味から、憎悪に似た何かに感情を変える。
それは、かつてある男と対峙した時のこと。
自分の父親の最期を知り、手にかけた、最凶ギルドのリーダーの包丁使い。
父の仇、という憎悪に捕らわれたシグレは刀を抜き、その人影に向かって距離を詰める。
そこから先は、シグレの独壇場だった。
「な、何なんだよ、お前…!」
人影に距離を詰め、出会い様に両脚を刀で両断し、膝から下を光の粒に変える。
正面にバランスを崩し、俯せになった男に、感情を削ぎ落したような視線を落としながら。
「…質問に答えろ」
「ぐほぁっ…!」
命令口調の言葉と共に、シグレは男の腹を蹴り上げ、仰向けにさせる。
「貴様等のリーダーは…どこにいる」
「へ、言うわけ…ねぇだろうよ?」
シグレの問いに、男は虚勢を張るように吐き捨てる。
突然、何の躊躇いもなく膝下を斬り飛ばされたことによる恐怖こそある。
しかし一方で、シグレのカーソルが緑であることが、男に若干の余裕を生む。
こいつは、人を殺したことがない。
だから、殺せない。
少なくとも、躊躇うはず。
その隙をついて、転移をすればいい。
そう考えていた。
「そうか」
シグレは武器を構えるでもなく、力なく持ったまま、溜息交じりに返事をする。
男は、シグレに隙ができた、と。
今のうちに転移を、と、懐から転移結晶を取り出し。
「…残念だ」
「転……ぎゃあああぁぁぁぁっ!?」
転移先を言い、離脱しようとした瞬間に肩を切り飛ばされ、転移結晶を手放す。
幻肢痛だろうか、男は悲鳴を上げる。
シグレは転移結晶を拾い上げ。
「……もう一度聞く。貴様らのリーダーは、どこにいる」
「し、知らない!本当だ…嘘じゃない!」
必死に弁明をする男に、シグレは無言。
ならもう用はない、と言わんばかりに喉元に刀の切っ先を当てる。
いよいよ死の恐怖にかられたのか。
「…た、頼む。知りたい事は何でも答える!欲しいものがあれば手に入れる!だから…だから、頼む、殺さないで……!!」
必死の命乞い。
情に厚い人間ならば、そこで刀を納めていたかもしれない。
しかし、憎悪にかられたシグレは、そんなことは考えない。
「…お前は今まで、その言葉を何度聞いた?」
シグレの言葉に、男の脳裏には走馬灯が過った。
命乞いの言葉は、男自身、何度も聞いてきた。
だが、自分はどうしたか。
「…因果応報だ」
「やめ、やめてくれええぇぇぇっ!!!!」
シグレは、命乞いの言葉を叫ぶ男の口に刀を突き刺し、喉奥に風穴を開けた。
男の喉奥から突き入れられた刀が首の裏を貫通し、地面を刺す。
「あ、が……っ」
言葉にならない絶叫をしながら、男を光の粒に変えるシグレ。
男はオレンジプレイヤーだった為、シグレのカーソルは緑のまま。
シグレは地面に刺さった刀を引き抜きながら。
「……」
手元の転移結晶を放り捨て、刀を納めて歩き出す。
混乱する記憶の中で見つけた、為すべきこと。
…それはあまりに、歪んだ決意であった。