ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Kirito ***
転移した後の街は、確かに76層のそれだった。
無事に、ホロウ・エリアから出てこれた、ということになる。
皆が思い思いに過ごす中、ホロウ・エリアでの事を思い返す。
…フィリア。
ホロウ・エリアで知り合った、オレンジプレイヤー。
何か事情があるようだが、詳しくは知らない。
けれど、悪い人ではない、ということだけは分かる。
何か力になれればいいんだけど。
…シグレ。
75層の決闘で、確かに死んだはずだった。
けれど、あいつは、確かにいた。
何故なのかはわからないが、生きていることだけは確か。
少し様子がおかしい気もしたが、あいつはあいつだろうから。
連れ戻して、また皆で過ごしたいと思う。
そんなことを考えながら、街中を歩いていると。
「あぁー、キリト帰ってきた!」
「…リズ」
聞き覚えのある声に、そっちを見る。
ふと見れば、見覚えのある、ぼったくり鍛冶屋の顔。
「…なんかあんた今、失礼なこと考えなかった?」
「いや別に」
…なんで分かるんだよ。
「だから言ったでしょ?どうせすぐ戻ってくるって。みんな心配しすぎなのよ」
そう言って、やれやれといった感じなのは、この76層で出会った、シノン。
なんでも、SAOに囚われ続けている人を探すために、無理やりログインしてきた、のだとか。
事情はどうあれ、無茶をするな、というのが第一印象。
そうやって無茶して突っ走るところはシグレに似てる気がしないでもない。
「でも、それでも…心配はするよ。私にとっては…家族だもん」
そう言いながら不安な表情をするのはリーファ。
少し前に、森に妖精が現れる、という噂がたったころに調査していたら出会った、エルフ耳を持った、金髪のプレイヤー。
話を聞いてみると、その正体は俺の妹の直葉だった。
なんでも、別のゲームからSAOにログインしてきたのだとか。
色々と突っ込みどころはあったが、とりあえず…ゲーム、やってたんだな、というのが率直に思ったことだった。
「…で、皆に心配かけて、あんたは何してたのよ」
「悪い、ちゃんと説明するから」
そうして、76層に新装開店したエギルの店で椅子に座り。
ちらり、と辺りを見回す。
皆揃ってはいるが、一人だけ姿が見えない。
「…ところで、ストレアはどうしたんだ?」
シグレが死んだという事実に、おそらく一番ショックを受けたであろうストレア。
正直なところ、そのうち自殺でもしてしまうのでは、と不安だった。
「今…部屋にいるわ。フレンド登録もしてるから間違いないと思う…圏内だから、自殺もないとは思うけど…」
言葉を切るアスナ。
やっぱり心配なのだろう。
「…そうか」
ストレアにも聞いてもらうべきだと思ったけど、ひょっとしたら寝てるかもしれない。
無理強いはできないし、後で伝えればいいか。
「…実は、探索を行っていたら、突然別のエリアに転移させられたんだ」
その言葉に、皆が一瞬騒めく。
まぁ、そういう反応になるよな。
俺は今回帰ってこれたけど、もし超高難度なエリアとか迷宮区に飛ばされたらと思うとゾッとする。
「ホロウ・エリアって場所だ。そこで俺は…二人のプレイヤーと会った」
「……プレイヤー?」
俺の言葉に、シリカが疑問符を浮かべる。
「…一人はフィリアって子だ」
「まぁた女の子かよ…どんだけ女の子と知り合えば気が済むんだ、おめぇは?」
クラインの呆れ半分、嫉妬半分の言葉を受け流す。
「…それで、もう一人は?」
サチの問いに、俺は頷き。
「……シグレだ。あいつが…ホロウ・エリアにいた」
その言葉に、75層にいた皆も。
事情を人伝に聞いていたシリカも、リーファも、シノンも言葉を失っていた。
確かに死んだはずなのに、生きていた。
この世界では、ありえないはずの事実に混乱し、一瞬言葉を失っていた。
…そうだよな。
ありえないはずなんだ、このデスゲームで。
*** Side Kirito continues... ***