ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第30話:芽生える想いと共に / Philia

*** Side Philia ***

 

 

 

シグレを残し、ストレアに武器の強化をお願いして、私は一人、管理区で待つ。

壁というべきか、画面というべきか分からないが、おそらくこのホロウ・エリアの地図を見ながら。

とはいっても、することがあるわけでもないから、美術館の絵画を見るような感覚に近い。

 

 

「……ちゃんと待ってるかな、あいつ」

 

 

武器の強化を依頼して、アインクラッドに転移したストレアについてはそれほど心配していない。

むしろ心配すべきは、シグレの方だ。

少し前に、一人で探索をしていて、探すのに手間取ったという事実がある。

今回もまた、無茶をしてなければいいのだけど、と信じるしかない。

追いかけようにも、武器を預け、丸腰になった自分に何ができるでもない。

ただ、ストレアが少しでも早く戻ってくることを信じて、待つしかない。

 

 

「…シグレ、か」

 

 

暇だったからか、ぼんやりと、これまでの事を思い返す。

とはいっても、ほんの数日の事。

昔馴染みというわけでもないから、思い返すことはそれほど多くない。

とはいえ、その戦いぶりは目を見張るものがあった。

いくら凄腕のゲーマーだからって、あそこまで戦えるのだろうか。

思えばキリトもそうだろう。

けれど…何故だろう。

シグレは、そうじゃない気がする。

 

 

「…」

 

 

少し見てて分かったのは、シグレはこの世界を、おそらく楽しんでるわけじゃない。

命を懸けているとはいえ、結局はゲームの世界。

キリトのように、未知のエリアに対する好奇心が湧くというなら、なんとなく分かる。

私も、こんなことにならなければきっと、楽しんでいた。

だからこそ、トレジャーハンターを名乗ってるわけだし。

……自称だけど。

 

 

…だけど、あいつは。

シグレは、とてもそうは見えない。

ここまで一緒にいただけでも分かった。

あいつの、ゲームプレイヤーとしての異常性、とでも言おうか。

いくら私でもさすがに分かる。

あいつは…ゲームを、楽しんでない。

だとしたら、どうして、ここに。

SAOというゲームの世界に、いるのだろう。

 

 

……そして、キリトに聞かれ、シグレが答えた事実。

どこまで現実なのかは分からないけど。

シグレは、人を殺したことがある。

このSAOの中だけでなく、現実でも。

確かに、そう言っていた。

詮索するつもりはないが、怖いもの見たさだろうか、なんとなくシグレが言ったことも気になる。

その経験があるから、今この世界で、こうして強くあれるのだろう、と。

 

 

「……」

 

 

現実で会ったら、きっと私は、シグレを怖いと、避けていただろう。

けれど、この世界で、仮想とはいえ生き死にを何度も見ていたから感覚が麻痺したのか、シグレをそれほど怖いとは思わなかった。

それどころか、シグレに対する興味の方が強かった。

だからこそ、ストレアの言う事が、なんとなく理解できたのかもしれない。

シグレの、心の脆さ。

一歩踏み違えてしまえば、簡単に足元が崩れかねない、薄氷の上を歩き続けているような危うさ。

少し、周りから衝撃を与えれば、簡単に全てを崩してしまいそうに思う。

それほどの危うさを感じさせながら、それを誰にも悟らせないシグレ。

彼はきっと、本当の意味では誰にも心を許していない。

 

 

…そう、それはまるで、この世界に来た頃の私のように。

もしくは、それ以上に。

シグレはきっと、誰も心の底からは信頼していない。

けれど、私は、ここまで、彼に助けられてきた。

そういう意味では、きっと私だけじゃない。

ストレアも…きっと、彼に助けられたんだろう。

だからこそ、一途にシグレを想い続けてる。

 

 

…私はあいつと会ったばかりで、何も知らないけど。

シグレの支えになれるかどうかは、分からないけど。

それでもせめて、一緒にいる間くらいは、支えたい……なんて。

いつの間にか、そんな事を考えていた。

 

 

 

*** Side Philia End ***


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