ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
ボスを倒し、半ば満身創痍な三人は管理区を目指す。
結論から言えば、シグレも管理区への進入が可能になっていた。
先ほどのアナウンスに対する推測は正しかったということになる。
「……」
シグレは辺りを見回す。
その理由は、主に宙に浮くように表示された情報。
とはいっても、殆どが内部情報のようで、一プレイヤーであるシグレが理解できるものはそう多くない。
その中で、理解ができるのが、アインクラッドの外観の表示。
層が上がるにつれ、先細りになっていく城。
「なるほど、管理…か」
シグレは一人納得する。
理解こそできないが、表示されている大半がアインクラッドの情報を文字通り『管理』しているのだとしたら、管理区という名前にも納得がいく。
だとすれば、早急に調査すべきは、とシグレが歩き回っていると。
「……シグレ」
「っ…?」
ストレアに名を呼ばれ、がし、と左の腕を掴まれ、動きを止める。
どうしたのだろうかとストレアに視線を返すと、真剣な表情だったからか、シグレも立ち止まる。
「…答えて、シグレ」
「何をだ」
「何で…あんな事をしたの」
あんな事。
ボスに単独で挑んだ事、だろうかとシグレは考え。
「…先に進む為だ。アインクラッドも攻略が進んでいるだろう…こちらが遅れるわけにもいかない」
そう、感情を乱すことなく返す。
それは半分本心だった。
残りの半分は、憎悪や殺意といった、負の感情。
それらが、シグレを突き動かしている。
それは、シグレ自身、自覚があった。
しかし、それを伝える必要はない。
それ以上に、これ以上付き合わせるわけにはいかない。
「……違うよ。今のシグレ…なんか変」
「変…?」
ストレアの言葉に、フィリアは訝しげにシグレを見る。
真剣な表情のストレアに、シグレはしっかりと向き直る。
「…二人で攻略をしてた時。皆で一緒に過ごした時のシグレと違うもん」
「……知った口を利くな。お前に何が分かる」
ストレアの言葉をシグレは否定する。
いつも通りの、溜息交じりの対応。
一見、いつも通りの反応。
現に、フィリアにはそう見えていた。
しかし。
「分かるに決まってるよ!」
ストレアははっきりと、声を上げる。
肩を震わせ、シグレを睨むようなストレアの目尻には光るものがある。
「アタシは、ずっとシグレを見てた。出会った時から…ずっと。だから、シグレが皆を守るためにどれだけ頑張ってたか…知ってる」
でも、と続けながら、シグレの胸倉を掴んで引き寄せるストレア。
互いの視線が交じり合う距離。
それでもシグレは抵抗しない。
表情一つ、崩さない。
「だから…分かるの。今のシグレは…アタシが思ってる、あの時のシグレとは、違うって」
「……」
ストレアの言葉を、シグレは肯定も否定もしない。
というより、肯定が本来の返事だった。
「……お願いだから、いつもの…アタシが知ってるシグレに戻ってよ。もう、どこかに行っちゃやだよ、シグレ…!」
シグレの胸元に、自分の顔を押し付けるストレア。
その必死の訴えに、シグレは何も返さない。
確かに、それが出来れば、幾分か気が楽になるのだろう。
この想いという名の枷を忘れ、この仮想世界で皆と共に過ごせたのなら。
あるいは現実に戻っても、そんな存在と知り合えたのなら。
しかし、それでも。
「…シグレ……?」
シグレはストレアの両肩を両手で押し、自分から離れさせる。
不安げに名を呼ぶストレアに、シグレは答えない。