ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第22話:再会を許されぬ者 - I

ホロウ・エリアにストレアを残し、アインクラッドに戻るキリト。

キリトがそれを容認したのには、大きく三つの理由がある。

ストレア自身の実力、もといレベルがシグレとほぼ同じである事。

シグレと二人で行動し、それでも無事に攻略を進められていたという実績がある事。

何より、シグレがいるかいないかで、別人かと思えるほどに雰囲気が変わってしまっていた事。

 

 

「……」

 

 

宿として借りているエギルの店へと向かいながら、ストレアの変わりようを思い出し、笑みを零す。

あの場所は危険なエリアで、シグレはようやく見つけた圏内エリアの管理区には入れない。

となれば、危険は自分たちの比ではないだろう。

けれど、あいつらなら、大丈夫だろう。

どういうわけか、キリトにはそんな確信があった。

そんな事を考え、歩いていると、時間は19時を回っていた。

 

 

「遅くなっちゃったか…」

 

 

こんなに暗くなっているとは思っていなかった手前、少し驚きつつ歩いていると。

 

 

「キリト」

 

 

キリトは聞き覚えのある声に呼ばれ、そちらに振り返る。

視線の先には。

 

 

「…シノン?」

 

 

妹のリーファと同じく、この76層で出会った黒髪の女性。

シノンは一人、キリトを待っていたのか、エギルの店近くのベンチの傍に立っていた。

 

 

「どうしたんだ?こんな所で」

「…貴方を待ってたのよ。少し…聞きたいことがあって」

「?」

 

 

こんなところで待っているということは、他の皆には聞かれたくないのだろうかと察し、キリトは誘いに応じるのだった。

 

 

 

そうして、二人はベンチに腰掛ける。

 

 

「…それで、どうしたんだ?聞きたいことって?」

 

 

話を切り出したのはキリトからだった。

話を早く進めようとしたわけではなく、初めはシノンの言葉を待っていたのだが、なかなか話し始めなかったのでキリトがやむなく切り出した、という形だった。

やがて、少し意を決したように。

 

 

「貴方には…話したかしら。私がここに来た理由」

「あぁ…確か、人を探してるって…言ってたよな」

「そう。私にとっては…今の私がこうしていられるように、助けてくれた……そう、命の恩人」

 

 

キリトはシノンのいう命の恩人、という言葉が、それ以上の重みを持っているように感じた。

まるで、それ以上の何かがあるのに、言葉で表現しきれないからやむなく、という風に。

 

 

「…その人の名前は、華月時雨っていうの」

「っ…まさか」

 

 

その次の言葉。

シノンが言う、相手の名前に、キリトは一瞬息を呑み、思考に移る。

時雨…シグレ。

名前だけなら、同じ。

けれど、普通はゲームと現実は同じ名前にはしない。

今こうしているシノンも現実とは違う名前なのだろうが、それはおそらく教えてくれる人がいたからだ。

話では、シノンはリーファにゲームについて簡単に教わったと言っていた。

おそらくその時に、名前は変えるということを聞いていたのだろう。

しかし、教えてくれる人がいなければ?

現実と同じにする事もありうるのではないだろうか?

 

 

「…な、なぁシノン。もし知ってたらでいいんだけど」

「何?

「シノンが言うその人…なにか剣道とかやってるか?」

「剣道だったかどうかは知らないけど…剣の腕は相当なはずよ。私はその剣を間近で見ていたから」

 

 

そうして話してくれたのは、郵便局で起こった強盗事件。

シノンはキリトが知らないと思ったか、それをある程度細かく話す。

しかし、話を聞いて、キリトは確信した。

というより、確信せざるを得なかった。

シグレが強盗の銃を止めたと言っていた。

その事件の時に、シノンはその場にいたのだと。

そして、シノンが助けると意気込んで追いかけているのは、シグレなのだと。

 

 

「…キリト。貴方は…知ってる?彼が…先輩が、今どこにいるのか」

 

 

シノンの問いにキリトは一瞬の間を置いて。

 

 

「……あぁ、知ってる」

「…そう」

 

 

キリトは答え、シノンは小さく頷いた。

けれど、キリトは次は先回りして。

 

 

「けど、先に言っておく。今、シノンをシグレのところに連れていくことはできない」

 

 

そう、はっきりとシノンに告げた。


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