ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第35話:それでも、伝えるために

シグレはストレアから一歩離れる。

 

 

「……すまないが、それは無理だ。これは俺が…ずっと望んできたことだ。漸く得られた機会を…逃すわけにはいかない」

 

 

10年もの間、シグレの胸の内で燻り続けた想い。

どれだけの人を守ろうと。

どれだけの敵を討とうと、決して満たされない。

それでも、シグレは戦い続ける。

一時は、死に場所を求めるために。

そして今は、父親の仇を討つために。

 

 

「…俺の事は、もう忘れろ。俺にはこういう生き方しか…分からない」

 

 

だから、シグレは距離をとる。

それが私怨だと分かっているからこそ、踏み込ませるわけにはいかない。

一人で、決着をつけなければ。

 

 

「っ……」

 

 

シグレの拒絶に、その場に膝をつき、座り込んでしまうストレア。

シグレはそんな彼女に、背を向けた。

それ以上の問答をする気はないという、シグレの拒絶。

それを悟り、とうとうストレアの目尻から涙が溢れた。

 

 

「っ…!」

 

 

その様子を見ていたフィリアだったが、ストレアの涙に、こみ上げるのは怒りだった。

シグレが生きてさえいてくれればいい。

ただ傍で、支えられれば、それだけで十分。

ストレアがそう言っていたことを、フィリアは知っている。

それが、いかに純粋な思いなのか。

直接聞いたからこそ、フィリアにはそれが分かっていた。

シグレは、その事を知らないだろう。

しかし、それがどうした。

 

 

「っ…ふざけんな、シグレ!」

 

 

今度はフィリアがシグレの胸倉を掴む。

怒りに任せて、思い切り。

 

 

「ストレアの思いも知らないで、自分勝手な事ばっかり言わないで!」

 

 

シグレには知りえぬ事ではあったが、それでも。

フィリアには、ストレアの想いが全く報われないどころか、それ以上に残酷な結果になっていることが許せなかった。

 

 

「…ちゃんと、ストレアを見て」

 

 

フィリアは手を放し、少し離れる。

シグレは振り返り、ストレアを見る。

頬を伝った涙を拭いもせず、泣き続けていた。

いつも、笑っていた、そんな表情しか思い出せなかったストレアが。

 

 

「あんたのしたい事ってのは…ストレアにこんな思いをさせてでも、成し遂げなきゃいけない事なの…?」

 

 

フィリアに言われ、シグレはストレアを見下ろす。

 

 

「…シグレ?」

 

 

普段の笑顔が嘘でないかと思わせるほど儚げで、涙が伝う表情をシグレに向ける。

シグレには、それには思うところがあった。

色々あったが、こんな顔をさせたかった訳ではなかった。

ただ、守れれば、それでよかった。

そのはずなのに。

 

 

「…ストレア」

 

 

シグレは一度目を伏せ、また開く。

一度深く息を吐き。

 

 

「俺は…お前の言ういつもの俺が、よく思い出せない」

「……うん」

「……必要以上に時間を要するだろう。それでも…待てるか?」

「え…?」

 

 

ストレアは言われた言葉を頭の中で整理する。

そして、ストレアなりに、シグレの言葉を解釈し。

 

 

「うん…うん!アタシ、待つから…ずっと、シグレの傍で…!」

 

 

弱々しく、手を伸ばす。

その手を取ろうと、シグレもまた、手を伸ばす。

その様子に、フィリアも一つ、安堵の溜息を吐いた。

とりあえず、きつく言ったことを謝らないと、なんて考えていた。

 

 

…しかし、ストレアの手は、シグレに届かなかった。

 

…シグレの手は、横に逸れ、バランスを崩す彼の体に引っ張られていく。

 

…その様子を、ストレアとフィリアは、まるでスローモーションでも見ているかのように、ただ見ることしかできず。

 

…足場があるかどうかよく分からないその地面に、シグレは無情にも叩きつけられた。

 

 

「…シグレ…?」

 

 

ストレアが名前を呼び、膝をついたまま、左腕を支えにしながら右腕で彼の体を揺する。

しかし、気を失ったのか、シグレは目を閉じ、反応しない。

 

 

「シグレ…?ねぇ、シグレ…!?」

 

 

眠るにしてはあまりに突発的で、あまりに不自然。

その様子がフィリアにも分かったのか。

 

 

「ちょ、ちょっとシグレ…!?」

 

 

フィリアも慌てて駆け寄る。

二人で呼びかけても反応がない。

 

 

…これが、ただの疲れによるものなら、それでいい。

けれど、そうではないという不穏な確信が、二人の心を占めていた。

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