ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第25話:混乱と対立

その頃、アインクラッド76層。

 

 

「…何だ?」

 

 

エギルの店に戻ると、入り口まで聞こえており、下手をすれば外まで聞こえそうなほどの言い合いが聞こえた。

穏やかではない雰囲気に、キリトは少し慌てて店の中に戻る。

 

 

 

店の中では言い争いが繰り広げられていた。

 

 

「っ…だから、彼は敵なんかじゃない!」

「だったら75層でのあれは何なんだ!貴女があいつを殺してくれたからよかったものの、下手をすれば私たちに損害が出ていたのかもしれないんだぞ!?」

「くっ…」

 

 

アスナをはじめとした見知った皆と、あまり馴染みのない攻略組のプレイヤーが言い争っている。

その様子を何かを諦めた様子で見守るエギルに尋ねることにしたキリト。

 

 

「…何があったんだ?」

「キリトか…実はお前が戻ってくる少し前な……」

 

 

エギルの話によると、言い争いの争点はシグレだった。

店でシグレの話をしていたアスナ達。

過程はどうあれ、生きていたシグレ。

ボスを単独撃破する実力があるシグレを救出し、改めて共に攻略を進められるという期待。

それに期待を持ちつつ、思い出話に耽っていた。

そこには、サチや、彼女が属する月夜の黒猫団もいた。

 

 

…しかし、公共の場であるその場所にいるのは、彼らだけではない。

シグレと話をまともにしたことがない攻略組のメンバーもいたのである。

攻略組に最初はいたが、よく知らないプレイヤーが、75層のボスを撃破して疲弊したところで、99層のボス宣言。

シグレの人となりを知らなければ、彼を敵とみなすプレイヤーがいることは至極自然なことだった。

シグレを知る者は彼を擁護し。

シグレを知らない者は彼を非難する。

その対立が、この言い争いの理由だった。

 

 

「っ……」

 

 

キリトからすれば、立場としてはシグレを擁護する側。

この場で加勢する事はそれほど難しいことではないだろう。

しかし、それで場が納められるかといえば、必ずしもそうとは言えない。

下手をすれば火に油を注ぎかねない。

それにキリトとて、シグレに出会っていなければ、非難する立場になっていたかもしれない。

それを考えると、どちらかに肩入れをする、ということはできなかった。

エギルはそれを見兼ねてか。

 

 

「ほらほら、他の客もいるんだ。言い争いなら他所でやってくれ」

 

 

呼びかけるように言うと、声のボリュームが下がり、避難していた側が舌打ちをして出ていくことで、その場は収束したのだった。

 

 

 

少しして、落ち着いたところで。

 

 

「…私の、せいだよね」

 

 

アスナが落ち込み、椅子に座って俯いて言う。

 

 

「私が…私の剣が、シグレ君を…」

「…アスナ」

 

 

肩を震わせるアスナを、サチが宥める。

どれだけ前を向こうとしても、思い人を貫いた、という事実は消せないのだろう。

気にするな、という事もできない。

どう励ましたらいいかわからないキリトは、その様子を見守るだけだった。

 

 

「…でも、実際のところ、シグレが今戻ってきたら混乱が大きくなりそうだよな」

 

 

冷静に述べるのは、月夜の黒猫団のリーダーであるケイタ。

 

 

「僕だって、シグレには無事でいてほしいって思ってる。けどだからといって、他の誰かの意思を無視するようなことがあっちゃいけないと思うんだ」

「そう…だな。そうかもしれない」

 

 

キリトはケイタの言葉に頷き。

 

 

「…でもだからこそ、シグレの居場所は、俺たちで作ればいい…って思う」

 

 

あいつは俺達の、仲間だからな。

そう、キリトは続ける。

 

 

「……うん。シグレの為に、私が…私達ができる事しないとね」

 

 

サチも、キリトの言葉に頷く。

 

 

「あぁ。俺たちも…な」

 

 

ケイタの言葉に黒猫団の皆もおぉ、と気合を入れる。

 

 

「……彼を貫いてしまった後悔はきっと、一生消えないかもしれないけど」

 

 

塞ぎ込みつつあったアスナも顔を上げる。

その表情は、改めて決意を固めたように。

 

 

「だからこそ、シグレ君の為に。彼が安心して過ごせる場所を…作ってみせる」

 

 

もう、迷わない。

一度は誤った剣。

けれど、だからこそ、今度こそ正しい道を切り拓くために。

その決意は、誰の目から見ても、眩しいものだった。


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