ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第36話:招かれざる客

それから数分後。

 

 

「ぅ……」

 

 

シグレは呻くように声を漏らし、意識を覚醒する。

仮想世界にいるのに覚醒、というのも言いえて妙ではあるが。

 

 

「…?」

 

 

ふと、シグレは違和感を感じていた。

突然目の前が闇に染まり、成す術もなく身体が倒れた。

その時感じた感触は、硬い感触だった。

少なくとも、歩けば足音が立つ程度には。

しかし、今はといえば、柔らかさを感じていた。

温かさを感じる、その柔らかさ。

 

 

「…シグレ?」

 

 

目の前、というべきか、仰向けで横になっているから上というべきか。

聞こえてくる声は、ストレアのもの。

シグレを気遣って、シグレの顔を覗き込む。

それに伴い、ストレアの女性特有の双房がシグレの頬に触れる。

 

 

「…状況は」

「あっ…」

 

 

気恥ずかしさからストレアから離れ、短く尋ねる。

どこか残念そうなストレアはさておいて。

 

 

「…どうも、してないわ」

「そうか」

 

 

フィリアとシグレのそんなやり取り。

シグレは問答不要とばかりに立ち上がる。

その様子は、とても突然倒れた、とは思わせないものだった。

 

 

「…シグレ」

「?」

「さっきは、その…ゴメン」

 

 

フィリアがシグレに謝罪の意を述べる。

胸倉を掴んで、言いたいことを言ってしまった。

…間違ったことを言ったとは思わないが、それでも。

シグレはそれに気づいてか気づかずか。

 

 

「……お前は俺に、何か謝るようなことをしたのか?」

 

 

そう、尋ねる。

その表情からは何も読み取れない、無表情。

いつも通りの、シグレ。

そんなシグレに、フィリアもまたいつも通りに。

 

 

「……してない」

 

 

そう、一言だけ返す。

それに対し。

 

 

「なら…謝るな。無意味だ」

「全くね」

 

 

シグレはやはり一言。

それに、フィリアは苦笑で答えた。

 

 

「…ねぇ、シグレ」

 

 

ストレアが呼びかける。

真剣な表情。

シグレは何となく察していた。

ストレアがこういう表情をするときは、何か真面目な話があるとき。

普段は天真爛漫で裏表のない明るい性格だが、空気を読まない、というほどでもないのだろうと思っていた。

…だからこそ。

 

 

「聞きたいことがあるのだろうが……」

 

 

シグレは刀を抜き、二人とは逆の方向に視線を向ける。

ストレアとフィリアもそちらを見て、見えた人影に構える。

 

 

「…まずは、来客対応からだ」

 

 

目の前に現れたフードを被ったプレイヤーに意識を向ける。

そこにいたのは。

 

 

「おーいおい、俺ぁ一人で丸腰だぜ?三人で武器を構えなくてもいいだろ……ブルって、ちびっちまいそうだぜェ…」

 

 

おどけたように言う、その声は。

…少なくともシグレとストレアは知っている声。

 

 

殺人ギルド、笑う棺桶のリーダー、PoHがそこにいた。


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