ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
やがて、シグレが口を開く。
「…それで、目的は攻略か?」
その言葉はキリトと、ストレアに向けられたものだった。
しかし。
「いや。今回はストレアを連れてきただけだ」
そう断言するキリト。
その言葉に、シグレは溜息。
「…だって、シグレがいるって聞いて、いてもたってもいられなくなって……」
あれからぴったりとシグレにくっついて、シグレの腕を抱きしめたまま離れようとしないストレア。
その様子は、恋人同士、と言われれば、違和感を感じないレベルだった。
正面から抱き着くのをやめたあたり多少は落ち着いているようだが。
「……ま、そういうわけだ。とにかく……」
キリトが繋ぎ、真剣な表情でシグレを見て。
「…今のお前には、お前が死んだら後を追おうとするくらいに辛い思いをする人がいるってことを…忘れるなよ」
そう、言い聞かせるようにシグレに言う。
それに、シグレは一瞬、ストレアを見やり。
「……分かった」
そう、溜息交じりにキリトに答えるシグレ。
その様子が面白くないかのように。
「…ちょっと、べたべたしすぎじゃない?」
フィリアがムッとした表情を隠さずに言う。
「え?…そうかな?」
腕を離すまいと抱きしめたままシグレを見上げるストレア。
当のシグレは、俺に聞くな、と言わんばかりに視線を逸らす。
「…あぁ、そっかぁ。さてはフィリア…羨ましいんでしょ?」
「な、ぁっ…!」
すっかり調子を取り戻した様子のストレアの言葉に、フィリアは一瞬で顔を赤く染め上げ、言葉を詰まらせる。
「アタシが羨ましいなら…ほら、シグレの右腕は空いてるよ?」
「…変に煽るな」
どこか煽るストレアに、シグレは溜息。
シグレの反応は、フィリアの側に立っての言葉だったのだが。
「…いいわよ、だったら…ストレアと同じ土俵に立ってあげる」
言いながら、シグレの空いている方の手に、自分の手を重ねるフィリア。
そうして繋がれた手は、所謂恋人つなぎ。
「……」
「…嫌なの?」
「いや…」
それはお前の方だろう、という言葉をすんでのところで飲み込む。
大方、ストレアの言葉に乗せられただけなのだろう、と。
とはいえ、今指摘しても無駄かと諦め。
「…それで、だ。そっちの攻略は……」
シグレが本題に話を戻す。
「あぁ。シグレはこっちに来れない以上、俺達で進める」
「…そうか。100層まで攻略すれば、ここが何であろうとこの世界は終わる。それが無難だろうな」
キリトの言葉に、シグレは頷き。
「ここから出られないフィリアは仕方ないが、ストレアは戻ってそっちの戦力に加えたほうがいいのではないか?」
そう、意見を述べるが。
「…だそうだけど?」
「や」
キリトが引き継いでストレアに尋ねるが、非常に短い答えで返す。
その答えを表すかのようにシグレの左腕を抱きしめる力を強める。
「だそうだ。こっちはこっちで心強い仲間も増えたし、ストレアはシグレの傍がいいみたいだし」
当分はこっちで、とキリトが提案する。
「それに…シグレとフィリアがこっちに戻ってくれば万事解決なんだ。そのために協力するよ」
「……攻略が遅れるぞ」
「二年も経って今更だろ。それに、ただ早ければいいってもんじゃない。何より…」
言葉を切り、不敵な笑みを浮かべるキリト。
「ゲームのエンディングはハッピーエンドって相場が決まってるもんだろ?」
「…知るか」
そこからは、全てを上手く進めて終わらせる、という決意があるように見えた。
ハッピーエンドで終わらせる。
シグレからすれば、夢物語に思えないこともないが、このお人好しなら、あるいは、と。
「俺は元々ゲーム好きではない…だからこそ、お前の言う相場は知らん」
「…だろうな」
「…だからこそ、見届けてやる。お前の言うハッピーエンドが、どんなものか」
シグレもまた不敵な笑みを浮かべながら。
「……おう、しっかり見とけ。お前にゲームの良さを、教えてやるよ。だから…死ぬなよ」
「互いにな」
キリトもまた、不敵な笑みを返すのだった。
キリトは、アインクラッドで。
シグレは、ホロウ・エリアで。
舞台こそ違えど、二人の共闘。
…戦いは、まだ始まったばかり。