ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第27話:重なる過去と、憎悪の目覚め

そうして、ストレアとフィリアが管理区に向かった後。

シグレは軽く、というつもりで辺りを探索していた。

 

 

「……」

 

 

樹海の木々の中、不相応に立つ石造りの建物。

『供物の神殿』。

シグレは自然と、その中に歩を進める。

 

 

「…」

 

 

神殿の中は、名前が意味する通り、荘厳な雰囲気だった。

そんな中に感じる、魔物の気配。

ここに来る前から重視していた気配感知系の能力によるものか、ある程度は把握できていた。

そうしてみると、そこそこ数が多いということが感じ取れた。

シグレは刀を抜き、警戒をしながら進んでいく。

 

 

「…」

 

 

刀を持ちながら、警戒しつつ進んでいく。

おそらく、自分の周りに味方はいない。

その空気、感覚はシグレにとっては初めてではなかった。

 

 

「…」

 

 

ふと、シグレは思い出す。

誰にも告げていない、両親を喪う前。

シグレにとっては、遠くも感じる過去。

 

 

…硝煙と、血の匂いしかしない世界。

…靴越しに土の感触を感じる地面は、どす黒い赤に染まっていない場所を探す方が難しい。

…身長が自分の倍近くあるような見知らぬ大人たちが、互いを殺しあう。

…ある者は銃で。ある者は剣で。

…互いが互いの命を奪っていく。

 

 

「……」

 

 

シグレはその記憶を想起しながら、進んでいく。

味方を欲することもなく、ただ、生き残るために、全てを薙ぎ払う。

 

 

「…来たか」

 

 

少し進んだ先、大広間のような部屋。

その先に扉があるが、数多くのモンスターが徘徊していた。

 

 

「…っ」

 

 

刀を持つ手に少しだけ力を入れ、モンスターが徘徊する中に単身突っ込んでいく。

モンスターがシグレを認識し、一斉に襲い掛かる。

記憶の中では人に、そして、今はモンスターに。

襲い掛かってくるものの違いはあれど、その状況は、シグレにとっては同じ。

 

 

「『うああぁぁぁぁっ!!』」

 

 

モンスターの群れに、シグレは刀一本で立ち向かう。

シグレを知る者からすれば、普段の冷静さなど全くない、まるで別人のような出で立ち。

 

 

…未だ、過去に苛まれ続けるシグレ。

かつて、本当に守りたいものを守れなかったという、自分に科し続ける罪は、未だに癒えない。

 

 

「…奴を、殺すまでは……!」

 

 

父を殺した、文字通りの親の仇。

あの時と同じようなフードを被り、肉切り包丁を持った男。

この世界で会うとは思っていなかった。

別に再会をしたかったわけではない。

ただ、再会をした今、過去の後悔、そして憎悪が呼び起こされる。

 

 

敵を討つことが、罪滅ぼしになるのか。

…それは未だ、誰にも。

シグレ自身にさえも、分からない。

それでも、それ以外の方法を知らないシグレにとっては、進み続けるしかないのだった。


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