ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第34話:どれだけ歩み寄ろうとも、壁は厚く

ボスを倒し、半ば満身創痍な三人は管理区を目指す。

結論から言えば、シグレも管理区への進入が可能になっていた。

先ほどのアナウンスに対する推測は正しかったということになる。

 

 

「……」

 

 

シグレは辺りを見回す。

その理由は、主に宙に浮くように表示された情報。

とはいっても、殆どが内部情報のようで、一プレイヤーであるシグレが理解できるものはそう多くない。

その中で、理解ができるのが、アインクラッドの外観の表示。

層が上がるにつれ、先細りになっていく城。

 

 

「なるほど、管理…か」

 

 

シグレは一人納得する。

理解こそできないが、表示されている大半がアインクラッドの情報を文字通り『管理』しているのだとしたら、管理区という名前にも納得がいく。

だとすれば、早急に調査すべきは、とシグレが歩き回っていると。

 

 

「……シグレ」

「っ…?」

 

 

ストレアに名を呼ばれ、がし、と左の腕を掴まれ、動きを止める。

どうしたのだろうかとストレアに視線を返すと、真剣な表情だったからか、シグレも立ち止まる。

 

 

「…答えて、シグレ」

「何をだ」

「何で…あんな事をしたの」

 

 

あんな事。

ボスに単独で挑んだ事、だろうかとシグレは考え。

 

 

「…先に進む為だ。アインクラッドも攻略が進んでいるだろう…こちらが遅れるわけにもいかない」

 

 

そう、感情を乱すことなく返す。

それは半分本心だった。

残りの半分は、憎悪や殺意といった、負の感情。

それらが、シグレを突き動かしている。

それは、シグレ自身、自覚があった。

しかし、それを伝える必要はない。

それ以上に、これ以上付き合わせるわけにはいかない。

 

 

「……違うよ。今のシグレ…なんか変」

「変…?」

 

 

ストレアの言葉に、フィリアは訝しげにシグレを見る。

真剣な表情のストレアに、シグレはしっかりと向き直る。

 

 

「…二人で攻略をしてた時。皆で一緒に過ごした時のシグレと違うもん」

「……知った口を利くな。お前に何が分かる」

 

 

ストレアの言葉をシグレは否定する。

いつも通りの、溜息交じりの対応。

一見、いつも通りの反応。

現に、フィリアにはそう見えていた。

しかし。

 

 

「分かるに決まってるよ!」

 

 

ストレアははっきりと、声を上げる。

肩を震わせ、シグレを睨むようなストレアの目尻には光るものがある。

 

 

「アタシは、ずっとシグレを見てた。出会った時から…ずっと。だから、シグレが皆を守るためにどれだけ頑張ってたか…知ってる」

 

 

でも、と続けながら、シグレの胸倉を掴んで引き寄せるストレア。

互いの視線が交じり合う距離。

それでもシグレは抵抗しない。

表情一つ、崩さない。

 

 

「だから…分かるの。今のシグレは…アタシが思ってる、あの時のシグレとは、違うって」

「……」

 

 

ストレアの言葉を、シグレは肯定も否定もしない。

というより、肯定が本来の返事だった。

 

 

「……お願いだから、いつもの…アタシが知ってるシグレに戻ってよ。もう、どこかに行っちゃやだよ、シグレ…!」

 

 

シグレの胸元に、自分の顔を押し付けるストレア。

その必死の訴えに、シグレは何も返さない。

確かに、それが出来れば、幾分か気が楽になるのだろう。

この想いという名の枷を忘れ、この仮想世界で皆と共に過ごせたのなら。

あるいは現実に戻っても、そんな存在と知り合えたのなら。

しかし、それでも。

 

 

「…シグレ……?」

 

 

シグレはストレアの両肩を両手で押し、自分から離れさせる。

不安げに名を呼ぶストレアに、シグレは答えない。


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