ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第19話:借りを返すために / Philia

*** Side Philia ***

 

 

 

キリトと別れてすぐ、私は管理区を出る。

先程までいた、見慣れたフィールド。

 

 

「っ…あれ…?」

 

 

辺りを見回す。

けれど、シグレの姿はない。

私だって、ここで一ヶ月近く過ごしていた中で、多少は気配を感じられるようになった。

けれど、分からない。

だとすれば、おそらくシグレはこの近くにいない。

 

 

「っ…」

 

 

どれだけあたりを見回しても、何も手掛かりはない。

見慣れた風景。

その中に、探している人影はなくなっていた。

 

 

…その次の瞬間、森の中で、光の欠片が舞うのが目に入る。

 

 

「っ…」

 

 

現実ではありえない、けれど、この世界に来て幾度となく目にした光。

誰か、あるいはモンスターが撃破されたことをあらわす、光の欠片。

そこに、シグレがいるとは限らない。

けれど、少なくとも戦闘があった事は間違いない。

手掛かりとしては、十分だった。

 

 

 

…途中現れたモンスターに足止めされながら、その場所へと駆ける。

 

 

「やあぁっ!!」

 

 

短剣が、モンスターを容赦なく光の欠片に変えていく。

そうして、走りながら、考える。

…私はどうして、こんな風にあいつを追いかけているのか。

あいつとは、ただここで知り合って、何度か、共に戦った。

それだけ。

なのに、何故、私はこんなにも、あいつを気にしているんだろう。

 

 

 

…そんな事を考えていた矢先、視線の先に。

 

 

「…シグレ?」

 

 

あいつが、いた。

見覚えのある風貌。

その視線は。

 

 

「っ…!」

 

 

憎悪に満ちていた。

その視線は、地面を向いていて、今までそこにいた何かに向けられていた。

モンスターに対してだろうか。

…きっと、違う。

私は、あいつがどれだけモンスター相手に冷静に対処したかを見てきた。

そんなあいつが、どんな感情とはいえ、あんなにも感情を剥き出しにするとは考えにくい。

だとすれば。

 

 

「…プレイヤーを…殺した?」

 

 

もちろん、推測だ。

だけど、そう推測するには十分なあいつの表情。

私は一瞬、足を止める。

追いかけてきたはずなのに、あいつに近づくことに恐怖を感じた。

 

 

「……?」

「っ…」

 

 

気配に気づいたのか、シグレがこちらに目を向けてくる。

殺気を向けられているようで、一瞬足が竦む。

けれど。

 

 

「…どうした?」

 

 

話しかけられ、その表情を見る。

そこには、さっきの憎悪すらない、見慣れた無表情。

 

 

「…ううん、何でも」

 

 

さっきの事を、私は聞けなかった。

何か踏み込んではいけない、そんな気がして。

 

 

「私のことより、あんた…なんで管理区についてこないのよ?」

 

 

出来るだけ、私はいつも通り振る舞う。

いつも通りになっているかは、私では分からないけど。

シグレの視線からは、それを察することはできなかった。

 

 

「…ついて行こうとはしたが、入れなかった」

「え?」

「システムエラー、だそうだ」

 

 

淡々と告げられる言葉に、私は一瞬考える。

あの場所に、入れなかった。

キリトも、私も入れたのに。

何故なのだろう、わからない。

けれど、気にしていないのだろうか。

 

 

「…どうせ入れないのなら、留まるだけ無駄だ」

 

 

だから、行動した。

そう、シグレは言う。

 

 

「それに…やる事も、あるからな」

「それは…あんたが言ってた『為すべき事』…ってやつ?」

「…そうだ」

 

 

それは、さっきあんたが怖い顔をしていたのと…何か関係があるの?

そう、聞きたかった。

けれど、今の私にその度胸はなかった。

けれど…気になってしまう。

…だから、私は。

 

 

「…いいわ。なら…私があんたの言う『為すべき事』ってやつ…手伝う」

「その必要はない。これは俺が成す事だ…お前は安全地帯に戻ればいい」

 

 

思い付きで言ったように、捉えられたのだろう。

けれど。

 

 

「このあたりに何があるか…あんた知ってるの?」

「…」

 

 

シグレは言い返してこない。

 

 

「……それに、あんたには、借りがあるのよ」

「借り?」

「そう…管理区まで案内してもらって、道中守ってもらったっていう、借り」

 

 

畳みかけるように、シグレの真似をするように、言葉を続ける。

…少しだけ、きょとんとした表情のシグレ。

意外な表情に、私は軽く噴き出しながら。

 

 

「シグレはどうあろうと、私を助けた。だからこれは、借りを返すためよ」

 

 

借りを返すために、シグレはここまで守ってくれた。

なら、その守ってもらった借りを返すために、私がついていくのは自然な事だろう。

 

 

「……分かった」

 

 

やがて、折れたのか溜息交じりのシグレ。

勝った。

…何に?私にもわかんないけどね。

 

 

「…どこに向かうの?」

「さぁ…な」

 

 

歩き出すシグレを追いかけながら尋ねるが、答えは曖昧だった。

 

 

「…この世界のどこかに…やるべきことはある。だが…何をしたらいいかは分からない。場所もわからない」

「ふぅん…なら、この辺りを少し探索する?」

「……」

 

 

分かってる。

シグレは暗に、管理区に戻れ、と言いたいのだろう、と。

仮に私がシグレと同じ立場だったら、きっと同じことを言うだろう。

だけど、すんなり従う、なんて思わないでよね。

 

 

「…どうしたの?また頭痛?」

「………別の意味でな」

 

 

じゃあ大丈夫か。

そんなことを考えていると。

 

 

「…あ、ちょっと待って。メッセージ…キリトから」

「……」

 

 

メッセージを確認する。

内容としては、シグレと一緒に来てほしい、という内容だった。

 

 

「シグレ。キリトが…来て欲しいって」

「……お前だけ行けばいいのではないのか?」

「それじゃ私が頼まれ事を反故にする事になるじゃない」

 

 

なんかホントに頭痛そう。

無理言っちゃったかもしれないけど、少しくらいは、ね。

 

 

「いいから、ほら!」

「あ、おい…」

 

 

シグレの手を引っ張り、私達は管理区へ。

こうでもしないと、逃げられると思っていた。

けれど、よくよく考えると、恥ずかしい。

感情の隠せないこの世界で、この恥ずかしさがバレていないか気にはなるけど、今は気にしないことにした。

 

 

 

*** Side Philia End ***


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