ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
そうして、数分の戦いの後。
「…」
シグレは刀を納める。
もうその場に、モンスターはいなくなっていた。
「…行くか」
石畳の床を進み、扉に向かう。
シグレのHPは殆ど減っていなかった。
そうして、建物の外に出て、中庭のような場所に出る。
次の瞬間。
「っ……」
入ってきたというべきか、出てきた扉が結界のようなもので閉じられる。
しかし、辺りは静かで、草木がさらさらと揺れるのみ。
とはいえ、閉じ込められた以上、何かが起こる。
そう考え、刀の柄を握ったまま、警戒は解かない。
…次の瞬間、自分の影が突然大きくなっていく。
その影は毒々しい何かを吹き出す。
「…ちっ」
刀を抜き、その場から飛び退く。
しかし、それが若干遅かったのか。
「くっ…」
毒の状態異常を受けてしまう。
初めは道具を持っていたのだが、攻略の中で使い果たしてしまっていた為、毒の回復はできなかった。
つまりは、一定のダメージを受け続けながら、自分のHPが尽きる前に。
「…これを、倒せということか」
先ほどまで自分がいた場所に現れた、四本足の漆黒の魔物。
形は大きさを除けば狼のような獣に近いが、顎はどちらかというと鰐に近く見える。
所々に宝石のような物質が生えている様子が、非現実な存在であることを余計に強調する。
全身に鎖のようなものが巻かれ、動きを阻害しているようだが、それでもこの場を縦横無尽に駆け回るには十分なようだった。
「……一人できて、正解だったようだな」
大きな咆哮を上げる魔物を、HPを少しずつ減らしながら刀を構えるシグレ。
シグレが単独行動を主とする理由。
それは、人に合わせた戦い方が苦手というのがあるのは事実だった。
しかし、それ以上に考えるのは、組んだ相手の、万が一の事態。
手の届きそうな場所にありながら、救えなかったら、という仮定。
シグレは、それを現実にしてしまったことがあった。
だからこそ、そんな思いは、もう、したくない。
それが、シグレを突き動かす、衝動。
だからこそ、シグレは一人であろうと。
自分の命の危機ともいえる状況であろうと、戦い続ける。
それこそが、守ることだと、シグレは思い続けてきた。
「……俺には、こういう戦い方しか、出来ない」
刀を構える。
仮にここで死んでも、後に繋がれば、それでいい。
キリトに、自分が死ねば悲しむ者がいる、と言われたことを思い出す。
そんな相手を守るには、どうすればいいかを、シグレは知らない。
「…それほど、時間がない…か」
仮にここでボスを倒しても、毒がその身を蝕み、やがて自分は消える。
安全エリアへの進入が許されないその身は、いずれ滅びるのかもしれない。
或いは、自然に毒が癒えるのが先か。
それでも、ここでこの敵を倒し、それが誰かを守ることに繋がるのなら、やるだけ。
何をしたわけでもないのに、HPはじわりじわりと減っていく。
相手の速度は速いが、シグレには追えないほどではない。
ならば。
「…距離を詰めて戦えばいいだけのこと」
言いながら、シグレは地を蹴る。
シグレの命のタイムリミットがある戦いが、始まる。