ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

13 / 251
第9話:孤独に、前へ

第1層迷宮区。

 

 

「…」

 

 

敵を倒した剣を鞘に納める。

さすがに次の層に続く道だけあり、フィールドより敵は全体的に強い。

それがシグレが第一に感じた印象だった。

そのせいもあって、初激だけで倒すには至らないが、それほど苦戦はしなかった。

 

 

「…」

 

 

シグレは目の前の扉に目をやる。

ひときわ大きな扉。

それがボスのいる部屋への扉だと察するのに時間は必要なかった。

そうなれば、この扉の先にいる敵は一筋縄ではいかない。

分かっている事だ。

だが、それでも歩みは止めない。

 

 

「どうせ喪っても誰も悲しまないこの命…」

 

 

ボスを倒せたならそれでよし。

そうでなくとも弱らせることで、後々ここに来るメンバーの助けにはなるだろう。

シグレは息を一つ吐き。

 

 

「…行くか」

 

 

大きな扉に手をかける。

手を触れ軽く力を入れると、システムのアシストがあるのか、扉はひとりでに開いていく。

 

 

 

そうして扉が開かれた先は大広間。

一人で来たせいか、足音がやけに部屋の中に響く。

 

 

「っ…!」

 

 

突然点いた明かりに、シグレは咄嗟に剣を抜き警戒態勢をとる。

部屋の最奥に、玉座に腰掛ける敵。

手に持っているのは斧のような武器。

βテストではボスに挑んではいなかったこともあるのだが、武器の大きさから力任せに攻めてくるタイプだと察する。

 

 

一撃が致命傷になる。

シグレはそう察するからこそ、動きに注視する。

 

 

次の瞬間、大きく振り下ろされる斧を横に飛んで躱す。

 

 

「っ……」

 

 

飛びながら、シグレは自分がいた場所に振り下ろされる斧を見て軽く息を呑む。

軽く瓦礫が散り、持ち上げられた地面は軽く抉れていた。

ゲームだというのに無駄にリアルだ、とシグレは考える。

すぐに着地し、視線をボスの巨体に定め、剣を構えて駆ける。

そんなシグレから守るように、ボスの取り巻きである、兜をつけた小さな…といっても、シグレと同じくらいの体躯の敵がメイスを手に立ち塞がる。

しかし。

 

 

「……邪魔だ」

 

 

シグレはこれまでフィールド、あるいはこの迷宮で戦ってきた経験を活かし、ボスの首元、兜と鎧の間を狙って薙ぐ。

その剣が取り巻きの頭と胴体を分断し、容易く取り巻きを光の粒に変える。

 

 

「っ…」

 

 

取り巻きは一体ではない。

しかし、何体であっても、今のシグレには及ばなかった。

一撃で光に変えるだけの力。

ここに来るまでに、何体ものモンスターを相手にしたことで積み重ねた経験。

それが、取り巻きでは相手にならない事への確証に繋がっていた。

 

 

「…!……!!!」

 

 

一方で、取り巻きとはいえ、あまりに容易く倒されていく仲間を見て狼狽える様子を見せる、ボス『イルファング・ザ・コボルトロード』。

取り巻きで動きを止め、その瞬間に斧を振り下ろす。

そのアルゴリズムが、たった一人に対して実行できない事実。

それがボスの思考ルーチンにエラーを引き起こす。

人間でいえば、自棄を起こした状態に陥る。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。