ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第33話:伝えたい思い、伝わらない思い

3対1の戦いというだけあって、ボスのHPの削れ方はシグレ一人の場合とは段違いだった。

 

 

「っ…!」

 

 

ボスの攻撃を刀で防ぎ、それが困難な場合はすぐに躱す。

その反応速度は、相当なものだった。

更に言えば、ストレアかフィリアに攻撃が行きそうな場合はすぐに助けに入る。

その事もあり、シグレのHPが1/2近くになりそう程であっても、二人のHPは1/4も減っていない。

かといって、シグレ自身も攻撃をしないわけではなく、怯んだ瞬間に斬撃を加えるといった行動はとっている。

 

 

「シグレ!そのやり方じゃシグレが…!」

「…俺はいい。お前たちは敵に集中していろ」

「でも…」

 

 

ストレアがシグレを心配する。

少し前、シグレが自分の死をこの世界に求めていることを知ったからこそ、余計に。

しかし、シグレはそれ以上の問答をしなかった。

 

 

「だったら…!」

 

 

その前に、倒すしかない。

ボスのHPは最後の一本の半分に迫っている。

敵の攻撃も激しくなるだろうが、一気に攻めれば削り切れないこともない程度。

ストレアはそう結論付ける。

 

 

「フィリア!」

「分かってる。一気に決めるよ!」

 

 

フィリアもそれが分かっていたのか、ストレアの声に反応する。

二人は頷き。

 

 

「「やあああぁぁぁぁっ!!」」

 

 

二人がソードスキルを連携して発動する。

ストレアの大剣の大振りな攻撃と、フィリアの短剣を用いたスピード重視な攻撃。

絡み合わなそうなそれは絶妙なタイミングで斬撃を与えていき、ボスのHPを大幅に削っていく。

やがて、ボスのHPは残り僅か。

あと一撃加えれば、撃破できるであろうというタイミング。

 

 

「しまっ…!」

 

 

追撃をかけようとしたフィリアが、攻撃をかけるが、短剣の短いリーチ、ここまでの戦闘での疲れ、そしてここにきてのボスの素早い動きが相まって、攻撃を外してしまう。

 

 

「フィリア!」

 

 

ストレアがフィリアの名を呼ぶ。

攻撃後の硬直もあり、一瞬動きを止めるフィリア。

ボスもその隙を逃さず、両の足を振り下ろそうとする。

…その刹那、目の前を、一筋の斬撃が通過する。

それが何なのかは言うまでもなく。

 

 

「……」

 

 

シグレの一閃。

それはボスのHPを完全に削り取り、その巨体を光の粒に変える。

それを見届け、シグレは軽く目を伏せ、刀を鞘に納める。

 

 

「…シグレ。その……」

 

 

フィリアがシグレに声をかける。

ただ一言。

助けてくれて、ありがとう、と。

それだけの言葉を言おうとした、次の瞬間。

 

 

『高位プレイヤー承認フェイズを終了。対象プレイヤーの管理区への進入が許可されました』

 

 

そんな、無機質なアナウンスが流れる。

それは、シグレ、キリトがここに来たばかりの頃に流れたアナウンスと同じ声だった。

 

 

「……どうした」

 

 

けれど、シグレは意に介さず、フィリアに先を促す。

虚を突かれ、タイミングを逃し、言いにくくなってしまったこともあってか。

 

 

「…ううん、何でもない。管理区に戻ろ?」

「いや、俺は…」

「さっきのアナウンス。ひょっとしたらシグレが管理区に入れるようになったってことじゃない?」

 

 

聞きようにとっては、そう取れる。

進入が許可された、ということは、これまで許可されていなかったプレイヤーが許可された、という意味ではその通りだから。

 

 

「…行こっか、シグレ?」

 

 

ストレアに腕を引っ張られる。

向かう先は、入ってきた場所。

管理区へ向かう、というのだろうが、シグレは異を唱えられなかった。

というのも。

 

 

「…目が笑ってないよ、ストレア……」

 

 

フィリアがストレアに言う。

彼女の言う通り、ストレアはいつも通りの笑顔にぱっと見は見えるのだが、目が笑っていない。

問答無用、と言わんばかりのストレアの雰囲気に、シグレも一瞬言葉を失う。

戦闘直後で疲れがある今のシグレには、溜息を吐くことしかできなかった。


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