ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その頃、シグレ、フィリア、ストレアの三人は樹海のある場所を目指して歩いていた。
無論それは、平和な散歩ではない。
「やあぁぁぁっ!!」
ストレアがその体躯に似合わぬ両手剣を振り回し、一気に敵を蹴散らす。
「……」
シグレもまた、ストレアほどの広範囲攻撃はできずとも、狙った敵を確実に倒していく。
シグレが狙うのは、主としてストレアが対処しきれなかったモンスターだった。
たった一人、されど一人増えただけで、これほどの効率の差。
それは、ストレアが両手剣使いとしての実力を備えているのは勿論だが、それ以上に、シグレとストレアの息があったコンビネーションがある。
「っ…」
それを、後から追いかけるフィリアは感じていた。
やがて、近くの敵をすべて蹴散らし、武器を納めながら。
「…どうした?」
どこか呆けた様子のフィリアにシグレが呼びかける。
それに繋がるように、ストレアがフィリアに近づく。
「大丈夫?もしかして何か状態異常もらった?」
回復アイテムあったかなぁ、とストレアが自身のストレージを確認するが。
「う、ううん、別に問題ない。ただ…あんたたち、息ぴったりだなぁ…って」
フィリアは最初、シグレは今の自分と近いソロプレイヤー、と認識していた。
しかし、実際は、ストレアという女性との息の合った戦闘スタイル。
先ほどのやり取りから、二人はそれなりに近しい仲だという事はフィリアにも察しがついていた。
しかし、予想以上の近さに、自分が入っていくことは無理なのではないかと思ってしまう。
同じ土俵に立つ、と宣言したばかりなのに。
「…息ぴったり……か」
「ねぇねぇ、息ぴったりだって、アタシ達!」
シグレは何かを思うように目を閉じながら息を吐く。
一方でストレアは嬉しそうだが。
「…俺の剣は、誰かと共闘できるような剣でもあるまい」
ストレアからするりと離れ、シグレは歩き出す。
その様子に、ストレアは少しだけ悲しげな表情を、シグレの背に向けた。
「…ストレア?」
様子が変わったストレアにフィリアが声をかける。
「……アタシ、シグレが心配なんだ。このままじゃ壊れちゃいそうで」
「心配?…そんなに弱くないでしょ、あいつ」
呟くストレアに、疑問符を浮かべるフィリア。
ここまでの戦い方を見て、そう簡単に負けるような弱いプレイヤーではないことは察しがついていた。
けれどフィリアの言葉をストレアは否定し。
「…戦闘とか、そっちの強さじゃないよ。アタシが心配なのは…心の強さ」
「心…?」
「なんとなく…分かるんだ。強そうに振舞ってるけど、少し衝撃を受けたら壊れちゃいそうな脆さ…っていうのかな」
「……」
ストレア程ではないが、実をいうとフィリアにも思う所はあった。
それがどういうものなのか、具体的に言葉にできるほどではなかったが、なぜか放っておけないような、何か。
「……それで、どうするの?あの様子じゃ、そう簡単に踏み込ませてくれないでしょ」
「別に何かをするわけじゃないよ」
フィリアの言葉に、ストレアはあっさりと、そう返す。
その表情は、笑顔と、決意の表情だった。
「…ただ、シグレの傍で、シグレを支えてあげられれば、それだけで」
少しでも、自分がシグレにとっての癒しになるなら、それでいい。
ストレアは迷うことなく、そう告げた。
その声は、おそらく前を歩くシグレには届いていない。
「シグレには、内緒ね?」
「それはいいけど…一方的なだけって、寂しくないの?」
「…いいの、シグレが生きてさえくれれば。傍にさえいられれば、それだけで幸せなんだ」
「そう…」
一途、というのはストレアのような人の事を言うのだろう。
そして、そこまで思われて、この対応というのは、さすがにストレアが可哀そうに思うフィリア。
けれど、内緒、という約束をしてしまった手前、何かを言ってやりたいが言うに言えない。
「…どうした?」
シグレが、少し距離が開いた二人に声をかける。
「何でもないよー!」
「っ…!?」
それにいち早く反応したストレアが、シグレの左腕に抱き着く。
突然の事に呻くシグレだがすぐに立て直す。
ストレアはそんなシグレの腕を抱きしめたまま、視線をフィリアに向ける。
その視線は、笑顔というか、どこか挑発しているような、そんな表情で。
「…いいわ」
その挑発に乗る、と言わんばかりのフィリアは、ストレアほどの勢いはなかったが、シグレに近づき。
「…おい」
「何。ストレアはよくて、私はダメなわけ?」
「……」
少しばかり恐る恐る、といった感じにシグレの右腕を抱き寄せる。
シグレの言葉に、勢いで反論すると、シグレは宙を見上げる。
「両手に花だね、シグレ?」
「…女たらし」
どこか楽し気なストレアに、どこか不機嫌なフィリア。
何故こうなったのだろうかと、宙を見上げながら言葉には出さずに疑問を投げかけるシグレ。
木々の隙間から覗くホロウ・エリアの空は、その疑問には答えてくれなかった。