ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
第1層迷宮区。
「…」
敵を倒した剣を鞘に納める。
さすがに次の層に続く道だけあり、フィールドより敵は全体的に強い。
それがシグレが第一に感じた印象だった。
そのせいもあって、初激だけで倒すには至らないが、それほど苦戦はしなかった。
「…」
シグレは目の前の扉に目をやる。
ひときわ大きな扉。
それがボスのいる部屋への扉だと察するのに時間は必要なかった。
そうなれば、この扉の先にいる敵は一筋縄ではいかない。
分かっている事だ。
だが、それでも歩みは止めない。
「どうせ喪っても誰も悲しまないこの命…」
ボスを倒せたならそれでよし。
そうでなくとも弱らせることで、後々ここに来るメンバーの助けにはなるだろう。
シグレは息を一つ吐き。
「…行くか」
大きな扉に手をかける。
手を触れ軽く力を入れると、システムのアシストがあるのか、扉はひとりでに開いていく。
そうして扉が開かれた先は大広間。
一人で来たせいか、足音がやけに部屋の中に響く。
「っ…!」
突然点いた明かりに、シグレは咄嗟に剣を抜き警戒態勢をとる。
部屋の最奥に、玉座に腰掛ける敵。
手に持っているのは斧のような武器。
βテストではボスに挑んではいなかったこともあるのだが、武器の大きさから力任せに攻めてくるタイプだと察する。
一撃が致命傷になる。
シグレはそう察するからこそ、動きに注視する。
次の瞬間、大きく振り下ろされる斧を横に飛んで躱す。
「っ……」
飛びながら、シグレは自分がいた場所に振り下ろされる斧を見て軽く息を呑む。
軽く瓦礫が散り、持ち上げられた地面は軽く抉れていた。
ゲームだというのに無駄にリアルだ、とシグレは考える。
すぐに着地し、視線をボスの巨体に定め、剣を構えて駆ける。
そんなシグレから守るように、ボスの取り巻きである、兜をつけた小さな…といっても、シグレと同じくらいの体躯の敵がメイスを手に立ち塞がる。
しかし。
「……邪魔だ」
シグレはこれまでフィールド、あるいはこの迷宮で戦ってきた経験を活かし、ボスの首元、兜と鎧の間を狙って薙ぐ。
その剣が取り巻きの頭と胴体を分断し、容易く取り巻きを光の粒に変える。
「っ…」
取り巻きは一体ではない。
しかし、何体であっても、今のシグレには及ばなかった。
一撃で光に変えるだけの力。
ここに来るまでに、何体ものモンスターを相手にしたことで積み重ねた経験。
それが、取り巻きでは相手にならない事への確証に繋がっていた。
「…!……!!!」
一方で、取り巻きとはいえ、あまりに容易く倒されていく仲間を見て狼狽える様子を見せる、ボス『イルファング・ザ・コボルトロード』。
取り巻きで動きを止め、その瞬間に斧を振り下ろす。
そのアルゴリズムが、たった一人に対して実行できない事実。
それがボスの思考ルーチンにエラーを引き起こす。
人間でいえば、自棄を起こした状態に陥る。