ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第32話:影を打ち破るために

最期を予感し、それでも抗いもしないシグレ。

実際のところ、受けた衝撃のせいで立ち上がるのも困難で、どうしようもなくなっていた。

奴の爪は、どんな感触で自分に突き刺さるのか。

そんな事を考えていたのだが。

 

 

「やああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

聞き覚えのある声が自分の前から聞こえ、同時に金属音が辺りに響く。

 

 

「…?」

 

 

ふと、見上げれば、見覚えのある影。

その体躯に似合わぬ大振りな両手剣を自在に操るその姿は、シグレには見覚えがありすぎる姿だった。

 

 

「っヒール!」

 

 

そちらに気を取られていると、脇からそんな声が聞こえ、考える間もなくシグレのHPが回復する。

それに合わせて体が軽くなり、立ち上がるのも容易だった。

毒も解除されたのだろうと、直感的に理解するシグレ。

敵が退いている間に、刀を構えなおし、立ち上がる。

 

 

「……」

 

 

自分を救ったストレア、フィリアより前へ。

シグレの根底にある信念は、ただ一つ。

ただ、戦い続けて、先に進むため。

その先に、『奴』がいるのだと信じて。

ただ、仇を討つために。

 

 

「…どいてろ」

 

 

ただ、前に進む。

それが、シグレがこの世界で漸く見つけた、為すべき事。

進み続けているようで、過去に捕らわれ続けるシグレ。

そんな彼を止めたのは。

 

 

「…駄目だよ。一人では、行かせない」

 

 

ストレアだった。

だが、彼女だけでなく。

 

 

「あんた…一人で戦って死にかけたのよ?自分がどれだけ無茶をしたか分かってないの?」

 

 

溜息交じりに、フィリアもシグレを止める。

シグレとて、二人が何を言いたいかが分からないわけではない。

二人は、共闘してボスを倒す事を提案しているのだろうということは察していた。

 

 

「っ……」

 

 

しかし、シグレは首を縦には振らない。

そんなシグレが思い出すのは、未だに鮮明に焼き付いた、父の最期。

自分の手が届くか届かないかの距離で、背中を切られ、それが致命傷となり、自分の目の前に、自らの血の海に沈んだ。

シグレにとっては、ここが仮想世界であることなど、関係ない。

この世界のAIであろうが、関係ない。

ただ、繋がりを持った人間が、目の前で殺される姿を、見たくなかった。

だからこそ。

 

 

「…どいてろ、と言ったはずだ」

 

 

立ち塞がる二人に、シグレは告げる。

しかし。

 

 

「駄目って、アタシは言ったよ?」

 

 

物怖じする事なく、ストレアは返す。

 

 

「…もう、言い争ってる時間はないわよ?」

 

 

フィリアが振り返り、敵の方を見る。

敵は体勢を立て直し、こちらに襲い掛かろうとしていた。

その様子に、シグレは舌打ちを一つ。

 

 

「…奴の動きは速い。俺が奴の攻撃を受けて動きを止める…お前達は隙をついて攻撃しろ」

 

 

二人は頷く。

それにシグレは頷き、すぐに敵に向き直り。

 

 

「……何があっても、死ぬな」

 

 

それだけ言い残し、シグレは前に出る。

それに遅れないように、ストレアとフィリアも側面に出る。

 

 

「それは、お互い様でしょ。全く…」

 

 

フィリアは誰にも聞こえぬ程度に、呟いた。

それが誰かに聞こえていたかは、定かではない。


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