ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第10話:戦いの先に、繋ぐために

その勢いのまま。

 

 

「ガアァッ!!!」

 

 

ボスはその斧をシグレに向けて振り下ろす。

しかし、シグレはどこまでも冷静に。

 

 

「…それはもう見た」

 

 

呟きながら、剣を手に地を蹴る。

向かう先は、ボスの懐。

斧は自分に合わせて的確に振り下ろされているが、その巨体が仇となり、武器と相手の体の間に隙ができる。

シグレはそこに潜り込み、ボスの巨体を支えるにはやや心細くも感じるその脚に斬撃を入れる。

 

 

「ガァッ!!?」

 

 

ボスが呻くように声を漏らし、シグレから距離を離すようにバックステップで距離をとる。

しかし、脚に受けた斬撃が効いているのか、着地の瞬間に軽くよろめく。

けれど、そこはさすがにボスというべきかすぐに立て直し、まるで何事もなかったかのように斧を構える。

それを見て、シグレも再度剣を構える。

 

 

「……ふん」

 

 

ボスのHPのバーの一本目が僅かに削れていた。

このペースでは、倒すのに相当な時間がかかることは言うまでもない。

しかし、シグレは自分からは攻め込まずに、ただ様子を窺う。

再度、睨み合い。

 

 

「……」

 

 

先に動いたのは、ボスだった。

ボスモンスターといえどゲームのプログラム。

結局のところ、決まった動きしかしない。

再度斧を振り下ろす。

シグレもまた、先ほどと同じように懐に潜り込み、脚を切り付けては、相手がバックステップで距離をとる。

ただ、その繰り返し。

 

 

「…」

 

 

シグレの攻撃がボスのHPを確実に削っていくが、その減りは小さい。

威力に重きを置いた攻撃ではないのだから無理もない。

けれど、HPバーが1つ削れたあたりで、減っていくHPとは別に、シグレはボスの動きの変化を察していた。

 

 

「…脚にきているようだな」

 

 

ボスの移動が覚束なくなってきているのを見ていた。

シグレこれまで、只管脚を狙い続けていた。

それがいよいよ効果を表してきた。

 

 

「…ふん」

 

 

それに伴い、シグレも攻撃の回避に余裕が出始める。

今一度、剣を構えなおすシグレ。

 

 

「……いくぞ」

 

 

次は、シグレが攻めに転じる。

そうなってからは、圧倒的だった。

ほとんど消耗もなく、動きに衰えのないシグレ。

一方で、脚への斬撃のダメージにより動きに衰えのあるボス。

 

 

「…取り巻きが残っていれば、多少は違ったかもしれないが…な」

 

 

ボスに諭すような言葉を残しながら、斬撃を叩き込んでいくシグレ。

その斬撃に容赦はなかった。

シグレは持ち前の速度を発揮し、ボスの四方八方から無作為に素早く斬撃を浴びせていく。

 

 

「ガ…グ……ッ!!」

 

 

ボスは痛む脚を庇いながらシグレを追おうとするが、その状態では追いつけず、されるがままだった。

さすがにボスも学習したのか、大振りな一撃をシグレに当てようとする事はなくなっていた。

やがて、HPゲージが残り1つ。

その1つのゲージが減り、赤表示に変わった瞬間。

 

 

「っ…!」

 

 

持っていた斧を放り投げるボス。

その突然の動きに、シグレも一度動きを止める。

事前の情報を持っていないシグレからすれば、警戒するに越したことはなかった。

次の瞬間、ボスは腰に下げていた鞘から、大振りの刀、野太刀を引き抜き。

 

 

「ガァッ!」

 

 

雄叫びを一つあげ、武器を構えて一気にシグレに距離を詰める。

 

 

「な…っ!?」

 

 

脚へのダメージが抜けきっていないのか、やや勢いが衰えていたことが幸いし、シグレは間一髪で横にそれを躱す。

勢いに任せたボスの巨体が、シグレのすぐ隣を突き抜けていき、シグレの鎧を掠っていく。

今までの動きとはまるで違うその動きに一瞬圧倒されるが、シグレはすぐに武器を構え、立て直す。

ボスの視線は、あからさまな怒りを込めてシグレに向けられる。

それは、自分より脆弱な存在にここまで追い詰められたことに対してか、それとも取り巻きを倒されたからか。

どちらなのか、あるいはどちらでもないのか。

けれど、シグレにとっては、そんなことはどうでもよかった。

 

 

「…敵は、倒す」

 

 

ただ、それだけ。

ただひたすら、冷静に。

 

 

どちらからともなく、シグレとボスは同時に動き、互いに距離を詰める。

この戦いも終焉が近い。

…この戦いが終わったとき、そこに立っているのは、どちらか。


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